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仮装の街と迷子の妖精

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仮装の街と迷子の妖精

リアクション

 

 空に花火が鳴り響き、特設ステージに音楽が鳴り響く。
『お待たせしました! それでは仮装コンテストいよいよ開催いたします!』
 設けられた客席はあっという間に埋まり、立ち見の観光客も辺りを埋め尽くし、あっという間に広場は人でいっぱいになってしまった。
「あたしのカメラを今年も震わせてちょうだいよ〜?」
 ステージ近くの客席をしっかりとキープしていたアーミアがカメラを構えたまま笑い声を上げるが、観客の盛り上がる声でその笑い声すらもかき消されて聞こえない。
『では早速お呼びしてみましょう! エントリーナンバー一番!』


 表の歓声が聞こえてくるステージ裏の控え室。エントリーした出場者たちが、何名か棄権してしまった上に、残った半数が審査もまだだというのに落胆の表情を浮かべている。
 それもこれも全ては雪だるま頭のせいだ。
 衣装が頭を通らず着替えることすら出来なかったり、この頭では出たくないと泣いてしまうものもいるほど。衣装を無事に着れた出場者たちも同じような雪だるま頭が並んでいる控え室でどうしたらいいものかと頭を抱えているのだ。
「ふっふっふ……これで全て計画通り……」
 更衣室にたどり着いたマリリン。自分の番号がだいぶ後なのと、既に着替えを終えていたこともあり余裕の表情を浮かべている。そもそも出場者――とはいえ全員ではないようだが――の頭を雪だるまにするように頼み込んだのは他でもないマリリンだ。出場者の仮装が頭と体でミスマッチなのは減点対象になってしまう。それでなくても既に棄権したものまでいるのだ。
「これであたいの入賞は間違い無しだぜ!」
 どうせ入賞になるだろうと見越してさっさとお姫様をモチーフにしたドレスに着替え、ティアラをちょこんと乗せただけのシンプルな仮装。一応念のためお化粧直しでも、と鏡を開いて彼女はようやく大事なことを忘れているのに気付いた。
「え。あれ、嘘?! あたいまで雪だるまーっ?!
 鏡に向かって叫ぶマリリンの様子を後ろからジョヴァンニがこっそりと見つめていた。


 警備控え室。ようやく休憩の回ってきた魔鎧を装着した鬼龍――ネクロ・ホーミガが椅子に座っていた。
 年々観光客が増えてきているからだろう、今年は迷子も多く、あちこち走り回ったり子供をあやしたりと警備と名はついているがやっていることはまるで幼稚園の先生のようだった。道案内だけならまだいいのだが、魔鎧を着けていたからだろうか仮装と間違われることも多く、写真を撮らせてくれという人までいたので鬼龍は対応にすっかり困ってしまったのだ。
 休憩中もコンテストの様子が控え室へと届いてくる。多くの歓声、拍手。様々な音が入り混じり会場の盛り上がりを伝えていた。
 しばらくして鬼龍が休憩室を出ると、スタッフらしい男が慌てて走り寄ってきた。何やら事件でもあったのだろうか?
「こっちです、早く来てください!」
 腕を引かれるままにスタッフ用の狭い通路を駆け抜ける二人。
「ここです、早く!」
 指し示されるままに進んだ道の先、視界が開けた先に見えるのは、人、人、人。
 そこはイベントが始まる前に全員でチェックをした場所。

 特 設 ス テ ー ジ じ ゃ な い か 。

『今日のラストはこの方! おっと、何やらカッコイイ鎧に身を包んでいますね〜』
 冷や汗が流れるのを感じる間もなく、司会者がお名前を、とマイクを近づけてくる。
「……ネクロ・ホーミガ」
 司会者が何やら喋っているようだが、テンパった頭では聞き取れない。だがしかし、ここはもうステージの上。この鎧を纏っている間は『ネクロ・ホーミガ』なんだと覚悟を決めて鬼龍はヒーローらしくポーズを取って見せた。
『う〜ん、さすがヒーロー! ナイスポーズ!』
 変な掛け声をかけてくる司会者はともかく、思ったよりも観客の反応もいい。子供がいつにも増して多いからだろうか。考えながらも次々にポーズを決めていく様子を、前列で惜しげもなくカメラに収めていくアーミア。
「わおわお! 今年は盛り上がってるわねぇ〜! やだ、ネクロさん意外と腰が細い……
 子供たちもステージ前に集まってきて、さながら気分はヒーローショーだ。

「待て待て待て〜〜い!!」

 声のする方向にカッと当たるスポットライト。
「何なの……このつつがない進行……?!」
 アーミアは今までにない仮装コンテストの様相に胸の高鳴りを押さえられない!
「フゥーハハハ!! このクロセル・ラインツァート、こんなに楽しい場面を独り占めなどさせませんよ! ネクロ・ホーミガとやら!」
 どこから登ったのか、ステージの屋根の上にマントをはためかせて立っているクロセル。
「さあ、私と勝負です! ネクロ・ホーミガ! ちびっこたちにどちらが強いヒーローなのか見せ付けてやりましょう!」
 観客を巻き込んだアドリブしかないヒーローショーはしばらく続いた挙句、『よきライバルだぜ……』と残してクロセルが去るところで幕が下りた。
 盛大な拍手と歓声に会場が包み込まれて、コンテストは終了した。
「熱い……いい話だったわ……」
 パシャリと最後に背中を向けた二人の写真をカメラに収めて、アーミアはその感動を反芻するのだった。

 クロセルとネクロ・ホーミガの二人は、二人のために急遽作られた審査員特別賞を授与することになる。