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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

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ネコミミ師匠とお弟子さん(第2回/全3回)

リアクション


第1章 森のラジオ体操


 大江戸 ゴビニャー(おおえど・ごびにゃー)はくんくんと、水分を多く含んだ森の朝のにおいを鼻いっぱいに吸い込んだ。格闘家の朝は早く、日の出とともに蒲団から抜け出して走り込みをするのが日課だった。
「にゃん?」
「ひょーほっほ! ゴビニャー殿、お早いですな。少しばかり、鍛練を共にさせて貰うていいかの」
 水洛 邪堂(すいらく・じゃどう)は瞑想していた岩の上から軽い身のこなしで地面に着地し、軽身功を使って器用に川を越えた。早朝4時から鍛錬をしていたようですっかり目が覚めている様子だった。
「おはようございますにゃ、邪堂殿」
「おっす。ゴビニャー! ちょっと聞きてぇ事があるんだが今大丈夫か?」
「もちろんですにゃ、一緒に走る人が多いのはうれしいですにゃ!」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はゴビニャーに用があって早朝の時間帯に訪ねてきたらしい。格闘家同士が集まることも珍しいので、3人で走り込みをしながら会話を楽しむことにした。規則正しいリズムでヴァイシャリーの湖付近を走りこむ。
「ゴビニャーこの前は修行に付き合ってくれてあんがとうな!」
「こちらこそ勉強になりましたにゃ。邪堂殿やラルク殿の拳は格闘家の魂を感じますにゃっ」
「それでなんだが……あの時の修行で戦ってみてどうだった? 今後の修行の参考にしてぇんだ。気になる所があったら言ってくれ」
 ゴビニャーは隣の邪堂に視線を向ける。おそらくラルクは自分より彼のほうにタイプが近いはずだ。
「ラルク殿の戦い方は自分があってとてもいいと思うにゃ。ただ、私のように小回りが利く相手は地形を生かして戦うものだにゃん。逆に力が強いラルク殿なら……」
 ゴビニャーが言うには、敵が複数いる場合など相手の行動範囲のほうが広い場合は退路を限定させるのは有効だそうだ。相手の背後に壁がくるように気をつけたり、岩を壊して道をふさいだり。
「……ここぞって時に大ぶりになっちまうんだよな」
「わしも豪の拳寄り。後の先を極めんとする為には柔の拳も学びたい」
 邪堂は茶目っ気あふれる笑顔を若い格闘家に向け白い歯を見せる。裸の上半身は年齢を感じさせない張りのある筋肉を保っている。
「とは言え、人の拳は百人百色。ゴビニャー殿の拳を学ぼうとは思うとらんぞい。ただ、こうして鍛練を共にすれば閃くものもあると思うての。ほっほっほっ」
「そっか……サンキュな! いい参考になった!!」
 ゴビニャーは、前回の邪堂の戦い方を思い出した。
「邪堂殿は牽制を忘れないところに隙のなさを感じましたにゃ。私にはお2人のような腕力はにゃいので、遠当てで攻撃を相殺させることが多いですにゃん」
 肉球拳法の究極奥義『肉球パンチ』は遠当てを肉球のように展開することにより、バリア効果を生む技である。通常の遠当てが水風船をぶつけるものならば、肉球パンチは投網で魚を捕まえるのに似ていた。威力は軽いが邪魔なのだ。
「引退しなさったと耳にしたものの、あの動きを見ておる限り、衰えは全く見えんのう」
「終わりのない生き方ですにゃ」
「ゴビニャー……次こそはお前に一泡吹かせるぐらいに強くなってみせるぜ! だから、また機会があったら戦おうぜ! 拳と拳でな!」
 球に立ち止まったラルクは右こぶしをぐっとゴビニャーに突き出し、ゴビニャーもこぶしを作ってぽふっとそれに応えた。
「……まだまだ、若い人には負けないですにゃ!」
「ひょーほっほっほ!」


