空京

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創世の絆第二部 最終回

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創世の絆第二部 最終回
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黒い魔物を迎撃せよ5

 雲霞のごとく湧き出す魔物の群れを見て伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は表情を輝かせた。
「来た、来た来た来た来た来た!!! 殺せる! 殺せる! 嬉しい! くふふふふふふ!!」
今日の藤乃は何故か羅・サンダース三世の扮装をしている。手にはヨルムガンド・ウロヴォロス(よるむがんど・うろう゛ぉろす)が変化した片手持ちの長巻がある。古式ゆかしいそれではなく、メカニカルで装飾的なデザインのものだ。湧き出してきた魔物めがけ、哄笑を響かせながら突進してゆく藤乃。小鬼たちが食いつこうが引っかこうが、意に介していない様子で、目に付くものを手当たり次第に切り捨ててゆく。
「危ないよ、少しは自分を省みないと!」
風宮 明人(かざみや・あきと)が叫んで後を追う。ソニア・クラウディウス(そにあ・くらうでぃうす)がすぐにディフェンスシフトで防御力を上げながら駆けつける。
「あああ、傷だらけになって! 気をつけてください!!」
ソニアが叫ぶが、藤乃は気づきもせずどんどん突っ込んでゆく。
(こんな楽しそうな藤乃を止めるのかい? それはあまりに残念な発想だよ)
藤乃の武器として、彼女の第二の腕として振るわれながら、ヨルムガンドもまたこの状況を楽しんでいた。藤乃は殺す為なら何の手段も方法も選ばない。自分の負傷にも、周囲の人間の状況も無頓着だ。彼女の頭の中にあるのは殺戮のことだけだった。
 明人はあきらめて、ひたすらヒールをかけ始めたソニアを護るためにウォーハンマーを手にした。彼の両親はすでに他界しているが、共に考古学者であり、彼自身も考古学、歴史や神話等にも興味をもっている。神話世界の生き物がいるパラミタは、明人にとっても素晴らしく魅力的だった。
「僕はまだこのパラミタの、世界の全てを見ていないんだ。
 その全てを見るためにここにやってきたのに、いきなり世界の崩壊だなんて、そんな馬鹿なことは真っ平御免だ。
 今すべきことはとにかく石原校長を護るために結界を守りきること。
 僕にやれるだけのことを全力でやるまでだ!」
そんな明人を、また共に闘う仲間たちの回復支援をしようと、ソニアも彼についてやってきたのだった。
 やや離れた位置でマリア・フローレンス(まりあ・ふろーれんす)がディフェンスシフトでメンバーを護りながら、歴戦の魔術で魔物と闘っていた。ジュンコ・シラー(じゅんこ・しらー)がチェインスマイトと弾幕援護で支援と広範囲の攻撃を担当している。そのそばで川村 詩亜(かわむら・しあ)がライトニングブラストでジュンコらが闘いやすいようはぐれた魔物を処理している。
「うぅっ、なんか黒い敵さんがっ!?
 わわっ、こっちに……こっちにこないで〜っ!」
悲鳴を上げながら川村 玲亜(かわむら・れあ)がサンダーブラストで遠距離攻撃を放つと、藤乃の側面から襲おうとしていた魔物が霧となって空に溶けた。
「あなた、大丈夫?」
マリアが玲亜にやさしく声をかけた。
「大丈夫ですけど……コワイですっ!」
ジュンコがくすっと笑った。
「それで正常ですわ。戦闘がニガテなら、あまり前のほうに出てこられないほうがよろしいわ」
詩亜がジュンコに言った。
「正直、戦闘ってあまり得意じゃないけれど……私に出来るだけのことは、しますっ!」
「ええ、力を合わせて、黒い魔物達から石原肥満様を守りましょう。
 私は、これからも愛するマリアと一緒に色々な場所に行き、様々な方達と出会いながら生きていきたいのです。
 そのためにここに来たのですわ」
そう言ってジュンコはマリアを見て微笑む。
「愛するジュンコを守るためにも……医学を学んでいきたい……。
 医学を志すものとしては命を救う事は当然ですけど、殺める事にもまた向き合わねばなりません」
マリアが言って、ジュンコを見た。
「きゃー! また来たです!!」
玲亜が叫ぶ。結界を破って魔物が出現すると思しきあたりにワイヤートラップを仕掛けていた影月 銀(かげつき・しろがね)が駆け戻って来、鬼眼で現れた魔物たちの攻撃力を下げる。ミシェル・ジェレシード(みしぇる・じぇれしーど)がパワーブレスでメンバー全体の攻撃力の底上げを図る。彼女はここに来る前に銀に言っていた。
「これまでパラミタで過ごして、本当に楽しかった。
 だから、パラミタを……皆の日常を守ろう。今まで私を守ってくれた人たちに、恩返しをしなくっちゃね」
ミシェル……。銀は目を上げ、鬼神のようにむちゃくちゃに暴れまわっている藤乃と、その後をサポートと回復をしながら必死でついてゆく明人とソニアを見て言った。
「あそこ。だいぶ前に突っ込んでしまってる。後方ががらあきだ」
「危険だと声はおかけしたのですが……藤乃さんでしたか……聞こえていらっしゃらないご様子で」
ジュンコが言った。
「あれは無茶だよ。私たちも行こう」
ミシェルが言い、ジュンコら、詩亜らが即応じる。
「はいっ!」
「ええ」
最前線で暴れている藤乃の右後方に詩亜と玲亜が展開し、少しでも数を減らそうと必死な面持ちで雷撃魔法を次々と放つ。銀が仕掛けたワイヤートラップは実体化した魔物にも有効だったようで、そこかしこで引っかかっている。隙ができた魔物たちをマリアとジュンコが射撃や魔術で葬っていた。銀は油断なく周囲を見回し、漏れた敵がいないかチェックし、発見次第ブラインドナイブスでしとめていく。
「気をつけて!」
ミシェルが心配そうに声をかけた。
「大丈夫、気をつけてるさ。……俺はミシェルとまだまだ共に在りたい。
 ずっと……というわけにはいかないかもしれんが、できるなら、笑って別れられる日まで……。
 俺に希望を与えてくれた、このパラミタの地で……なんてな」
ミシェルが照れて赤くなる。

 数時間の後、結界から漏れ出てくる魔物がいなくなった。正子は契約者たちに場の守りを任せ、すべての結界のもろい箇所をチェックし始めた。その数を頼りに出て行った低級の魔物たちが戻らないのを不審に思い、結界を越えられないレベルの魔物が一体斥候にやってきていた。そして結界越しに正子と向き合うハメとなった。
「む。今までのものとは格が違うな?」
正子が結界越しに魔物を睨みつける。人間とは思えない巨躯、限界まで鍛え上げられた肉体を巨岩を組み合わせて表現すればこのような姿になるだろう。長い髪と服装は女性を思わせるが……。さらに恐ろしいのは全身に漂う気迫だった。弱い魔物ならそれに触れただけでも存在が危うくなるであろう。こんなものが束になってかかってきたら……魔物は怖気を奮って即時に退散した。結界の周囲をもう一巡りして、正子は結界防衛部隊に戦闘解除の伝令を出した。
「どうやら敵は鳴りを潜めた模様だ。だが油断は禁物。各自交代で休みながら持ち場で継続して警戒に当たれ。
 もし何か変化があればすぐわしに伝えるように」