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「暗き森のラビリンス」生命を喰い荒らす蔓

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「暗き森のラビリンス」生命を喰い荒らす蔓

リアクション


第3章 殺意の写し身

-魔力を吸い尽くすタイムリミットまで後・・・2時間20分-

 5階についたローザマリアたちはさっそく鏡を探し始める。
「茂っている中に隠してあるのかしら」
「これではないのか?」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)がローザを呼ぶ
「姿見サイズのやつ・・・それね」
「他の方は見つけられたでしょうか」
 鏡を消す他のメンバーが見つけられたのか、上杉 菊(うえすぎ・きく)が目を凝らし、奥の方で探している生徒を見る。
「探してあげたいけど、全部見つけた瞬間にエリアを遮断されてしまうわ」
「御方様たちと離れてしまうかもしれませんよね・・・。皆さんも見つけられるといいんですけど・・・」
「残りの4つが発見されるまで、なるべく離れないようにせませんと」
 エリアを遮断されて離れないようにハールカリッツァ・ビェルナツカ(はーるかりっつぁ・びぇるなつか)はローザマリアの傍へ寄る。
「どれを選ぼうと変わらないだろうからな。鏡・・・鏡っと・・・、あったぜ!自分と戦えるなんてドッペルゲンガーの森以来だなっ」
 ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)も鏡を見つける。
「くっ・・・、草ばかりで何もないじゃないぞ。十天君め・・・、見つけられないように鏡を移動させていないか?」
 まだ見つけられない天 黒龍(てぃえん・へいろん)が草を踏みながら探し歩く。
「そんなこと言ってると、本当に分からないところに隠されちゃうかもしれないよ」
 彼の声を聞き、高 漸麗(がお・じえんり)が不吉なことを言うと、本当になってしまうと注意する。
「あのー・・・まだ見つけられないんですか〜?」
 退屈そうにアナウンスの声が流れてきた。
「う・・・、うるさいっ。もっと分かりやすいところに、置けばこういうことには・・・」
「何かなこれ?」
 漸麗は草を掻き分けていくと、つるつるしたものが手に触れた。
「それだ!」
 黒龍が駆け寄り確認する。
「やっと皆さんと合流出来ましたっ。4階に行ったら誰もいなかったから、間に合わなかったのかと思いました〜」
 ようやく5階にたどりついた由宇は、生徒たちの顔を見てほっと息をつく。
「ここへ来る途中にアナウンスが聞こえましたけど、鏡を探して毒草クリーチャーを倒せばいいんですよね?」
「自分と同じ姿の敵が出るんだよね・・・」
 ルンルンは木刀を握り締めて、キョロキョロと辺りを見回す。
「えーっと・・・ありました!」
「この鏡を消さないと、上の階に行けないんだよね・・・」
「おや、1枚残ってますよ。どうなさるんですかー、誰かチャレンジする人いないんですかぁ?」
 アナウンスを流し張天君がメンバーを1人選ぶように言う。
「それじゃあ俺が・・・」
「背中の傷が開いてしまいますよ!」
 もう一度メンバーに加わろうとする真を、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が止める。
「他の皆は6階に行くために、体力を温存しておかないといけないじゃないか。だったらやっぱり俺が!」
「無理して毒草クリーチャーに負けたらどうするんですか」
「ここで時間をとるわけにはいかないじゃないか。離せ、行かせてくれっ」
