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リアクション
■
クイーン・ヴァンガードの朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)はヴァンガードエンブレムをチラつかせ、地球人ながら「入隊している」ということを強調し聞き込みを行っていた。
ツァンダ家の威光と権威を利用し、町民達から聞き出そうとしたのだ。
だが逆にそれが反感を招いたのか、町民達は(確かに石つぶてこそ投げてこなかったが)黙して語らずのまま歩き去って行ってしまう。
「やはりツァンダ家をもってしても、町民達の迷信は揺るがないのか……」
諦めかけた時、民家の窓から皺くちゃな手が見えた。
手招きしているようだ。
「わ、私でしょうか?」
「そうじゃ、さ、今のうちにお入り!」
老人の声だ。
周囲に人がいないことを確かめて、千歳はすばやく老人の家に飛び込んだ。
「あんた! ツァンダのお嬢様の威光を、そう軽々しく振りかざしちゃいかんよ!」
老紳士は脚が悪いようだ。
車椅子に座ったままの格好で、千歳に意見する。
「逆効果にもなりかねん。閉鎖的で保守的な田舎町の住人達の石頭は、それくらいのことじゃ柔らかくなりはせん」
「ではなぜ、あなたは私を招き入れたのです?」
「うん、なぜかのう……」
彼は先程公園近くの歩行者天国で、地球人の一行が「迷信に対する誤解を解くための講座」を開いていたことを述べた。
「まあ、あんなに一生懸命パラミタ人達が説得していたからな。地球人に洗脳されているようにも見えなかったし。聞く耳を持ってもいいかなと思ったまでのことさじゃ。だがわしみたいな変わり者は少数派でな、残念なことに」
「そうでしたか……」
それはおそらくシイナ達の方だろうな、と千歳は察した。
「ところで御老体。先程私が聞きまわっていた件ですが、『迷い森』、もしくは『町長』のことについて、何か御存じありませんでしょうか?」
「ああ、それな。町長は知らんが、森のことなら年の分だけ詳しいかな?」
そうして千歳は老人から古い情報を仕入れた。
「『迷いの森』の森の魔力については鏖殺寺院も注目していた、というのか……」
民家を出た千歳はヴァンガードエンブレムをしまいつつ、思案に暮れていた。
その昔、この地で鏖殺寺院が暴れた時、彼らがその魔力に大いに興味を持っていた、というのだ。
「これは我々の想像以上に、面倒な事件なのかもしれないな……」
千歳はシイナ達と情報の交換をした後で、そうだ! とパートナーにも連絡を入れた。
「イルマ、やはりツァンダ家の威光と権威は利用しない方がいい。逆効果になる。ああ? ……そうか、大変そうだな。今からそちらへ向かう。」
■
レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)、神曲 プルガトーリオ(しんきょく・ぷるがとーりお)は町の路上で聞き込みを行っていた。
もっとも主に仕事を行っているのはレイナで、他の2人は日和見に徹している。
服部 保長(はっとり・やすなが)と契約者の閃崎 静麻(せんざき・しずま)に至っては、これ幸いとばかりに酒場に入り込んでしまった。
「まったくもー! 何で私ばかりがこき使われなくてはならないのですか! 不公平です!」
何のんびり魔道書なんか見ているんですか! と、プルガトーリオを追いたててみるも。
「えー、だって私は地球産の魔道書だもの。相手にされないんでしょ?」
(じゃあ、何でついてきたんですか!)
レイナは拳を震わせ……されど、情報収集を開始する。
テキパキパッキン! とした彼女は、手当たり次第に町民達に尋ねてゆく。
「レイナ! 集めるのはあくまでも町長のパートナーの町長夫人のことだからねえー!」
かなり暇と見えて、適当なところでプルガトーリオがチャチャを入れてくる。
「あ、それと実力行使が必要な時は言ってね。これで応戦するから」
嬉しそうに火術の小さな火を手のひらにちらつかせたり。
(くうっ! 後で覚えてなさい!!)
