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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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【野原キャンパス】吟遊詩人と青ひげ町長の館(前編)

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 13.夕暮れ

 野原キャンパスに、【青ひげ町長退治】組と【町民討伐隊】の生き残りが辿り着いたのは、日暮れだった。
 
 ■
 
 【町民討伐隊】はレン、紗月、千歳、唯乃、隼人の手により、保健室に運ばれ養護教諭をはじめとするスキルを持つ者達の手ですぐ処置が行われた。
「この分なら、明日1番で町のお医者様に見て頂ければ大丈夫!」
 養護教諭のお墨付きを得て、一同はホッとする。
「紗月さん、とおっしゃいましたね……坊っちゃん」
 紗月とアヤメに助けられた青年が、体を起して首を垂れる。
「すまねえ……俺達の所為で……お友達を酷い目に……」
「いいんだよ」と、紗月は努めて明るく振舞った。
「だって、これから俺達助けに行くし! 俺は強いし! アヤメだって強いから大丈夫だって!」
「……坊っちゃん方」
 今更遅いかもしれませんが、と彼は申し出た。
「あなた方はこうして我々を助けてくださった。口だけじゃなくて、御身を危険の中に晒してまでこんな俺達を助けて下さいました……」
「ああ、こいつだけじゃなく、わしらをじゃ」
 他の町民達も体を起して、首を垂れる。
「全くあんた方を信用せんかった、酷いことをしたわしらをじゃ」
「だから、わしらもあんた方を信じるよ」
 紗月達は目を瞬かせる。
 本当だよ、と彼らは言った。
「だから、これからはわしらも、あんた達のために手伝わせてくれ。何、町民達には、わしらが事の次第を話せば済むことじゃからな」

 彼らは確かに大きな代償を払った。
 だが、引き換えに「リトルブレーメンの町民達からの信頼」を勝ち得たようだ。
 
「だがアヤメやイルマもそうだが、【町民討伐隊】をはじめ森の中に残された面々もまだ数多くいる」
 レンは険しい顔をする。
「その問題を、今後どうやって解決するかだな」

 ■
 
 一方、ナナと行動を共にした陽太、透乃、エル、美央の4名はシイナに心苦しい報告をせねばならなかった。
「シイナ、よく聞いてちょうだい」
 美央からナナの携帯電話を渡されたシイナは、森での悪夢を聞かされる。
 ナナの蝋人形化のことも――。
「何だと!」
 案の定、シイナは激高して椅子から立ち上がる。
「それでおまえ達はナナを置いて森から逃げてきたというのか! ナナは……何も出来ない、ただの一般生徒なのにいっ!!」
 エルの胸倉を掴んで激しく揺さぶる。
「あの子は、おっちょこちょいで、人一倍運動音痴なんだ! それを……それなのにっ! 1人であの危険な森に行かせてしまうなんてっ!! 私は、ナナまでいなくなって……しまったら……1人に……」
 そこまで告げて、シイナは意識を失った。
 
「蝋人形化の影響が及んだみたいね」
 シイナさんは一般学生だから、クラスについている人たちみたいに訓練を受けてきてないしね――養護教諭はそう付け加えた。
 シイナは保健室のベッドで、こんこんと眠り続けている。
「ナナ……先輩……」
 シイナはうわ言を言い続ける。 
「シイナは『天涯孤独』だって、ナナちゃんが言ってたっけ」
 泣きそうな顔でエルはシイナの寝顔を眺める。
「ボクは……ボクは、何て事を!!」
「エルちゃん1人の所為じゃないって!」
 自分達だって! と陽太、透乃は声を上げる。
「ナナさんは、エリシアや陽子さんを捜しに森へ戻ったんですよ」
「そうだよ。だから『悪い』って言ったら、パートナーを守り切れなかった私達だって! 同罪なんだから……」
「シイナや皆のためにも、町長から仲間を取り返す方法を考えなくちゃ! ですな」
 美央が前向きな意見を出す。
 
