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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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空賊よ、風と踊れ−フリューネサイド−(第1回/全3回)

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第四章



 敵機と交戦中の樹月刀真は、真下を進行中のフリューネを見つけた。
「あれがフリューネですか……」
「馬鹿者、余所見をするな!」
 一瞬、フリューネの姿に目を奪われ、飛空艇に一撃を受けてしまった。
 動力部から黒い煙が上がり、飛空艇は自然落下していく。
「仕方ない玉藻、はいコレ」パラシュートを手渡し「じゃあ」と刀真は飛び降りた。
「ん? これはパラシュート、お前はどうするって……」
 もぬけの殻となった座席を、玉藻前は呆然と見つめた。
「このたわけ! 刀真! 覚えていろ!!」

「空から失礼ーーーッッ!!!」
 真下のフリューネのペガサス上に、刀真はドッスンと落ち乗った。
 しかし、衝撃に跳ねてしまい、思わずフリューネの白い太ももにしがみついた。
「あ、危な……ッイ!!」
 ふと、気が付けば、フリューネのハルバートの柄が喉元に突きつけらている。
 フリューネは凍土のように冷えた視線を送った。
「……気をつけようね」
「そ、それはもう……、はい。ところで、飛空挺が落とされましたので、後ろに乗せてもらえませんか?」
「まあ、仕方がないわね。私の邪魔は決してしないように!」

 先ほど刀真を撃墜(正確には玉藻前だが)した敵機が、フリューネの側をかすめて飛んだ。
 緊急回避でペガサスが揺れ、再び刀真は体勢を崩した。
 思わず胸に手を伸ばすと、さっとフリューネはその手を掴み、指をへし折った。
「ぎゃあああああああ!!!」
 いけない方向に曲がった中指に、尋常ならざる激痛が走った。
「な、な、な、何をするんですかっ! ひ、酷いっ!」
「いいえ、慈悲深いわ。指を切断しなかっただけね」
 そう言って、彼女はハルバートを軽々と振るった。
「もし次やったら……」
「はい、気をつけます、はい、次に揺れたら身を投げます」
 彼女の恐ろしさが刀真には理解出来た。頭ではなく身体で理解出来た。
 そして、同時に胸がドキドキと高鳴るのも感じた。
 何でしょう、この胸の高鳴りは……、まさか、これは恋……?
 いいえ、恐怖です。

 ◇◇◇

「あんたが有名な一匹狼の女空賊?」
 八ッ橋優子(やつはし・ゆうこ)は慣れない飛空艇を操作し、フリューネに追いついた。
 メンソール煙草をくわえながら、フリューネの横に飛空艇を付けると、まじまじとその顔を見た。
「私が一人で生きていく手段を手に入れるために、あんたに弟子入りさせてもらうよ」
 優子は妙に偉そうに宣言した。
「はあ?」
 突如、現れた弟子入り希望者に困惑するフリューネ。
 だが、弟子入り希望者は彼女だけではなかった。

「フリューネ殿ーーーッッ!!!」

 敵陣を凄まじい速度で突っ切って、島村組の風森巽とティア・ユースティが馳せ参じた。
 フリューネの前でうやうやしく頭を下げ、熱い眼差しを向ける。
「空に咲く白き薔薇! 天駆ける姫騎士! フリューネ・ロスヴァイセ殿とお見受けしました!」
 巽は意を決したように言葉を紡ぐ。
「弟子にして下さいっ!」
「はあ?」
「貴女の貫く信念、覚悟……、傍で感じ取りたいんです!」
 ティアはじぃーとフリューネの顔を見つめた。
「うわぁ、話で聞いてた以上に美人さんだぁ……」
 フリューネは慌てた様子で、三人を交互に見つめた。
「ちょ、ちょっと待って! 私は弟子なんて取らないよ」
 優子はむっとしつつも「勝手に弟子を名乗らせてもらうわ」とフリューネの前に出る。
 巽は巽で「構いません。貴女の傍で、貴女の全てを盗ませて貰います!」と燃えている。
「はいはい、ボクもー。おねーさんのお手伝いしても良い? 答えは聞かないけど!」
 ティアも勝手に弟子入りし、フリューネファミリーは賑やかになった。
「……な、なんなの。私、祭り上げられてる……!?」
 ただ一人、フリューネだけが妙な敗北感に打ちのめされていた。

