リアクション
chapter.11 詰めと爪
数日後。
優斗、孔明、カチェアらが蜜楽酒家で集めた情報とシヴァの飛空艇にあった通信記録を見た沙幸の証言、そして環菜自らの口で明らかになった事実があった。
まず、環菜を直接誘拐したのはシヴァではなく、彼が雇った用心棒だったということ。
環菜曰く、「はっきりと姿は見えなかったけれど、黄金色の髪をしていたのは確かよ」とのことだった。
そして、その用心棒とシヴァとの間にあった関係とは、「金と力」ではなく「情報と力」であったこと。
「通信記録を見たら、その用心棒の人が欲しがってた情報っていうのが、『ユーフォリア』ってものについてらしいんだけど……」
沙幸の言葉に、孔明、カチェアらが反応を示す。
「蜜楽酒家でも、時々その単語は聞こえてきました」
「カンナ様、何かご存知ないですか?」
環菜は記憶の隅から、その言葉に関する情報を引っ張り出した。
「ユーフォリア……私も昔話のひとつとして聞いたことがあるくらいだけど、とても早く空を駆けることの出来る船首像の名前だったはずよ。ただ、あくまでそれはシャンバラにいる空賊たちの間で語られた伝説……ある種の夢物語みたいなものよ」
「船首像の、伝説……」
「さ、もうまとめ作業は終わりよ。いつまでも部屋にいられたら、仕事が出来ないじゃない」
数日前に誘拐されたばかりとは思えない環菜の、いつも通りの見慣れた態度。ルミーナはそんな環菜を見て、どこかほっとしたような表情を浮かべた。
なぜ、こうも短い期間に空賊関連の事件が立て続けに起きたのか。
なぜ、用心棒はそんな昔からある夢物語の情報を欲しがったのか。
なぜ、その用心棒はシヴァに雇われていながらシヴァを助けなかったのか。
生徒たちの頭にはいくつかの疑問が残ったままだったが、それらを振り払うかのように環菜は生徒たちを校長室から追いやった。
ちなみに戦闘中に撃墜され救助された数名の生徒と違い、戦闘の終わり頃環菜を落とそうとして逆に落とされた路々奈のその後だが、幸いにも太平洋上に回収し損ねた積み荷がひとつあったため、路々奈はそれに捕まり九死に一生を得たのだった。言わば彼女は、自身が落とした積み荷により助かったことになる。なお路々奈がその積み荷の中をちらりと見た時、空気人形らしき物体が覗けたことを彼女はまだ誰にも言っていない。
◇
蜜楽酒家。
人質横取り作戦が失敗に終わったヨサークは、ヤケ酒を飲んでいた。
「ちくしょう……女女女、全部女が悪いんだっ!」
それを少し離れたところで愉快そうに見つめていたのは、船に乗らず蜜楽酒家に居続けた円とオリヴィアだった。
「なになにー、なんかおもしろいものでも見つけたのー?」
ミネルバの無邪気な言葉に、オリヴィアが口の端を上げてそこから言葉を発した。
「ええ、と〜っても面白いものを見つけたわぁ〜」
「ヨサークくんでまだまだ楽しめそうだよ」
そう言った円の手には、一枚の写真があった。円はそれを口元まで持っていくと、ひらひらと動かし、こぼれそうになる笑みを隠していた。
「あらぁ〜、あれ、こないだの人よねぇ〜」
オリヴィアが目を向けた先には、ヨサークに話しかけている芸者風の女性がいた。彼女はヨサークの耳元に顔を近づけると、小さく囁いた。
「今回は残念だったねえ。でも、金持ちの人質なんかよりもっと大きなお宝がこの空にあることを、あんたも知ってるだろ? ほら、もう夢物語ではなくなった、ユーフォリアのことさ」
妖艶な笑みを浮かべ、扇をパタパタとさせながら芸者は言う。
「シヴァの空賊団がなくなった今、ユーフォリア争奪戦に勝つチャンスかもねえ。大金も逃したことだし、今度はそれを狙ってみるのも悪くないんじゃないのかい?」
