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KICK THE CAN!

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KICK THE CAN!

リアクション


・高層ビル街2


(あ! 缶蹴りの事忘れてたにゃ〜。葵はまだ捕まってないよね?)
 ビルの陰に隠れていたのパートナー、イングリット・ローゼンベルグ(いんぐりっと・ろーぜんべるぐ)が、思い出したかのようにはっとした。
 隠れてお菓子タイム、な事をしている間に攻め込むのを忘れてしまったらしい。よくこれまで見つからなかったものである。
 参加者リストらしきものを見る。
(あれ、捕まっちゃってる……)
 葵が捕まってしまっていることを知る。こうなったら自分でいくしかない。
 ところが、ルールが曖昧だったため、今一度確認する。
(読むの面倒だにゃん。ようは捕まらず缶を蹴れば良いんだよね)
 読む事に挫折し、勝手に納得する。
 そして、夜の帳の中へと駆け出していった。

            * * *

「参加者リストを見てみろ、もうかなり捕まってるぞ」
 林田 樹(はやしだ・いつき)が口を開く。この時点では、まだ他のエリアの缶が蹴られてはいない。
 とはいえ、自分達のエリアの人間は半分近くが捕まっている。
「そろそろ俺達の出番のようだな……って目そらすなよ!」
 彼女の傍らにいたのは、薔薇学マントに赤マフラー、赤い羽の仮面を被った全裸の男、変熊 仮面(へんくま・かめん)である。そりゃ女性の樹からしたら目をそらしたくもなるだろう。
「……ああ。そうだな。コタロー、起きてるか?」
 樹が胸元で寝ているパートナーの林田 コタロー(はやしだ・こたろう)を突っつき、起こす。
「う? ……ねーたん、おきてるお」
 コタローは寝ぼけ眼だ。
「ほんとかー? まあいい、守備側の配置分かるか?」
 パートナーの捜索技能を生かしての索敵を試みる。が、彼女は地図を持ち合わせていないので、
「裸男、ちとそれ貸せ」
 変熊 仮面の持っていた銃型HCをぶんどる。そこのデータからビジネス地区の地図を見つけ、コタローに見せる。
「てきしゃんは、ここと、ここと、ここれすー」
 ビル街の地図の中であてをつける。とはいえ、情報撹乱を守備側が使っているので、GPSとマッピングデータによる照合では正確な居場所は掴めない。むしろ罠に嵌まる危険もある。
 とはいえ、さすがにそんな事は思いつかない。
「さんきゅ、コタロー。んじゃ、行くか」
 樹とコタローが、地上から缶のあるビルへと進んでいった。
 そして変熊 仮面が気合を入れる。

「さあ、攻撃開始だ!」

            * * *

(いけそうだけど、さっきのを考えると……難しいですね)
 浅葱 翡翠(あさぎ・ひすい)は貿易センタービルに隣接するビルの屋上からスナイパーライフル越しに缶の周囲を見渡す。その背にはパートナーの九条 葱(くじょう・ねぎ)がいる。
 そこまではもう一人のパートナー、スワン・クリスタリア(すわん・くりすたりあ)の空飛ぶ箒に二人乗りしてやってきたのだが、元々一人乗りなので高度が保てなかったのだ。
 最初に見た時は大量のポリバケツ群があったが、少し前の攻撃側の突撃によってそれらは大破していた。
 しかし付近には二人、100メートル圏内で見ればもう一人いる。
 迂闊に飛び込むわけにはいかない。いざという時はこちらとの接触による直接攻撃判定での反則に持ち込む可能性だってある。
 
「わーっはっはっ!」

 突如謎の笑い声が響いてきたのは、そうやって状況を窺っていた時の事だ。
(敵……味方?)
 訝しい表情を浮かべる翡翠。
 さらに、
 
 ズゥゥゥン……、ズゥゥゥン……

 巨大な何かが歩いているような、そんな音まで聞こえてくる。
 100メートル圏内にあるビルの一角、そこからそれは現れた。暗闇に光る青い眼光、その正体は体長18メートルの巨大熊、変熊 仮面のパートナー、巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)である。光学迷彩でそこまで近付いていたのだ。手にはスピーカーが抱えられており、そこから笑い声が流れていたのである。
 なお、18メートルといえば、最初に捕まったドラージュと同じである。捕獲者の控室に入れないためビルの前にいるのだが、彼らがビル街にいる様は奇妙としか言えない。ここにヒーローが表れでもしたら、それこそ完全にニ十世紀に人気を集めていた特撮映画である。
 だが残念な事に、このエリアにだけ偽者のヒーローさえもいなかった。
「グモモォォォウッ!!」
 イオマンテの巨大な咆哮。その音はビルをも揺るがした。
 だが、その姿はあまりにも目立ち過ぎた。
「巨熊 イオマンテ!」
 当然ながら、コールされてしまう。100メートル圏内で、しかもその巨体を考えたら見つからないようにするなど不可能だ。
 だが、守備側がそちらを向いていると、