「わーっはっはっ! 弟子に入学祝いとは殊勝な心がけだな!」
 変熊 仮面(へんくま・かめん)は木漏れ日を背に受け、大きな木の上でフライングラジオ体操を始めていた。いつもどおり全裸に薔薇学マントだが、全裸で木登りは痛くないのだろうか。関係ないか、変熊仮面だものね。
「フフフ……美しい俺様の体操を見てる! 見てる!」
 ラジオ体操に早めに集まっていた森の動物たちは変熊を物珍しそうに眺めていた。うさぎの母親は子供の両目をふさいでいる。
「並木がバカ実行くのは当然だにゃ〜」
 変熊が上っている木の近くにある箱からにゃんくま 仮面(にゃんくま・かめん)がぴょこっと顔を出し、にんまりと笑って上を見上げた。
「変熊師匠! 準備できました!」
「うむ!」
「前回の足し算ドリルを見て困った顔ときたら……。ククク、今回はかけ算取ドリルで苦しめてやるのにゃ」
 箱から足を出してテケテケと走り、今日の作戦をおさらいするにゃんくま。今回のミッションは並木に取り入って肉球拳法をタダで習えるように自身を売り込むことだ!
「あ〜。美しい俺様がプレゼントとかいうのは間に合ってるにゃ」
「なっ。にゃんくまはエスパ・・・・・・ァァアアアアアア!?」
 変熊バランスを崩して地面に激突、なんて無様な真似はせず薔薇学のマントをももんがのごとく広げてふんわりと着地した。問題は毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)がゴビニャーと勝負しようと着地先で待機していたことである。
「またか……前回並木との組み手を邪魔した誰かさんは殺す」
「へ?」
 毒島はしびれ粉で変熊の自由を奪った。
「その粗末なポークピッツを削ぎ落としてやるよ!」
「ぎゃ、ぎゃああああ!!! にゃんくまあああ!!!」
 つぶらな瞳にふかふかバディーのにゃんくまは、ティーカップパンダのベルカナを頭に乗せたプリムローズ・アレックス(ぷりむろーず・あれっくす)ライラック・ヴォルテール(らいらっく・う゛ぉるてーる)に両サイドから抱きつかれて窒息寸前だった。
「きゃ〜、かわいい〜!」
「おっきい猫さん可愛いです」
「ぺっ! お姉さん……鼻毛にハナクソついて、もごもご!!」
 毒島はにゃんくまにもしびれ薬を使いさるぐつわをかませた。この獣人も実験に使えそうだが、これはプリムローズとライラックに預けて変熊から先に……。
「どーしよーかなーっと・・・・・・」
 毒島は変熊のマントを引っ張ってずるずると森の奥に引き込んでいった。その手には銀色に光るメスとなぞの注射器がにぎられている……。猫にしびれ薬はかわいそうだと思ったプリムローズはライラックにナーシングを頼み、食べ歩き用に持っていたお菓子を与えることにした。
「他のプレゼントがあってはまずい……と、師匠も言ってたにゃ! やけ食いにゃっ。あむあむあむ!!!」
「プレゼントは、全員で渡しに行けばいいんじゃないですか?」
「……和みます」
 遠くから見ているとかわいい女の子2人と猫1匹のほのぼのした風景だった。