「あらあら〜誰が出るかお悩みのようですねぇ〜」
「困っている俺たちをばかにするために話しかけてきたんだろ?今、俺が残りの1枚を担当するから黙れ」
「そぉんなこと言っていいんですかぁ?せっかく後回しにしてもいいと、言おうと思ったんですけど。じゃあ黙ります」
「待って、それ本当?」
 アナウンスを切ろうとする張天君に、十六夜 泡(いざよい・うたかた)が声をかける。
「えぇ、他にいないなら、後回しにしてあげてもいいですよー」
「ならそうしてくれない?」
「決まらなかったら俺がもう1枚を担当する・・・それでいいよな?」
「どうぞー、ご自由に♪」
 もしも決められなかったらという真の申し出に張天君が許可を出す。
「ではでは〜、いったん領域を遮断しまぁーす♪」
 張天君は透明な壁で鏡がある各位置、戦わない生徒たちとのエリアを遮断した。



「(こっちも4人だけど、ハルカの能力が低下してるから3対4ね)」
 毒草クリーチャーを陽動射撃で注意を逸らせようと、ローザマリアはスナイパーライフルを構えながら走る。
「ティセラたち以外の剣の花嫁を葬ろうとしているようだけど。裏を返せばそれだけ剣の花嫁は皆、推し量れない潜在能力を秘めているということなのかも知れないわね」
 そう考えるように呟きながら、追いかけてくる自分と同じ姿の毒に向かって撃つ。
「避けられたわね、まぁいいわ。一撃で仕留められるとは思ってないから」
 相手を見失わないように見ながら走り銃弾を詰める。
「上の階にいる2人がワクチンを所持してるとしても、素直に渡すはずもないでしょうけど。ハルカを戻さないで数日間も苦しませるようなら、どんな処置が待っているか思いしらせることになるかもね・・・!」
 撃ち返す相手の銃弾を避けようと草の上へ転ぶ。
「他の2匹の姿が見えないが、偽者のハルカの傍から離れたか」
 ローザマリアの姿をしたクリーチャが、ターゲットから離れる隙を窺っていたグロリアーナは爆炎波を放つ。
「仕留めるなら今ですね」
 ハールカリッツァを守るように傍にいる菊も彼女と同時に、火術を放ち焼いてしまおうと狙う。
「―・・・冷気だと!?」
 炎をアティマ・トゥーレの冷気で相殺されてしまった。
「くっ、わらわたちを狙うための囮だったのだな」
 射抜こうと狙い身を潜めている菊の偽者が、リカーブボウの矢を放ちグロリアーナの左腕を掠める。
「失敗してしまったようね。しかしここでは焦るような私たちじゃないわ」
 ローザマリアは2人に目配せをして、慌てず引き続きハルカの偽者を狙うように指示する。
「そんなものをくらっては倒すのに時間がかってしまうのでな、先にあいつを仕留めてから相手をしてやる」
 先の先を読み敵の爪を避け、ターゲットの身体を斬り裂く。
 菊はグロリアーナの視線に頷き、火術を放ち止めを刺す。
「よくもハルカを!」
 クリーチャーは仲間を殺されたことに怒り、ローザマリアの右足に狙いを定めて撃つ。
 ズダンッ。
 狙い通り相手の脹脛に命中させる。
「ぅくっ、1匹やられて向こうもかなり本気になったようね」
「命中させたようだが怒りのあまり、誰をターゲットにしようか焦っているのであろうな」
 もう1匹を仕留めようとグロリアーナがクリーチャーの懐に飛び込む。
「あんたの接近に、気づかないとでも思っていたの?」
 超感覚で気づかれてしまい、銃口を向けられる。
「何・・・何が可笑しいの?」
 ニヤリと笑うグロリアーナを見て顔を顰める。
「わ・・・・・・私の身体が燃えている・・・。いつの間に!?」
 彼女に気を取られている隙に、背後から菊に火術を放たれ直撃を受けてしまったのだ。
「いける?ハルカ」
 ローザマリアはハールカリッツァの傍へ寄り、小声で動けるかどうか聞く。
