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リアクション
4.遺跡
「偵察してきました。今のところ、敵の配置はだいたいこんなものです」
先行して遺跡周辺を偵察してきたアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)が、本郷翔が広げた地図の上に指をさして敵の配置を説明した。
「前面の入り口に敵は集中していますね。クロセル様のお話では、いくつか別の入り口もあるとか。しかし、敵の人数からして、そのすべてをカバーしているとは思えません」
集まってきたココ・カンパーニュたちに、本郷翔が概要を説明した。
「ビーストマスターが多いのか、ペットのモンスターが多数いますね。人間よりも多いでしょう」
「デビルゆるスターを潰すのは忍びないなあ」
アンドリュー・カーの言葉を聞いて、ココ・カンパーニュが小さくつぶやいた。どうやら、敵はプチッと潰すのが前提らしい。
「ええと、すいませんですね。ちょっと間に入りますわ」
フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)が、身を乗り出してきたココ・カンパーニュを押しのけるようにしてアンドリュー・カーの横にわざと割り込んだ。
「確認できた限りでは、敵はビーストマスターのペットを中心としていて、獣人さんたちがその指揮をしているみたいですわ」
「この程度の数の敵なら、あたしだけでも勝てるわよ。兄様の出る幕はないわよ」
フィオナ・クロスフィールドの後ろから顔を出した葛城 沙耶(かつらぎ・さや)が、牽制するようにアンドリュー・カーに言った。兄と慕うアンドリュー・カーが、ココ・カンパーニュたちに気に入られて取られては大変だというのが、フィオナ・クロスフィールドとともに顔にありありと表れている。
「外の敵もですが、すでに多くの敵が中に入っていると考えるのが妥当でしょう。そのため、外の守りは最低限にしていると思われます。でしたら、こちらもそれを利用いたしましょう。正面から突入するふりをいたしまして、別働隊を遺跡の三方向から突入、先行させます。狭い遺跡の中では、人数の多い少ないは外ほど意味を持ちません。敵と遭遇したチームは、攪乱に回って敵を引きつければ、他のチームが玄武甲に辿り着ける確率が上がると考えますが、いかがでしょうか」
「悪くはないと思いますね」
ペコ・フラワリーが、本郷翔の案に賛同した。
「面倒だなあ。全部ぶっ飛ばしちゃえばいいじゃないか」
ココ・カンパーニュは不満そうだったが、さすがにみんなに説得された。
後手に回った分慎重にということで、北の正面突破のココ・カンパーニュのチームと、東から入るペコ・フラワリーたちのチーム、西から入るチャイ・セイロンのチーム、南から入るクイーン・ヴァンガードのチームとに分かれることとなった。
道中好き勝手に移動してバラバラになっていた学生たちも、遺跡直前で態勢を整えることによって、参加した者たちのほぼ全員がやっと揃うことになった。もっとも、ゴチメイ隊やクイーン・ヴァンガードたちと関係なく、お宝の匂いをどこからかかぎつけて、独自に遺跡に引き寄せられてきた者たちも中には混じっていた。
「噂に高いクイーン・ヴァンガードと遺跡で出会うとは運がいいやら悪いやら。おや、そこの黒い人たち、あなた方もクイーン・ヴァンガードの方ですか?」
玄武甲をクイーン・ヴァンガードがこの遺跡に探しに来ているという噂をどこからか聞きつけてやってきたエメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)が、ココ・カンパーニュに訊ねた。全身白づくめのスーツの上に銀髪という、自称白い人だ。
「私は、玄武甲という宝にも、それが収められているという遺跡にも大変興味を持っているのですが、あなた方は見つけた玄武甲をどうなされるつもりですか?」
「どうするも何も、玄武甲を持ち帰るのがクイーン・ヴァンガード入隊の条件だからなあ」
もうなんだかクイーン・ヴァンガードに入ることよりもお宝ゲットの方に興味が移ってしまったココ・カンパーニュが、曖昧に答えた。
「あまり、簡単にお信じにならない方がよろしいかと」
ココ・カンパーニュの曖昧な態度を見て怪しんだ片倉 蒼(かたくら・そう)が、エメ・シェンノートにそっと耳打ちした。
「では、それもあわせて、玄武甲を発見して考えようではないですか」
エメ・シェンノートは、そう答えた。
★ ★ ★
「おうおう、何かたくさん集まってるじゃねえか。面白そうだ、オレも混ぜろや」
プロレスマスクで顔を隠した巨漢、正体は吉永竜司が現れて大声を出した。
「ふふふふ、こんな所でカリン様に見つかったのが運の尽きだぜ。見れば、今パラ実で出回ってるビデオで話題になってるニューフェースじゃねえか。どうだ、一緒に遊ばねえか」
同じくプロレスマスクで顔を隠してはいるが、知り合いが見たら即刻名指しで後ろ指をさされそうなナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)が吉永竜司の横に現れて言った。
「なんだ、こいつらは」
呆れたように、マサラ・アッサムが言う。
「なんだかんだと聞かれたら、きっちり答えてやろうじゃん」
そう言って、またもやプロレスマスクを被ったカリン・シェフィールド(かりん・しぇふぃーるど)が、吉永竜司とナガンウェルロッドをかき分けるようにして進み出た。
