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第1章 ガマを追い払おう

 ガマガエルを対処すると言った学生たちがツィリルのせせらぎへと集まってくる。そこで目の当たりにしたのは、自分たち人間よりも更に大きなガマガエルたちの群れであった。

「妖精さんは、カエルが怖くてイヤだって言ってたけど みんな仲良くできないのかな?」
 その群れを他所に妖精たちの集落を探しながらガーデァ・チョコチップ(がーでぁ・ちょこちっぷ)は仲間たちに問う。
「妖精たちがどれくらいカエルたちを追い払って欲しいと思っているのかにもよるわね」
 ガーデァの言葉に、パートナーのメリエ・ネクスト(めりえ・ねくすと)が答えた。
「オレとしては、駆除って手段は取りたくないんだよな……」
「総司くんは動物が好きだものね」
 弥涼 総司(いすず・そうじ)が呟いた一言に、パートナーのアズミラ・フォースター(あずみら・ふぉーすたー)が一言加える。
「あたしも殺してしまうのはちょっと……」
 マリー・ストークス(まりー・すとーくす)もこくりと頷きながら言った。
「妖精さんが共存に同意してくれるといいんだけれどね」
 ガーデァの言葉に他の4人が頷く。
 そう、5人は妖精たちの集落を訪れ、ガマガエルたちについての詳細と、場合によっては共存の提案を持ちかけてみるつもりなのだ。
 妖精たちの集落はツィリルのせせらぎから、そう離れていない場所に隠れるように在った。
「ちょっと分かりづらかったな」
 ようやく探し始めて30分くらい経っているだろうか。
 改めて位置関係を見てみれば、ツィリルのせせらぎはすぐそこ、といった場所にあるのに、長い道のりを歩いてきた感じがして早くも疲労感を覚えつつ、総司がぽつりと漏らした。
「万が一、ガマガエルがせせらぎから離れてやって来たとしても見つからないように、また平素から危険な動物などから見つかりにくいようにしているんです〜!」
 訪れた5人を迎えたのは、先日学園に助けを求めにやって来た妖精だ。
 総司の一言に答えながら、皆を奥へ促す。
「突然の訪問、お許しいただきたく」
 ガーデァが一礼しつつそう告げると、妖精は「気にしないでください」と答える。
「カエルたちのことを聞きたいんです。まずはカエルたちに何をされたのか、詳しくお願いできますか?」
「何をされたか……あの小川の傍に住み着かれたことですよ。もともと虫や小鳥、普通のカエルなどが居ることくらいはありましたけれど……あんな大きなガマガエルが、しかも一度にたくさん住み着いたことはこれまでにないんです! 皆さんにとっては大した大きさではないのかもしれませんけれど、私たちからしてみれば、巨大な化け物でしかないんです! だから皆怖がっちゃって……」
 ガーデァの問いかけに、妖精は憤りながら答えた。
「それは、ひどい嫌がらせとかされたわけじゃなく、ただ住み着かれただけってこと……なんだね?」
「住み着かれたこと自体が、私たちにとってはひどい嫌がらせなんです!」
 マリーの質問にも妖精は落ち着くどころか益々憤って答える。
 よほどガマガエルたちが怖いようだ。
「えっと、例えばさ……きみたち妖精が飛び回るのは夜だけだよね。だったら、その時間だけでも大人しくしていてもらえれば、飛び回ることは可能かな?」
「そんな恐ろしいこと! 大人しくしていても私たちが飛び回ることにより動き出して、餌と間違われたらどうするんですか!」
 続けてマリーが一つの提案をしてみるけれど、受け入れてはもらえないようだ。
(妖精たちが一方てきに怖がっているようにしか見えないんだけど……。餌と間違われたら……ってことは、まだ間違われたわけではないのだろうし……)
 妖精の言葉を聞いて、総司はそう考える。そこで当初の予定通り、パートナーであるアズミラに説得してもらおうと、彼女を妖精の前に進ませた。
「共存……というか、一つの小川で住み分けることが出来ないかの提案にも来たのよ。けれど、その様子では……」
 総司に促されるようにアズミラが訊ねてみるも、妖精はただ首を横に振るだけで、共存の提案は受け入れてもらえないようである。
「どうしても……?」
 予め用意しておいた目薬を妖精から見えないところでさして、瞳を潤ませながら訊ねてみても、聞き入れてはもらえない。
「そうですか……。ちなみに、退治でないといけないんですか?」
「2度と近づかないのであれば追い払うのでも構いません。せせらぎにやってきて済みつかれると皆怖くて飛び回れないんですから……」
 再びガーデァが訊ねる。先ほどのアズミラの偽涙に驚いたので憤っていた感情も静まったか、落ち着いた口調で妖精は言葉を返した。
「2度と……。前にもこんなことってあったんですか?」
「ないですよ、初めてです。あんな大きなカエル、生まれて初めて見ましたから。何なのでしょうね、いきなりあんな大きなのが大量発生だなんて……」
 妖精たちにとってもカエルがあり得ないほどの大きさだというのは不思議なようだ。
 5人は一先ず、ガマガエルたちを追い払うという学生たちと合流すべく、妖精の集落を後にした。

