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仮装の街と迷子の妖精

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仮装の街と迷子の妖精

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 第二章


 少しずつ観光客の姿が増えてきているヴァイシャリーの街中。
 広場の賑わいや、仮装する人々の姿が少しずつ増えて来ているのをカメラのレンズ越しにアーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)は感じ取っていた。
「さーて、今年はどんな仮装が見られるのかしら!」
 アーミアが仮装コンテストを見に行こうと誘ったものの、パートナーのミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が仕事で忙しく外せないようで、仕方なく一人で来ることになってしまった。以前ヴァイシャリーに住んでいたので見知った土地でもあったし心細くはなかったのだが、それでもやはり一緒に来られたら良かったのにと思わないわけがなかった。せめてミネッティのためにと一枚でも多く写真を撮って、帰ったらたくさん話を聞かせてあげようと再びレンズを覗き込んだ。
「それにしても……今年のヴァイシャリーは雪だるまが流行ってるのかしら?」
 先ほどからちらちらと見かける雪だるま頭の仮装に、ミネッティは首を傾げた。
 様々なモンスターに変装したり、漫画などのコスチュームを真似たり、戦隊モノの衣装を身にまとったりとそれこそ様々なジャンルで溢れかえっているはずなのに、どうやら今年は雪だるま頭が目立つ。先日雪が降ったのも影響しているのか、それともやはり今年の流行なのか。
「でも頭だけ雪だるまっていうのも、なんか面白くていいわね!」
 パシャリと一枚カメラに収めて、街のスピーカーから流れる聞きなれた音楽を口ずさみながら笑顔で歩き出した。


「素晴らしい! 素晴らしい! 素晴らしい!」
 つい三回も言ってしまいました、と自分を落ち着かせるように頭に手を当てるクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
「クロセル殿、何がそんなに――おおっ! これは……!」
 その後ろから近づいてくるのは、パートナーの童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)。魔道書の彼が化身した姿は全身雪だるま。クロセルは仮面をつけ、制服をマントのように改造して身に纏っている。コンテストでなくても仮装をしているようなものだが、今日は街をあげてのイベント。街中が仮装の人々で埋め尽くされているのでそんな二人の格好もさして気にならない。
 そんな二人の目を奪ったのは、色鮮やかな衣装、煌びやかな仮面――ではなく。
「ヴァイシャリーの街では雪だるまが流行っているのでござろうか?!」
 行きかう人々の間で目立つ、流麗なフォルム。純白の色。そう。雪だるまヘッド。
「これはチャンスですよ! 我々雪だるま王国繁栄のチャンス! この機を逃すわけには行きません!」
 おおおっと目を輝かせながら相棒を見つめるスノーマン。
「そう! 我々ではない誰かが! 雪だるま王国の民として頑張っているのかもしれないというこの事実! 我々が受け止め、そしてその波紋を広げてやらないでどうします?!」
 まるでオペラか何かの舞台のように、くるくると回り大仰に手を広げ声高に叫ぶクロセル。服装こそ街に溶け込んでいるものの、どうしたって目立つ二人組みの側を雪だるま頭になったセレンたちが通りかかった。
「うぅ〜……あたしはこのまま雪だるまなんだぁ……」
「アル、泣いてばかりよりも今どうしたらいいのかを考えるの。そうしたらお姉ちゃんのためだけじゃなくて、きっといつか誰かのために何かをするっていうことが分かってくるわ」
 先ほどお姉さんに似ている人がいたと走って追いかけようとして転んで泣いてしまったアル。その時近くにいた百合園女学院の生徒も巻き込まれて、雪だるまヘッド人口は確実に増え続けてきていた。
 地元の人たちが何ともないのを見て、きっと契約者だけアルの暴走した能力が作用してしまうんだろうとセレアナは分析していた。
 絆創膏の貼られた小さな手でしっかりと握り締めてくるアルに微笑みかけながら、セレアナは左手の先にいる沈んだパートナーに気合を入れるように手をきゅっと握りなおした。
「お嬢さん方、ちょっとお時間よろしいですかな?」
 ばさりとマントをなびかせてクロセルがセレンたちへ声をかける。
 いきなりの登場に驚いたのか、またも泣き出してしまいそうになったのを必死で堪えてセレアナの後ろに隠れるアル。
「おぉ、いきなりで驚かせてしまったでござるな、これは失礼」
「……ゆきだるまさん?」
 スノーマンの登場にセレアナの後ろから恐る恐る出てくるアル。やはり雪の妖精だけあって気になるのだろうか。
「もしかして、あなたたちもこの子に?」
 第三者の登場などどこ吹く風、いまだに嘆き続けるセレンを放置してセレアナが冷静にクロセルたちに対応していた。
「いや、拙者は魔道書。元からこの姿でござるよ」
「……ということは後ろのお嬢さんの頭が素敵――いやいや、大変なことになってしまったのは、もしや」

