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リアクション
第四世界・8
大通りでは派手に銃声と怒号が飛び交っている。夕暮れに無法者と契約者が踊るパーティだ。
「正義の保安官様が決闘の相手になってやる! コインが落ちた時からの早撃ちだ!」
レイリー・ブラッド(れいりー・ぶらっど)が懐からコインを投げる。だが、通りの向こうにいる男は、構わずに銃を抜いた。
「てめえっ! 卑怯にも程があるぞ!」
が、突然男のかぶった帽子がずり下がり、視界を塞ぐ。男が標的を見失っている間に、レイリーの弾丸が男を打ち倒した。
「もうそんな状況じゃないんだってば!」
帽子を降ろさせた超能力者……犬塚 陸(いぬづか・りく)が、物陰で弾丸から身を隠しながら叫ぶ。
もうすでに、契約者たちと無法者たちが入り乱れている状況だ。何のために戦っているのか、もしかしたら誰も分かっていないのかもしれない。
「がははははっ! こいつはとびきり派手だな!」
大男が何人もの手下を引き連れて通りに現れる。陸は知るよしもないが、リッジョらから状況を聞いた“有情の”ジャンゴの到着である。
「あんた、こいつらのボスだな? 銃を収めさせてくれ、話が聞きたいだけなんだ」
中原 一徒(なかはら・かずと)が、ジャンゴに向かって叫ぶ。だが、返事は手下どもの鉛玉だ。一徒はなんとか、建物に隠れた。
「……想像していたよりも、事態が大きくなってしまいましたわね」
グレース・スタインベック(ぐれーす・すたいんべっく)が周囲を探りながら呟く。
「冷静に言ってる場合か……」
一徒がうめく。どうも、話を聞いてくれる状況ではなさそうだ。
倒した男に念入りに弾丸を浴びせてから、ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)が大通りを盗み見る。
「やつがボスっちゅーことじゃろうな」
「そう見て、間違いないでしょう」
カーチス・ランベルト(かーちす・らんべると)が答える。
「……どうしますか? 金でも握らせて取り入りますか?」
「あぁ? 俺を誰だと思ってんだ」
ルメンザがジャケットの襟を治して立ち上がる。
「金を出すより先に、血を出させるほうが先だろうが」
「ヒャッハー! おら、自称保安官ども出てきやがれ! 無法者が蹴っ飛ばしてやるぜ!」
馬に跨がり、むちゃくちゃに銃を撃っているロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)。その姿は完全に無法者の一員だ。そう、自由と無法を愛する彼は早速無法者についたのである。
「自由と無秩序をはき違えた愚か者め。自分の立場が分からないというなら、粛清してやる!」
斧を手に立ちはだかるのは青葉 旭(あおば・あきら)。
「ああ!? こっちにゃこっちの秩序があるんだよ!」
「キミは契約者だろうが!」
むちゃくちゃに弾丸をまき散らすロアに、旭は防御に回るしかない。
「……妙だ。いつもなら、もっと……戦いやすいはずだが」
「でも、これだけ隙があれば十分!」
山猫そのままの姿勢で高く飛んだ山野 にゃん子(やまの・にゃんこ)が、迷彩を解除してロアの背中に向けて引き金を引いた。
「ぐあっ!?」
空中からの一射に、ロアの体勢がくずれる。
「ドン子、何してんだ! とろとろしてんじゃねえ!」
「どんくさくなんかないのです〜、機会をうかがっていたのです〜」
距離を取ったレオパル ドン子(れおぱる・どんこ)が、ショットガンをぶっ放した。ロアを巻き込んでも構わないとばかりに放たれた鉛の雨を、にゃん子は身を丸めて耐える。さすがに、旭の背後まで後退せざるを得ない。
「確かに、変かも……いつもなら外れるような弾が、当たってる気がする!」
「……彼らが特別凄腕というわけには見えないが」
「くっちゃべってんじゃねえ!」
戦いは、さらに苛烈さを増していく。
ガガガガガガンッ!