 走り込みを終えたゴビニャーは森のラジオ体操に向かった。そうだ、並木へのプレゼントも考えないといけない。何にしようかと悩んでいるうちに到着してしまったが……おや? 風森 巽(かぜもり・たつみ)が中央で何やら叫んでいるようだ。菩提 達摩(ぼーでぃ・だるま)はその横で座禅を組んでいた。
「ツァンダー体操1番っ! いっきまぁ〜……ああ!? やめて、物を投げないでっ!?」
 ど、どうやらオリジナルの体操を広めようとしてもめているようだ。りすからはどんぐりを投げられ、鹿からは頭突きをくらっている。達磨はその横で座禅を組んでいた。七瀬 歩(ななせ・あゆむ)七瀬 巡(ななせ・めぐる)桐生 円(きりゅう・まどか)とラジオ体操に参加しており巽を助けてやりたかったのだが、丁度ゴビニャーが到着したのでほっと胸をなでおろした。
「みんな、も、もうその辺にしてあげるにゃ!!」
「弟子の事で頭を悩ますのも、師としての悩みでもあるが、幸せでもありますからのぅ」
 何もしなかった達磨はかかか、と笑い坐禅をやめてラジオ体操の集まりに参加した。ゴビニャーは軽く挨拶をすると、お互い弟子を持つと大変ですにゃーと世間話をする。
「ラジオ体操はもともと地球の体操だから、お手本になるくらいしっかり頑張ろうっと」
「体操終わったらスタンプ欲しいな〜」
「スタンプ……地球にはそういう習慣があるのかにゃ? 今度作ってみるですにゃ」
 積極的な歩とは対照的に円は木陰で居眠りをしていた。巡は歩の動きを見ながら一拍おくれた動きでついていっている。
「大きく体を回してー……。ハッ! これだ!」
 巽はうるさくして熊に殴られた。
 ラジオ体操が終わると巽はゴビニャーのもとに向かい、希望に満ちた瞳で新技開発に着手する。
「ゴビニャーさん、いえ、マスター・ゴビニャー! 極意! 我に、キャット空中3回転の極意を! 教えてくだされぇぇぇぇ!」
「にゃ、にゃんですか。それは」
 オロオロしている間に円と歩が近づいてきて、前回モフモフされたゴビニャーはギクリとした様子でひげをピンとさせた。いつでも逃げられる態勢でちらっと2人を見る。
「ごめんねゴビニャーくん、この前は勢いでモフモフしたけど反省してるよ……それでさ今日は謝りに来たんだ……」
「あたしも前回失礼しちゃったのを謝りたくて……」
 ごめんなさい、と頭を下げられて困ってしまったゴビニャーは2人にどう声をかけていいものか迷ってしまった。
「そ、そうだにゃ! 一緒に並木君へのプレゼントを考えてほしいにゃ!」
「入学祝? 一緒に考えたら、教えてくださいますか!」
 お、教えるも何もキャット空中3回転なんて技は知らないのだが……。達磨は慣れているようで弟子の無茶苦茶は受け流すようだ。
「この年になってなお、弟子に教わる事も多いですからのぅ。いやいや、わしも負けてはおれんですわ、かっかっかっ」
「そ、そうですかにゃ」
 少し離れた場所におり、彼らの会話が聞こえた漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)はパアッと顔を輝かせた。傍らの樹月 刀真(きづき・とうま)は猫好きの彼女に心配そうな声をかけた。
 しかしその声は彼女の耳には届かなかったようで、三段跳びで駆けてゆく。
「月夜、いきなり飛び掛かるなよ? ……って、言ってるそばから」
「にゃ、にゃにゃ!? あ、あの時のお嬢さんにゃーん!!」
「ゴッ・ビッ・ニャ〜っ! ……ギニャ!?」
 奈落の鉄鎖を使われ受け身が取れず、地面に顔からぶつかった月夜。おでこが赤くなっており、刀真を恨めしげな眼で見ていた。
「刀真……顔が痛い」
「人の言う事を聞かない君が悪い」
「助かったにゃー」
 月夜はゴビニャーに抱きつきたくてうずうずしているようだが、刀真が今度ねこのぬいぐるみを買ってやると約束してくれたので一応我慢することにした。

「そうですね、修行に役立てて、女の子らしいモノって感じで、髪留めとかどうですか?」
「確かに修行をする時は髪を纏めていた方が良いですし、いつも身に着けられる物を師匠から貰ったとなれば彼女も喜ぶと思いますよ?」
 巽と刀真の男性陣は実用性もある髪留めを候補に挙げた。
「あたしがオススメしたいのは……じゃーん、ゆるスター!」
「えへへ、こっちはボクのウサギー。可愛いでしょー?」
 歩はゆるスターをどこからか取り出すと手の上に乗せて優しくなでた。巡もウサギを出すと地面を散歩させている。
「並木さんにとっても守れる物があった方がいいんじゃないかなって」
「なるほどにゃー……でも」
「あれれ?」
 歩のゆるスターはゴビニャーの姿を見るとプルプルと震えて、彼女の服にしがみついていた。どうやら巨大な猫がいると勘違いしたらしい。困ったにゃん。
「あえて言おう女の子らしいものを選ぶべきと。それでこんなものを用意してみましたよ」
 続いて円はピンク色の肉球グローブを取り出した。
「かわいいだろこれ! つけてみると絶対恥ずかしいけどかわいいよこれ。女の子らしいでしょ? そう思うよねゴビニャーくん!」
 流行に疎いゴビニャーは年頃の女の子はこういうものが好きなのかと考えたが、丁度月夜が並木と慎重が同じなのに気づく。
「お嬢さん、このグローブをつけてみてくださいませんかにゃ?」
「ちょうど友人からもらったネコミミも持っていますよ。ほら、月夜」
「……にゃ〜」
 月夜はピンク色の肉球グローブにネコミミを装備してみる。が、恥ずかしそうにしてすぐに外してしまった。
「私は猫を抱きしめて可愛がりたいの……猫になりたいとかじゃないの。プレゼントなら本が良い、色々な人の考え方に触れる事で精神的な成長を促せる」
「ゴビニャーくん、解るかい? プレゼントというものの絶対条件が。それはね、並木君の笑顔を作れるものだということだよ」
「笑顔、ですにゃ。それは大事なことですにゃん」
「たしかに、ゴビニャーくんが送れば何でも並木くんは喜ぶだろうさ。だがしかしだ、それは送り主としてベストを尽くしたといえるかい!否いえないだろう! ここはこの手甲にゴビニャーのサインを入れて並木くんに送るべきだろう! さぁ!さぁ!」
 ゴビニャーは並木がもらって嬉しいものを贈りたいのだが、年頃の女の子の喜ぶものが分からない。が、自分の前足を見て、これをもらって嬉しいかと聞かれれば違うような気もした。
「後は拳法着とかグローブとか、君が一人前になったら使いなさいと言えば本人も早く一人前になろうと頑張るんじゃないですかね?」
「格闘家は技だけじゃなくて心も鍛えるべき」
 ん? とゴビニャーは首をかしげる。どうやら、皆と並木の印象がずれているようだ。


