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第六章 終演! 大騒動!

「謝ってこい。何だか知らんが君が原因なのは間違いない。さっさとこのバカ騒ぎを納めたまえ。まったく、イルミンスールの教師ともあろう者が情けない」
 一喝で教師寮の静寂を取り戻し、生徒達を追い出したアルツール・ライヘンベルガー(あるつーる・らいへんべるがー)はベッドの脇に座り、同僚のケインに厳しい舌鋒を向けた。
「ああ、そう言われるとお恥ずかしい限りで……。でも、さっきから考えているんですけどそんな生徒に心当たり無いんですよねぇ……」
 もはやベッドに張り付いたようになっているケインは相変わらず弱々しく呟く。
「……八方美人に振る舞うからだ。君の性格は考え物だな」
 ラインヘンベルガーは苦々しく吐き捨てた。
「付き合いのある女性じゃないのか? そうやって優柔不断だからこっぴどく振られたとかそういう――」

「せんせーい!」
 ドタドタドタっと騒音。
 バタン。けたたましい音と共にドアが破られ、女性徒を抱えた歌菜を中心に、教師寮の周りにいた生徒が次々となだれこんできた。
「ケイン先生、この子ですこの子。ゴーレムの方は、止め方わかったんですけど、泣くの止まらなくて!」
 ケインの前に下ろされた女性徒は、小さく泣きじゃくりながらケインを見上げている。
「……ええ? ええ? ええと、弱ったなぁ」
 女性徒、他の生徒、ライヘンベルガー、そして天井。
 順番に視線を向けてからケインはポリポリとあごをかいた。
 言葉を濁しているが、顔が全力で「だれだろう?」と語っている。
 生徒達は目を皿のように開き、「早く、早く思い出せ」じりじり、じりじりとケインに無言の圧をかけている。

「おい、この子なのか? この子なら、夏休み前辺りからお前の授業中の教師に張り付いてたぞ?」

 ライヘンベルガーが呆れ顔で告げた。

「えっ? そ、そうなんですか」
「先生っ!」
 ケインの様子に、生徒達から非難の声が上がった。
「ご、ごめんなさいっ」

「だってケインは生徒しか見てないんだもん! だからイルミンスールの制服まで着たのにぃ!?」
 もうそれが標準になったかのように、女性徒は涙声をあげた。
 もうほとんど自棄のようになった彼女の、途切れ途切れの言葉を拾い集めたところ、どうやら、魔女の彼女。
 より強い魔力を求めてイルミンスールにやってきたところ、すっかりケインが気に入ったまではよかったのだけれど、肝心のケインはと言えば生徒と研究の他にはまったく興味が行かないという朴念仁。

「それで、今に至ると。なるほどな」
 ライヘンベルガーが今度はため息をついた。

「先生っ!」

 ドタドタドタと再び騒音。
 散々踏みつけられた教師寮の床はもはや悲鳴を上げている。
 飛び込んできたのは、魚住ゆういちを先頭に、本郷涼介、如月陽平という「本回収部隊」の面々。

「ほら先生、特効薬だぜ!」

 ゆういちは何やらドロドロした液体を取り出し、有無を言わせずケインの口に流し込んだ。
「先生のその病気は――『魔力偏向型慢性熱中症』。――気温の上昇する時期に魔力がもれ出して回復が追いつかなくなるから、ヘバる。原因は基礎栄養素の不足。要するに、栄養が足りていないからかかる魔力限定の夏バテというところです。生活レベルの向上した現代ではまず見られなくなったと言われてる病気だ、ここ何十年も発症例などありません。確かに、『奇病』です。先生、何食べてたんです?」
 目を白黒させながら液体を飲み下すケインに、涼介が解説。
「いや、ちゃんと食べてたけどなぁ……おかゆとかバナナとか……」
「それはついさっき食べたものだろうがっ! このボケナスっ! またろくに食べずに研究室に籠もっていたな!? 」
 ついにラインヘンベルガーが怒鳴りつけた。
「こんな古い本にしか載ってなくて。苦労しました。まぁおかげですぐに特効薬も作れましたが。ああ、先生、すぐ効くみたいですよ、それ」
 陽平が手にしている本は、確かに年季が入った革表紙の本だった。
「よくすぐに作れたな」
 ラインヘルガーの声にゆういちが胸を張る。
「ビックリしたよ! 食堂行ったら、探してた材料がほとんど入った鍋が煮えてるんだもんなっ! 巨大山芋だろ? 高山ニンニクに、洞窟イモリにパラミタレバー。最後に俺の実家の特製ウナギを放り込んで完成って訳さ。あ、ケイン先生、あとで、ウナギ代いただきますね。お買い上げありがとうございまーす。しっかしまるで誰かがこの薬作ってたみたいだったぜ」

