|
|
リアクション
第四世界・9
同じ頃……町外れ。
人気のない荒野を、町に向けて歩いてくる二人連れがいる。道なき道を進んできたのか、砂埃だらけのハットとポンチョ。さらに異常なことに、二人そろって顔にも手にも、あらわになるべき場所に包帯を巻き付けているのだ。目すらも隠れて、顔も体格もうかがい知れない。
「……た、確かに怖い見かけだね」
気味悪がって彼らから逃げてきた人から目撃証言を聞いてやってきた巳灰 四音(みかい・しおん)は、それでも勇気を振り絞って声をかけた。
「き、きみたちなら……もしかして、『大いなるもの』について、知らないかな?」
「町の噂じゃ、どうにも要領を得ないからな。変な噂は変なやつに聞いてみるのが一番だろ?」
と、ブラット・クロイチェフ(ぶらっと・くろいちぇふ)。しかし、包帯ずくめの二人連れは、目して何も語らない。まるで彼らが見えていないかのように、ただ歩いて行く。
「俺も興味があるな。……大いなるものの封印、どのように為されているのか」
ふっと気配が増えた。音無 終(おとなし・しゅう)が二人連れの前にたちはだかり、問いかける。その背後では、銀 静(しろがね・しずか)が何も言わずに氷砂糖を噛んでいる。
「……邪魔をするな」
ぼそりと、二人連れの片方が答えた。低いような高いような、くぐもった、性別も判然としない声だ。
「それは、どういう……」
と、四音が聞いても、それ以上は答えない。ただ、歩くのみだ。
「……これは、きっと何か関係がありますね」
終が口元を吊り上げた。
「うん……きっと、何か知っているに違いないよ」
四音も頷く。二人は互いに違ったことを思いながらも、大いなるものに関する何かを掴めたことを、直感していた。
街中にある建物のひとつ。表には、「市庁舎」と掲げられている。
そこを訪ねたのは、ルース・マキャフリー(るーす・まきゃふりー)。パートナーのソフィア・クロケット(そふぃあ・くろけっと)を家に残して、まずは権力者と顔を通そうという次第だ。
同じ考えを持ってやってきたヨーゼフ・ケラー(よーぜふ・けらー)、エリス・メリベート(えりす・めりべーと)と共に通されたのは応接室。こぢんまりとした部屋の中でしばし待つと、身なりのいい、白髪頭の男が入ってきた。
「私がこの町の市長です。いや、すみません。この時期は何かと忙しくて
「いや、気にしなくてもいいですよ。それより、どうしてそんなに忙しいんです?」
ルースが問う。市長はハンカチでかなり後退した額の汗をぬぐいながら、
「街中で派手に暴れた連中がいるから……ではなく、もうすぐ、ちょっとしたイベントがあるのですよ」
「イベント?」
聞き返されて、市長は小さく頷いた。
「もうすぐ、ガンマンがこの地に集まります。最強のガンマンを決める大会が、この町であるのですよ」
にこやかに市長は答える。突然やってきた契約者たちを、町にとって有益かどうか判断しようとしているという表情だ。
「そうだ、皆さんは腕利きの様子。何なら、参加してみてはいかがでしょう? 腕に覚えがあれば、誰でも参加することができますよ」
「……『大いなるもの』は? いったいどこに封じられている?」
黙って話を聞いていたヨーゼフが口を開いた。市長はしばしきょとんとしてから、
「そんな伝承を聞いたことがあるような……いや、すみません、何しろ仕事で忙しくて、おとぎばなしのことなどすっかり忘れてしまっています」
「……単なるおとぎ話なのですか?」
エリスの問いにも、市長ははいはいと頷くばかりだ。
「とにかく、歓迎しますよ。この街に無法者以外が訪れてくれるなんて、こんなにありがたいことはありません」
市長はそう締めくくり、面会を終えたのだった。
「こいつは賞金首だろう。賞金を受け取りにきた」