「はい・・・まだ薬が効いていますからなんとか・・・」
「菊と同じ姿のクリーチャーがいたら、そこに銃弾を撃ち込むからどこでもいいから狙って。相手が矢を撃てない隙にライザが仕留めるから」
「分かりました・・・やってみます」
 彼女の作戦にこくりと頷き、いつでも射れるようにハールカリッツァはルミナスアーチェリーを構える。
「(さて・・・どこから狙ってくるかしら)」
 草むらの中を歩き、ローザマリアは左右へ視線を移し警戒する。
 ガサササッと葉が擦れ合う音を聞き銃弾を撃ち込み、そこへハールカリッツァが光輝く矢を放つ。
 ドスッと獲物に当たった鈍い音が聞こえる。
 菊の姿をした毒草の肘に矢が刺さり、リカーブボウを落としそうになる。
「そこにいるようだな」
 ターゲットが隠れているところへグロリアーナが斬りかかる。
「今度は腕の1本でも、もらおうか」
 偽者のグロリアーナが彼女を動けなくしてやろうと剣を振るう。
「残りが2人なら行動が予測しやすいですね」
 剣を持つ腕に向かって菊が氷術を放つ。
 爆炎波があたらず相手は悔しそうに顔を顰める。
「終わりです!」
 同じ姿をした者を葬ろうと菊は火術で灰にする。
「燃えてしまえば、ただの草であろうな」
「これまでか・・・ならばせめて、猛毒で苦しませてやる!」
 グロリアーナに葬られる寸前、同じ顔をした化け物は爪で彼女の左手に傷を負わせる。
「―・・・くっ、最後にやってくれたな」
「すぐハルカに治療してもらったほうがいいわ」
「手を見せてください」
 ハールカリッツァに傷を負った手を見せ、獣医の心得で毒を吸い出してもらう。
「―・・・・・・っ。これで大丈夫です」
 口で毒を吸い出す。
「ヒールもお願いね」
 ローザマリアに言われ、ヒールで傷口を塞ごうとする。
「傷を塞ごうとしましたが治しきれませんでした・・・。治るまでしばらくは戦えませんね」
「そう・・・手傷を負わせたのは、相手の最後の執念だったのかもね」
「ふむ、このようなものは念が深いほど厄介だから、気をつけるとしよう・・・」
「鏡が消えたわ・・・。他の人は大丈夫かしら?深手を負わされてなければいいけど」
 遮断されたエリアから開放されたローザマリアは、他の生徒たちが苦戦していないか心配する。



「さぁ出てきやがれ、どこまで強くなれたか試すいい機会だ」
 ラルクは嬉々として拳を握り締め、毒草クリーチャーが鏡から出てくるのを待ち構える。
「甘く見ると死ぬぜ」
「第一声がそれか。それでこそやりがいがあるってもんだ!」
「その言葉が後悔にならなきゃいいけどな」
「へ、自分相手に手加減なんかできねぇよな?」
 出し惜しみせずに全力で挑もうと、ヒロイックアサルト“剛鬼”で身体能力を上げる。
「おりゃおりゃ、おらぁあっ!」
 疾風突きで急所、相手の眼球・心臓・脳天を狙う。
「しょっぱなから狙ってくるのか。だがそれだけじゃ簡単に避けられるぜ」
「何いぃい!?」
 全て避けられてしまい、驚愕の声を上げる。
「同じ身体能力だってことを忘れちゃいけねぇな」
 蔓を掴んでふりこのように身体を揺らして飛びかかり首を蹴り折ろうと狙う。
「上かっ」
 砂利の上を滑り避ける。
 ズザザザァアーッ。
「逃がさねぇよっ」
 地面に片手をつきラルクの首筋を蹴ろうとする。
「くっ、危ねぇ・・・」
 超感覚で彼の片足が届く前に止めた。
「―・・・それで止めたつもりかよ!」
 ガスッともう片方の足でラルクの左足を蹴りつける。
「いっ、てぇっ!」
 その衝撃で掴んでいた足から手を離してしまう。
「まだまだいくぜっ」
「うぉああ!?」
 脇腹を殴られ肋骨がミシミシッと音を立て砂利の上へすっ飛ぶ。
「ふぅっ、俺自身の能力と同等のやつ相手じゃあ、全力で挑んでもすぐは倒せねぇか」
