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着ぐるみ大戦争~明日へ向かって走れ!

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着ぐるみ大戦争~明日へ向かって走れ!

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第4章 現れる影

 「うおっ……あれが敵か……」
 御鏡 焔(みかがみ・ほむら)はバイクを倒し、その影から双眼鏡で覗いている。その視界には大きく展開するように敵?の姿が見えていた。
 「数はどのくらいかな?」
 イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)は同様にして脇で聞いている。皆はラピト〜ワイフェンに向かう道のやや外れた草むらに展開して様子を探っていた。
 「見たところ、歩兵はざっと一万程度、いや後ろ側が見えないが、隠れている分もいる」
 「ざっと、歩兵は一万四千と言うところか……」
 ケーニッヒ・ファウスト(けーにっひ・ふぁうすと)も双眼鏡を覗きながら数えている。彼らの目には向こうで整列している軍団が見える。かなり遠くなので詳細は見えないが狼や豹とおぼしき着ぐるみを着た者がいる。
 「装備は普通の歩兵と言ったところか」
 「そうだな。それほど重装備ではない。自動小銃を持った一般兵と見ておくべきだろう」
 御鏡とファウストは双眼鏡を当てたまま同時に頷いた。
 「連中とて簡単には装備を充実させられる訳ではないぜ」
 こちらは遠目に見ているレヴィアーグ・葬賢(れびぃあーぐ・そうけん)だ。
 「その他の戦力は?」
 「そうだな、左側に騎兵が見える。少ないなあ、二百程度だ」
 御鏡は双眼鏡をぐるりと回している。
 「いや、右側にもいる。約四百……」
 「それにしても少ないぞ。歩兵の人数からすれば、この三倍あってもおかしくない」
  ファウストの言葉に葬賢が首をひねる。
 「現状で歩兵をさらして騎兵を隠す理由はない。連中も万全ではないと言うことだ」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は手元の地図と照らしあわせをしている。
 「ねえねえ、なんか飛びでてるよね?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が何やら歩兵の後ろで高く飛び出ている物があるのをめざとく見つけた。
 「……投石機に見えるが?」
 「投石機だろうな……数は五十程度か」
 再び、御鏡とファウストが頷いた。
 「それにしても、地形はこのままずっと続いていく」
 オーヴィルはちらりとアディールの広げている地図を見る。このあたりは、元々ラピトの地なので概略の地図が作られている。ラピト側から見て左側には川が流れている。一方、右側にはなにやら丘が続いているがこの丘、上側の面積が少なく壁が立っているような地形だ。地質の違いが雨の浸食で取り残した物であろう。単純に言って川と壁に挟まれており、両側は侵入禁止である。その間の幅1.5〜2キロの平地が戦場と予想される。
 「川は深いし、丘は上れん。大規模迂回作戦はとれんな」
 オーヴィルは首をひねった。ある程度の軍を大きく戦場を迂回して回り込ませることができない。この平地内で戦いは決する地形だ。敵は向かって左側に騎兵二百、右側に騎兵四百を配置、真ん中を歩兵部隊で埋め尽くし横に展開している。これで、少しずつじりっ、じりっと進軍してくる。おそらくはこの進軍自体が圧迫を意図としている。急いで進軍するのではなく周辺部族に力を見せつける意図が在るのであろう。
 乾いた破裂音が響いた。
 「!」
 「伏せろ!」
 皆一斉にバイクの影に隠れた。
 「周辺警戒!」
 アディールが叫ぶ。どこから?と皆が思った。
 「二時方向距離百五十!著名な目標物、二本杉!確認したか?」
 東重城 亜矢子(ひがしじゅうじょう・あやこ)が剣を抱えるように引き寄せる。
 「確認した!」
 「確認!」
 「そこから指二本分左!」
 皆が見るとそこの草むらにごそごそ動く影がある。
 「ファウスト、あちらにもいるぞ」
 アンゲロ・ザルーガ(あんげろ・ざるーが)が反対側を示す。そちらにも動く影がある。
 「皆、下がれ、引くぞ!」
 オーヴィルの言葉が合図で会ったかのように一斉に射撃が始まる。
 「援護する、急げ!」
 ロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)がアサルトライフルを三点バーストの連続で射撃し、弾をばらまく。その間に皆はバイクを立て直した。そのときだ。
 「薄汚い夷狄ども、ここまでやってきたか?」
 静かだか力のある言葉が響いた。声の方向は敵の射撃と反対側だ。振り向くと数メートル先に一人のヴァルキリーが立っていた。やや長めの槍を持ち、長い金髪を風にゆらせている。
 「何よぉ、あんた!」
 ルーは剣を抜こうとする。しかし、それをダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が、止めた。
 「ま、待てルー、こいつはやばい!」
 言葉が終わらないうちに件のヴァルキリーは一瞬で間を詰めてきた。ダリルは慌ててルーの頭を押さえつけた。その頭の位置を槍が素早く空間を切り裂く様に通る。と次の瞬間には槍がくるりと回り、石突き側が高速でオーヴィルの頭をめがけて突き出される。
 「!」
 かろうじてそれをメイスで止めたのはカッティ・スタードロップ(かってぃ・すたーどろっぷ)である。止めなければオーヴィルの頭はスイカ割りであったろう。
 「このパラミタを支配下に置こうなどとは片腹痛い」
 「くぅ……」
 ぐいぐい押してくるヴァルキリーに必死で押し返すスタードロップ。ヴァルキリーはそれをげしっと蹴飛ばして再び槍を構え直す。
 (つ、強い……)
 東重城はそう思った。今、一対一で勝てる者はここにはいない、即座に逃げないと。そう頭によぎった。ライフル持った敵兵も接近している。
 「皆さん、早く!」
 ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)がサイドカーを横付けにする。グレン・アディールがライフルを持ったまま側車に乗り込んだ。その間にもファインズと葬賢がライフルで援護する。今度はグレンがライフルを撃ち出すと、ファインズ、葬賢の順に互いに援護しながらバイクに乗り込み一目散に逃げ出す。撃ってくる敵の弾でサイドカーの風防が射貫かれ肩を敵弾がかすめる。何とか一同はその場を脱出、尻に帆かけて逃げ出した。
 しばらく相手のヴァルキリーはそれを見ていた。
 「よし、射撃やめ。射程外だ」
 「ヴィレッタ様……よろしいのですか?」
 ワイフェン兵の一人が念を押す。
 「何……予定どおりだ」