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リアクション
第一章 選手集いて
「ん〜〜〜、なるほどねぇ」
ベルバトス・ノーム(べるばとす・のーむ)教諭は集まった参加者たちを見遣ると、
「明らかに少ないねぇ、見知った顔も幾つかあるようだけど」
「申し訳ありません。私の力不足です」
応えるように、助手のアリシア・ルード(ありしあ・るーど)が申し訳なさそうに頭を下げた。
各校への連絡と参加の打診は全て彼女が取り仕切っていたため、参加者数の奮わなさに責任を感じているようだった。ちなみに『波羅蜜多実業高等学校』と『葦原明倫館』の両校はただの一人も参加の意を取り付けなかったそうだ。
「構わないよ、これだけ居れば十分だ」
明らかに目標の数を下回っているのだが……どうにも負け惜しみを言っているようにも聞こえたが、敢えてそこは指摘せずに黒崎 天音(くろさき・あまね)は教諭に訊いた。
内容は「自分の所属は『シャンバラ教導団』なのだけれど、『薔薇の学舎』のメンバーとして参加させて貰うのは駄目かな?」というものだった。
「無理にというわけではないが、可能ならば是非そうしたいのだ」
「ん〜〜〜、そうだねぇ」
アリシアが参加者リストを見せようとしたが、教諭はこれを見ずに、
「良いだろう、許可しよう。好きにすると良い」
と応えて返した。
学校を自由に選べるなら『学校対抗にする意味』が薄れるような気がするのだが……自棄にでもなっているのだろうか。
「久しぶりだ、ノーム教諭。アリシアも息災であったか?」
「司さん」
呼びかけた姫神 司(ひめがみ・つかさ)に、アリシアも淡い笑顔で応える。
「お久しぶりです。司さんもお元気そうでなによりです」
「あぁ。……む…………………」
「司さん?」
「やはり、なっとらんな」
「?」
アリシアに次いで教諭にも瞳を向けた司は、趣に、
「参加者に水着を用意させておいて、そなたらがそのような格好をしているなどと……なっとらん! 実になっとらんぞ!!」
「えぇ?!!」
「グレッグ!!」
「はい。アリシアさん、お久しぶりです」
挨拶と差し出したのは握手を求める手ではなく『甘いデザインの白いビキニ』だった。
「こっ! これは?!!」
「2人で選んだんですよ。もちろん新品です」
「うむ、胸元のフリルと腰下に見える小さなリボンがポイントだ。間違いはないぞ」
「あ、いえ、私は……」
「ええと、教諭にもご用意したのですが」
グレッグは遠慮がちに『サーフパンツ』と『ビキニ』の水着を差し出した。
「私は要らないよ。というより既に着ているからねぇ」
「着て……? その下にですか?!!」
暑苦しいスーツ姿、その下に既に水着を着ているという。しかもサーファー愛用の上半身水着まで着用済みだそうだ。
せっかくだ、着替えてくると良い。そう言われてアリシアが司と共に捌けた時、今度は和泉 絵梨奈(いずみ・えりな)が教諭に声をかけた。水着についてではなく「第四種目の『小猪避け』の難度を上げたい」と提案したものだった。
「難度を上げる? 何かアイデアがあるのかい?」
「はい。うちのジャックに『蹴ってくる人』をやっていただこうかと」
コース内にスタンバイしたジャックが参加者たちの手を狙って蹴りかかるそうだ。参加者たちは猛スピードで突進してくる猪に加えて、このフリーマンの蹴りを避けなければ繋いだ手を蹴り離され、敢えなく失格となるというものだ。
「面白い。許可しよう」
「ありがとうございます」
そろそろ時間だ、と教諭が皆を集め始めた。ルール変更として「各種目において参加者全員がゴールまたは失格になった時点でその種目は終了。前レースの走者からペンダントを受け取れない選手は、この後に一斉にスタートしてもらう」と伝えられた。
「そしてバトンは、これ、『ハートの機晶石ペンダント』を装着してもらう」
教諭の合図でアリシアがペンダントを掲げて見せた。照れ笑いを浮かべている所を見ると、やはりにビキニ姿は恥ずかしいのだろう。その後しばらくと彼女の顔は赤らんだままであった。
第一種目『サイクリング』に出場するペアに『ハートの機晶石ペンダント』が2つずつ手渡された。一人につき一つを装着し、競技に臨むのだという。無論、どちらかのペンダントが体から離れた時点で失格となる。
「さぁ、始めよう。楽しい楽しいトライアスロンの始まりだ」
自ら選んだマシンに跨り、パートナーと共にその時を待つ。
教諭の合図と共に、選手たちは一斉にペダルを漕いで飛び出していった。
まず待ち受けるのは、10kmは続く『緩やかな登り坂』である。
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