 そうした次第で、彼らは町長退治の目標の下に結束を固めるのだった。
 
 ■
 
「そして、私達には難題がてんこ盛りね!」
 ブリジットを代表とする【百合園女学院推理研究会蒼空支部】は、町で仕入れた情報を基に思案に暮れていた。
「でもまずは、これが1番のネックだと思うのだけど……」
 と、携帯電話に収めた画像を見比べる。
 「ルミーナ」と「オルフェウス」の画像。
「まあ、勘なんだけれどもね」
 ブリジットは呟いて一同に目を向けた。
「でもね。これには私達他校生じゃなくて、蒼空学園生の協力が必要だわ」

 ■
 
 同じ頃。
 リカインは教室の空き部屋で、パートナー達からの報告を受けていた。
「という訳で、バカ女なしでも俺達は大活躍だったぜ!」
 な、とアストライトはヴィゼントやシルフィスティに話を振る。
「つまりは、人に話を聞くだけで役に立ったというのね?」
 ふわあーあ、とあくび交じりにリカインは成果をまとめる。
「上等よ。『努力は最小限にして、効果は絶大!』――これが1番だわ!」

 ■
 
 同じ頃。
 コハクに呼び出された美羽は、リカイン達とは別の空き教室にいた。
 コハクは人がいないことを確かめて、咳払い。
「『町の案内役』お疲れ様でした、て。僕からのプレゼント」
 ポケットから包みを差し出す。
 美羽が受け取ると、包みの中から鮮やかな色のリボンが手の平にこぼれ落ちた。
「例の洋品店で買ったんだ。美羽に似合いそうだったから……嫌?」
「ううん! そんなこと、ある訳ないじゃない!」
 美羽はうっとりとリボンを眺め続けるのだった。

 ■
 
 同じ頃。
 静麻、レイナ、保長、プルガトーリオの4名は、砂漠に到着していた。
「この辺りなのか? レイナ」
 静麻は周囲を見渡す。
 辺り一面の砂嵐だ。
「鏖殺寺院の砦跡って奴は」
「そう町の方々からうかがったのですが……」
 仕方がない、静麻は頭をかいた。
「こう見えなくちゃ、身動きもとれねえ。それに、そろそろ夜だ! 夜営の準備だ!」

 ■

 同じ頃。
「迷いの森」残され組の武尊、レアル、アリアは、相変わらず森の中にいた。
 その姿はトレント達の奇襲により「蝋人形化」されてしまった。
 もっともマッシュだけは、予告通り森の外に放り出されたようだ。
 
 彼の前に、1台の怪しげなトラックが立ち止まる。

 ■
 
 そして、宵闇間近の夕暮れ時――。
 野原キャンパスの病室では、やや回復したシイナを囲んで【捜査隊】の面々――綺人、クリス、ユーリ、朔、ブラッドクロス、梓、士元、エヴァルト、ロートラウト、恭司、悠、ミィル、メルティナ、椿姫、薫、イリス、刀真、月夜、美羽、コハク、明日香、そしてやや離れた位置から皐月が意見交換をしていた。
「どうやら、町長の背後には黒幕がいそうだな」
 結論に至ったところで、シイナは頭を抱え込んだ。
 
 彼女は幻影を見た。
 真っ暗な部屋の中に無数の蝋人形達が音もなく立っている。
 そして、その中で涙を流しているあの蝋人形は――。
「ナナーーッ!」
「え? ナナちゃん?」
 一同は驚いてシイナを見下ろす。
 シイナの幻影の中で、蝋人形のナナは辛そうに涙を流していた。
 その傍らに、ぼんやりと影。
 いや、奇妙な仮面をつけた男が立っている。
「おまえが、『魔術師』だな! ナナを、皆を町に返せっ!」
 シイナは怒鳴った。
 だが「魔術師」は舌を小馬鹿にしたようにペロッと出しただけで、彼女に要件のみ伝える。
 おそらくはナナの聴覚を使って、契約者の耳に届くように、と。
『今晩は、初めまして! 野原キャンパスの皆様方』
『そうそう、伝言しなくちゃ!』
『僕はですねえ、短気なのですよ。だから、明日の夕刻までに解決出来なければ、この子達全員ダークヴァルキリーの生贄として捧げちゃうからねえ〜』
「何だと! そんなこと、させてたまるものかっ!」
『そんなことも、こんなこともでも、このドクター・ペルソナの手にかかればお茶の子さいさいなのですよー』
 さり気なく名前を告げて、彼からの通信は途切れた。
「おい、おいっ! 答えろっ、ペルソナッ!」
 だが彼からのラブコールは入ることはなかった。
 
