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リアクション
「それにしても、五獣の女王器を集めた人が女王というのも、おかしいと言えばおかしなシステムよね」
日堂真宵が、あらためて誰もが思う疑問を口にした。
「システムというのはそういうものだ。単なる決まり事だからな。女王器自体に国を造る力がなかったとしても、女王器を信じる者には国を造る力があるということだ。そういう意味では、パラミタにとっては女王が何者であるかなんで、どうでもいいことなのかもしれないな。女王であること自体が重要だということだ」
「いや、難しくって、何言ってるか分からないわよ」
土方 歳三(ひじかた・としぞう)の言葉に、日堂真宵が頭をかかえた。
「つまりだなあ、女王が名君か暴君かなんて、どうでもいいことだっていうわけだ。目に見えないものである国という物を目に見えるように体現した物が女王ということで、女王をそれと分かる形で飾りたてる物が五獣の女王器というわけなんだろう。違うのか?」
土方歳三の推測に、まだはっきりと答えられる者はいなかった。
とにかく、玄武甲を手に入れてみなければ話は始まらない。いや、それ以前に、遺跡に辿り着かなければ。
「ところで、一つ聞きたいことがあるだよね。ココさんのパートナーのことなんだけど」
思い出したかのように、琳鳳明がココ・カンパーニュに訊ねた。
「ジャワかい? 彼女なら、みんなを驚かせないようにと、少し離れてついてきているはずだけど。それが何か?」
あっさりとココ・カンパーニュが答えたが、琳鳳明が知りたいのは、もう一人いるであろうパートナーのことであった。もしも、ココ・カンパーニュの持つ星拳が光条兵器であるのならば、彼女のパートナーに剣の花嫁がいるはずだ。だが、今のところゴチメイ隊の中に、そのように人物は見あたらない。
「それではなくて……」
「はいはーい、特製カレーの出前デース」
聞き直そうとする琳鳳明を押しのけて、アーサー・レイス(あーさー・れいす)が両手にカレーライスの皿を持って現れた。
「ああ、道中お腹が空くだろうと思って、こんなこともあろうかと、アーサーに飯炊きを命じておいたんです」
思い出したかのように日堂真宵が説明した。
「さあ麗しき乙女よ、これをあなたにさしあげマース。どうぞ御賞味くだサーイ」
ぐいと、ものすごく辛そうなカレーをアーサーがゴチメイたちに突き出す。
「辛いの嫌ー」
ツンと鼻をつく臭いに、リン・ダージがあわてて逃げ出した。
「この程度で」
スプーンを手に思わず笑うココ・カンパーニュに、リン・ダージがいーっと舌を出して見せた。
「それでしたら、ちょっとまろやかにしましょーかー。では、味の調整のために、あなたを少し我輩に賞味させてはいただけませんか〜? 大丈夫デース。少しちくっとするだけデース」
言いながら、ココ・カンパーニュの首筋に口許を素早く寄せたアーサー・レイスの牙がカチンと鳴った。
「面白い冗談だな」
アーサー・レイスの牙にエペの剣先をぴたりとあてながら、マサラ・アッサムがちょっとすごんだ。
「あが、がれーが……」
動けなくなるアーサー・レイスを尻目に、ココ・カンパーニュが何事もなかったかのように彼の手に持ったカレーにぱくついていった。
しかたないなと質問は諦めて、琳鳳明は先行して遺跡の露払いに出かけていった。
「ごっそーさん」
「まことに失礼した」
ココ・カンパーニュがスプーンをおくと同時に、土方歳三がアーサー・レイスの首根っこをつかんでずるずると引きずっていった。
「そうか。あのドラゴンは、やっぱりそばにいるってわけだな」
バタバタしたアーサー・レイスたちが去るのを待って、悠久ノ カナタ(とわの・かなた)を肩に乗せた雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)がココ・カンパーニュに話しかけてきた。
「ならば、彼にも、ちゃんと挨拶するのが礼儀というものじゃな。よければ、ちゃんとした居場所を教えてもらえると嬉しいのだが」
「ああ、それはジャワも退屈が紛れていいだろうね。いつも、留守番だからねえ。だけど、ジャワは、彼じゃない、彼女だからな。うっかりしたこと言って、消し炭にされても私は責任取らないよ」
ここにいないジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)を気にしてもらって、ちょっと嬉しそうにココ・カンパーニュが悠久ノカナタに言った。
「それは申し訳なかった。言の葉は、ちゃんと選ぶといたそう」
「頼むよ。たぶん、同じルートを飛んでくるだろうから、遺跡の少し手前の開けた場所に降りるんじゃないかな」
「こころえた」
そう答えると、悠久ノカナタは、ジャワ・ディンブラの姿を求めるかのように軽く空へと顔をむけた。
「見えるかなあ」
雪国ベアも立ち止まって空を見あげる。
「何かいるのかにゃ?」
つられるようにして、シス・ブラッドフィールド(しす・ぶらっどふぃーるど)は、意味も分からずに空を見あげてみた。
「なんだかんだ言って、人に気にかけてもらうのは悪くないな。まあ、多少うるさいのもいるけれど……」
なんだか遺跡探索というよりはピクニックのような雰囲気に、ココ・カンパーニュはほのぼのとしてつぶやいた。
「そんな風にちゃんと気配りできるなら、ヴァイシャリーのときも逃げ出したりしないで、ちゃんと生け簀の人たちにも謝った方がよかったと思います」
ココ・カンパーニュのつぶやきを聞きつけたソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、軽く彼女に詰め寄った。
「なんだ、いきなり」
ちょっと気分を害されたという感じで、ココ・カンパーニュが言い返した。
「まあ、そんなに喧嘩腰になるなって。ソアだって、意味もなく責めてるわけじゃないんだから。まあ、あのとき俺は不審船に忍び込んでたんだけど、危なくあんたの攻撃で凍り漬けにされて湖の底に沈むところだったからな。ソアとしても、ちゃんと仲間がいると伝えたはずだと思っているだけだ」
「あの船に乗っていたのか。……それは悪いことをしたな」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)に言われて、ココ・カンパーニュはチャイ・セイロンと顔を見合わせた。そう言えば、ソア・ウェンボリスからは、敵の襲撃を教えてもらったことを思い出す。
「あそこは逃げ出さずに、まず養殖業者の人たちに謝ることが大事だったんじゃないのか? それに、あれは生け簀を守れなかった俺たちにだって責任はあったんだ。自分たちだけで責任を感じて逃げることはなかったと思うぜ」
「ええと……、まあ、あれはだなあ」
緋桜ケイの言葉に、ココ・カンパーニュが思わず口ごもる。言われていることはよく分かっているつもりだ。
「まあいいじゃないか。尻ぬぐいをするのはリーダーの役目とはいえ、うちのリーダーじゃ、あまり説教されると切れて、さらに生け簀を破壊したかもしれないからねえ。あれは、リーダー流の配慮ということで」
マサラ・アッサムが、フォローにもならないフォローを入れた。
「それじゃ、ちっとも配慮になっていません!」
「それじゃ、私が脳筋みたいじゃないか!」
ソア・ウェンボリスとココ・カンパーニュが声をそろえて叫んだ。
「さあ、私とケイがついていきますから、後でヴァイシャリーへ謝りに行きましょう」
ソア・ウェンボリスの言葉に、緋桜ケイがうんうんとうなずく。
「いや、さすがに手ぶらというわけには……。とにかく、玄武甲とか言うのを手に入れれば少しは金ができるかもしれないだろう。それから考えるさ」
「えーっ、まだ見つけてもいない玄武甲がお金になるなんて、単純すぎるよー、あははははは」
ちょっと言いよどむココ・カンパーニュのそばで、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が脳天気に言った。
ごすっ。
「いたたたた……」
いきなり叩かれて、ミネッティ・パーウェイスが頭をかかえる。
「すまん、うちの子は空気読めなくて。気にしないでくれよな」
ミネッティ・パーウェイスの頭をかかえるようにして強制的に下げさせながら、アーミア・アルメインス(あーみあ・あるめいんす)が即行謝った。
「い、いや、そこまでしなくていいから……」
怒るタイミングを外されて、ココ・カンパーニュが困ったように言った。
「でも、本当に玄武甲を見つけたらどうするつもりなんだい?」
あらためて、アーミア・アルメインスがココ・カンパーニュに訊ねた。
「だから、売るならいい所が……」
