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第一章 今夜はクリスマス
「みんな、今夜一晩よろしくね!」
 サンタクロースフレデリカの前には、プレゼント配達の手伝いを申し出てくれたルカルカ・ルー(るかるか・るー)ルカ・アコーディング(るか・あこーでぃんぐ)達の姿があった。
「今年もよろしく♪」
「うわぁ来てくれてありがと、またお願いするね」
 去年も手伝った為にルカルカは、アコと共に正しくミニスカサンタで、フレデリカとエールを交わし合い。
「約束だったからね」
 同じく去年も手伝った小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)もまたやる気十分だ。
 そんな美羽やベアトリーチェの可愛際どいサンタ姿、コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は直視できないながら「頑張る!」と健気に拳を握りしめていたりして。
「じゃあフレデリカ、行こう!」
 そして、元気な美羽の声で一日サンタクロース達は、プレゼントを待つ子供達の元へと散って行った。

「子供の頃憧れたサンタさんになれるなんて、とっても嬉しいです」
 地図とリストを受け取りながら言い、加岳里 志成(かがくり・しせい)は隣の左文字 小夜(さもんじ・さよ)の落ち着かない様子に首を傾げた。
「これはスカートが短いタイプのようですね……少し恥ずかしいですわ」
「良く似合っていますよ」
 そわそわと自分の格好を見下ろしていた小夜は、志成の称賛に更に顔を赤くした。
「では行きましょうか。離れないで下さいね」
 リストと地図を手にした志成に、まだ赤い顔のままで小夜は頷いた。
 自分が方向音痴な自覚のある小夜であったが。
「志成様が道案内して下さるのできっと迷いませんわ。二人一緒で配るならきっとすぐに終わりますわね」
 純粋な信頼の眼差しで告げてから、「あ、そうそう」と小夜は志成に身を寄せた。
「配る前にわたくしからのマフラーと手袋のクリスマスプレゼントを。ふふ、サンタさんが風邪ひいてはいけませんもの。これで少しは温かいかしら?」
 小夜のプレゼントは首元と手だけでなく、心まで温めてくれるようだった。
「まさかサンタのお手伝いができるなんてね……この格好はコスプレにしか見えないけど」
 苦笑まじりの溜め息をもらした奥山 沙夢(おくやま・さゆめ)は、一度手元を確認して頷いた。
「このルートで行けばうまく回れるみたいね。さ、夢を届けに行きましょうか」
 【バーストダッシュ】で目的地まで急いでいた沙夢はふと、足を止めた。
 沙夢の【超感覚】に引っ掛かるものがあったのだ。
「……なるべく争いは避けたいわね」
 少しだけルートを変えた沙夢は無事に目的地にたどり着き。
「ふふ……メリー、クリスマス……☆」
 口元に指を当て静かな声で囁いた。
 ベッドで安らかな寝息を立てる女の子の口元、嬉しそうな笑みが上がった。
 それを認め口元を緩めてから。
「さ、次の子供の元に行きましょうか」
 沙夢はそぅっと幸せそうな女の子の家を後にした。
「私も年齢で言えばまだまだ子供にある訳で。だから、プレゼントを貰っても何の問題もない、と思うんですよ」
 その頃、志成と小夜は沙夢が回避した『厄介事』に遭遇していた。
 日比谷 皐月(ひびや・さつき)のパートナーである雨宮 七日(あめみや・なのか)である。
 自分は守護天使であるので、サンタに強請っても問題ない恐らく、と結論付けている七日である。
「ですので、ほら、そこのサンタ。私にプレゼントを寄越しなさい。返事はイエスハイでお願いしますね」
「え、と……?」
「とりあえず私達のリストには無いようです、ごめんなさい」
「ちょおっと、待ったぁぁぁぁぁ!?」
「そのプレゼントは俺達に貰おうかっ!!」
 そこに掛けられた声に、志成と小夜の困惑は更に深まった。
 お世辞にも小綺麗とは言い難い、子供達。
 それから彼らのセリフ。
「一番大事なのは、子供達に配るプレゼントなのですから。それを護ってきちんと配ることが私達の役割だと思うんです」
 志成と小夜はさっさと撤収に掛かったわけで。
「あっ、逃げた」
「待てサンタ!?」
 軽く応戦しつつ逃げる志成と小夜を追う子供達。
「…………」
 ちょっとだけ考えてから、七日もまた子供達の後を付いていくのだった。


「フレデリカさん達も困っている様ですし、私達なりに出来る事をしたいと思います。……ミニスカサンタ服は正直かなり恥ずかしいですけど」
