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酪農部の危機を救え

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酪農部の危機を救え

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第一章 かれん救出隊出発


「それでは皆さんに、これから殺し合いを始めてもらいます」
 目の前に現れたヴァルキリーの女性の言葉にゴットー・ラムネス(ごっとー・らむねす)はポカンとした。
「……は?」
「殺し合うって言った……よね?」
 隣にいた十倉 朱華(とくら・はねず)の問いかけに、ゴットーは頷く。
 しかし、二人がその回答を得る前に、そのヴァルキリーの女性の頭に、紙のハリセンが叩きつけられた。
「くだらないこと言わない!」
 会計の葛城みずきがハリセンを手に持ち、自分のパートナーを睨む。
 みずきのパートナーであるヴァルキリーのアマーリエ・クレンペラーはハリセンで叩かれた部分をさすりながら、みずきに抗議した。
「えー、なぜですか? ちょっとお茶目な言葉で、皆さんの緊張を和らげようと思ったのに」
「ちっともお茶目じゃないわよ! この殺伐としてしまった空気を、私にどうしろっていうの!」
 いきなりハードルを上げられて、みずきは困った表情をしながら、みんなの前に立った。
「今回は集まってくれてありがとう。かれんを助けたいっていう私のわがままに付き合って頂き、感謝する」
 みずきが一礼すると、倉田 由香(くらた・ゆか)が彼女を励ました。
「頭なんて下げないで大丈夫だよ! 困った時はお互い様。がんばろう!」
 由香の言葉に九牙 宗地(くが・そうじ)が無言で頷き、御凪 真人(みなぎ・まこと)がみずきの肩をポンと叩いた。
「大丈夫です。君だけでなく、たくさんの人が、部長さんの無事を祈っています。だから、顔を上げて、みんなで行きましょう」
「……ああ!」
 みずきが顔を上げて、明るい表情を浮かべる。
 セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)はそんな顔を見てホッとし、森園かれんのパートナー羊、ゆる族のシープ・シープの背中を押した。
「さ、それじゃ案内してくれるかな!」
「めぇ〜!」
 シープが元気な声をあげ、一同を先導する。
 真人がシープとセルファを守るように歩きだし、その後ろに他の者が続く。
 朱華は彼らのすぐ後ろを歩きながら、小さくため息をついた。
「僕、モンスターだからなんでも討伐対象っていうのって、ちょっと抵抗があるんだよね。だから出来るだけ戦闘は避けたいな」
 すると、ルーク・クライド(るーく・くらいど)が肩をすくめて、苦笑した。
「そう思っていながら、部長を見捨てられねー奴が多いんだよな。まったく……」
「で、でも、ゴブリンに誘拐されちゃうなんて大変なことだよ! 早く助けてあげなくちゃ!」
 自分を見下ろして説得する由香を、ルークは強い視線で見上げる。
「おまえなぁ、オヒトヨシもいいかげんにしろよな!」
「ご、ごめん! でも……」
「あ〜、わかってるよ」
 由香の性格が良く分かっているルークは、由香の言葉を封じ、やれやれという顔をした。
「……しょーがねーから、由香はオレが守ってやるぜ!」
「るーくん……」
 小さなドラゴニュートの少年の言葉に、由香はうれしくなってしまった。
 思わず赤いツンツンの髪を撫でようとしたが、子供扱いを嫌うのを思い出し、由香は空中で手を引っ込めて、朱華たちと一緒に歩きだした。
 一方、宗地のパートナーであるアリエッタ・ブラック(ありえった・ぶらっく)はあまりしゃべらない宗地をフォローするように、ゴットーと話していた。
「結構な人数になりましたね」
 アリエッタの言葉に、他の生徒たちより一回り近く年上のゴットーが静かに頷く。
「そうだなあ。これだけの人数がいるんだから、無事にかれんを救助し、みんなで帰りたいものだ」
 ゴットーの涼やかな声に、アリエッタは頷き、宗地も無言で肯定した。



「ヒャッハァ〜!! 俺がゴブリンのリーダーだ!」
 南 鮪(みなみ・まぐろ)が景気のいい声を上げるが、誰もそれを聞いていない。
 ゴブリンたちは鮪が持ってきた鳥のから揚げをガッツガツ食べ、まったく話など耳に入っていなかった。
 しかし、そんなことは、鮪も百の承知だ。
 鮪は自らの見事なモヒカンを撫でながら、ゴブリンたちを見回す。
「俺に付いてくれば、から揚げ食べ放題だァ〜!」
「イー!」
 食べ放題という言葉に、いきなりゴブリンたちが反応し、奇声とも歓声とも聞こえる声を上げる。
 しかし、波羅蜜多生の鮪には、その声だけで通じたらしく、鮪は満足そうにうなずいた。
「そうかそうか。人(ゴブリン)望が得られて俺もうれしいぜ。ひゃっはー! さて、では、おまえら……」
 鮪はカツラを取り出し、それをゴブリンたちに見せた。
「今日から俺たちは、単なるゴブリン集団じゃねえ。【モヒカンゴブリン集団】だ! てめえら、これをつけろ。そして、俺に忠誠を使え」
「イー!」
 景気良く返事をして、ゴブリンたちが我も我もと寄ってくる。
「あ、あの、一列になってもらって、配ったりした方がいいんでしょうか?」
「必要ねえ。おまえはあっち行ってろ」
 酪農部部長・森園かれんの変な気遣いを、鮪は一蹴した。
「で、でも……」
 世話焼き気質なのだろうか、かれんがまとまりのないゴブリンたちの行動を気にしている。
 そんなかれんを見て、鮪はスカートの上に、さっと手を伸ばした。
「きゃっ!」
「おらおら、大人しくしてないと、尻だけじゃなくて、他のところもモミモミするぜー」
「し、しないでください。大人しくしてます!」
「それでいい。大事な人質にウロウロされて、逃げられでもしたら困るからな。おい、影野!」
「な、なんですか」
 蒼空学園の制服を着た少年、影野 陽太(かげの・ようた)がいきなり名前を呼ばれて立ち上がる。
 陽太は単身で説得に行ったカレンの行いに感動し、それに殉じようと自分もやってきたのだが、ゴブリンを説得する前に、鮪に捕まり、かれんと一緒に人質になってしまったのだ。
「おまえ、この女をあっちの部屋に運べ! さっさとしろ!」
「……わかりましたよ」
 鮪の命令に従いたいわけではないが、こんなゴブリンだらけのところに、かれんを置いておくわけにはいかない。
「行こう。か、かれん」
 名前で呼ぶのをちょっと躊躇しながら、陽太はかれんを促した。
 しかし、そこに鮪の罵声が飛んだ。
「ばっかやろうっ! おまえは座り込んでる女に、手ぇ一つ貸さねえのか! 蒼空学園ってのはどんな教育してやがるんだ。あ〜ん?」
「……悪かった」
 陽太は鮪ではなく、かれんに詫び、かれんに手を伸ばす。
「あ……」
 かれんは緊張しながらその手を取り、陽太に手を引かれて、別室へと向かった。
 鮪はそれを見送り、持ってきた看板を、ゴブリンたちに見せた。
「おう、野郎ども! こいつを洞窟の入口の前に立てておけ!」
「いー!」
 ゴブリンたちは鮪の指示に従い、ある看板を洞窟前に持っていった。

 【波羅蜜多実業羅苦農部】

 そうデカデカと書かれた看板が、ゴブリンたちのアジトの前に置かれ、鮪は満足した。
「ひゃっはーっ! さあ、戦いの準備に移るぜ!」