茅野菫が話を蒸し返そうとしたところへ、六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)が割って入った。
「まさか、本当に玄武甲を横流ししてお金に換えようと思っているんじゃないですよね?」
「うーん、まあそのー」
六本木優希に問いただされて、ココ・カンパーニュがあからさまに口ごもった。
以前、ヴァイシャリーでココ・カンパーニュたちが巨大錦鯉を倒すところを見ている六本木優希としては、横流しを考えているというのはちょっと意外だったらしい。
「それは、クイーン・ヴァンガードとしては見逃せないぜ」
「それはアレクだけですから」
見得を切るアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)を、六本木優希は話がややこしくなるからと後ろへ追いやった。
「ちょっと待て、俺様はまだ言いたいことがだなあ……」
「すいません、今片づけますから」
騒ぎかけるアレクセイ・ヴァングライドを、ミラベル・オブライエン(みらべる・おぶらいえん)が押さえ込んだ。
「どのみち、クイーン・ヴァンガードとしては、私たちが見つけ出した玄武甲を取りあげるに決まっていますわ。朱雀鉞を見つけ出したときもそうでしたもの。もう少し、身の振り方は考えた方がいいかもしれないですわよ」
ちょっと思惑を秘めて、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が言った。
「とにかく、ない物をあれこれ言ってもしょうがないだろ。見つけてから考える、以上!」
めんどくさいとばかりに、ココ・カンパーニュが叫んで話を終わりにする。
「ふっ、逃げましたね、リーダー」
ペコ・フラワリーが、おかしそうに笑った。
「うーん、それでは、私たちでちゃんと考えてもらえるようにしないといけませんね」
少し考え込むと、六本木優希は、アレクセイ・ヴァングライドたちの所へ戻っていった。
「私たちで、先に玄武甲を見つけてしまいましょう。そうすれば手間も省けますし、ココさんたちが変な気を起こさずにじっくりと考える時間もできるでしょう」
「どのみち、玄武甲はミルザム様に献上することになるけどな。やっとシャンバラ古王国の過去の真実が解き明かされようとしているんだ、邪魔はさせないぜ」
六本木優希の言葉に、アレクセイ・ヴァングライドが言った。
「とにかく出発ですね」
ミラベル・オブライエンが歩き出す。
「気をつけてください。ミラ、そちらは逆です」(V)
六本木優希は、やんわりとミラベル・オブライエンに言った。
★ ★ ★
「少し休んでいかれませんでしょうか?」
「そうするかな。お茶というのもいいかもね」
本郷 翔(ほんごう・かける)の言葉に、ココ・カンパーニュは足を止めた。
ぞろぞろと集団で移動していくのは、意外に疲れるものだ。それ以前の問題として、ココ・カンパーニュたちにあまり危機感がないということも言えた。
ゴチメイたちにとっては、絶対に玄武甲を手に入れなければ、自分たちの生死に関わるとかいう問題ではない。もともとと情報自体が曖昧なものだったわけで、手にいれられれば儲け物だぐらいの気持ちでやってきている。
そのことに関しては、クイーン・ヴァンガードの者たちもたいしてかわりはなかった。使命感はあるにしても、一分一秒を争う争奪戦だとは思っていない。このときはまだ、彼らは海賊の動向についてはまったく知らなかったのである。
本郷翔がシートを敷いてお茶とお茶菓子を用意している間に、後続の者たちも続々と追いついてきた。逆に、先を急ぐ者たちは、少し呆れながらも遺跡への道を先行していった。
★ ★ ★
「やれやれ、先に行くぞ」
追いついてしまったジャワ・ディンブラが、ココ・カンパーニュたちを見下ろしながら先に飛んでいった。
それを見あげた狭山 珠樹(さやま・たまき)が、シートの周りを掃除してお茶の支度を手伝いながらも、彼女の飛んでいった方向をしっかりと記憶する。
「追い越されたじゃねえか」
「急ぐのじゃ」
先行していた雪国ベアと悠久ノカナタも、自分たちを追い越していくジャワ・ディンブラの姿を見て、急いで彼女を追いかけていった。
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