 ドドドドドドド……

 今度は動物の群れだった。馬とか鹿とか鹿とか馬とか、その辺りの動物が一気になだれ込んでくる。
 変熊 仮面の野性の蹂躙によるものだ。
 ビル街の地上、道路を駆けてやってくる。とはいえ、直接缶のある正面玄関まで特攻するのは難しい。
 道は狭いのだ。
 パワードスーツを着た瑠璃が動物を止めにかかる。遙遠もまた、それをアシストする。
(行くなら今、ですね)
 その様子を見た翡翠が、攻撃に移る。缶の守りをしている霞憐も、ずっと缶を踏んでいるわけではない。
 スワンの箒に飛び乗り、落下していく。定員オーバーである事と、意図的な落下であること、それらが合わさり速度は次第に増していく。
 その勢いのまま、地面が段々と近付く。20、10……
「よっし!」
 ブレーキをかけるスワン。だが、落下そのものは止まらない。そのまま滑空するように缶と、それを守る霞憐の上を飛び越えるようにしてその場を離脱する。
「うわっ!」
 さすがに至近距離を高速で抜けていったために、後ろへのけ反る霞憐。
 だからこそ、見逃してしまっていた――減速する寸前に、翡翠が飛び降りたのを。
(狙い通りです!)
 地面に着く前に超感覚とバーストダッシュを使用。そのまま着地するとすぐ、勢いが死ぬ前に片足を軸足として独楽の様に一回転をする。
「頼みます!」
 さらに回転による勢いも加わり、ハンマー投げの要領で翡翠が葱を缶に向かってぶん投げた。
 綺麗なとび蹴りの形を維持したまま、音速の如き速さで缶へと飛び込んでいく。ハーフフェアリーである事も生かし、羽根を使って態勢を整えもした。
 しかし、速過ぎるとかえって目標との誤差が生じた場合、直前での修正が効かなくなってしまうものだ。
 彼女の足が、缶のわずか10センチ上を勢いよく通過してしまった。
 ただし、勢いがあったため、はっきりと顔が見えずにそのまま闇の中へとフェードアウトする事が出来た。
(く、しくじりましたかッ!)
 翡翠の方は、回転した後、バックステップで100メートル圏外まで離脱する事に成功する。
 そのままスナイパーライフルで狙撃態勢を整え、シャープシューターで狙いをつけて缶を狙撃した。
 
 カン!

 それは確かに当たった。
 缶の周囲に張られた氷術の氷に。
「危なかったぜ……!」
 葱が缶の真上を通過した際に、霞憐が咄嗟に氷術を繰り出していたのだ。発動が遅れたのは、その前にスワンが通過した時、転倒しかけたためだ。
(ここは大人しく一時撤退です)
 翡翠は撃った直後にはもうビルの死角まで離脱していた。

 その彼と入れ違いで、別の人物が缶へ向けて走ってくる。
「イングリット参上にゃぁ!」
 幸いにも、隠れていたのが100メートル圏内か、それに近い場所だったのだろう。堂々と姿を見せ、そのまま一直線に缶へ向かっていく。
 だが、缶を踏める人間の前で堂々と名乗ったのだから、結果は明らかだ。
「イングリット・ローゼンベルグ!」
 あっさりと捕まってしまう。
 しかし、缶を蹴りにすぐそこまで迫っている人は、他にもいたのである。

            * * *

 数刻ほど遡る。
真人セルファは、着実に缶へと近付いていた。
(静かですね)
 物音がした場所を避けるように進んできたため、今は何も聞こえてこなかった。
 だが、それこそが罠だった。
 光学迷彩を使用し、姿を消した亮司がすぐ近くにまで迫っていた。
 現在彼らがいるのは、裏通りに当たる場所だ。袋小路とまではいかないが、通路は狭いため、挟み撃ちが可能である。
(……っ!)
 真人が背後からの気配に感じた。
(来ましたか)
 守備側が近付いてきたと感じ取る。幸い、気付かれたのは自分だけで、セルファは大丈夫なようだ。
 缶までは距離があるが、ここで守備を一人引きつけておく方が無難であった。
 しかし、その時である。
 光術が展開された。
 フードを目深に被っていたこともあり、目晦ましそのものは逃れる事が出来た。そのままバーストダッシュで一気に100メートル圏内まで入ろうとする。
 だが、
「捕まえたぜ」
 足元の辺りに、守備の一人ジュバルがいた。カモノハシの姿をしたゆる族あり、背も1メートルに満たないため、下から真人の顔も覗き込めた。なお、彼もまた光学迷彩を使って姿を消していた。
 挟み撃ちする二人が、ともに目に見えなくなっていたのは、さすがに予想外だった。
「御凪 真人!」
 だが、真人の顔には余裕の色があった。
(今のうちです、頼みましたよ、セルファ)
 彼が注意を引きつけている間にセルファは包囲を脱出していた。
 それから時間は多少掛かったが、彼女は100メートル圏内へ入り込む事に成功する。
 