並木君が将来なりたいのは、アクションスターですにゃ」
 

 誰からも質問されなかったが、並木の将来の夢はアクションスターである。そのため運動神経の優れていた並木は将来有望とされていたのだが、憧れの人から動きのいろはを学びたいと思い弟子入り志願したのだ。そのため芸能人を多数輩出するパラ実入学への反対をゴビニャーも強くはしなかったらしい。
「あぁ、めんどくさい! もうモフモフするよ!」
「あっ、私もモフモフするっ」
 月夜と円が飛びかかると、巡は煙幕ファンデーションを使い歩が連れ出すのを補佐した。
「……パラ実と言えば野球がすごく流行ってる学校だよね。ボクなら野球用具一式とか嬉しいんだけど」
「野球、それはいい考えですにゃ!!」
「そうだ、あたしからはメモを。並木さんに届けてください」
 ゴビニャーは歩たちに別の場所に逃がしてもらった。


「ふい〜、今時のお嬢さんたちは元気がいいですにゃ……」
 てってけてーと森の中を進んでいくとラジオ体操帰りの女の子の集団にぶつかった。ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)はゴビニャーの姿を見るとふかふかの体に抱きつこうと走り寄ってくる。
「ししょう、だっこしてです〜!!」
「しょうがないにゃー。よっこいしょー」
 ゴビニャーは孫がいたらこんな感じかな〜、などと考えながらだっこ……しようとしたが身長が同じで難しかったのでおんぶする事にした。久世 沙幸(くぜ・さゆき)アルメリア・アーミテージ(あるめりあ・あーみてーじ)も肉球をプニプニしようと隙を狙っている。
「そうだにゃ。みんなに並木君が喜びそうなものを教えてもらうにゃ」
「こういうときこそファンの私たちを頼ってよね! ゴビニャー師匠は並木にパラ実入学のお祝いをしたいのね?」
「そうねぇ、良さそうなものがないわけではないけれど、もふらせてくれたら教えてあげるわ♪」
 がびーん、口を半開きにして硬直するゴビニャー。お、女の子って怖いにゃ! 恐ろしい子たちだにゃ、モ、モフられちゃうにゃっ。沙幸とアルメリアはお互いの目線を合わせてにやっと笑った。
「つ、妻がおりますにゃ……!」
 ここはびしっと断らねば! とヴァーナーをおんぶしながら言うが、後ろに視線を感じて振り向くと神代 明日香(かみしろ・あすか)ノルニル 『運命の書』(のるにる・うんめいのしょ)と手をつないで何かの順番待ちをしていた。ノルニルはどうやらモフモフが無理そうだと感じ、しょんぼりしたようすで立っている。禁忌の書もぼとりと落としてしまい、明日香がそっと拾ってあげた。
「……修業中の身なのでゴビニャー氏と勝負をしに来たのですが」
「……モフモフ」
「あ、あわわわわわにゃ」
 明日香は荒事から家事までこなせるメイドを目指して、魔法から銃器まであらゆる戦闘の技術を学んでいる。今回は対戦相手を探しに来たようだが、ノルニルがゴビニャーを見て衝撃を受けたらしいので戦うのはまたの機会にすることにした。
「ちょ、ちょっとごめんにゃ。おんぶは順番こにゃー」
 ゴビニャーは一度ヴァーナーを降ろしてノルニルをおぶってあげることにした。
「ノルンちゃん、いいって〜。良かったね」
「モフモフ〜!!」
 ノルニルはとてとてぴょんっとゴビニャーの背中におぶさると頭を両手で抱き締めてモフモフしていた。
「栗色の髪のお嬢さんは……」
「私はいいですぅ。抱きつく相手はほかにいるので。それより今度でいいので勝負はできませんか?」
「そうですにゃあ。組み手でよければ構いませんにゃ」
 ゴビニャーは素手での、修行や自己鍛錬の勝負なら受けるようだった。反対に勝って名をあげたい、もしくは何かに利用されそうな場合は適当に逃げてしまうらしい。
「隙ありっ!」
「ワタシもッ」
 沙幸は隠形の術と隠れ身を駆使してゴビニャーの背後をとると、ゴビニャーのほっぺをぷにっとつついた。ぷにぷに。アルメリアも便乗してゴビニャーの顎の下をもふもふと楽しんでいる。
「にゃ。にゃーん。みんな、止めるのにゃ〜!!」
 逃げたいがノルニルをおぶったまま全力で走るわけにもいかず、仕方なく女の子たちの気が済むまでモフモフされていた……。

