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◆第八章◆

 ステージ付きの宴会場へと姿を変えた食堂に、パラミタ猪とパラミタ熊の肉、それを煮る鍋などが、次々と運び込まれていく。
「さあ、僕たちの出番だよ、アトリ、アリア」
 リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー)が、ベアトリス・ウィリアムズ(べあとりす・うぃりあむず)メアトリス・ウィリアムズ(めあとりす・うぃりあむず)に呼びかける。
「アトリ、アリアと僕の3人で、お客さんとスタッフ達を楽しませて、旅館に活気をつけれるといいな! 絶対成功させなきゃ!」
「アリス、アリアで踊るのは初めてだから、ドキドキするけど大丈夫! 3人の心はいつもつながっているから♪」
 と、ベアトリス。
「アリス、アトリと一緒に踊りたかったんだ♪ 楽しく踊るぞ!!」
 と、メアトリス。
リアトリスは他のふたりに「アリス」、ベアトリスは「アトリ」、メアトリスを「アリア」と呼ばれている。
 踊りの最初は、一列並び。
 そこからリアトリスが前から中央へ、ベアトリスはリアトリスの後ろから左へ、メアトリスは右へ移動して、足踏みと手拍子を徐々に早めて……、
 最後はポーズを決めてフィニッシュ!
 パチパチパチ……!
「いいぞぉ!」
「ブラボー!」
 3人のフラメンコダンサーは、実は、全員男性だが、外見は女性。美しく着飾った彼らの華やかな踊りに、男性客も女性客もすっかり魅せられ、歓声と拍手が飛び交った。


 続いてのステージは、アイドルイベントだ。
「風船屋の為に、我が846プロダクションも、一肌脱がせてもらうで〜!」
 846プロダクションの社長、日下部 社(くさかべ・やしろ)が、叫ぶ。
「じゃ、未来と鳳明ちゃん宜しく♪ 君達のユニット名は『ラブゲイザー』や! 風船屋を、愛が湧き出るような場所にしてくるんやで♪」
 宴会場には、今夜デビューする「ラブゲイザー」目当てにやってきた客もいるらしく、かなりの盛り上がりだ。
「ふふ♪ 営業が上手くいって、風船屋で定期的に公演とかさせてもらえたら嬉しいわね♪ ……って、社長秘書をやってるはずなのに、なんで私も、イベント出演する事になってるのかしら?」
 響 未来(ひびき・みらい)が、首を傾げる。
「ま、ネットアイドルの経験を活かすチャンスかもしれないけどね」
「本当は、アイドルデビューとか考えてなかったんですけど……」
 琳 鳳明(りん・ほうめい)は、まだ戸惑っていた。
 セラフィーナ・メルファ(せらふぃーな・めるふぁ)に温泉旅行に行こうと誘われ、気がついたら未来とステージに上がることになっていたのだ。
「鳳明ちゃん、そんなに恥ずかしがってちゃ駄目よ〜? そんな貴女も可愛いけど、お客さんの前じゃアイドルにならなきゃネ」
 と、未来が、鳳明のショートヘアをなでなで。
「女将さんの為にも、がんばっちゃお?」
「う、うぐぐ……判った、私やるよ! このステージを成功させて、女将さんの助けになるよっ」
 心を決めた鳳明は、愛用のベースを手にとった。
「先輩である未来さんについて行けるように、精一杯唄います! 魅せます!」
「さ、私達『ラブゲイザー』のデビュー戦よ! 盛り上げるわよ〜♪」
 ギターを手にした未来が、もう片方の手を、鳳明に差し伸べて……、
「未来〜!」
「鳳明〜!」
「ラブゲイザー、最高!」
 ステージ流れ出した可愛くもロックな曲が、客たちの心を掴んでいく。
「やりましたね、社長」
 「ラブゲイザー」のマネージャーとなったセラフィーナが、社に囁く。
 伝説のアイドルグループ、秋葉原四十八星華の元メンバーにして、現役の教導団少尉という話題性と、846プロで訓練してきた歌唱力と演奏力。
 鳳明は、アイドルとしての素質を十分備えていると、セラフィーナは常々、思っていた。
 そこに、舞い込んだのが、温泉旅館風船屋でのステージイベント。
 社長の秘書にして、既にネットアイドルとしてデビューしている未来がリードしてくれるのもラッキーだったし、デビュー戦としては出来すぎなほどだ。
 半ば無理矢理舞台に上げたが、他人の為とあらば、発奮できるのも鳳明の良い所。
 後は……、
「未来さんのギターと鳳明のベース、そして二人の歌声があれば、ステージは必ず成功する……って信じてました!」
「俺もや」
 と、頷いた社が、女将の姿を見つけて駆け寄る。
「音々ちゃん、俺らに任せてくれて、ありがとな。846プロにはファンも多いし、キチンと宣伝すれば、客として来てくれる人もいる。ま、それだけやなくて、今夜は、普通に客として来てくれとる人や、モンスター退治を頑張ってくれとる人にも、楽しんでもらえるようなイベントが出来たらええしな♪」
「ホンマに……こちらこそ、ありがと。リアトリスさんも、日下部さんも、こんなにお客さん喜ばせてくれて……ウチ、もう、どうなっても、悔いはないわ」
「いやいや、今夜だけやなく、今後も、風船屋と846プロを宜しくや♪」
 そっと涙を拭う仕草には気付かないふりをして、社は、音々の肩をやさしく叩いた。