 ガマガエルのことを調べた上で追い払おうという学生たちはいくつかのグループに分かれていた。
 そのうちの1つに参加している本郷 翔(ほんごう・かける)もまた、妖精たちの集落を探しているところだ。
 探しながら歩いていると、茂みの中からガーデァたち5人が出てくる。
「そのようなところから……小川でも探していたのでございますか?」
「ううん。この先の集落に行ってたんです」
 訊ねる翔に答えるガーデァ。
 茂みの向こうにあるとは、いくら探しても見つからないはずだ、と翔は納得する。
「ありがとうございます。私も探していたのでございますが、なかなか見つけられなかったのでございます」
 翔は礼をいい、出て行く5人とは逆に茂みに分け入っていった。
 更に訪れた学生に、妖精たちは訪問者の多い日だ、と暢気に構えているようである。1人の――蒼空学園へ説明に来た妖精だけは、事情を知っているため、すぐに対応に飛んでくるのだが。
「ガマガエルがいつ頃から増え始めたのか、詳しくお聞かせ願いたいのでございます」
 訊ねる翔に、妖精は「春先ごろからです」と一言だけ答えた。
「春先のいつ頃とかは、分からないのでございますか?」
「はい。春のある日、小川を訪れた仲間が数匹のガマガエルを見つけたのが始まりで、数日後にもう一度様子を窺いに行ったら、更に増えていたんです」
 だから詳しいことは分からない、質問に答えれないのだと、妖精は落ち込む。
「すみません。落ち込ませるために聞いたわけではないのでございます。だから、顔を上げてくださいませ」
 翔が慌てて、そう告げれば妖精は顔を上げた。
「こちらでガマガエルが小川に発生した原因を調べて、追い払うなどいたしますので、妖精様たちは今しばらくお待ちください」
 では、と一礼して翔は集落を後にする。目指すは、先に文献で調べている仲間、御凪 真人(みなぎ・まこと)の元だ。
 学園の図書館の蔵書にて、ツィリルのせせらぎ周辺の生態系を調べている真人。
 文献によれば、平素暮らすのは、水中にはフナやメダカなどの淡水魚、水中と陸との境などにはアマガエルなどの両生類、そして陸にはカナヘビなどの爬虫類、スズメなどといった小鳥なども姿を見せるときがあるという。これといった変哲のない小川だ。
 ただ1つだけ他の小川と違うことは、初夏の時期、身体を光らせながら飛び回る妖精が姿を現すことだった。
「ないものですね……」
 周辺にもいくつか小川が流れており、似たような生態系を持っているけれど、何処も大きなガマガエルが住み着いているなどという情報はない。
 真人に合流しに来た翔が来れば、その情報を手に、現場を飛空挺で飛び回っているだろう仲間の元に向かうことにした。
 ツィリルのせせらぎの上空を日奈森 優菜(ひなもり・ゆうな)柊 カナン(ひいらぎ・かなん)は小型の飛空挺を並べて、飛んでいた。
「カエルの住処なんて興味ないんだけどなぁ……」
「そんなこと言わないでよ、兄さん」
 呟くカナンに優菜が言葉を返す。
「住処にも可愛い子がいるかもしれないわよ?」
「え、女の子? ……よーっし、頑張っちゃおうかなー!」
 優菜が発した一言で、カナンの態度が180度変わり、下方の小川を眺めながら飛び始める。
「可愛い子って言っただけで、女の子とは言ってないんだけどね……」
 張り切るカナンに少し呆れつつも優菜は彼を追って飛空挺を小川に向けた。
 一方で、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)とそのパートナー、片倉 蒼(かたくら・そう)も同様に飛空挺で、小川の上空を飛び回っていた。
「蒼、そっちはどうだ?」
「小川はたくさんありましたが、それらしき場所はありません」
 暫く飛び回って、ガマガエルの元住処らしき場所を探してみるけれど、それらしきものは見つからない。
 他の場所を探そうかと4人が一度集まったところに、文献などを調べていた真人から連絡が入った。
『もしもし? 周辺の小川の生態系なども調べてみたのですけれど、何処も大きなガマガエルが住み着いているなどという情報はありませんでした。妖精に話を聞いてきた本郷君の話にはある日突然、ガマガエルが発生した……というような様子らしいです。だから、元居た場所を探すよりは、移動させられそうな小川を探す方が良いかもしれません』
 携帯越しに真人はそう告げてくる。
「了解だ! 皆、元居た場所より移動させられそうな小川を探すぞ!」
 エメは通話を切ると、仲間たちにそう告げて、地図を片手に他の小川へと散っていった。

