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第六章 サンタクロース襲撃
「うわぁ、立派なツリーだよな」
 街の中心の巨大なクリスマスツリーを見上げ、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)は感嘆の声を上げた。
 その瞳をキラキラと輝かせる勇平を、傍らのウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)ウルカ・ライネル(うるか・らいねる)は微笑ましく見つめた。
 だが、そのうっとりとした恋する乙女アイは、互いに気付くと不穏な色を帯びた。
「出し抜いたと思っていましたのに……。中々に勘が鋭いようですわね」
(「どうにかして二人っきりになる時間を作らないといけませんわね……」)
「俺を甘く見すぎなんだよな。ウイシアがこのタイミングで動くなんて明白じゃないか」(「後の問題はどうやって勇平と二人っきりになるか、だよな……」)
 牽制の剣呑な視線を交わしつつ、どうやったら勇平と二人きりになれるか、を探り合い。
 自然、勇平の腕を掴む手に力を込めてしまったウイシアとウルカ。
「二人とも、どうかしたのか?」
 不穏な空気にようやく気付いた勇平はだが、きょとんとした顔のまま。
 そう、ウイシアもウルカも勇平とデート☆のつもりで、二人きりのデートへ持ち込む気満々なのだが、当の勇平だけがこれをデートだと思っていないのだ。
「あぁそっか、ごめんな、長いこと足を止めてて。早く買い物に行こうな」
 なので、何の疑問も屈託も抱かず、そうにっこり笑む勇平に、
「はい」「そうだな、行こうぜ」
 ウイシアとウルカは笑顔で返しつつも、やはり相手をどうやって出し抜くか、虎視眈眈と窺うのであった。
「何がクリスマスじゃボケ! どいつもこいつも浮かれよってからに、こちとら恋人もおらんから、ジングルベルならぬシングルベルやゆうのに」
 そんな恋人達の「うふふ♪」「あはは☆」なイチャつきっぷりに綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)の我慢は限界をぶっちぎっていた。
「くっそ〜! おまけにこのやるせない思いを癒そうとカラオケで発散しようも、あのボケ店員があろうことかウチ等を店から追い出しよってからに。ほんま、ケッタクソ悪いで! 世間っちゅうのはそんなに一人者に冷たいもんなんか? クリスマスなんて大嫌いや〜!!!」
「綿貫先生、カラオケボックスを追い出されてから荒れちょるの〜。まあ、自業自得やき仕方無か」
 どんどんどんどん暗く黒くなっていく聡美に、岡田 以蔵(おかだ・いぞう)は溜め息を零した。
 普通に歌を歌って、合いの手したり、オタ芸したりするまでは良かった。
 だがしかし、途中でいきなりテーブルの上で踊りながら歌ったり、マイクをパフォーマンスゆうて床に投げつけたり、
「DQNどもの所に乱入して、からかってくるで〜!」
 と言って悪ノリし……案の定、乱入した結果揉め事になっては、店員が温厚で聖人のようだったとしても、追い出されるだろう。
「普通に歌ってストレス発散できん所が綿貫先生らしいっちゃあ、らしいんじゃが……」
「ん? 何の騒ぎや?」
 もう一つ溜め息をついた以蔵の耳に届いた聡美の声に、嫌な予感がしたのは果たして気のせいだっただろうか。
 聡美の視線の先には、白い袋を担いだ子供と、それを追うサンタクロース達が在った。
「……なるほど、サンタの格好してプレゼント配っとる奴が襲撃されとるんやな、ケッヒッヒッヒ、こらあ面白そうやないけ。よっしゃ、ウチもどさくさに紛れて、サンタ狩ったろうやないか。今夜はサンタ狩りじゃぁぁぁぁ!!」
「ん? 何? 今度はサンタ狩り!? 何を言い出すんじゃ先生!……ちょっと、やめ……あ〜あ、何でこうなるかの〜」
 嬉々としてサンタに向かう聡美。