「なんとっ! この幼子は雪の妖精でござったか!」
「ほほぅ。小さいのになんとセンスの溢れ……いや、溢れ出る魔力の持ち主だ」
「そういうわけでこの子のお姉さんを探しているんだ。それらしい人物を見かけなかったか?」
 セレアナから二人が事の次第を聞いている間も、後ろでセレンはいじけっぱなしだ。
 二人は今まで通ってきた道を思い出してみるものの、仮装をした人が増えてきている中で、ありふれた特徴しか分からない人物を特定する方が難しかった。
「せめてもう少しヒントがあればいいんですけれどねぇ」
「ヒント、ねぇ……」
 セレアナは先ほどアルが言っていたもう一つのヒントを思い出していたのだが、言ったところで特定できるようなものでもなし、頭の片隅にそっと戻しておくことに決めた。
「よし、では我々も捜索に協力いたしましょう! 人手は少しでも多い方がいいですから。ねぇスノーマン」
 がしりとスノーマンの肩を掴んで、にっこりと笑顔を浮かべる。
「おお、もちろんでござるよ! 雪の妖精が困っているのに助けないスノーマンはいないでござる!」
「ありがとう!」
 アルも嬉しそうに目を輝かせてスノーマンに再び抱きつく。
「拙者たちに任せるでござるよ! この雪だるまたちにも手伝ってもらうでござる」
 スノーマンの声に、後ろからスノーマンよりも小さい雪だるまと、さらに小さい子供のようなミニ雪だるまが現れた。
「わあ! ゆきだるまさんがいっぱいだ〜!」
 先ほどよりも目を輝かせてアルが嬉しそうに言う。
 ミニ雪だるまがアルの周りに近寄って何かを話しているようだった。
 遠くからこの大小様々な雪だるま一行を見て、雪だるまの家族が来ていると思った人もいるだろうな、と次第に止まらなくなっていたくしゃみを連発しながらセレンは考えていた。
「それでは早速探しに行くでござるよ!」
「それもいいですが、せっかく人がいるんですから、ここは二手に分かれて探してはいかがでしょう?」
 確かに二手に分かれて探したほうが効率はいいだろう。街の反対方向を探しあえるのだから。しかし、エルの特徴というものもほぼ分からないまま二手に分かれてよいものかと、スノーマンは疑問に思った。
 クロセルの方を向けば、何か考えがあるのだろうか、スノーマンを見てただにこりと頷くだけだった。
「俺みたいなのが一緒よりも、可愛くて美人なお嬢さんたちと一緒の方がこの子もいいでしょう」
 俺が連れまわしてたりして通報なんかされたくないですからね、と笑いながら付け足して、クロセルはセレアナたちと別れを告げた。

「良かったのでござるか? 拙者たちはエル殿の特徴も良く分からないままでござるのに」
 少しだけ心配そうにスノーマンが顔を覗き込んでくる。
「しかも、彼女たちに教えた方向は先ほど拙者たちが歩いてきた方向ではなかったか?」
「ふふふ……いいのです! これでいいのですよ! さぁ何としても探し出してやろうじゃありませんか!」
 少しだけ疑問の残るスノーマンだったが、やる気になったクロセルを見てまた歩き出した。