「上手く出来ないですぅ……」
 御影 春菜(みかげ・はるな)は事前に人には効かない眠り薬を作るつもりでいた。けれど、調合に失敗してしまうことを繰り返し、結局、薬を作れないまま、場所探し当日を迎えていた。
「カエルに関するような事件……ないものですね」
 また、ウィング・ヴォルフリート(うぃんぐ・う゛ぉるふりーと)は事前に周辺地図を手に入れ、春ごろせせらぎ周辺で何が起きたか調べてみたけれど、これといって大した事件などは起きていない。
「この地図を元に、小川を見て回って移住先を探せばいいのね」
「了解です」
 その情報を移住先を探す御影 春華(みかげ・はるか)神薙 光(かんなぎ・みつる)に伝えておく。そして、2人が移住先を探す間、ツィリルのせせらぎに向かった。
「予想以上にでかいんだが……」
「妖精たちが怯えるのも分かりますね。僕でもここまで大きなカエルは少し驚きます」
 ツィリルのせせらぎでは、犬神 疾風(いぬがみ・はやて)とそのパートナー、月守 遥(つくもり・はるか)がガマガエルの大きさやその様子から、何を餌にすれば移住してくれるだろうかと観察していた。普通のカエル同様、飛び回るハエを食べているようだが、その大きさ故かハエ数匹どころでは満足している様子はない。
 虫や魚などを大量に用意すれば、空腹のカエルたちはすぐにつられてくれるだろう。
「よし、行くぞ、遥!」
「はい、疾風」
 疾風たちは移住先の小川を探すために、せせらぎを離れていった。
 他にもせせらぎには幾人かの影がある。
「小川の探索は任せたぜ」
「こちらで何かありました場合は私たちが抑えておきますから」
 クルード・フォルスマイヤー(くるーど・ふぉるすまいやー)とそのパートナーのユニ・ウェスペルタティア(ゆに・うぇすぺるたてぃあ)は、移住先の小川が探されている間、ガマガエルたちが暴れだしたときにそれを抑えるために待機しているようだ。
「カエルたちだけでなく、学生たちも抑えとかなきゃいけないだろうけどな」
 己たちの他に見える学生たちは皆、ガマガエルたちを退治することでせせらぎに平穏を取り戻そうとしている者たちだ。
「移住先の交渉をするまでだからな」
 ちらりとクルードが視線をやったのを見たその学生が、声を上げた。
 彼らには、先ずは移住先を探し出し、ガマガエルたちを移動させる。それでも移動しない個体が出れば、そのときは仕方なく退治する方向に切り替えるから、と待ってもらっていた。
「了解しています。ですから、皆さんも交渉が終わるまではお待ちください」
 ユニはそう告げて、ガマガエルたちを見張るパートナーの方を振り返った。
「ところで、クルードさん。昨日もまた新しい栄養剤を作ってみたのです。ただ見張っているだけでは暇でしょうから、食べてみてもらえませんか?」
 微笑んでビンに詰まった錠剤のようなものを差し出すユニに、クルードは数歩後退する。
「い、いや、きちんと食事は取ってるんだ。だから栄養剤をわざわざ食べなくても大丈夫だぜ?」
 「それよりほら、ガマガエルを見張らなきゃいけないんだ!」とクルードは無理やり話題をガマガエルの方に持って行くのであった。

