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1章 タカシたちとの出会い

 空京の駅前。
 ついさっき空京に着いたばかりのレイティ・アーク(れいてぃ・あーく)は、パートナーのフォーティ・アレイ(ふぉーてぃ・あれい)と一緒にうれしそうな足取りで街を歩いていた。
「あれ、どうしたんだろ」
 何かに気づいたのか、レイティは急に足を止めた。
 そして道の脇へまっすぐに進んでゆく。
「あ、ちょっと、待ってください!」
 フォーティはレイティをあわてて追いかけていく。

 空京の街中にて。
 タカシは弱ったソフィアの脇で悩んでいた。
 ライナスが今、シャンバラ大広野のある遺跡にいることがわかったが、どうすればいいのか。
 ソフィアを連れて二人で過酷な環境を旅するのは危険なことだった。
「あ、あのー、何か困ってるのかな?」
「えっ」
 急に声をかけられて、タカシはびっくりして顔を上げた。声の主はショートヘアの女性だった。一緒にいるのは守護天使だろうか。
「あ、はじめまして。私はレイティ。彼女はフォーティね」
「は、はじめまして。タカシです……」
 タカシは名乗ったが、相変わらず不思議そうに二人をみている。

「えーと、私たち、さっきここに着いたばかりなんだけどね。何か困っているようなら力になれればと思ったの」
「ありがとう。でもちょっと気軽に頼めるような内容じゃないのでいいですよ……」
 タカシは申し訳なさそうに言った。
「どうした、水くさいぞ少年」
 レイティ、タカシたちの間に新たな声が割って入った。
 快活そうな男性が近づいていた。どうみても学生という年齢ではないが、一応蒼空学園の制服を着ている。少し離れたところに彼のパートナーらしい剣の花嫁と、イルミンスールの制服を来た少女が立っていた。
「おっと、これは失礼……俺はゴットー・ラムネス(ごっとー・らむねす)だ。こっちはパートナーのエルフィーユ ヨウコ(えるふぃーゆ・ようこ)。そしてこちらが周藤 鈴花(すどう・れいか)だ。よろしくな」
「はじめして」
 鈴花がタカシに軽い会釈をした。
「あの……ええと」
 タカシは急に大勢の人間に囲まれて戸惑っていた。
「ふむ……見たところ、パートナーのお嬢さんに何かあったのだろう」
 ゴットーはタカシの脇でうなだれている機晶姫のソフィアに目をやった。彼女は先ほどから一言も声を発していない。
「……はい、実は」
「詳しく話を聞かせてくれないか。ああ、でもここだと彼女がつらそうだから、あっちの公園の木陰で休みながら話そうじゃないか」
「そうだねえ、最近は日差しが強いしねえ」
 エルフィーユはマイペースな態度でうなずいた。

 ゴットー、周藤、レイティたちは公園に移動すると、タカシからこれまでの事情を詳しく聞いた。
 ソフィアはタカシと契約を結んだ時、その寿命も尽きかけていたこと。それでもソフィアはパラミタに戻りたいと考えていたこと。
 ソフィアを助けるには、機晶石を交換しなければいけないこと。
「ようするに……シャンバラ大荒野の遺跡にいるライナスのもとへ、彼女を連れて行ければいいんだね!」
「レイティ、簡単に言いますけど、荒野はとても過酷なところですよ」
 フォーティが心配そうに横になっているソフィアを見た。
「荒野は砂嵐などの自然も過酷だし、モンスターも出るって聞いたわ」
 鈴花が言った。普通の人間でも大変な旅路を、病人が往くのはさらに大変である。
「タカシ殿、それであきらめちまうのか? あんた自身は、ソフィア殿にどうしてやりたいと考えてるんだ?」
 ゴットーがタカシの目を見た。
 タカシは少しためらったが、はっきりとした声で答えた。
「ぼくは、ソフィアをなんとしてでも助けたい。その為には出来る限りの努力がしたいんです」
「なら、決まりだな」
 ゴットーが微笑みを浮かべたそのとき、向かい側の木の陰から不意に声がした。