「仕方無い、気は進まんが、先生に助太刀ぜよ!」
 以蔵はもう一つ特大の溜め息を吐くと、表情を引き締め聡美を追うのであった。

「修道院関係は大体終わりましたね」
 リストを確認した安芸宮 和輝(あきみや・かずき)に、パートナーであるクレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)安芸宮 稔(あきみや・みのる)は首肯した。
 三人はクレアの出身の修道院の孤児達を中心に、プレゼントを配って回っていた。
「明日の朝になったら皆、喜びますわ」
「そうですね。後、フレデリカさん達の方を手伝いましょう」
 順調に終わったが故に、更なる手伝いの為、フレデリカと街の中心部で落ち合う事になっていたのだが。
 そのフレデリカはピンチに陥っていた。
「この時節の風物詩と言えばサンタ狩りですよね! クリスマスプレゼントは、サンタさんの御首級で決まりです♪」
 不穏な発言と裏腹に藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)の顔に浮かぶ、にこやかな笑顔。
 だがその笑顔に、フレデリカは凍りついていた。
「どっどうして、サンタ狩りなんて……サンタクロースに何か恨みがあるんですかっ?!」
「恨みなんて……ただの風物詩ですって」
「そんな……」
「だから大人しく、狩られて下さいね♪」
 喜び勇んだ優梨子は早速、とナラカの蜘蛛糸を放った。
 瞬時に鋭い刃物と化した糸は誤たず、狩るべくフレデリカの首に伸び。
「っ!? 大丈夫か」
 咄嗟に割って入った和輝によって、切り落とされた。
 配達の道中もずっと、襲撃者や優梨子のようなサンタ狩りにも警戒していた和輝故に、間に合う事が出来たのだろう。
 本当は出来ればこんな風にガチでやり合いたくはなかったが。
「フレデリカさんを放ってはおけないですからね」
「はいです!」
「そういう事です」
 和輝と同じ気持ちで身構えるクレアと稔。
「あんたらだけで楽しむなんてズルいやろ」
 サンタ達の姿にニヤリと不敵な笑みを浮かべる聡美と、「やれやれ」と思いつつ付き合いの良い以蔵と。
「……待つのです」
「追いついた!」
 その前を子供とサンタがスッ飛ばしていく。
「姫騎士サンタ! エリザベータ・ブリュメール参るっ!」
 追って宣言と共に繰り出された槍を、聡美は自らの武器で受け止め。
「襲撃者とは直接関係ないみたいだけど、仲間が襲われてるのを放っておく道理はないわね」
「まっ、そういう事だな」
 配達も終わり、ストリートチルドレンを見かけたセフィーらがこの事態を放っておけるわけはなく。
「サンタ狩り放題やな」
「綿貫先生はまっこと、前向きじゃき」
 聡美と以蔵は一つ不敵に笑って、サンタ達へと攻撃を仕掛けた。
 この聖夜に八つ当たり……死合う為に。
「フレデリカさんには手出しさせませんわ!」
 ほとばしる【サンダーボルト】と和輝の一閃に距離を取りながら、優梨子は少しだけ残念そうにフレデリカを……本物のサンタクロースを見つめ。
「……残念ですが、適当なところで切り上げた方が良さそうですね」
 次から次へと湧いてくるサンタに時間を確認し、仕方ないと溜め息をついた。
 何せ優梨子とて暇ではない。
 これから大荒野の首狩族達の年末年始の行事に参加させてもらうのだ、そろそろ行かねばならない。
「メインイベントはこれからのようですけれども」
 そう、小さく呟いて、優梨子は切り上げたのだった。
「だっ、大丈夫か二人とも?」
「うん何とか」
「……大丈夫です」
 一方、突然始まった戦いに、。
 咄嗟に庇ったおかけだろう、ウイシアとウルカに大きなケガはないようだ。
「しかし、何だったんだ、一体」
 何てクリスマスだよ、ぼやく勇平の頼もしい顔を至近距離で見上げ。
 これはこれで、などと腕の中に閉じ込めた二人が胸をキュンキュンさせている事に、ただ一人勇平だけは気付く事はなかった。