 一方、移住先を探している春華と光はというと、空飛ぶ箒で上空から小川を探し出し、やって来ていた。光が乗っている空飛ぶ箒は、春菜のものだ。
 カエルが餌として好みそうな羽虫が飛び、水の中を覗き込めば小魚が泳いでいる。餌の心配は要らないだろう。ツィリルのせせらぎのように妖精たちが飛び回るわけではないから、ガマガエルが移住してきたことで迷惑する存在はない。
「ここなんかいいんじゃないかな?」
「そうですね。ただ……」
 餌が豊富といっても大きなガマガエルに比べて、虫や魚の大きさは至って普通の大きさである。そのため、せせらぎに居たカエルたち全部が全部、移住して来ようものなら、瞬く間に生態系は崩れてしまうだろう。餌となる虫や魚から居なくなれば、いずれはガマガエルも居なくなってしまう。
「候補地の1つとして、蛇近づかないようにしておきましょうか」
 手にした地図の中から、この小川を見つけ出すと光はそれに印を書き込んだ。
 そしてカエルの天敵である蛇が来ないように、予め光が用意していたタバコの灰を撒いておく。作業を終えた後、他の場所も探すためにまた空飛ぶ箒に跨ると上空へと飛び上がる。
 移住先を見つけたという合図の狼煙はまた後から上げることとしよう、と――。

「ガマ好みの小川が見つかるといいな〜」
 黒羽 稜(くろばね・りょう)は行動を共にする疾風たちにそう言いながら、ツィリルのせせらぎを上流へ辿っていた。小川が分岐するところまでやって来ると、来たところとは別の下流に向かって歩き出す。
 他にも小川を探しているメンバーは多いため、かち合うこともあった。
 稜たちがその小川に辿り着いたときには赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)が、その小川の生態系を調べていた。
 餌が豊富であるか、そして危険な生物は居ないだろうかを中心に霜月は調べているようだ。
 稜たちは次の小川を探そうと、その場を後にした。
 次に見つけたのは久沙凪 ゆう(くさなぎ・ゆう)だ。ツィリルのせせらぎから大分離れた場所にある小川だとうのに、すでに調査している学生が居ることに稜は驚いた。
 稜が見る限り、ゆうは静かに小川の生態系を調べている。その様子に話しかけ辛さを感じて、稜は次の小川を探すべく、歩き出した。
 小川というには少し川幅が広いのではなかろうかと思われる水辺。そこでは支倉 遥(はせくら・はるか)が先住生物が居ないことを確認し終え、ガマガエルたちをおびき寄せるための餌の魚を確保しようとしているところであった。
 実際に川の中に入って、魚を捕まえようとする遥の、高い位置で纏められた銀色の髪が揺れるたびに、陽光を受けきらめいている。
「すっ転ばないよう、気をつけろよ〜!」
「誰が転ぶかってんだ!」
 稜が声を掛けると、遥は声を上げた。それと同時に足元への注意が逸れ、苔で滑りかけるが、転ばないと口にした手前、遥は踏みとどまる。
 稜たちはその様子に苦笑を浮かべつつ、次の川こそと歩き出した。
 その先の小川で出会ったのは、お嬢様とメイド……もとい、神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)とそのパートナーのミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)だ。
「ガマガエルたちが住めそうな小川、見つかったか?」
「まだ調査中ですので何とも言えません」
 疾風の問いかけに、有栖が答える。
「川の中に、魚は少なそうだね〜」
「少ないですか!?」
 小川の中を覗き見る稜がそう告げると、有栖が駆け寄ってきた。
 その際、川原の小石に躓き、転びかけてしまうと、咄嗟にミルフィが手を伸ばし、支える。
「大丈夫ですか、有栖お嬢様」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます、ミルフィ」
 覗きこんで訊ねるミルフィに、こくりと頷きながら有栖は答えた。
「どのようなことからも有栖お嬢様のことはわたくしがお護りいたしますわ……!」
「ミルフィ……!」
 力説するミルフィに、感動して言葉も出ない有栖。
「疾風くん、行こうか?」
「そうだな」
 2人の様子に、稜や疾風は口出しすることが出来ず、顔を見合わせるとその小川を後にした。
 3人が最後に出会ったのは、レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)だ。
 それも、小川に向かう途中の何の変哲もない森の中の道で。
 レイディスは『ド』が付くほどの方向音痴で、ツィリルのせせらぎ周辺の小川をあたってみるつもりで出てきたのだが、小川1つ見つけられず、森の中をさ迷っているところだった。
「レイディスくんも一緒に行くかい〜?」
「いいのか!? もう、迷いに迷ってたんだ」
 稜の誘いの言葉に、レイディスは「ありがとう」と同行することにした。
 このまま真っ直ぐ森の中の道を進めば、小川が1つあるはずだ。
「ここだ。まずは辺りの調査から始めよう」
 たどり着いた小川で、4人は生態系の調査から始める。
 水の中には小魚が多く、羽虫も時折飛んでいる。ガマガエルたちを移住させるには、充分であった。
 4人はそれを伝えるため、ガマガエルと仲間の学生たちが待つツィリルのせせらぎへと戻ることにした。

