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リアクション
4章 離れた場所にて
同じ頃、荒野の別の場所にもキャンプがあった。タカシ達のところより小規模だったが、護衛の人数もそろっており、厳重に警戒しているようだった。
その中でもひときわ目立っていたのが黒衣の仮面男、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)である。
「ふふふ、まさかジャンク屋達もソフィアさんがタカシさんと別行動しているとは思わないでしょう。まあこの俺がいるからには彼女の安全は保障されているようなものです」
クロセルはわざと遠くからでも聞こえるような大きな声で調子よく話していた。そして焚き火の近くには、フードをかぶった機晶姫が無言で座っていた。
「作戦はよいと思うが、人選はミスではないかな」
クロセルのパートナー、マナ・ウィンスレット(まな・うぃんすれっと)がすかさず突っ込みを入れた。
「ミス? いったい誰がですか」
クロセルは不思議そうに辺りを見回した。
「だって、私たちは極秘に活動しているんだろう? キミみたいな目立つのがいたら意味がないじゃないか」
マナがため息をついた。
「目立つのは仕方ありません。ヒーローは群衆の中でも目立ってしまうものですからね」
二人がそんなやりとりを続けている間、ソフィア(?)を護衛し続けているソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は、契約者であるグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は今頃どうしているのだろう、と身の上を案じていた。
「ジャンク屋に会いに行ったと言いますが……うまくいったのでしょうか」
そんなキャンプの様子を遠くから何者かが見ていた。
「どうやら本当のようだな」
ジャンク屋の親分が、キャンプの様子を見てグレンに言った。
「信じてもらえたか」
「まあとりあえずはな」
親分をここまで連れてきたのはグレンだった。彼は味方のふりをしてヒラニプラ近郊にいたジャンク屋のメンバーに接触していた。
そしてタカシたちと行動をともにしているソフィアは偽物であり、本人は別行動をしているという、嘘の情報を教えていたのだった。
「見ての通り彼女には護衛がついているが、少人数だ。奇襲をかければ簡単に勝てるだろう」
「うーん、だがなあ……」
グレンは悩んでいる親分をじっと見守っていた。
実際には奇襲が始まったらすぐにソニアに連絡して、逃げるように指示するつもりだった。
「なあ、おまえは彼女が本物のソフィアだと思うか?」
親分が一緒にいた部下に意見を求めた。
「遠くからじゃよくわからねえっす。悩んでいるより実際に両方とも捕まえてみた方が早いんじゃねえですか」
「なるほど、頭良いな」
ジャンク屋の親分はなるほどとうなずいた。どの辺が頭いいのかはさておき、予想外の展開である。しかし、戦力が分かれてくれるなら、かえって迎え撃つのも逃げるのも楽になる。
「なら行動は早くした方がよい。さっそく戻って、出撃の準備をする事にしよう」
グレンが言った。
「そうだな、善は急げと言うしな」
「親分難しい言葉知ってますねえ」
グレンとジャンク屋たちがキャンプに戻っていく様子を、密かに見ている存在がいた。久世 沙幸(くぜ・さゆき)である。ローグである彼女は隠れ身で姿を隠し、彼らの話の一部始終を聞いていた。
「どうやらそろそろ襲撃してくるようね……早く皆に知らせないと」
彼女はこのことを知らせるために、急いでクロセルたちの元へ戻った。
「そうですか、とうとう来るのですね……ソフィアを機械としか思ってない連中を許すわけにはいきません。全力で撃退しましょう」
護衛の一人、百鬼 那由多(なきり・なゆた)が沙幸の報告を聞いて言った。
「そうよ、許せないわ。ひとの命を何だと思っているのよ、機晶姫はただの機械じゃないわ!」
カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)が言った。彼女のパートナージュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)もソフィアと同じ機晶姫であったのだ。彼女は元々ジュレールを囮役にするつもりでこの班に入ったのだが、他にも候補者がいたので自分たちは護衛にまわることになった。
「非道な奴らに負けるような我ではない。安心したまえ」
ジュレールはカレンか自分を守るために行動しているのが分かっていたので、なんとしても彼女を守ろう、と決心していた。
「では、ソニアはグレンからの連絡を待っててちょうだい。私はタカシたちに連絡してくるから」
沙幸はそう言うと小型飛空艇でタカシたちの元へ飛び立っていった。
「さて……いつ敵が来ても困らないように準備しておかないといけませんね」
那由多の言葉に、皆はうなずいた。
ソニアたちは、グレンから襲撃の連絡がいつ来るかじっと待っていた。しかしなかなか連絡はこない。いつの間にか夜が明け始めていた。
「計画が変わったのかもしれませんね、それにじっとしているのは不自然です。移動しはじめたほうがよろしいかとおもいます」
那由多の提案にマナも同意した。
「そうだな、沙幸が帰ってきたら出発するか」
しばらくして報告を終えた沙幸が戻ってきたので、マナたちは遺跡に向かって警戒しながら出発することになった。
「ああ、それにしても眠いなあ……」
出発してほとんどすぐに、沙幸があくびをしながら言った。彼女だけではなく、ほとんどの人が同じような状態だった。
「とりあえずバイクや箒に二人乗りして、交代で休憩しながら移動しましょう、急がなくて良いから安全運転でね」
クロセルがそう言いながらマナの箒に乗ってきた。
「というわけでよろしくお願いします」
「キミが真っ先にそれでどうする」
マナが再びため息をついた。
「だってヒーローはいざという時のために力を温存しておくものでしょう?」
「はあ……わかった」
二人のやりとりによって、緊張していた場が少し和んだ。これもヒーローの功績と言っていいのだろうか。
そのころ。
「まだ準備は終わらないのか?」
グレンがジャンク屋連中に声をかけた。
「すいやせん、どちらへ行くかで皆で揉めちまって…」
ジャンク屋たちは昨日、二手に分かれて攻撃することを決めたはいいが、自分がどちらへ行くかで揉めて喧嘩になってしまっていた。
「そんなの、アミダでもくじ引きでいいから適当に決めればいいだろ」
「はい、今そうしてます」
グレンが話し合いの輪をのぞいてみると、ジャンク屋たちは神妙な顔つきでアミダくじを解いていた。なにやらとてもシュールな光景である。
「さあ、決まった! おまえたちが人数の多い方で、おまえたちが少ない方! もう揉めるなよ!」
「うぃーす」
親分の声に数十人いるジャンク屋とその仲間たちが一斉に返事した。
「まったく……これでよく今まで荒野を荒し回ってこれたな……」
グレンは一応、目的は忘れていなかったが、半ばあきれていた。
「まあまあそう褒めなさんな」
「別に褒めてないのだが……」
そんなやりとりをしながら、ジャンク屋たちはようやく出撃の準備に取りかかることができた。
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