口角をヒクつかせつつ、レイナは次の情報収集へと移るのだった。
■
その頃、契約者の静麻と保長は酒場のカウンターでのんびりグラスを傾けていた。
もっとも静麻は端の目立たない位置で静かにしている。
彼の身を案じつつ、周囲に耳を傾けて情報を探っているのは女盗賊の保長だ。
彼女は脚を組んで、色っぽい視線で周囲をゆっくりと見回す。
バチッとウィンク。
ドギマギした客達は、自然と声が大きくなり、その話は静麻の耳にまで届くのであった。
「つまるところ5点でござるな、静麻殿」
情報があらかた出尽くしたところで、保長は静麻の耳元で囁いた。
「第1に、謎の『魔術師』がどこぞにいて、酒場に飲みに来た時『ダークヴァルキリーと生贄の件』について話していたこと。
第2に、その男は『迷い森』の魔力を自由に使う方法について長い間1人で研究していた、ということ。
第3に、その男の話によると、森の中に『蝋人形化』する泉があるらしい、ということ。
第4に、泉の水によって蝋人形となった者は『解呪薬』でないと元に戻らない、ということ
第5に、その薬はすでに『魔術師』が開発していて見せびらかしていた、ということ」
「夫人については収穫ゼロ、か」
「焦らないことでござるよ、静麻殿」
「煮え切らねえ話だねえー」
静麻は頭をかいた。
そうでござるな、と保長は相槌を打つ。
「『魔術師』なる青年が鏖殺寺院を頼ったのは、町民達から変人扱いされたから。村八分にされて、食うに困ったからでござるからな」
「不思議の森を研究するのが、変わり者だというのかい?」
「人とは、風変りを嫌う生き物。日々平穏、それが1番と大抵は考えるものでござる」
「では俺達も『変人』だ。退散するとするか」
静麻が腰を上げたのは、酒場の客達が異様な剣幕で近づいてくるのが見えたから。
「こんの、人攫いがあ!」
男がスツールを持ち上げ、静麻目掛けて振り下ろそうとする。
止めたのは、マスターだった。
「地球人に出す酒はないよ、出てってくれ!」
冷たく言い放つ。
「表は目立つ。裏口からだよ!」
荒々しく追いたてられて、静麻達は裏口から放り出される。
パタンッと扉のしまる音。
裾を払って、保長は立ち上がった。
「何という酒場でござるか! 酒好きに地球人もパラミタ人もござらんではないか!」
「いや、あの店主は『変人』だぞ、保長」
メモ紙を拾い上げて、静麻は口角を吊り上げる。
「オルフェウスの友人の家が分かった。シイナ達に連絡だ」
■
その頃、アイナ・クラリアス(あいな・くらりあす)は1人町の裏通りを歩いていた。
「隼人。私、囮役になるわ!」
そう彼女が契約者の隼人に切り出したのは、1時間前。
「事件に迫る事で、犯人が私を攫おうとする可能性は高いと思うの。犯人が私に手を出してきたらその時は、隼人と一緒に犯人を捕まえる。いい?」
「そういった次第で、わざわざ裏通りを歩いている訳なんだけど……」
アイナは溜め息をついた。
「そうそう上手くいく訳がない、か。敵さんだって、頭悪い訳じゃないんだし」
けれど彼女の溜め息が多いのは、結果が出ないからばかりでもない。
「わっ、私もルミーナさんを助けたいと思うから危険な役をこなそうと思っただけよ! べっ、別に隼人がルミーナさんの事ばかり気にかけているから…私も気にかけて欲しいとか、攫われた私を助けにくるのかを確かめたいなんて。これっぽっちも思ってないんだからね!!」
一気にまくし立てた後で、隼人はこう言ったのだ。
両手をガシッと掴んで。
「ありがとう、アイナ! 俺のルミーナさんのことを、そんなに思っていてくれてたなんてさ! 感激だぜっ!」
……で、現在に至る。
「あんの、朴念仁のオタンコナスッ!」
ああ、思い出しても腹が立つ。
「でも、オートマッピング機能だけはONにしておかないとね」
いざという時のためにと思う。
アイナは銃型HCを操作して、先を急いだ。
その後ろ姿を見かけて、仲間の士元が呼び止めようとする。
「アイナ君! 待って……」
だが言葉は最後まで吐き出されることはなかった。
体が思うように動かない。
末端からしびれてくる、この感覚は。
(しびれ薬とは……何者?)
「俺だよ、悪く思わないでね、オッサン♪」
スイッと士元を追いこして、マッシュが駆けて行く。
そして何食わぬ顔してアイナに接近し、笑顔で語りかけるのであった。
「あ、俺も襲撃犯を捕まえようと行動してるんだ。奇遇だね。へえ……裏道にはもう行ったんだ。じゃ、町の外でも歩いてみよう! 同じことをしていても、結果は出ないしね」
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