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ゆる族はかまってちゃん!?

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ゆる族はかまってちゃん!?

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◆第7遊◆    おかえりなさい

 待望の朝は、すっきりした快晴の元にやってきた。
 季節柄にもなくポカポカ陽気の今日は、絶好のピクニック日和ですと校内放送が告げていた。


 ドンはそんな晴れやかな天気の中、曇天のごとき顔で、未だ森の集会所に滞在していた。

 今日も今日とて世話を焼いたり話しかけたりしてくれるレキ・フォートアウフは、
 昨晩仲良くなったシャンバラ教導団のセレンフィリティ・シャーレットセレアナ・ミアキスを相手に世間話をしている。

 とても興味深いおしゃべりだったが、ドンには他に気にしている大事項があって、それどころではない。




 ご主人・佐東 彗兎が、いつまで経っても迎えに来ないのだ。
 百合園学園のある地域とイルミンスールのある地域はお隣さんだ……えっちらおっちら来ても、数時間あれば到着する距離だ。

 彗兎もドンに会いたがっているのだから、森の集会所にいる話を聞きつけ、いの一番にやってきても全然おかしくない。

 なのに、もう辺りは夕やみに包まれようとしている。



(ご主人……どうして……)



 ふっと泣きそうになったドンは、そこで泣こうとする自分を止めた。

 ここで泣いて、それで事態が変わるならいいだろう。
 けれど、そうしたとして彗兎が帰ってくる確証はない。
 むしろ、帰ってきた時にドンがぐずぐずに泣いていたら、悲しむのではないだろうか。


 ドンは、この1週間で自分を世話してくれた皆の顔や言葉を思い出した。
 わずかではあるが、自分が積極的になっているような、そんな変化をドンは自覚していたのだ。



(もしかして、ぼくが楽しそうにしてれば、ご主人も楽しいのかなぁ……)



 ドンはすっくと立ち上がると、辺りに目を凝らした。

 出会った者たちの中で、誰より現実的に接してくれた立川 るるの姿を、遠方の茂みに発見する。
 視線があったのか、るるは素早く視線をそらせた。


 
 ―自分のためになることは、将来的にご主人のためになる―



 ドンはもう一度、今度は自分から人と会話し、色んな経験を積みたいと思った。
 そう思ってからドンの行動は、見違えたようだった。









 ――更に1週間が経った。








 一足先に春が来たような、そんな温かさを思わせる薄桃色の髪の少女が、イルミンスールの森の草を踏んだのは、
 太陽が顔を出してから数分もしないうちだった。

 目指すのはもちろん、愛しいパートナーの待つ森の集会所だ。
 美少女と言っても見劣りの全くしない彼女――佐東 彗兎は、ひたすら前を見つめ走っている。

 丈夫とは言い難い手足を必死に動かして、行き着いた先には見知ったパートナー・ドンの姿と、その周囲の見知らぬ人たちの姿があった。



「ドンさん!!!」



 呼ばれたドンが振りかえる。

 しかしドンはすぐさま彗兎の胸に飛び込みにいくようなことはせず、一歩一歩踏み出すごとに歩みを速くして、
 夢にまで見た主人の前に来て、立ち止まった。

 その様子に、彗兎が驚いて目を見開いたほどだ。

 主人の姿を認めた時のドンの自分への接近速度は、彗兎の中でも伝説になっている。
 決まって泣きながら飛びついてきて、自分がどれだけ寂しかったかを小一時間は語ったものだ。


 その甘えん坊のドンが、ワンクッションおいてから様子を見るように近づいてくるのだから、革命としか言いようがない。




「遅くなりました……」




 彗兎の威勢はそこはかとなく弱い。
 おどおどと瞳を動かし、ドンを直視しようとしない。

 これまでに例のないことだが、そんな彗兎を後押ししたのは、ドンの一言だった。




「おかえりなさい!」




 間延びしていた語尾がなくなり、確固たる意志を漂わせたつぶらな瞳を彗兎に向ける。


 それからやっと、ふたりは抱き合った。




「これじゃ、わたしが甘えん坊のかまってちゃんみたいです」






 *






 ひとしきり再会を喜んだあと、彗兎は、なぜ体験入学が1週間伸びたのかを語った。



 体験入学初日、ドンと百合園学園の門前で離れ離れになったあと、彗兎は自分の中に異常なまでの寂寥感が生まれていることに気付いた。
 これまでふたりでひとりのように過ごしてきたのに、それがあっという間に崩壊した事実は、重かった。

 百合園学園に入って、職員室の次に訪れたのが「児童相談所」であったほどだ。
 児童と言う年齢でもない彗兎がそんなところに訪れるくらいだから、彼女の気持ちの急転直下は筆舌に尽くしがたい。