「超感覚だけじゃあ、俺の攻撃は避けきれねぇぜ。もっと他の能力も使いこなせないと強くなれねぇ」
「(ちっ・・・まるで俺の行動を読んでいるような言い方だな)」
「戦いにおいて一撃仕留めようとかかってくることも想定していねぇと、あっとゆう間に死ぬぜ?」
「(どっちから殴ってくるか、だんだん見極められるようになってきたぜ)」
 クリーチャーの視線の先を見ながら打撃を腕でガードする。
「俺が勝つかてめぇが勝つか・・・楽しくなってきやがったな!」
「へっ、そうかよ!」
「見えたぜっ」
 拳を片手で受け止め放り投げる。
「つまらねぇ攻撃だな」
「それだけじゃまだ終わらねぇよ」
 背中を蹴り上げ腹部に肘鉄をくらわし地面へ落とす。
「これで終いだ!」
 起き上がる前に仕留めようと、両目と頭部を殴り潰した。
 毒草クリーチャーが消滅した瞬間、鏡と壁が消えエリアから開放された。
「さすがに無傷とはいかなかったようだな。まだまだ修行が足りないってことか」
 これで残る鏡は後3枚となった。



「私の分身ならそんなに強くないはずです!がんばって勝ちますです!」
 自分そっくりの毒草クリーチャーに由宇が挑みかかる。
「うわっ、か、鏡から僕の分身まででてきた」
 ルンルンはその姿を見て驚きのあまり目を丸くする。
「もしかしてこの分身、木刀で叩いてくるのかな。ちょっと痛そうだけど・・・い、いけないよね。怪我を負ったら戦えないし。でも・・・」
 首を左右に振り“叩かれてみたい”という煩悩を必死に消そうとする。
「そんなにおろおろしているところを見ると、ぶっ叩き殺したくなるなぁ。ていうかやるけどねっ」
 毒草クリーチャーは獲物を見つけたように口を笑わせ、木刀でルンルンの肩を思い切りぶっ叩く。
「ぁあっ!」
 ズシャアと砂利の上へ滑り転び、小さく悲鳴を上げる。
「ねぇ、コレから先に殺しちゃわない?」
 クリーチャーが由宇そっくりの毒草に提案する。
「では・・・さっさと始末して、残りの1人を2人で狩ることにしましょう」
 鞘から綾刀を抜きルンルンの片足へ切っ先を向ける。
「何をやっているんですかルンルン君。早くそこから離れないと殺されてしまいますぅ!」
 本物の由宇がそこから離れるよう叫ぶが、パートナーはなぜかそこから動こうとしない。
「そうしたいんだけど、立ち上がれないんだよぉ」
 由宇の方を見てルンルンが涙声で言う。
 逃げなきゃいけない気持ちと、いじめられてみたいという気持ちの間で心が揺れ動けないのだ。
「殺すと見せかけて、実はそっちを狙うつもりだったりするんですよね」
「ふっ2人がかりなんて卑怯ですぅ!」
「殺し合いに卑怯も何もないですよ」
「うぅ〜っ!」
 化け物2匹の刃を受け止めた衝撃でズリッと足が土に減り込む。
「(このままでは負けてしまいそうですぅ。2人いっぺんに動きを封じることが出来る方法があるといんですけど・・・)」
「どうせならベチャッと潰しちゃってもいいかもしれませんね」
 由宇の刀に刃を乱暴にぶつけ、彼女を押し潰そうとする。
「(何か対抗手段を考えないとこのままでは・・・。隙なんて見当たらないですし。動きを封じる・・・あの技がありました!)」
 何やら策を思いついた由宇がニッと笑う。
「むっ、何が可笑しいの」
 不敵に笑う彼女を見て、ルンルンの姿をした毒草がムッとした表情をする。
「毒草くんたちに耳があるってことは、こういうのも効くはずですよね?」
 化け物どもを眠らせてしまうと由宇は子守歌を歌う。
「―・・・うっ、何・・・急に眠く・・・」
「眠くて力が入らない・・・」
 2匹は足をふらつかせ、手から得物が滑り落ちそうになる。
「今がチャンスですっ」
 隙を作り出した由宇が毒草が持つ武器を刀で叩き落とす。