            * * *

 樹とコタローは、守備のいる場所を避けるように進んでいる、はずだった。
 タタタ、と近くを走っているらしき音が聞こえる。
(こっちはまずそうだ。迂回するぞ、コタロー)
 音の正体は、シオによる誘導のためのものだったのだが、単に守備側の人間がいる、としか彼女には思えなかった。
 そしてそのまま、亮司とジュバルの挟み撃ちコースへと侵入してしまう。
 真人が捕まってからはそれなりの時間が経過している。
(まずい、囲まれたか?)
 樹も光学迷彩を使っているものの、周囲には人の気配があった。だが、相手は見えない。
(コタロー、危険だ、バニッシュで目晦ましをして逃げるぞ……)
 だが、相手の光術の方が早かった。
 光学迷彩を着ていても、そこに人がいれば影は出来る。
(まずい!)
 挟み撃ちだ。二つの影が見えた。
「……はふっ、あぶにゃいの!! くりゃえ、クロスファイヤー!!」
 突然、コタローがクロスファイアを使う。が、弾丸は敵の方へは飛ばない。むしろ、上空への威嚇といった形だ。もし意図せずとも守備側に当てたら反則である。
 音で亮司達が一瞬怯む。
 その隙を見て、全力で離脱する。100メートル圏内に入れるかが勝負だ。
「よし、なんとかなったな」
 どうにか足を踏み入れる。
「……ねーたん、たすかったお。……にゃむー、にゃむー」
 コタローは寝ぼけているようだった。先程の行動もそれゆえだったのだろう。
「って、何で寝ぼけているのにあんな事が出来たんだ? まあいい、敵も撒けたし、もう缶もすぐそこだ」
 ちょうどその時、笑い声が響き、巨大な熊が現れた。
 だが熊は捕まり、その後上空から箒で何者かが下りて攻撃を仕掛けたのは見る事が出来た。
 さらに、動物の群れ。その中には変熊 仮面も混ざっていた。
「裸男、上手くやっているようだな。コタロー、出番だ、飛んでけ!」
「こた、ほうきれ、かんまれ、とんれくおー」
 自らにパワーブレスをかけ、コタローを乗せた空飛ぶ箒を缶に向かって投げた。
 それとほぼ同時、
「もらったぁ! シュートォォォ!」
 動物の中から変熊 仮面が飛び出し、缶へ向かってジャンピングキック……したが、蹴り飛ばしたのは氷だった。
 氷が割れる。
(林田 樹、後は任せたぞ……)
 反動で後ろへと、飛んでいく。
 宙を舞いながら、変熊 仮面は思う。自分が呼び出した動物を見ながら。
(あ〜、操る人がアレだから馬と鹿ばっかりだったのか……)
 まるで自分が馬鹿だから、その名の通りのものが来たというように。確かに、彼の行動はあまりにも突拍子もないものだった。納得する者もいることだろう。
「そこっ!納得するな!」
 何者かにツッコミを入れつつ、彼は倒れゆく。
(林田樹、後は任せたぞ……)
そして今度は箒が缶へと突っ込んでいく。
「ダメなの!」
 だが、そこへ瑠璃が躍り出る。
(あ、みつかりそうだおー。これで……)
 煙幕ファンデーションを使って、目晦ましをするコタロー。そのまま瑠璃との激突を避ける。しかし、
『霞憐、もうすぐ林田 コタローさんの姿が見えます』
 少し離れたところにいる遙遠に姿を見られていた。
 缶を踏みに行く霞憐。
『あと、上空からセルファ・オルドリンさんが来ます』
 上を見上げる。もう二回も上空からの攻撃で危機に瀕しているのだ。さすがに三回目はない。
「え、気付かれてたの!?」
 バーストダッシュで宙から下りてきたセルファが驚く。上からの攻撃を警戒しているとは予想してなかったのだ。
 もし、彼女が最初に飛び込んでいれば成功していたかもしれないだろう。
 意外と忘れがちな事だが、ヴァルキリーはわずかながらにも空が飛べるのである。
「セルファ・オルドリン!」
「林田 コタロー!」
「変熊 仮面!」
 缶の周囲に出た者達が一気に捕まってしまう。
「くそっ……」
 樹は破壊工作でコタローを援護しようとしたが、さすがに距離があり過ぎた。
『林田 樹さんも近くにいます』
 遙遠には姿が見られている。ただ、霞憐に見られていないのが救いだ。
しかし、遙遠が自ら踏みに行った場合、コールは成立する。
(この状況では仕方ありませんね)
 霞憐を信用してはいたが、捕まえられる人間は捕まえといた方がいい。
「林田 樹!」
 
 エリア1、残り三名。ここに他エリアの生き残りが合流し、最終決戦となる。