「……ちょっとまちな!」
 全員がおどろいて声の方向を向くと、木の陰から現れたのはイルミンスールの制服を着た少女だった。
「すまんな、盗み聞きするつもりはなかったが、つい声が聞こえちまったんだ。俺は緋桜 ケイ(ひおう・けい)だ」
 かわいらしい外見とはギャップのある口調で少女は言った。
「ところであんた、タカシと言ったな。あんたはソフィアを助けたいと言った。しかし、ソフィアはそのことを本当に望んでいるのか?」
「……」
 タカシはケイの畳みかけるような口調に黙ってしまった。
「二人は一緒にいたいはずですよ、違いますか?」
 鈴花がケイに言った。
「もちろんそうだ。だが契約者とパートナーの間には、いつか必ず別れがやってくる。彼女はパラミタに来れて幸せだったと言ったじゃないか。その幸せもいつまでも続く訳じゃない。だったらそこまでして長生きする必要があるのか?」
 タカシはソフィアを見た。休んでいたソフィアが目を開けてタカシをはっきり見た。
「ソフィア……?」
 ソフィアは微笑んで起き上がり、ケイの方を見た。
「ケイさん、パラミタに来るまでは確かに私もそのように考えていました」
「なら……!」
「ですが、この空京だけでも、大勢の契約者とパートナーたちが楽しそうに生活していました。その様子を見ているうちに、私もここでタカシと暮らしたい、もっとパラミタのいろんなところへ行ってみたいと感じるようになりました……」
 ソフィアはそう言いながらフォーティ、エルフィーユたちの方を見た。
「そうだよ、その方が絶対楽しいよ!」
 エルフィーユがうれしそうにうなずいた。
「……と、言うことだそうだ。ケイ?」
 ゴットーがケイの方を見ると、彼女は恥ずかしそうに背中を向けた。
「ふん……彼女がそう言うなら、俺は止める筋合いはないぜ」
「よーし、それじゃ、みんなでライナスを探しに行く準備を始めようぜ!」
 ゴットーの言葉にケイはあわてた。
「まて、俺も入ってるのか!?」
「どうもそうみたいね。まあ大勢の方がいいに越したことないからね」
 レイティがやれやれといった感じでつぶやいた。

 ライナスを探すと言っても、遺跡の場所までは一応わかっていた。
 しかし、道中にはモンスターも出るだろうし、荒野の環境は過酷である。ソフィアたちに万が一のことがあってはならない。当然味方が多いほうが安心である。
「だったらワタシにまかせて! 協力してくれる人をさがしてくるよ!」
 レイティたちから話を聞いたあーる華野 筐子(あーるはなの・こばこ)アイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)たちは、空京の街中で協力者を集めるための呼びかけを始めた。
「どうか、ソフィアさんを救うために、タカシ君に愛の手をお願いします!」
「みなさまの協力が必要です、どうかよろしくお願いいたしますわ〜!」
 二人の呼びかけを見ていた鈴花は苦笑いした。
「なんだか、募金の呼びかけみたいね」
「まあ資金もあればいいかもしれないけど……」
 ダンボール・ロボの格好をした筐子の呼びかけは街中でかなり目立っていた。そのおかげか、事情を知った人々が何人も集まってきてくれた。
 性別も年齢も学校も様々な者たちであったが、皆大事なパートナーがいるという点は共通していた。
 だからソフィアとタカシのことを他人事とは思えなかったのだろう。
「ソフィアさんは必ず助かりますよ、任せてください」
「パラミタにきてようやく冒険らしいことができるぜ、モンスターが現れたらすぐに片づけてやる!」
「……とりあえず、珍しいものが見れそうだから」
 色々な思いの中には、必ずしも純粋な人助けだけではない感情も含まれていたかもしれない。
 だがそれがどうしたというのだ。
 二人のために大勢の人が集まった。皆で力を合わせればきっと良い結果を残せるだろう。

「これだけ大勢の人がいればきっと何とかなるさ」
 ゴットーがタカシの肩をたたいた。
「はい、とてもうれしいです」
 タカシは人混みを離れて休んでいたソフィアを見た。
 彼女もうれしそうだった。
 タカシは一瞬ほっとしたが、あることを思い出して急に表情が曇った。
「でもさっき変な噂を耳にしたんです」
「噂?」
「ええ、途中の荒野にはパラ実のジャンク屋たちがいて略奪しているとかで、ソフィアも狙われるかもしれない……」
 パラ実生はパラミタの各地で略奪をしており、各地の蛮族と区別の付かない状態になっていた。もちろんすべてのパラ実生がそのような行いをしているわけではない。中には正義感あふれるパラ実生だって存在している。
 しかし機晶姫のパーツは貴重である。彼らジャンク屋には恰好の獲物だと考えられた。
 モンスターでない敵は厄介だ。油断しているところを不意打ちしてくるかもしれない。
「うーん、じゃあそいつらとも戦うことになるかもしれないのね……いろいろ準備しておいた方がよさそうだわ」
 筐子はなにか考えているようだった。アイリスとなにやら話し合っていた。
「人は大勢いますし、うまく仕事を分担すればいいと思うわ。まずは出発前にしっかり準備しておかないと……」
 鈴花がそう言って顎に手を当てて考えていると、何かの気配を感じた。
「どうしましたか、鈴花さん?」
 フォーティが不思議そうに声をかけた。
「いえ……誰かがこっちを見てたような気がして」
 しかし彼女の視線の先には誰もいなかった。
「まあいいわ。それより必要なものを買いに行きましょうか」
 物陰からそっとタカシたちの様子を見ていた何者かは、鈴花が気づく少し前にその場を離れていた。
 そして早足で少し離れた場所にあるビルの中へと入っていった。