「あぁっ、よくもやってくれましたね。仕返ししてやります!」
「やっちゃおう!」
 滑り落ちた武器を拾おうと、怒り狂った2匹は彼女を膾にしてやろうと走る。
「私は・・・私の分身なんかに負けるわけにはいかないんですっ!!」
「わっ私の胴体が!?」
「うぁあんもっと遊びたいのにーっ」
 胴体を薙ぎ払われ、ドスンッと地面へ崩れ落ちる。
「か・・・勝てました。やったです!」
 毒草が朽ちていくのを見て、由宇は勝った喜びの声を上げる。
「―・・・あっ、そういえばルンルン君は・・・。いました!まだそんなところに転んでいるんですか・・・」
 起き上がれていないパートナーを見下ろし、深いため息をつく。
「こっちに来てください、傷を見てあげますから」
「えーっと、ここを叩かれたんだよ」
「たいぶ酷くやられてしまったようですね。骨には異常なさそうですけど、へたしたら折れているかもしれませんよ」
 ルンルンの肩の傷をナーシングで癒してやる。
「一応治しましたけど、しばらくは安静にしててくださいね」
「うっ、うん・・・」
「あ・・・鏡が消えていきますぅ」
 パキンッとひび割れ、消えていく鏡を由宇は目を丸くして見る。
 壁もなくなり隔離されていたエリアから開放される。
 残る鏡は後3枚となった。




「高漸麗・・・ではないな。―・・・よく似ているが」
 黒龍は傍らにいる漸麗の姿と、目の前にいるもう1人の漸麗を見比べる。
「いたな・・・・・・獲物が2匹、どちらから片付けてやろうか?」
 バスタードソードを手にした黒龍そっくりの毒草クリーチャーが、2人を見てニヤリと笑う。
「そっちから殺してやるか」
 目の合った黒龍に剣を向け足元を狙う。
「向こうから突っ込んでくるとはな」
 傍にいる本物のパートナーの顔を向ける。
「高漸麗!こちらに光術を!」
 それならば相手を両断してしまおうと指示を出す。
「この方向でいいんだね。・・・来たれ!」
 目晦まししやろうと斬りかかる毒草に漸麗が光術を放つ。
「案外・・・あっさり倒せるものだな」
 真っ二つにしてやろうと柄を握る。
「その程度のことで、勝ったつもりか?」
「―・・・何?」
「さぁ・・・高漸麗、雷術で感電死させてしまえ!」
「分かったよ黒龍くん」
 声が聞こえた方へ振り返り、本物の黒龍の方へ手の平を向ける。
 ビバシイィイッ。
「ぐぁああーーっ!」
 とっさにタワーシールドを構えるが、相手の魔法を防ぎきれずくらってしまう。
「何かで防ごうとしたようだけど無意味だったようだね。使うならもっと考えて使ったらどう?そんな方法が思いつくとは思えないけど、クスクスッ♪」
「黒龍くんどうしたのっ、何があったの!?」
 彼の悲鳴に驚いた漸麗が叫ぶ。
「くっ・・・心配するな、・・・たいしたことはない」
「クククッ・・・そうかだろうか?だいぶ効いているように思えるが」
「―・・・黙れ」
「そうか・・・だったら、もう一発くらうがいい。高漸麗、やってしまえ!」
「うぁああっ!」
「人の悲鳴もいい音色だね♪先にアタッカーさえ潰せば、後は簡単だし」
「小者は私たちに一歩も近づけず・・・、ここで・・・朽ち果てる」
「ねぇもう僕のオリジナルがいるはずだけど、何で動かないの?積極性のない役立たず♪お荷物でしかないね、そっちを先に狙っちゃおうかな」
 偽者が漸麗に向かって、傷つけるようなセリフを笑顔のまま吐く。
「うぅ・・・」
「―・・・あんな者の言葉など気にするな」
「だってぐすっ」
「うざいなぁ〜、耳障りだからそっちから消そうかな」
「そういうな・・・あいつを先に片付けたほうが後々楽だ」
「まぁ、そうだけどね!」
「くっ・・・そう・・・・・・何発もくらってまるかっ」
 黒龍は雷術を避け自分の偽者の懐に飛び込む。
