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リアクション
序盤戦
第1章 それぞれの戦いへ
1‐01 戦闘開始
――オークの森、中心部。
騎凛教官の率いる、教導団新入生を主力とした部隊を、オーク・キング来襲に力を取り戻したオーク残党が取り囲んでいた。
剣を振りかぶり、一匹のオークが叫びながら切りかかってくる。
オークの群れに立ち向かわんと、立ち塞がったセイバー、松平 岩造(まつだいら・がんぞう)がそれと打ち合う。
すかさず、後方からそれを支援し、ソルジャーのグレン・アディールグレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)がアサルトカービンを構え、発射。オークの顔面を撃ち抜いた。
「……金城鉄壁、とはいかないだろうが……オークごときに後れは取らない!」
よろめくオーク。
「こいつで、とどめだ!」
岩造の剣がオークの首を宙に舞わせた。
それが引き金となり、剣、槍を構え、突撃してくるオーク達。戦意はまったく失われていない。
「気をつけて……!」
岩造のパートナー、フェイト・シュタール(ふぇいと・しゅたーる)が駆けつけようとするが、松平は大丈夫だ、というふうに、剣を構え直す。
「私の後ろには何人たりとも通しません!」
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は、次の射撃に移ろうとするグレンの前に立つ。冷静な機晶姫は、オークの突進にも怯む様子はない。
各々に剣を抜き放ち、前面に飛び出していくセイバー達。各々銃を手に取るソルジャー達。
演習ではない、まさに戦いが開始されたのだ。
1‐02 獅子小隊
「円陣を組むのだ、円陣を! 剣士、それに機晶姫を連れている者は、前衛に展開させるのだ。ナイトは、円陣の壁を作るように! もしいれば、ヴァルキリーもだ。ソルジャーはその後方から援護射撃を! 怪我を負った者は、陣のなかへ」
陣の中心部で、意外と白熱した指示を出す黒羊アンテロウム、静かに戦況を見る騎凛 セイカのもとへ、金髪、長身の剣士が数名を連れ訪れる。
「お二方は先遣隊が戻るまで此処を維持なさるのですか?」
「なんじゃ? 貴公はどこかの部隊長であるか……?」
「士官候補生、レオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)」
その後ろには、彼の率いる【獅子小隊】の面々。入団訓練で防衛システムを打ち破ったときのメンバーも見える。
「ふむう。とにかく、そういうことになろう、とくに騎凛様はここを動けぬ。何か考えがあるのかな」
レオンハルトはアンテロウム副官に微笑を返すと、騎凛へ紙を取り出し、
「で、あるならば我ら獅子小隊。彼の先遣隊と共にしかと囮を務めて参りましょう。ですがレーヂエ殿はあの気質の方。どうか指揮官として御一筆お願い申し上げます」
レオンハルトは、レーヂエ隊単独では死兵となる可能性を告げるが、尤もである。
「ふふ。……わかりました。獅子小隊が抜ける穴は、ここに残る頼もしい者達が存分に埋めてくださるでしょう」
騎凛はレオンの意を汲むとするりと筆を取った。
「必ずや此処へ戻ります。後悔はさせません」
1‐03 ベオウルフ隊
陣を発っていく獅子小隊とすれ違って、今度は銀の髪を持つ、騎士鎧に身をかためた者が訪れた。
「騎凛教官、ユウ・ルクセンベール(ゆう・るくせんべーる)と申します」
「なんじゃ? ナイトがこんな所にいては、オークの侵攻を許すことになるぞ」
「はい……前衛で守っていた故、申し上げるのが遅くなったのですが。先ほどのレーヂエ殿……対するはおそらくオークの精兵。人手不足ではと思いまして」
「それには及ばん。先ほど、獅子小隊が……ん?」
アンテロウムが見渡すと、ユウの周囲に来ているのは、教導団の軍服や印を付けておらず、めいめいが好きに武装した剣士や戦士達だった。どうやら魔道士の姿も見られる。
「なんじゃなんじゃ、貴様ら傭兵か??」