 1日中迷い、入学2日目にして、彗兎はドンと強制的に離れられる体験入学と言う名目を借りて、
 ドンがひとりでいる時間が延びるように意図した。

 もっと未来、自分よりも繊細なドンがひとりでなくてはならない場面に出会った時、ちゃんと自分の意志で行動できるように
 なっていてほしかったからだ。
 ずたぼろの自分の心に気付いて、心からそう実感した。


 イルミンスールの環境とそこに通う生徒たちに全てを任せるのは無責任と言われても、この機会を逃したら次は一生ないと、
 彗兎はそう思ったから、実行した。


 この計画は、彗兎と、百合園学園で友達になった茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)
 そしてそのパートナーのキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)しか知らない。
 キャンディスは冬季ろくりんピックのマスコットとして忙しくしていたため、会場と電話をつないで会話した。
 清音に相談できなければ、1週間+1週間=2週間の間、学校の雰囲気など楽しめずに終わってしまったかもしれない。

 なにはともあれ、清音の『ドン様を男の娘に作戦!!』という提案には、面白さもあり非常に元気づけられた。



 内密な計画のため、逐一の報告はない。
 ドンのあたふたする可愛い姿しか想像はできなかったが、それを思い浮かべるだけで、2週間は意外に早く過ぎ去ってくれた。







「でも、夢みたいです。 ドンさんが、ものすごくたくましく見えるのです」
「なったんだよ! 本物のたくましいだよ!」



 文法までは手が回らなかったのか表現力はいまいちだったが、内面の成長は2週間前の比ではない。
 彗兎は感激して、また瞳を潤ませる。
 ドンはそんな主人を、両の耳で器用にぺしぺしと叩くのだった。

 すると、噂の美少女主人を一目見たいと生徒たちが幾人か集まってきた。




「お初にお目にかかります。 私は、退紅 海松と申します――――よろしければ、写真を一枚いかがですか?」
「えぇ、はい?」



 海松が彗兎に差し出したのは、この2週間に撮影したドンの写真だ。
 しかも写っていたのは……。



「ま!ママ、まってよぉ!!」



 うっかり元の口調になったドンが、海松から写真を奪おうと必死になるが、時はすでに遅い。



「ドンさん……」
「…………」
「…………」
「…………」



 上から、彗兎、ドン、彗兎、ドンの順番で沈黙する。

 写真に写っていたのは、包丁で野菜を剥くはずが自分の指の毛を剃ってしまったドンの姿。
 その次は、誰に叱られたのか体育座りをして、その姿勢のまま草をむしっている姿。
 格好よく木に登るはずが、ふかふかした体が災いし、幹と幹の間に挟まって動けなくなっている姿……など。

 やはり、恥ずかしい部分を見せたくないのは、男の子としての性格なのだろう。


 彗兎は、うつむいてしまったドンを、その頭に手を置き、なでる。
 もちろん彼女は本気で怒ってなどいなかった。

 束の間、至福の表情になると、ドンは頬を染め照れくさそうにした。



「がんばりましたっ」
「むぃ」



 ふたりそろって十数分、彗兎とドンは並んで歩きだした。

 自宅へではなく、ドンを支え励まし、面倒を見てくれた皆に感謝を述べに―――。






















 *






















 ドンと彗兎が肩を並べて行ってしまった後、森の集会所にゆる族のふたりが揃って歓談していた。
 雪国 ベアチムチム・リーだ。

 その手には、さきほど海松が彗兎に見せた写真とは、まったく趣きの異なる写真があった。
 海松から、「同族さんのよしみで、さしあげますわ」と頂いたもので、ざっと50枚はある。



「あの退紅 海松ってのも、随分いじわるだな……良い意味で」
「こっちの写真を見せてあげればよかったネ」



 彗兎には非公開とされたその写真には、たった一人で勇ましくイルミンスールの森へ出発し、帰還した直後のドンの姿などが写っていた。
 体中を切り傷・擦り傷だらけにしながらも、わんぱくな小僧よろしく鼻をこすっている。
 どれも誇りにしていい出来栄えのものばかりだ。


 ベアとチムチムは運よく手にしたその写真たちを、彗兎が学生になった後にでも彼女の自宅のポストに投函しようと相談していた。

 そして、結果は数秒で出た。



 もちろん、双方「異議なし」だ。







〜おわり〜

担当マスターより

▼担当マスター

さくら まう

▼マスターコメント

 朝食の前に一読、という感じで読んでいただけましたでしょうか?
 今回も参加して下さった皆様、また初めて参加していただいた皆様、物量、文字間隔共に、
 お付き合いいただき本当にありがとうございます。

 コメディといいつつ、どのあたりが笑いどころなのか手探り状態でしたが、自分なりにいろいろと盛り込んだものを、
 皆さんそれぞれにくみ取っていただけたら嬉しいです。


 できるだけアクションがストーリーに対して不自然でないように書きましたが、
 全てのリクエストには対応できていないかもしれません。

 もっともっと勉強させていただきます!

 次回もよろしくお願いいたします。

▼マスター個別コメント