 ◇◇◇

 フリューネの横を、一条の光線が走った。
 しなるように伸びた光は、前方より襲来する敵飛空艇を駆逐する。
「フリューネ、このまま全速前進よ!」
 後方から援護に駆けつけたのは、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)だ。
 光条兵器の片手剣を水平に構え、その切っ先から光線が放たれている。
「これが空飛ぶ馬か……」
 ルカルカのパートナー、飛空艇の操縦担当、夏侯淵(かこう・えん)はペガサスに興味を示していた。
「……私のペガサスがそんなに珍しい?」
「ああ、美しさもさる事ながら。騎兵に利用した場合の戦略性の向上、興味は尽きる事がないな」
 夏侯淵は落ち着いた眼差しで、フリューネを見据えた。
「個ではなく集団で戦をする気分はどうだ?」
「なんだかあまりやる事がないわね」
「贅沢を言う。これだけの数の人間が、お前を守っておるのだ。当然だろう」
 そう言うと、彼は戦場を見回し敵陣の穴を探した。
「フリューネ、ルカルカ、少し高度を上げろ。敵陣形の薄い部分がある」
 そんな彼の反対側、左右でペガサスを挟み、鬼院尋人(きいん・ひろと)は天馬をうっとりと見つめていた。
「ペガサスか……、物語の中だけの話かと思っていた……」
 尋人はペガサスの話を聞いてから、頭の中がペガサスで一杯になってしまった。空前のペガサスファンタジー野郎である。寝ても覚めてもペガサスペガサス、ペガサスに股がり戦場に繰り出す勇者のイメージで妄想幻魔大戦を繰り広げているのだった。もういっそペガサスになってしまったら幸せだと思う。
「やあ、フリューネ、素晴らしいペガサスだね」
 ペガサスから一切視線を動かさずに、尋人はフリューネに言った。
「……あ、ありがとう」
「一体、このペガサスどこで手に入れたんだ? 何でもするから、教えてくれないか?」
 真剣な目で問う尋人。その目に上空から接近する敵機の姿が見えた。
「危ないっ!」
 借り物の飛空艇で操作に不慣れにも関わらず、自らを盾にして攻撃からフリューネを守った。
 飛空艇の動力部を切り裂かれ、自身も肩に軽傷を負ってしまった。
「だ、大丈夫!?」
「……良かった、無事で。あんたを守れたなら、オレは構わない」
 そう言って、フリューネの頬に手を……ではなく、ペガサスの頬に手を添えた。
「マニア……、ペガサスマニアだわ……」

「作戦は奇を以ってよしとすべし……、だったわね」
 機は熟した。戦況を伺っていたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が行動を開始した。
 戦場中央部で、無数の炸裂音と共に大輪の花火が上がった。赤や緑の色とりどりの花火が晴天の空を彩っていく。炸裂音の正体はかんしゃく玉だ。それに伴い、どこからか大量の紙吹雪が舞い散る。突如、戦場に変革をもたらした奇怪な現象により、バッドマックス空賊団とバッドマックス討伐隊は多大な混乱に見舞われた。
 四つの機影が混乱した戦場飛び回り、敵機を撃墜していった。
「我ら『シャーウッドの森』空賊団! 無法を討つ無法なり!!」
 団長・ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は拡声器を片手に、高らかに言い放った。
 ヘイリーの小型飛空艇は、後部に『シャーウッドの森』空賊団の団旗がはためいている。
 ちなみに副団長はリネンである。
「倒した敵の装備は回収するのよ! 換金して民衆へ施すわ!」
 彼らは義賊。それもフリューネ同様、空賊を専門に狩る義賊団だ。ロビン・フッドのモデルとなった英霊ヘイリーとしては、義賊の座でフリューネに負けているわけにはいかない。
「フリューネが共闘路線を取るとは思わなかったけど、それなら話が早いわ!」
 ヘイリーはフリューネと肩を並べ、ライトブレードを敵機に突きつける。
「義賊の連携見せてやろうじゃないの!」
「ふうん、地球生まれの義賊か……、面白そうね」
 そう言うと、フリューネはハルバートを構えた。ちらりと後ろの刀真を見る。
「振り落とされないようにね」
「わかりました。ちょっと手がアレなので援護は期待しないで下さい」
 二人は敵陣に勢い良く飛び込んで行った。
 小型飛空艇を上回るフリューネの機動性で接近、ペガサスの前足で敵機の前部を踏みつけた。シーソーの要領で空賊はぽーいと中空に投げ出される。ヘイリーは、ヒロイックアサルト【超感覚による強襲】で、空賊が落下するより早く近付き、頸椎を剣の柄で打ち付けた。気を失った空賊を後部座席に放り込み、資金確保。

 横転した敵飛空艇がフリューネの目前をかすめ、爆発して吹っ飛んだ。
「さすが一匹狼で名を馳せただけの事はありますね」
 斎藤邦彦(さいとう・くにひこ)はハンドガンを構えつつ、颯爽と登場した。
 その相棒のネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)は、敵空賊からの護衛を引き受ける。
 二人は『シャーウッドの森』空賊団の団員だ。
「やはり一匹狼を貫くのには、何か理由があるのでしょうか?」
「……さあてね。背中を預けられる人がいないだけかも」
 意味ありげに微笑むフリューネ。
「それだけ強ければ、誰かに預ける必要はないと思いますけどねぇ」
 邦彦はフリューネを援護するべく、敵機に牽制射撃を撃ち込んだ。
 ネルは目を見開いて、会話する二人を見ていた。
「どうしました、ネル? 何か問題でもありましたか?」
「いえ、そのなんだか珍しい光景を見ていますので……」
 斎藤は任務時にはいかに任務を達成するかしか考えていないのに……。
 邦彦とフリューネの姿を見ていると、ネルの胸が少しだけチクチク痛んだ。
 その時、フリューネの頭上を二機の小型飛空艇が通り過ぎて行った。
 佐野亮司(さの・りょうじ)とパートナーの向山綾乃(むこうやま・あやの)の飛空艇だ。
 亮司は火術を放ち、フリューネ前方の敵機を焼き払う。
 亮司はちらりとフリューネを一瞥した。
「あれが噂の女義賊か。随分と他の連中に慕われてるみたいだが、俺は……」