「アンテロウム。彼らは、私達の求む他校選択科目に応じてくれた貴重な戦力。いいでしょう、あなた達は森奥へ行きたいのですね。では遊撃隊として、獅子小隊に続き、オーク精兵との戦いにあたってください。力を見せて頂きます。だけどくれぐれも、オークキングとだけは矛を交えぬように」
しかし幾人かは、オークキングと聞いてまったく目を光らせているのだった。
(オークキング、俺の獲物だ。)
(……必ず倒してみせる……この剣で、な……)
「それから、ユウは、旅の剣士をしていて、今回が教導団員として初の参戦でしたね。初任務になりますが、彼らを導き森奥へ向かってください。
では、あなた方を【ベオウルフ隊】とします」
「はい!」
「任せな、隊長」
「存分に戦ってきます」
ナイトのユウが先頭に立ち、ベオウルフ隊はそれぞれの武器と、思いとを胸に、森奥へ向かうのだった。
「ふん……あのような輩、殿にいずとも変わりはしぇん。と言え、手薄になった部分はわしがフォローしようか。やつらどこまでキングに対峙できるか見物じゃて」アンテロウムは弓をつがえ戦場を見渡す。
オークの首や腕が陣の真ん中にまで転がって来、方々で打ち合う音、叫びが響き渡る。銃声。時々、空を飛んでいく矢。
騎凛も、ナギナタを構える。
オークはますます、その数を増しているように思えた。
1‐04 優しさの宝石
混戦の最中、陣の中央では、森奥で瓦解した部隊の急を告げた兵の治療を、ただ一人、ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が行っていた。
「はあ、はあ。……すまない。しかしもう私は駄目だ……傷が深すぎたのだ。これをあなたに……優しいひとに相応しい石だ」
普段は甘えん坊で、子どもっぽいライゼも今は神妙な面持ちで、死んでいく剣士の手をとった。
「ライゼ、……」
同僚の青 野武(せい・やぶ)らと殿を守る作戦を進言にいっていた朝霧 垂(あさぎり・しづり)が、パートナーの彼女のもとへ戻る。
普段はメイドとして働く彼女も、立派な教導団の新しい一員だ。
竹箒に仕込まれた鋭利な刀を抜き放ち、陣の前線に向かった。
1‐05 南へ
包囲の一端を破って、数名が、浅森の方角へ向けて、走り出した。
「皆! 包囲を突破し、南へ……!」
そのとき、
「騎凛教官! 士官候補生、参謀科のクレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)。私の守護天使、クリストバル ヴァルナ(くりすとばる・う゛ぁるな)の「禁猟区」をもって、退路の確保にあたります」
「おお。守護聖を連れているのか!」と、アンテロウム。
「いいわ。それは退路の確保を有利に運ばせるでしょう。他に守護聖を連れている者は……」
そこへ、東の方角からオークの包囲を蹴散らし、数名が騎凛のもとへ参じた。
「東方面の部隊長ロンデハイネ。あなたがそうね」
「ええ、騎凛殿。状況は把握しましたぞ。私めの守護聖も優秀であるが……しかしここは一つ、クレーメックに任せてみてはどうだろう。
なにこれも、演習の一環と思えばいい。さあオークごときにやられるお前達ではあるまい。……作戦が失敗したときには、やはりパラ実送りになってもらうがな」
これを聞いて怯む者もあったが……
「一色 仁(いっしき・じん)。情報科所属だが、本分はナイト。損害は最小限に抑えよう」
「ジャック・フリート(じゃっく・ふりーと)だ。狙撃には自信がある」
「イレブン・オーヴィル(いれぶん・おーう゛ぃる)。人工生命体。人を守る、それが私の使命です」
「……う、うむ。
とにかく三人とも、また同じく我が教導団の士官候補生だな。各々パートナーと共に、存分に施設までの道を駆け、退路を開くがいい。期待しておる。ロンデハイネは、退路確保部隊と殿をつなぐ中軍となる」
ちりぢりに散っていたオーク達も、戻りつつあり、すぐに包囲の壁も埋まってしまう。
クレーメックら数名はかろうじてそこを脱し、南へ発った。
騎凛教官、アンテロウム副官や、戦えない者を陣の中央にし、状況はますます乱戦の様を呈し始めていた。
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