 ツィリルのせせらぎでガマガエルのことを確認せずに出向いた黒御影 大和(くろみかげ・やまと)は、ガマガエルが普通のカエルであることを前提として、彼らが元居た場所を探して回っていた。
 探して回るけれど、辺りには至って普通の小川があるばかりでガマガエルが住めなくなってしまったような小川はない。
 いくつめかの小川に辿り着いたとき、泳ぐ魚や飛び回る虫が少ないことに気付く。
「大量に発生していると言っていたな。餌が不足したから、移動してきたんだろうか?」
 大和はぽつりと呟き、その小川の場所を今一度確認してから、ツィリルのせせらぎへと向かうことにした。

 移住先を探している者たちが飛び回っている中、島村 幸(しまむら・さち)はカエル避けを作るために、蒼空学園にて資料を調べていた。
「ないものですね……」
 ずれかけたメガネを掛け直しながら、ぽつりと呟く。
 田園風景の多いツァンダ地方。カエル避けの作成方法があってもよいものなのだが、見つからない。
 一方で彼女のパートナー、ガートナ・トライストル(がーとな・とらいすとる)もそのために学園やその周辺の田園地帯を中心に聞き込みをしている。
「カエルを駆除する方法など試していませんか?」
「駆除ねぇ。居ればゲコゲコうるさいものだけど、居なきゃ居ないで虫が湧くからねぇ……」
 田園が多いとカエルも多いものだが、不快虫を駆除してくれるためか、カエル避けを作っているという人は見つけられなかった。
「妖精の話を聞く限り、どうも普通サイズのカエルにしか思えないんだがな……」
 同様にカエル避けというアイテムや作成するための魔法がないか、蒼空学園にてインターネットを使用して探していた九条院 晶(くじょういん・あきら)
 探しているうちに守護天使のパートナースキルである禁猟区のスキルを妖精たちに施すことにより、カエルが近づけばそうだと分かるから事前に逃げられるようになる、ということが分かった。

「妖精さんがピンチです! 今すぐ助けてあげてください!!」
「妖精が? でも……俺には何も関係ないことだしねぇ」
「何言ってるんですか! 外来種駆除は公務員の仕事です! やってくれないなら光の剣貸しませんっ!!」
 そんなやり取りから始まった今回の事案。
 初めに黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)が思いついたのは、ヤマカガシの存在であった。けれど、それは毒蛇のため、妖精まで捕食されかねない。
 考え込んだ結果、にゃん丸とパートナーのリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)はイルミンスール魔法学校に行き、校長へとカエル駆除の協力を得ようとしていた。
「何で私が蒼空学園に協力しなきゃならないんですかぁ?」
 けれど、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)の協力を得ることはそう簡単にはいかないものだ。
「あの小川は私たち古代シャンバラ人の女子にとっては思い出の大切な場所だったじゃないですかっ!」
 リリィが必死になっても「いやだ」の一点張りで、協力してくれそうにない。
 仕方なく2人は魔法学校の図書館に向かい、調べることにした。
 図書館の司書にもカエル避けになるアイテムはないか訊ねてみるも、有益な情報は得られなかったため、物理的なカエル避けを探す幸たちやインターネットで資料を探している晶と合流することにした。
「カエルよけは他の内容で解決してもカエル嫌いになった妖精がいたら、その子たちへのケアとして渡せば、無駄にならないじゃないかと思ったんですけど……見つからなければ仕方がないですね」
 幸やガートナも有益な情報は得ることはできないまま、2人の元へと合流する。唯一、試せることといえば、禁猟区のスキルが使える者にスキルの使用をしてもらうくらいであった。

