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グリフォンパピーを救え!

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グリフォンパピーを救え!

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 それを間一髪、ルースとセシリアにタックルして防いだ少年がいる。
「よう、クライス、ありがとな」
 そうルースに呼ばれたクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)は、戦場を吹きぬける強風にマントを華麗にひるがえす。
「ケガはないかい、セシリアさん」
 パートナーのローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)が前衛で敵機を引きつけている間、クライスは、その美しい相貌をセシリアに寄せる。
「すまぬ、今日は、守られてばかりじゃ…」
 そう落ち込むセシリアに、クライスは美しい笑顔で、騎士はね、と言う。
守るべき人がいるとどこまでも強くなれるんだ。ぼくは臆病だ。でも、セシリアさんがいれば、ぼくは騎士になれそうな気がするんだ」
「生意気を言うな、見習い騎士め」
 セシリアが言葉遣いからは想像もつかないほどかわいらしい笑みを浮かべる。
「安心しろ、見習い騎士など危なっかしくて見ておれぬ。おぬしのことは、この私が守る。必ず守るから、おぬしも約束しろ。立派な騎士になるとな」
「約束するさ、セシリアさんとならね」
 そうしている間にも戦況は次第に誰の目にも異常さをきわだたせていく。
 レオンハルトのツインスラッシュがふたたび壮絶な風と光を巻き起こし、飛行艇の左翼を上空で撃破する。着地した剽悍な戦士のそばに、レーゼマンが立っている。
「お前も来たか」
 レオンハルトが油断なく周囲に注意の網をはりめぐらせながら、言う。
「ああ。これは、たしかにミヒャエルの言うとおりかもしれない」
「特攻か」
 レオンハルトの問いに、レーゼマンは無言で頷く。
 生徒たちは、得意の武器で応戦しつづける。生徒たちは、回避することもなく、突っ込んできた機体のコクピットに座したパイロットの顔を見ていた。
「笑ってやがった…!」
八神 夕(やがみ・ゆう)の恐怖と憎悪の入り混じった声。
「あの眼を見れば、あんたたち、狂ってますかって訊くまでもねえな。あの眼、今までのやつらのやり方! 答えはもう出てる」
「特攻? ただの集団自殺でしょう。そういうことする人の血って、ものすごくまずそう」
 はき捨てるように、夕のパートナー、シルビア・フォークナー(しるびあ・ふぉーくなー)が言う。
 生徒たちの背筋を寒気が走る。もう疑う余地はない。飛行艇は、攻撃しながらも、一点に向けて次々に高度を下げてくるのだ。
 彼らの狙いがパピーにあることがわかった瞬間、生徒たちは理解し、驚愕した。
「特攻…ほんとうに特攻なのか」
レイディス・アルフェイン(れいでぃす・あるふぇいん)が怒りにまかせて奮うカルスノウトが、地上すれすれを突っ込んでくる飛行艇の真上から、その巨体を両断する。
 そのまま、パートナーのルーセスカ・フォスネリア(るーせすか・ふぉすねりあ)とともに、地上に衝突し、滑走をつづける飛行艇。その風防を破壊する。
「ルー、運転する」
 レイディスは、コクピットをルーセスカにまかせ、パイロットを引き上げる。パイロットを見たレイディスは驚いた。その女性はパイロットというにはほどとおいイメージなのだ。
 パイロット・スーツを着ていないどころではない。どこから見てもふつうの主婦なのだ。
「まだ死にてえか? 死にたきゃ殺してやってもいい。だから言え。ぼろぼろでよれよれのグリフォンのガキ殺して、どこからいくらのカネが入る」
 だが、その女にレイディスに応える能力はないようだ。ただ、口から泡を飛ばしながら、グリフォン、グリフォンと叫ぶことしかできない。
「あの巨体を活かして、重量でパピーを押し潰すつもりです!」
 引っ込み思案のはずの六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が、爆音を貫くほどの大声をあげる。
 特攻の理由はわからない。が、生徒たちの多くは、それぞれにとってもっとも大切なものを守るため、行動を開始する。
 半円形に攻撃能力の高い生徒が展開し、パピーのそばに防御能力の高い生徒が集まる。だれかに命令されたからではない。そうしたいと思う意思が、自然に最適の陣形をつくりあげたのだ。
「プロペラ機で特攻かよ! 悪い歴史ばっかりマネしやがって!」
デゼル・レイナード(でぜる・れいなーど)がランスを振り上げ、叫ぶ。彼のパートナーで機晶姫のルケト・ツーレ(るけと・つーれ)がパピーの前に立ちはだかる。
「オレの格好、醜いだろう」
 ルケトの声に、パピーは、かすかに顔を上げる。
「機械だか人間だかわからない、お化けさ。でも、こんなオレでもデゼルは大切にしてくれるんだ。オレ、機晶姫だから、お化けだからさ、モンスターのお前の気持ち、なんかわかる気がするんだ。いいじゃないかお化けだって、いいじゃないかモンスターだって」
 生きていたっていいじゃないか!
 ルケトのふりしぼるような声に、一瞬、生徒たちは静まり返り、うつむき、黙って頷く。
「この子、動けないんですよ。今にも死にそうなのよ。そんな子を殺すために、なんでそこまでするんですか! なんでこんなことができるんですか?!」
 美少女ながら叢牙 瑠璃(そうが・るり)の右手は、すでに両親の形見の剣「天龍」のつか(柄)にのびている。
 許せない! 特攻という手段への憎悪、衰弱したパピーを殺すため大挙殺到する悪意への憎悪。それらの想いが学校のワクを越え、多くの生徒をつないでいるのだ。
 だが、それでもわからない。迎撃しながらも、生徒たちはそれぞれ考えている。なぜ、瀕死のパピーを狙うのか、なぜ、教導団駐屯地という要塞化したエリア付近に無謀といえる特攻をかけるのか。
「みなさん、やはりパイロットは殺さないでください! 捕虜にして尋問します」
 すでに、空飛ぶ箒で空にあがっている御宮 万宗(おみや・ばんしゅう)は、すれちがいざま、飛行艇の翼にマジックロープをかけ、遠心力を利用して、地面に不時着させてしまう。
 轟音が膨大な砂煙を引き起こし、つづいて熱せられた烈風が戦場を吹きすさぶ。