「女の子らしくて実用的な物があったらそれが一番いいのよね。それなら、やっぱり鞭じゃないかしら?」
 もふもふもふ。
「む、鞭はちょっとどうかにゃー」
「……冗談よ、そうね、真面目に考えるなら、これからの時期使えそうな水着なんてどうかしら? プールや水の中でトレーニングしたりする時も使えるからいいんじゃないかと思うのだけれど?」
 もふもふもふ。
「並木の性格を考えるのは大事よね。っていうか、並木にパラ実セーラー服を進めたって言う事は、スカート姿で格闘をさせようって言うのかしら?」
「そ、それは考えてなかったにゃ。パラ実の学生さんは制服を着ないのにゃ?」
「そんな事したら、キックのときにパンツが見えちゃうじゃないっ。
こうなったら、パンチラ防止のために『スパッツ』をプレゼントするしかないんじゃないかな?」
「で、でも私が女の子用のスパッツを買いに行くのは〜、にゃーん」
「さらに『ハチマキ』と『リストバンド』と『セーラー服』を組み合わせれば、可愛い格闘少女の出来上がりだよっ」
 なるほどー。学校にあった服装……女の子らしいアイデアだにゃん! ジャタの森らしさはないけど。頑張ればどれか1つは作れそう。
「ししょうは並木おねえちゃんをどう思ってるですか? かくとう家になるのをあきらめて、ちきゅうにかえってほしいですか? みまもってあげたいですか? スゴイかくとう家になってほしいですか?」
 ゴビニャーのお腹をモフモフしていたヴァーナーに質問されて、うーんと唸ってしまう。
「その3つなら、見守りたいにゃん」
「だったらけいやくです! パラミタはあぶないのでけいやくしゃにならないとです! ししょうはおねえちゃんをまもりたいんですよね!」
「でも、逆にいえば契約すると地球には帰りにくくなるはずだにゃん。それが並木君にとっていいことなのか、自分にはわからないですにゃ」
 肉球拳法を習うには自分のもとへ弟子入りしなくてはならない。ゴビニャーが弟子をとらないと肉球拳法は彼の代で終わってしまうのだが、過去の自分の行いから表舞台から姿を消しひっそりと暮らしていたのだった。
「それで勝負も簡単には受けてくれないんですか?」
「……そうにゃー」
 明日香にこくりと頷き、皆にアドバイスの礼を言うとゴビニャーはほとぼりが冷めたであろう元来たラジオ体操の場所へ戻っていった。巽に修行のアドバイスがまだ終わっていない。


「にゃぅ〜ん! と力を込めて、ぎゅぉぉぉんっ! と回転して、しゅたんっ! と着地!」
「はい、お1つどうぞ」
「すまない、いただこう」
 弐識 太郎(にしき・たろう)は達磨に囲碁を教わりながら、刀真のくれた温めのお茶を飲んでいた。ゴビニャーの姿が見えると腰を上げて挨拶をする。
「笹塚並木の入学を認めてくれたこと、感謝する……。先輩として手伝えることがあれば遠慮なくいってほしい」
「あなたのことは並木君から伺っておりますにゃ。ご丁寧にありがとうございますにゃん」
「ところで樹月から笹塚へのプレゼントを考え中だと聞いたが、野球バットの木彫りキーホルダーはどうだろうか」
「野球……朝にあったお嬢さんも言ってたにゃっ」
 太郎が言うにはパラ実のドージェは野球好きで有名らしく、ジャタの森で小さな木製バットを作ってボールチェーンを通しては? というものだった。これならゴビニャーにも作れそうである。太郎は並木の格闘家としての未来も期待しているらしく、後輩が学校になじめるようなプレゼントを考えていた。
「それはいい案……って、にゃー!! 巽君〜!!」
「1回、2回……出来たっ! 20回でヘヴンっ!」
 ボキリ。
 巽は顔面から着地し、高い木から飛び降りたため人型の穴が地面にできた。その時に折れた枝の1本を手に取り、ためしにバットの形に削ってみる。巡の意見だと野球道具もよさそうだったので、キーホルダー用の小さなバットとスポーツ用の通常サイズのバットを作ってみた。
「太郎君、並木君をよろしくにゃん」
「……ああ」