 そうして情報を集めているうちに、いくつかの場所から狼煙が上がる。
 ガマガエルたちを移住させる小川が複数見つかったということだ。
 クリューメリア・ロメロ(くりゅーめりあ・ろめろ)は、乳白金色したロングウェーブの髪を揺らしながら、ガマガエルの群れの中でもひときわ大きなガマガエルの元へと向かった。
 そのガマガエルの瞳がギョロリと動き、クリューメリアの姿を映す。
「ここは妖精さんたちが飛び回る、素敵な場所なんです。けれど、皆さんが居ることで妖精さんたちが怖がって出て来れないんです。皆さんも素敵な妖精さんたちの姿、見たいでしょう? 少し移動するだけで良いんです、お願いできませんか?」
 ガマガエルのその瞳をじっと見据え、クリューメリアは告げた。
 けれど、ガマガエルは言葉の意味を分かっていないのか、ただ瞳にクリューメリアを映しているだけで、何か反応を起こす様子はない。
「追い払うなんて無理なんだよ! やっちまえば、済みだ!」
 元より追い払うつもりなどない学生が声を荒げる。今にも飛び掛りそうな勢いだ。
「カエルだから退治する。そんな単純な答えでいいのか? 否、そんな独善的なもの、認められるかよ!」
 そんな学生たちに緋桜 ケイ(ひおう・けい)が反論した。
「小川を見つけた他の学生たちが、きっと何か引き付けられるようなものを持って戻ってくるはず! それまで待ってるんだ!」
 ケイの言葉に、それぞれの武器などを構えた学生たちは、「じゃあ、少しだからな」とその武器を下ろしていく。
「出来れば、カエルたちを移動させるときには手伝ってほしいんだけどな」
「それは聞けねぇな」
 聞き入れてもらえたと思ったため、ケイは一緒に追い払うのを手伝ってもらえないか口にしてみたけれど、それはあっさりと却下されてしまった。

 話が通じないのであれば餌で釣ろうと暫しの間待っていると、小川を見つけた学生たちがそれぞれ餌を手に、戻ってくる。
「餌の豊富な小川を見つけてきたぜ。そこに移動してくれよ」
 レイディスがガマガエルたちに話しかける。けれど、やはり知性を持っていないためか、反応を示すことはない。
「ほら、お魚です。移動してくれれば、その先にはこんなお魚がいっぱいですよ」
 有栖とミルフィが見せる魚に、ガマガエルたちの視線が集まる。
 手にしたまま、小川がある方へと数歩進んでみれば、カエルたちの一部が彼女へと着いていった。
「こっちはハエを持ってきた!」
「この魚なんかどうだ? 上手そうだぜ!」
「移動してくれたら、こっちの虫もあげるよ〜♪」
 ゆうや遥、稜なども持ってきた餌を手に、誘導を開始する。
 そうすると、群れの過半数のカエルたちが移動し始めたのだ。
 1ヶ所に皆つれていってしまえば、ガマガエルの大きさからして、移住先の小川の生態系を崩しかねない。
 そのことを念頭において、餌で釣る学生たちは数匹ずつ、それぞれが見つけた小川へと誘導していった。

「妖精の皆さんの求愛行動は幻想的な光景として有名ですし、学園の皆さんの中でも毎年この場所でそれを見るのを楽しみにしてらっしゃる方も多いと聞いております。そういうわけですから、この場所には先約がありますのでガマガエルさんには申し訳ありませんが、別の場所に移っていただく事にしましょう」
 言いながらルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)は、手にしたワンドから火を放つ。
「辺りを火事にしてしまわないように気をつけないとねぇ」
 カエルたちに直撃はしないよう地面に向け、燃え上がる炎に驚いて逃げるようにさせた。
 いくらかのカエルはその炎に驚いて、ルーシーの思惑通り、逃げていく。けれど、一部のカエルは、炎が届かないのを知ってか知らずか、水中へと逃げ込んでしまった。
 水の中では、地面に炎を飛ばすことは出来ない。
「そちらは任せてください!」
 ルーシーが困っていると、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)が声を上げた。
 それと同時に投げられたのは、網だ。カエルを傷つけずに、それでも強引に移動させるには、網で捕まえて運べばよいと彼なりに考えてのことである。
 そうして次々とカエルの群れたちがそれぞれの小川へと運ばれていった。

 カエルたちの移住先で、光と春菜はタバコの苗木を植えていた。
 一時的な蛇避けにタバコの灰は効果あるかもしれないけれど、長期的に見ると不安なものである。
 だから、タバコの苗木を植えることで、ニコチンを嫌う蛇避けになるようにしたのだ。
 カエルの移住が終われば、ゆうや有栖などが数日残って、ガマガエルたちがツィリルのせせらぎへと戻らないよう見張るといって、小川に残る。
 ガマガエルたちは移住先が気に入ったのか、見る限りでは戻ろうとする気配はないようであった。