 ■
 
 重苦しい空気が張り詰める。
 と、その時――。
 コンコンッ。
 保健室のドアをノックする音。
 生徒の1人が開けると、「占い師」の女が立っていた。
「何をそんなに驚かれているのです?」
 彼女はおそらくは案内役として従えて来た宿屋のガードマン2人を表に晒せると、要件を切り出した。
「水晶玉に気になるお告げがありましたもので。御連絡に来たまでのことでございますよ」
「騙されるな!」
 エヴァルトは女を指さす。
「こいつは例の『魔術師』の知り合いだ! 町民達がそう話してたぜ」
 全員に緊張が走る。
「だいたいして、何しに来たんだ? しかも『魔術師』からの挑戦状が届いた直後にだ。おかしいじゃねえかっ!」
「アフターケアですよ」
 女は眉をひそめる。
「当世金払いのいいお客様なんて、そうそういらっしゃらない者でございますよ。当然ではございませんか」
 常人の極めて普通な反応に、エヴァルトは混乱する。
(この女? やはり只者にすぎなかったのか?)

 女は手短に告げると、「アフターケア」の言葉通り早々に退散した。
 彼女が水晶玉から得た予言は以下の通りだ。
 
 古代鏖殺寺院砦跡に行き、町長夫人の捜索を行うこと。
 上記は激しい戦闘が予想されるため、静麻達では手に余ること。
 森の謎を解くためは、ルミーナやオルフェウスの蝋人形が必要なこと。
 そのためには、館にとらわれたLC達、蒼空学園の野原キャンパス生、本校生の協力が必要なこと。
 もちろん、森に残された者達の回収も怠らないこと。
 
「やることが多すぎて、でもこの人数では少なすぎますわね。そして辺境の小さな禍の芽は、大国をも滅ぼしてしまうことをお忘れなきよう」
 では、と丁重に首を垂れて、彼女は町への道を急ぐのだった。
 
 夜が更けて行く――。
 
 完了

担当マスターより

▼担当マスター

大里 佳呆

▼マスターコメント

 シナリオへのご参加ありがとうございました。
 皆様の多大なご助力のお陰様で、動きと魅力を持った良い展開になったかと思います。
 
 今回の展開を踏まえ、次回シナリオの要点は以下のようになります。
  
 1.「迷いの森」攻略
 2.「古代の鏖殺寺院砦跡」攻略
 3.「魔術師」退治
 4.【町民討伐隊】隊員、町長夫人、町娘、蝋人形化されたPCの救出
 5.「解呪薬」の入手
 
 上記を攻略し、町に平和を取り戻してハッピーエンドに導けるよう頑張ってください。
 ヒントは、今回のシナリオの各所にございます。
 次回シナリオガイドと共にご参考になれば幸いです。
  
 また以下は、次回も参加される方への注意事項となります。

 ※蝋人形化されてしまったPCについて:
 蝋人形化された状態での参加となります。
 この場合、意思疎通は対象PCのLC、もしくはMCのみ可能となります。
 また身動きは出来ませんが、視覚、聴覚を使うことは出来ます。
 結末近くにありましたナナとシイナのやり取りが、アクションの参考になるかもしれません。

 ※LC、もしくはMCが蝋人形化されてしまったPCについて:
 体調不良を起こし、HP、SP共に半減致します。
(SPリチャージ等の回復系スキルを使用しても、最大値は半減したまま変わりません)
 体力消耗が激しいことから、長くは戦えません。
 戦闘開始後はSPを必要とするスキルやアイテムは使えず、HPも1分間につき1HP減って行きます。
 また、次回が初参加となるLC、もしくはMCも同条件となります。

 以下は、「称号」についての解説となります。
 
 ※【リトルブレーメン町民相談役】の称号を受け取られた方へ:
 町民達からの尊敬と信頼を受けた証です。
 以後「リトルブレーメン」で事が起きた時には、町民達から相談を受けるPCとなります。

 後編のシナリオガイドは近日中を予定致しております。
 皆様のご参加を心よりお待ち致しております。

※数名の方に称号を送らせて頂きました。ご確認ください。
※4月2日、口調等を訂正させて頂きました。
 大変申し訳ございません。