 そう笑ってみせた六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)の意図通り、緊張感漂っていた空気は僅かに和らいだようだった。
「サンタを打ち落とすかね、普通」
 だがそこに掛けられたアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)の言葉に、市倉 奈夏(いちくら ななつ)エンジュが再び顔を暗くした。
「うんでも、ケガがなくて本当に良かったわ。フレデリカさんの可愛い顔にも傷つかなかったし」
「ちょっそこはくすぐった……」
 それにしても今年も可愛いなぁ、とケガの有無を確かめがてらフレデリカの身体をあちこち触っていた朝野 未沙(あさの・みさ)は、安堵の息を吐いた。
 が、その未沙のセリフに、更に表情を曇らせたのは奈夏である。
 そしてそんな奈夏を見て、エンジュもしゅうん、となる悪循環。
「反省は良いが、過ぎれば身動きが取れなくなる……とにかく今はこの先を考えねばならぬ」
「とにかく今は、配達を急がないと……子供達、楽しみに待ってるもの」
 麗華・リンクス(れいか・りんくす)はそんな二人を見てアレクセイを軽くドツき、アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)もまた励ましを込めて言葉を重ねた。
 それら確かにその通りな助言に、フレデリカも奈夏もエンジュも首肯し。
「今回はあたし、お菓子とか作るのを手伝った方がいいかな。割と大規模に料理しないといけなさそうだし。あたしがみんなを指揮して、お菓子とか用意させようか」
 プレゼントの必要数と種類と、タイムスケジュールを誰かが把握して指示しないと、と未沙はフレデリカに申し出た。
「作るだけじゃなくて小分けにしたり、包装したり、仕分けたりする人も必要だもんね」
「うん、確かに。じゃあそっちはお願いしても良いかな?」
「そ・の・か・わ・り、終わったらあたしにもプレゼント頂戴ね?」
「うう、善処します」
 そしてそれぞれ自らの成すべき事……フレデリカとエンジュは配達、奈夏と未沙はお菓子作りへと向かう事になり。
「フレデリカさんの言う事を聞いて、頑張ってねエンジュ」
 奈夏達と別れた直後の事、だった。
「……いただき!?」
「………………?」
 エンジュの背負っていた袋が、何者か……いや、志成達に振り切られた子供達によって奪われたのだった。
「うわっ、何? プレゼントドロボー!……って子供?!」
 アリアの驚いた声に、フレデリカも目を大きく見開いた。
「……げき、」
「わぁぁぁぁぁっ、ダメダメ! 人に向けて撃っちゃダメだって! 奈夏にも言われたでしょ」
 躊躇なく攻撃しようとしたエンジュは、アリアの言葉に動きを止めた。
 人を傷つけてはいけない、それは最初に約束した事だった。
「確かにアレは子供……人間の幼体……危ないトコロでした」
 ありがとうございます、頭を下げるエンジュにアリアはホッと一応安堵し。
「それにしても、プレゼント泥棒とは」
「……うん、他にも襲われたサンタがいるみたい」
「あの……すみません」
 アリアの視線を受けたベアトリーチェが、申し訳なさそうに項垂れた。
「気が付いたら、消えていて……」
「大丈夫! 取られたプレゼントはあたしが取り返すから!」
「……わたしもアレを取り返します……アナタは配達を優先……させて下さい」
 確り頷く美羽とエンジュに、フレデリカは頷いた。
「分かったわ、気を付けて。……あの、くれぐれも無茶はしないでね」
「……善処します」
「サンタの嬢ちゃん、俺様達は飛空挺でプレゼント泥棒対策に行く……フォローは任せな」
「うん、サンタちゃんは自分の仕事を頑張って! 待ってる子供達の為にも、さ」
 顔に「心配」を浮かべたフレデリカは、アレクセイとコハクに言われ安心したように頷き。
 そうして、フレデリカやアリアは配達に、ベアトリーチェはお菓子作りの手伝いに、エンジュや優希達は奪われたプレゼントを追うべく、別れ。
「あー……子供にプレゼントが奪われた、ね」
 もれ聞こえたサンタの会話に、皐月はガシガシと頭を掻いた
「すげえ嫌な予感がするんだけど、まあ、気のせいじゃねーだろうなぁ……。……はあ。こんな日くらいは大人しく出来ねーもんかね、ったく」
 脳裏に浮かんだのは、七日だった。
「ま、複数犯だって聞いてるし。七日だけって事もねーだろ。なら、ま、放っとける訳でもねーか。拳骨一発で済ませられるうちに、済ませてしまうとしましょうか、ね」
 大事になる前に……取り返しがつかなくなる、前に。
「一回雷落としたら、その後は……ま、皆で楽しいクリスマス、だな」
 エンジュの後を追いながら、皐月はそう呟いた。