「それ、あーたーしーのー!」

 びえーんとまた一際大きな泣き声。
「けーいーんーにー! あーたーしーが飲ませてあげようと思ってたのにー!」
 「え? なに? なに?」と突然の出来事にゆういちはあわてふためいた。

「それで気がついてもらおうと思ってたのにー! 結局なんにも出来なかったぁー!」
 もうほとんど泣き崩れる女性徒。

「ええと、君?」
 どうして良いか分からず、ざわめく一同を割って女性徒の元へ歩み寄ったのはケインだった。
 泣きじゃくる女性徒のまえで膝をついて話しかける。
「その、君、名前は?」
「……ブリュンヒルト・ダリルドゥッティ」
「そう、じゃあブリュンヒルト。僕はケイン・アディントン……ああ、知ってるんだよね。もし、君さえよければ、僕のこの手を取ってくれるかな?」
 その意味に気がつき、泣きはらした女性徒――ブリュンヒルトの顔にパァと光が広がっていく。
 コクコクと勢い込んで頷いた、ブリュンヒルトは、ケインの手を取った。

「さ、これで君は今日から僕のパートナー。よろしくね。さて、まず図書館のみんなに謝りにいかなくちゃね。看病に来てくれたみんなにはお礼を言わなくちゃだし……え? 途中で何人かと戦闘した? ん――君を連れてあちこち謝って回らなくちゃ行けないところが沢山ありそうだね……弁償、給料足りるかなぁ……。ん? 図書室は君が大部分元に戻せるって? うん、それはすごく助かるよ。ああ、ライヘンベルガー先生、今回は本当に……ええ、はいはい。上の先生ですよね」
「先生、もう大丈夫なんですか?」
 いきなりキビキビと動き出したケインに若干のとまどいを見せ、涼介が聞く。
「え? ああ、すごく効いてるみたい。すごいなぁ。みんな、本当にありがとう」
 ケインは部屋の中を見回して深々と頭を下げた。
「さて、で、ブリュンヒルト、とりあえず図書館だ。まずはそこから責任取らないとね」
 あわただしく、部屋を出て行こうとするケイン。
「ちょちょちょと、先生、先生」
 ゆういちがケインの背中を慌てて止める。
「ウナギの代金――は、まぁあとで良いんですけど! 課題! 課題!」
「ああ、そうか。うん、もちろんしっかりお礼しないとね」
「誰なんです? 報酬もらえるのは」
「もちろん、全員僕のために動いてもらっちゃったんだ。今回関わってくれた全員ってしないと、申し訳ないよね」
 一人渋い顔のラインヘルガーを除き、小さな歓声が起こる。
「ええと、今日はちょっとバタバタするだろうから、明日からでいいよね」
「明日……え? なんです?」
「みんなに頑張ってもらっちゃったからね、今度は僕が頑張るさ。明日から教室押さえてきっちり面倒見るよっ! 夏休み終わりまでに絶対全員課題を終わらせるようにしてみせるからね。 ああ、もちろん他校の生徒さんも大歓迎だよっ! そうか、その許可も取ってこなくちゃならないな。 よし、じゃあ行こうブリュンヒルト」
 
 一瞬の沈黙。
 
 教師寮の廊下に、絶望的な悲鳴が響き渡った。

担当マスターより

▼担当マスター

椎名 磁石

▼マスターコメント

 どちら様も初めまして。ゲームマスターの椎名磁石と申します。今回は「僕を治して!」に参加していただきましてありがとうございました。
 参加していただいた皆さん個性的で、アクションを眺めているうちにどんどんキャラクターが動き出すという状態。書きながら、「わぁしゃべらせたい、まだしゃべらせたい」と各所で嬉しい悩みに遭遇させていただきました。すこしでも皆さんに楽しんでいただけるやり取りに仕上がっていれば幸いです。
 それでは。いつかまたこの広大なパラミタ大陸のどこかでお会いできました日には、ぜひ懲りずにお付き合いください!