ヨサークは、とろんとした目でただ芸者の言葉を聞いていた。
◇
その蜜楽酒家からやや離れたところにある、寂れた小さな休息所。
「ヨサーク……同情のつもりか知らないけど、後悔させてあげましょう……殺しておかなかったことを」
小型飛空艇で、ふらふらとそこに辿り着いたはシヴァだった。飛空艇から降り、腰を落ち着ける。その彼の前に、少ししてひとりの女性がやって来る。
「ふ、ふふ……今さら何しに来たんですか? 遅刻魔の用心棒さん」
「良かった、生きてて。まだあたし、あんたから情報貰ってなかったから貰いに来たのよ。さあ早く教えて。ユーフォリアに関する情報」
「くっ……何がユーフォリアだ、馬鹿じゃねえのか!?」
けらけらと笑いながら、シヴァは狂ったように目を剥いて罵声を浴びせる。
「そんな本当かどうかも不確かなもんより、現実的に役立つ金の方が大事に決まってんだろ? けはははっ」
「……で? あんたはユーフォリアのことを知ってるの? 知らないの?」
「知ってるわけねえだろうがボケっ! いい加減騙されてたって気付けよタコ。とっとと消えろ、この役立たずが! お前のせいだ! お前のせいで俺がこんな目に……!!」
シヴァが言葉を言い終える前に、女性の手が素早く動いた。次の瞬間、鋭い爪が足場ごとシヴァを切り裂く。
「うるさいなー、元はと言えばあんたが騙そうとするからでしょ? この、十二星華であるあたしを」
血に濡れたシヴァを見下ろしながら、女性は「じゃあね」と短い別れの言葉を残し去っていった。
萩栄一です。初めましての方もリピーターの方も、今回のシナリオに参加していただきありがとうございました。
〆切日を過ぎての納品となってしまったため、公開予定日の時間通りに公開出来ず申し訳ございません。
ジャンルは「冒険」となっておりますが、蓋を開けてみれば結構なコメディーになっちゃいました。
真面目な空中活劇とかを期待していた方にはやや肩透かしな感じになってしまったかもしれませんが、
出来るだけ色々なアクションを採用したらこうなりました。これも蒼フロの楽しみ方のひとつだと思います。思わせてください。
今回初のシリーズもの、しかも初めての試みである連動シナリオというもあり、試行錯誤しながらの執筆でした。
執筆前の構想時点ではもちろん、執筆中もかなりの回数梅村マスターと話し合ったりして進めていきました。
で、リアクションにある通り、実はこの空賊シナリオは新エピソード「十二の星の華」絡みのシナリオになっていきます。
これから空賊たちの戦いに十二星華がどう関わってくるのか、そのあたりも楽しみにしていただければと思います。
そしてヨサークおじさんのとんでもない罵詈雑言の数々を、どうか温かい気持ちで受け止めてくれればと思います。
なお今回の称号は、LC含め全部で8人のキャラに送らせて頂きました。
一定回数連続参加者やヨサーク空賊団への入団を明確に希望された方が主な対象です。
あと称号は付与してなくても、アクションに対する意見などを個別コメントで何人かにちょこちょこ送らせて頂きました。
最後に、今回も次回シナリオの告知させてください。
まだ確定ではありませんが、おそらく12月28日の月曜日に今回の続きの話が出ると思います。
きちんと決まりましたらブログの方で告知したいと思います。ブログは「萩に地鶏身」で検索していただければ。
今回のリアクションの裏話とかも書くことがあれば後で載せるので、もし興味のある方がいましたら覗いてやってください。
そんな感じで、長文に付き合っていただきありがとうございました。また次回のシナリオでお会いできることを楽しみにしております。