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隠れ里の神子

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隠れ里の神子

リアクション

 真一郎はレティーフの動向を気にしながらも、コウたちをちらりと見て問うた。気が付けば、真一郎と弧狼丸しいかいなかったこの場所に数十人の生徒たちがやってきていたのだ。
「あー、オレたち? さっきの銃声を聞いてさ、慌てて来たってわけ。多分、ここに来たヤツはみんなそうだと思うよ。まぁ、オレは獣人の大切なジャタの森で密猟しよって ヤツが許せなくってね。とっちめようと思ってた矢先、あんたたちを見つけたってわけ。だから、あんたたちに加勢することにしたんだよ」
「まっ、そういうことだから、遠慮なく、まずはゴブリンの一層と行きますか!」
 ドゥリンは言うが早いが、リターニングダガーをゴブリン目がけて、弧を描くように投げ放った。ゴブリンの腕に浅いものの確実に傷をつけ、ダガーはドゥリンの下へと戻ってくる。
「こんな弱いとあたしの相手は務まんないわよっ!!」
「全く、威勢のいい獣人だなぁっ! 喰らえっ!」
 レティーフはゴブリンの隙間を縫って、ライフルを撃とうと構えた。
「ライトニングブラスト!」
 カレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)の指示で彼女のパートナーであるジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)は魔法を唱え、レティーフに解き放つ。
 レティーフは一瞬怯み、構えていたライフルを下ろさずにはいられなかった。
「くそっ!」
 レティーフは臍を噛む。
「ふふっ! ボクたちに敵うと思ってるの? 則天去私!」
 カレンが吠えると、杖に光が宿る。そのまま、カレンはゴブリンたちのところへ突っ込んで行った。
「ちょっ、ちょっと、カレン!? どうして、ああも大胆というか無鉄砲なんだ……」
 ジュレールは溜め息をつくと、カレンの後を追い、レールガンを構え、引き金を引く。しかし、ジュレールの狙いは空しく外れ、弾は近くの木にめり込んだ。
「ダメだ。木を傷つけないようにしなくては……」
 ジュレールは呟き、再び、ゴブリンに照準を合わせた。
「えぃやぁっ!」
 カレンは元気が有り余り過ぎている為、身体を動かしたくてたまらなかったのだ。その点に関して言えば、このゴブリンたちの多さはありがたかった。殴っても殴っても、カレンに襲い掛かり、その攻撃を間一髪のところで交わしながら、戦闘を続けていく。
「うーん。楽しいかも♪」
 カレンは満足そうにゴブリンの群れの中で身を翻していた。
 それをジュレールは溜め息まじりに時折確認しながら、自身もレールガンの引き金を的確に引いていく。
 1発、また1発とゴブリンに命中するものの、致命傷になるような一撃を与えられずにいた。
――少しでもゴブリンの動きを鈍らせることが出来れば、他の生徒がダメージを与えやすくなるはず……。
 ジュレールは冷静に判断し、他の生徒の応援を待つことにした。
「喰らいなさいっ!」
 可愛い声が聞こえた次の瞬間、光術がジュレールの銃弾を受けたゴブリンへと炸裂する。
「!?」
 ジュレールとカノンは自分の近くで起こった出来事に思わず光術が放たれたであろう方向を見る。
 そこには乳白金のロングウェーブヘアを爆風になびかせた少女が立っていた。その愛らしい容姿からは想像も出来ないほど、瞳からは強い意志が感じられる。
「助太刀いたしますわ」
 アリア・ブランシュ(ありあ・ぶらんしゅ)はそう言って、微笑んだ。
 カレンがどつき回っているゴブリンたちのほんのちょっとした隙を狙い、ブランシュは次々と光術を解き放つ。その度に可愛らしい声がジャタの森に反響する。その後に続く爆発音。いかに光の魔術と言えど、その爆発音は凄まじかった。
 ゴブリンは瞬きする間も与えられず、塵と化していく。
「残酷なことをしているのよね……」
 ブランシュは自分のしていることに一瞬の罪悪感を覚えたものの、密猟によって罪のない獣人たちが殺されることを思うと、これは致し方ないことなのだと自分に言い聞かせた。
「さぁ、喰らいなさいっ!!」
 ブランシュが吠えると、その手からは何本目かの光術が放たれた。



 レティーフとレティーフ率いるゴブリンの集団が生徒たちと戦っているのを少し離れた木の上から見ていた虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は悩んでいた。
――正面からではまず無理だな。どうする……。
 自分の戦闘能力を考え、また自分がパートナーと一緒にいないことを考慮すると、正面から突っ込んで行くのは浅はかであるとしか言いようがないことを涼は今までの経験から知っていた。
「どーしよっかなぁ……」
 戦いたい。隠れ里に行く為に道順を知っている人質のプットを助けて、隠れ里に案内してもらいたい。そんな思いも涼にはあった。かくいう彼も、ジャタの森に迷い込んで、空腹に耐えられなくなっている1人なのだ。
「ちぇっ。もっとお菓子持ってくるんだったなー……。さっき食べたうめぇ棒で最後かよ……」
――あれたけドンパチやってると、トラッパー使うのは難しいかも……。
 悩んでいた矢先、涼は名案を思いついた。
「隠れ身を使って、ゴブリンの近くまで行きゃいいんだっ! その後は俺のお得意なショットガンをぶっ放せばあっという間だよな〜♪」
 涼はパチンと指を鳴らした。
「俺って冴えてる〜♪」
 涼は木の上から飛び降りると、乱戦が繰り広げられている場所へと走っていったのだった。



「お前さぁ、他校の連中相手なら兎も角、パラ実相手に人質が通用すると思ってんのか?」
 国頭 武尊(くにがみ・たける)はまるで悪役のようなセリフを言い放ち、颯爽と現れた。彼は光学迷彩で姿を隠し、殺気看破で密猟者達の位置を把握した後、隠れ身を駆使して接近し、連携プレーで攻撃を仕掛けようとしてくるゴブリンたちを1発ずつ的確に撃ち抜いて行き、姿を現したのだった。
「ジャタの森ってのはな、パラ実にとっての友好部族が住まう場所なんだよ。その森を荒らそうってんなら上等だ、潰してやるよっ! さぁ、狩りの時間だっ!」
 武尊は嬉々として言うと、ゴブリンたち目がけて突っ込んで行く。ゴブリンの放つ攻撃を難なく、ひらりと交わし、一瞬生まれた隙に撃ち込んで行く。
 数匹を同じようにしとめて行くと、隠れ身で姿を消していた涼が突然姿を現した。
「あぁ、何だ? 君はもしかして……」
 武尊はショットガンを手に持ち、引き金に手をかけていた涼を見て、
「レティーフの仲間だなっ!」
 武尊は後ろに跳び退り、ライトブレードを構えた。
「えっ? えっ? えーっ!? 待て、俺は敵じゃない誤解を受けるのは勘弁だ!」
「んなわけあるかっ! その目つきの悪さ、いかにもって感じじゃないかっ! レティーフのヤツ、ゴブリンだけでは飽き足らず、人間の密猟者も連れて来ていたとは……」
「だぁぁぁっ! 目つきが悪いからって、間違えんじゃねーよっ!」
 武尊は涼に狙いを定めると、ライトブレードを放った。銃弾が涼に向かって飛んでくる。
「あぁ、もう人の話を聞けーっ!!」
 涼は横に跳び、銃弾を避けながら、走ってゴブリンたちのいる方へと姿をくらませたのだった。