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第四章 決着! 大図書室! 

 放送室、集音機の置かれたテーブルには城定英希(じょうじょう・えいき)あーる華野筐子(あーるはなの・こばこ)が向かい合って頭を付き合わせ、ガラスで隔たれた機材室には筐子のパートナーアイリス・ウォーカー(あいりす・うぉーかー)が難しい顔をして座っていた。
「ケイン先生の病気の原因は魔法スライムが微量に残っていることにより、継続的に体力を消耗させられてしまう病気……」
 傍目にはダンボール製のロボットに見える筐子。その声はすこしくぐもっている。
「そ。そして肝心の治療法は……先生にチューして吸い出すか……解剖しかないっと」
「本当、これ?」
「君、そのダンボール脱がない? 近づかれると話しづらいんだけど……」
「ちっちゃなこと気にしない気にしない」
「……あっちこっち駆け回ったってまともに情報拾えなかったんだろ? 本当かどうかは、実はそんなに関係ないんじゃない? 君の狙いは、その図書室に現れた女生徒とやらをおびき出すことな訳で。情報ソースは『超実行!ミナミザキの医動物学』って感じ付け加えれば信憑性も増すよ」
「それはそうなんだけど」
「じゃ、とっととはじめよう」
「イルミンスールの生徒なのに、報酬に興味ないの?」
「んー、俺は課題ほとんど片付いているしなぁ。図書室でバタバタやってる方が問題だよ」
 しばし考え込んだ筐子だったが、くいっと顔を上げて機材室へのインターフォンを鳴らした。
「アイリス、放送流すよ!」
「もう問題ないですわ」
 アイリスはいつも通りに笑っていたが、その輪郭におかしな汗を浮かべてる。
「? ん、だからボリュームあげて」
「だからもう問題ないのです。どだい無理なんですわ。初見で知らないところの放送機材使うなんて」
「は?」
「今の、城定さんとのやり取り、きっちり全部流れてますわよ」

「しかしわからぬなぁ」
 意識の端で校内放送を捕らえながら、姫神司(ひめがみ・つかさ)が呟いた。
「ほら、考えごとしてると危ないですよ」
「平気だ。優勢はもうこちらだ。気をつけるとすればゴーレムよりむしろ天井の落盤にでも気をつけておれ」
 パートナーグレッグ・マーセラス(ぐれっぐ・まーせらす)を軽くいなす。
 司の言葉通り、図書室の戦闘は緩やかに生徒側有利に傾きつつあり、貴重な資料を保護して回っていた司達には余裕が生まれつつあった。
「で、なにがわからないんです?」
「いろいろわからん。病気も逃げてったあやつもさっぱりわからん」
「司の予想は違っていたのですか?」
「うむ。ケイン先生の恋煩いと思ったのだが……。男心はよく分からん」
「あはは」
「まぁ何にしろ、彼らが早いところ先生の治療法を見つけてくれるのを願うばかりだな」
 司の視線の先では、「本回収部隊」リーダーのリフレシアが指揮を振るっていた。
「みんな、さぁまだまだ、集中、集中ですよっ!」
 動きの止まったゴーレムの数も増え、リフレシア達は実際にゴーレムから本を回収して回る段階にシフトさせつつあった。
「リフレシア姐さん、こっちSPまわしてくれへんかっ。あかん、もう迷彩が保たれへん」
 両手に目一杯の本を抱えた日下部社(くさかべ・やしろ)が荒い息を吐きながらもひょいひょいとゴーレムから距離を取ってくる。「はい、すぐに」とリフレシアが駆け寄る。
「しっかししんどいぞこれは。なんかこの辺激戦区や」
「そうですねぇ。『本回収部隊』以外の皆さんも協力してくれますし、こちらが押してるのは間違いないのですが……。クレアさん、治療法の方はどうでしょうか?」
 本回収部隊の仲介役。
 回収役が回収してきた資料を司書たちのもとへと運ぶのが役目だ。
 ちょうど今司書たちに本を渡し、戻ってきたところのクレア・ワイズマン(くれあ・わいずまん)がフルフルと首を振った。
「ううん、まだダメ〜。涼介もすっごい頑張って、本読んでるけど〜」
 本郷涼介(ほんごう・りょうすけ)は医術の心得があるため、司書たちの集まったところまで下がって、治療法の解析にあたっている。
「厳しいねぇ。これでそもそも治療法なんて見つからんかったら目もあてられへんなぁ」
「陽平の記憶力なら信用できますよ」
 シェスター・ニグラス(しぇすたー・にぐらす)がパタパタヘロヘロと飛んできて、
 ドサリ。抱えていた本を下ろした。
「ああ、もう。リフレシアさん、彼にもSPリチャージをお願いできますか? 回収のついでにあっちこっちでヒールをかけて回ったみたいで……」
 消耗したパートナーに心配そうな声を出したのは如月陽平(きさらぎ・ようへい)だった。
「陽平の……記憶力は……」
「あ、安心せいや、誰も疑ってる訳やあらへんて」
「ごめんね、なんか意地になってて。でもそろそろ当たると思うんだ。僕の記憶にある目録通りなら、探してるあたりは医療書の固まっていたところだし。それに、ゴーレムもなんだかやたらここに密集しているしね」
 陽平の言葉通り、複数のゴーレムが集まり、ウロウロ、ウロウロと動き回っている。
「まぁ確かにあの数の多さが問題やなぁ」
「そうですね」
 社とリフレシアが少し肩を落とす。