町での混戦のさなか、縛り上げた男を保安官事務所に蹴り入れ、白星 切札(しらほし・きりふだ)は扉をくぐった。知らない場所を恐れているように、白星 カルテ(しらほし・かるて)がきゅっと切札の袖を握っている。
「ああ……また来たか」
事務所の椅子に座っている男……使い古した年期者の銃のような印象のその男がぽつりと呟いた。その胸には保安官の身分を示すバッジが光っている。
「また?」
切札が聞き返すまでもなく、その原因は容易に知れた。
「同じことを考えている人、案外多かったみたいだね」
両足を撃ち抜かれた別の男を転がしている桐生 円(きりゅう・まどか)が、肩をすくめた。
「私たちは、彼を捕まえることで、もっと大物の情報を聞きたかったのですが……」
オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)も同じような表情でため息を吐いている。
「俺に聞くまでもねえ。一番の大物は“有情の”ジャンゴに決まってる」
保安官も深々とため息を吐く。別の一角には、長ランにロンスカ、そのうえにポンチョである四番型魔装 帝(よんばんがたまそう・みかど)を着た御弾 知恵子(みたま・ちえこ)が腕を組んでいる。
「あたいは、こっちの金を受け取ろうと思ったんだけどね……」
「待ってくださいよ。一度に三人も賞金首が捕まったっていうのに、どうしてそんなにけだるげな雰囲気なんですか?」
切札がいぶかしげに聞くと、保安官が疲れた様子で首を振った。
「この説明をするのは三度目だぜ。この話をするのに、俺より上手に話せるやつはいねえだろうから、四度目の説明はしないぞ。いいか?」
保安官は疲れが溜まって苛立った様子だ。そして、一角に張られたポスターのようなものを示した。
「もうすぐ、ガンマンの大会があるのさ。いいかい、その大会で優勝したら、市長が望みを叶えてくれるんだ。かくいう俺も、3つ前のそいつで優勝して、保安官に取り立ててもらったんだがね」
「その話と、賞金首に何の関係があるんですか?」
「その質問も三回目だ。お答えしてやるよ。市長のやつ、何を考えてるのか、囚人だって大会に参加していいって風に2つ前の大会から取り決めやがったんだ。たとえばな、死刑囚が優勝すりゃあ、そいつが解放してくれって言ったら解放しちまうのさ」
「つまり……どういうこと?」
カルテが首をかしげると、保安官はチッと聞こえよがしに舌打ちして見せた。
「つまり、せっかく捕まえてもらっても、こいつらが大会に参加しようとしたら、その間は解放せにゃならんってことだ。だってのに、わざわざご苦労よ!」
半ば投げ捨てるように金貨袋をよこしながら、保安官が言う。
「まあ、でも、それなら。ボクたちが大会に参加して、また撃って捕まえてやればいいだけの話だよね」
三度目の話を聞いて、円はそう結論づけたらしい。
「おお、そうじゃないか! 逆に言えば、賞金首や悪党がもっと集まってくるカモ知れないってことだろ。面白そうじゃないさ!」
二度話を聞いた知恵子は、得心したように手を打った。
「なるほど……それで、この町にはそんなに人が多かったのですね」
切札も、だいぶ話が飲み込めてきた。ひとまず、賞金は受け取ったのだから、と振り返る。
「失礼、捕まえた悪党の処遇を決めて欲しいんだが」
その入口から、マイト・レストレイド(まいと・れすとれいど)が入ってくる。その後ろにいるロウ・ブラックハウンド(ろう・ぶらっくはうんど)が、ずるずると縄に巻かれた悪党を引っ張っている。
「あなたが保安官か? 彼は賞金首だと思うのだが……どうした、なぜそんなに疲れた顔をしているんだ?」
問われて、保安官は深く深くため息を吐いた。そしてまた、口を開く。
「いいか、この話をするのは四度目だ……」