「聞いて驚け」
「見て笑え」
「我らカリン様の御一行」
「黒いんだよォのカリン党ブルー!!」
「硬いんだよォのカリン党イエロー!!」
「舐めると甘いんだよォのカリン党レッド!!」
「合体!!」
名乗りとともに三人が決めポーズをとるが、覆面をしているからこそできるポーズとだけ言っておこう。
「終わった?」
リン・ダージが、あくびを噛み殺しながら言った。すでに、ココ・カンパーニュたちの姿はない。
「ちゃんと聞けよなー。ちくしょー。今日のところは、ひとまず……サインください!」
突っ伏して倒れる吉永竜司とナガンウェルロッドを無視して、カリン・シェフィールドがサイン帳をリン・ダージに突き出して頭を下げた。
「えーっと、誰かー」
リン・ダージが助けを求めるが、見事なまでに誰もいない。しかたないので、「リンちゃんが一番!」とサインしてしまう。
「こ、これでいいよね」
そう言うと、リン・ダージもあわててそこから逃げていってしまった。
「とりあえずひとーつ。後五つじゃん。キミたち、命をかけて残りのサインを集めるのだよ〜!」
カリン・シェフィールドが吉永竜司とナガンウェルロッドに命じる。
「目的が違ってないか?」
「いいんだよ、これで」
問い返すナガンウェルロッドに、カリン・シェフィールドはきっぱりと言った。
「さて、そうと決まったら、敵を蹴散らしてもっとサインもらうよ!」
「もとより、そのつもりだぜ」
吉永竜司が血煙爪を振り回してポーズをつけた。いや、サインではなくて、敵を蹴散らすということだ。
「しかたねえ。本当は嫌なんだけどな、お宝がらみだ。嫌々、敵を蹴散らしてやるぜ」
チラリと横目でココ・カンパーニュたちの方をのぞき見してから、厚い化粧と覆面で顔色が分からないのをいいことに、腕組みして木にもたれかかったままナガンウェルロッドが答えた。
「ようし、カリン党、突っ込むよー」
「おうよ!」
「しかたねえなあ」
勢いづいたカリン党の三人は、作戦も何もなしに正面から敵に突っ込んで行った。パラ実的には、最高に考えた作戦だ。
「あの馬鹿者たち……」
段取りも何もあったもんじゃないと、ペコ・フラワリーが絶句する。
「そうだぜ。一番乗りは私と決めてたのに……」
「リーダー、自重してください」
血気に逸るココ・カンパーニュを、ペコ・フラワリーは押しとどめた。
「どうでしょうか、彼らはあのようにお役に立つ気満々です。ここは一つ、『ゴチメイVSカリン党』というタイトルで、一本インディーズ映画を。絶対、「ゴチメイ隊ヴァイシャリーの決戦』よりもたくさん売れますですな」
自称カリン党プロデューサーの犬型ゆる族アイン・ペンブローク(あいん・ぺんぶろーく)が、両手をもみ合わせながらココ・カンパーニュたちに持ちかけてきた。
「映画などという話はなしです」
ペコ・フラワリーは、そうアイン・ペンブロークに言い渡した。
その頃、カリン党の面々は問答無用でいきなり海賊たちに襲いかかっていた。
「いきなりの奇襲とは、何を考えているんだか。さっさと狼どもの餌にしてしまえ」
シニストラ・ラウルスの命令で、ペットの狼たちが一斉にカリン党に襲いかかっていく。
「まっこう勝負とは、敵もいさぎいいじゃんか」
ビーストマスターであるカリン・シェフィールドが、自分のペットの狼を敵狼にむかってけしかけた。たちまち、狼同士の激しいとっくみあいが始まる。だが、数は圧倒的に、敵狼の方が多い。
カリン・シェフィールドの隣にいたナガンウェルロッドの腕に、狼が鋭い牙をたてて噛みついてきた。
「いてててててて、おお、いてえ」
あまり痛くなさそうに、ナガンウェルロッドが言った。狼の牙は、ナガンウェルロッドが着込んだヴァンガード強化スーツのフレームに阻まれて、腕にはほとんど食い込んでいない。
「痛い、痛い、痛い、ほーら、痛いだろうがぁ。はははははは、痛いだろう」
目に狂気の色を浮かべながら、ナガンウェルロッドが自分の腕に噛みついた狼の後頭部を、無事な方の手でがっしとつかんだ。そのまま、ぐいぐいと自分の腕の方へと押しつける。逃げられなくなった狼がもがいたが、あごの骨の砕ける鈍い音ともにすぐに静かになった。
「ははははは、面白いぜ。さあ、ゴチメイ隊とやら、カリン党に負けたくなければ、早くてめえたちも戦って見せやがれ」
むかってくる狼たちを弾き飛ばしてカリン・シェフィールドを守りながら、吉永竜司が叫んだ。
「あいつら、覆面しているけれど、どうも見たことある気が……。もしかして、あなたたち、カリンたちでしよう!」
カリン党の面々を見て、海賊たちと一緒にいた葛葉明が叫んだ。彼女たちの首には、パラ実から懸賞金がかけられているはずだ。すぐにアルディミアク・ミトゥナに教えてポイントを稼ごうと思ったが、残念なことに彼女はすでに遺跡の奥深くに入ってしまっていた。
「まずい、あれは葛葉か」
ナガンウェルロッドと吉永竜司が、葛葉明の存在に気づいた。正体がばれてはまずいと、カリン・シェフィールドを連れてあわてて逃げ出していく。
「追いかけて、賞金首よ!」
「ほーう、それは」
葛葉明の声に、デクステラ・サリクスが、ちょっと興味をそそられる。
「そんなことに構ってる暇はない。本命が来たぞ」
シニストラ・ラウルスが、猫娘をたしなめた。
「もう、しかたないんだもん」
葛葉明は、一人でカリン・シェフィールドたちの後を追っていった。
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