「ま、何にせよやるっきゃないってことだよね」

 若干沈み勝ちになった本回収部隊の空気を破って明るい声を上げたのは魚住ゆういち(うおずみ・ゆういち)だった。ニグラスが運んできた本を軽快に拾い集めていく。
「ほいっ。これもらうよ、ほい、陽平さん、そっちも」
「え? 重いよ、これ」
「へーきへーき、実家でまぐろ担いでるのに比べれば軽いもんだよ」
 言葉通り軽々と本を担ぎ上げたゆういちは、そのまま涼介がいる方へ去っていく。
「俺、どんどん運ぶからさ。諦めないでいこうよ」
 ゆうすけの背中が、本回収部隊の気合いを引き戻した。

「やっぱロープじゃ弱いのか!?」
 本回収部隊から少し離れた地点、ゴーレムと対峙した和原樹(なぎはら・いつき)は悪態をついた。
 ぐるぐると自分たちが巻き付けたロープの戒めをゆっくり破り、再びゴーレムが動き出し始めていく。
「ったく、だから言ったんだよ、鎖じゃなきゃ駄目だって。無かったのか?」
「期待に沿えずすまんな。だがお前は鎖を希望というのは理解した。和原樹はハードなのがお好き……と。覚えておこう」
 すました顔のパートナーフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)に煙の上るような鉄拳制裁。
 そんな寄り道をしながらも、ゴーレムを中心にとらえそれぞれが左右に展開。自分たちで回転しながらロープを巻き付けにかかる手際は息がピッタリ合っている。
「フォルクス! もう一本だ」
「もう無いぞ」
「なっ……これじゃまた千切られるっ!」
「すまん、失態だ。お前に使うロープを残しておかねばならなんだのだが……」
 樹は再びフォルクスに鉄拳制裁。
「おう兄ちゃん、これでどや」
 二人の間を割って、少し離れたところから、パシッとロープを投げつけたのはシルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)
「あ、ああ。助かるよ、ありがとうっ」
 長身の美女が発する妙な口調に戸惑いながらも樹はロープをキャッチ。
 フォルクスに一方の端を投げ渡した。
「かまへんかまへん。どーせ変装用荷物の荷紐じゃけぇ、持って帰っても邪魔なだけじゃしのお」
「変装……用?」
「はいウィッカー、そこまで。気にしないでください。それよりもゴーレム止まったみたいですから、今のうちに、それ、その本取ってもらえますか」
 続いて現れ、ウィッカーの口をふさいだのは、やはり長身の美女、ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)。きっちり着込んだスーツ姿だが、戦場を飛び回ったのか、今は埃にまみれている。
「本? これかな」
「そうです。その緑色の背表紙の。絶対投げないでくださいね」
「まさか本を投げたりはしないけど……はい」
 樹がガートルードに本を手渡す。
「よしよし、これですこれです。ウィッカー、一度司書さん達のところへ」
「おうっ。ええか、親分、きっちりじゃぞ。きっちり恩売ったるんじゃぞ」
「……俺たちも一回退がろう。ロープもない」
 ポカンと見送った樹がフォルクスを促す。
「そうだな。九弓殿、次はこいつお任せしますっ」

「九弓、任されましたよ! 次はあれですわ」
 マネット・エェル( ・ )がロープにもがくゴーレムを指さす。
「これちょっとバランス悪い!」
 光条平気を展開させた両手を構え、九弓・フゥ・リュィソー(くゅみ・ )は難しい顔を作った。目の前のゴーレムは、片足を踏み出し手を振り上げた妙な形でぐるぐる巻きにされていた。
「あそこから切断して、本棚落下させると……衝撃きついよたぶん」
「とりあえず頭から落としましょう。あれはもう本が空です。その上に右腕をパージ、左足を止めて左腕からは頑張って直接本を回収してもらいましょう」
「もうパズルだよね」
 九弓は自分の動きを頭でシミュレートしながらうめいた。
「でも、この方法が一番精度が良かったですわ」
 マネットの言葉通り、九弓達の移動してきた後には、無機物に戻され動きを止めた本棚が、墓標のように並んでいた。
「まぁ、回収役の安全はなるべく確保してあげないとね。とは言え、早く見つからないかな……」

 その時――

「見ぃつけたぁ!」

 まるで九弓の言葉に応えたかのような大音声が響き渡った。
 本郷涼介の満面の笑みを代弁したかのようなその声は鋭い剣跡のように図書室の騒音を切り裂いていく。
 一瞬の後、あの広い大図書室が、歓声で満たされた。