魔鎧と化したグラハム・エイブラムス(ぐらはむ・えいぶらむす)に、何発もの銃弾が浴びせられ、さながら鉄琴のように音を立てる。
「もっともっともっと撃ってきなさあい!」
グラハムを着たセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)は、両腕のトンファーを振り回し、ジャンゴの手下を吹き散らす。
「……よくあんなことができますね」
路地に逃げ込んだ柴崎 一輝(しばさき・いっき)は、撃たれた肩を押さえている。剣で挑んだものの、無法者の銃にやられてしまったのだ。
「……弱ったなあ。あんなに連中が強いやなんて」
メリー・アップル(めりー・あっぷる)も困り顔だ。
「でも、強いと言うよりは、あっち……パラミタや地球とは、勝手が違うって感じだ」
一輝がぽつりとつぶやく。同じことを、セシルも感じていた。
「あんまり好き放題撃たせっぱなしにしてると、さすがの俺もやばいかもしんねえぞ……!」
「だらしないですわ。あんな、時代遅れの銃を怖がってどうするんですの!」
トンファーで身を守りながら、セシルは叫ぶ。だが、確かに妙だ。
「そのはずなんだが、いつもよりダメージがきついんだよ! ……かといって、あいつらの銃がパラミタの銃より強力には見えねえし……」
うなるグラハム。セシルはくっと歯がみした。
「もしかして、この場所そのものに、銃を強める力があるんですの……?」
ゴウンッ!
無人のボロ小屋が、派手に火柱を上げて崩れる。突っ込もうとしていた無法者たちが、恐慌をきたしてあちこちに逃げ出していく。
「物理的な法則は、変化がないらしいな。火炎瓶に期待した通りの成果だ」
火炎瓶を作って火を付けた本人……ネルソー・ランバード(ねるそー・らんばーど)は、被害をさらに拡大させつつも、冷静に状況を分析していた。
「剣を振る感覚も変化はありません。どうやら、銃や、特定の状況に何らかの付加がされているのかもしれません」
レイ・ジュザー(れい・じゅざー)も分析を続けている。
ネルソーはさらに火が燃え移るのも気にせず、別の手段を講じようかと銃に手をかける。
と、その視線の先。屋根にのぼっている人影が見えた。
パンッ! パンパンパンッ!
その人影……ソフィア・ギルマン(そふぃあ・ぎるまん)が、空中に派手に銃声を響かせる。
「ホールドアップ!」
「……はあ?」
そう言われて手を上げる者がいるはずがない。ネルソーは思わず調子の抜けた声を漏らした。
「ソフィア、そうじゃないって」
ハリー・ヴァンス(はりー・う゛ぁんす)に言われて、ソフィアはハッとしたように口を押さえた。
「OH! ソーリー、間違えたね。みんな、争いはストップ! これ以上の戦いは何も産まないわ!」
……と、言われて戦いを止めるやつもいるはずがない。無法者どもが、ソフィアのいる屋根に向かって次々に銃を向ける。
「ちょっと! いい加減にしないと撃つわよ!」
悲しいかな、ソフィアはこのように引き金が軽い性格なのだ。
こうして、被害規模は広がっていく。
「これ、どうするつもりなんだよ……」
町中で争っている様子に頭を抱える陸。パートナーの気を知ってか知らずか、レイリーは弾丸を込めなおした拳銃を両手で構える。
「いいじゃねえか! 俺は一番強いやつとやるぜ!」
「……レイリー、ストップ!」
大通りに陣取るジャンゴの元に飛び出そうとするレイリーを引き留める陸。きっとレイリーがにらみ返した。
「い、いや、なんか様子が……ほら」
そう言って、陸が指さす先では。ジャンゴの手下がざわついている。飛び込んできた無法者が、こう声をあげたのだ。
「さ……サンダラーだ! サンダラーが来た!」
「何だと? こうなったらこんなことをしてる場合じゃねえ。てめえら、引き上げろ! 無駄に弾ぁ使うんじゃねえ!」
葉巻を吐き捨てたジャンゴが一喝すると、無法者たちは腐りに繋がれた犬のように銃を収め、引き上げていく。意外な展開に、契約者たちもきょとんとそれを見送った。
「……サンダラー?」
思わず、陸はその怪しげな言葉を復唱した。