「ほぉう・・・ならば斬り殺されるほうがいいか?死ねぇえ!!」
 ズシャァアッ。
 パタタッと黒龍の左肩から血が流れ出る。
「死ぬのは・・・どっちだろうな?」
「―・・・うっ、この私が。小者ごときに負けるとは・・・がはぁあっ」
 胴体を斬り裂かれ、ズルリと地面へ落ちる。
 断面からドロドロと血が流れ出る。
「毒草のはずだが・・・血も出るんだな。ずいぶんと思考を凝らした細工をしている」
「黒龍くん?黒龍くん!―・・・そこの君、よくもやったね。雷術で黒こげにしてあげるよ!」
 近づく足音の方へ雷術を放つ。
「君ごときがこの僕を倒すなんて許さないよ。早く塵になっちゃってよ!」
「目障りだ・・・もう消えろ」
 ランスバレストの一撃で黒龍がターゲットの脳天を貫く。
「道連れにしてやる」
 猛毒の爪で黒龍の両肩を掴み突き刺す。
「―・・・このっ!」
 相手の両腕を掴んで引き離し、脇腹を蹴り飛ばす。
「高漸麗・・・さっさと燃やしてしまえ」
 黒龍は剣を支えに立ち上がり、漸麗に火術で毒草を燃やさせる。
「鏡が消えていく・・・、エリアを遮断していた壁もなくなった。―・・・皆のところへ戻るぞ、ぐっ・・・」
「どうしたの?もしかしてさっきの敵に傷を負わされたの?」
「あぁ・・・キュアポイゾンで毒の治療をしてくれ」
「うん、分かった。―・・・一応取り除いたけど、傷まではヒールじゃちょっと治せないね」
「(しばらくじっとしているしかないということか)」
 仲間を囲っている壁際へ行き、地面へ座り込んだ。
 残る鏡は後1枚となった。



「残り1枚になりましたけど・・・。他に誰か対処出来る人はいないでしょうか」
 真が自分がやると言い出すのではと、メイベルが不安そうな顔をする。
「もう・・・10分も経ったぞ、これ以上は待てない。適任者がいないならやっぱり俺が!」
「いけません背中の傷口が開いてしまいますっ」
「あぁーーっ、やっとついたよ。もしかしてこれグッドタイミング?」
 鏡を消す適任者についてもめているところに、カガチたちがようやく5階にたどりついた。
「じゃあ俺がやるよ。椎名くんは休んでいて」
 それだけ言うと鏡を探し始める。
「この辺かな・・・。よし見つけた!」
「では再び隔離させていただきますね」
 張天君はアナウンスを流しエリアを遮断する。
「俺自身が相手なら戦いやすいね」
 初霜と花散里の二刀を鞘から抜き、カガチは鏡から毒草が現れるのを待つ。
「やぁモルモット。実験動物らしくいたぶられて死にしにきたのかな?」
 彼そっくりの毒草クリーチャーが不気味に笑いながら鏡の中から出てきた。
「悪いけどそんなつもりないし、あまり構ってあげる時間もないんだよねぇ」
 挑発に乗るものかと、ふぅっと軽く呼吸して気を落ち着かせる。
「ウヒャヒャヒャッ、実験動物は実験動物らしく惨めにくたばっちゃいなよ」
 猛毒の爪で刺し殺そうとカガチの目玉を狙う。
「全然当たらないねぇっ」
 自分ならこうすると行動を読み、爪が届く前にスウェーで的確に受け流す。
「土でも食ってろ!」
 カガチの足を蹴りつけようとする。
「(死ぬ寸前なのに、何で笑っているんだ!?)」
 頭部を狙い面打ちで両断しようとした瞬間、毒草は表情を崩さずニィッと笑う。
「ひっかかったな」
「狙わせるために、わざと隙をみせたのか!」
 彼の傍から離れようとするが、がら空きになってしまった脇腹を狙われ、爪の餌食にとなる。
 ブシィイイッ。
 傷口から鮮血が吹き出る。
「うぐぁあーーっ!!」
「止めはそうだなぁ、心臓を抉り出して握り潰してあげるよ。命乞いでもすれば助けてあげようか?その変わりあんたの眼球をすり潰して、ジュースにしたやつを飲んでくれたらだけど。あぁそうだついでに、飲んだやつを吐き戻して目の中に埋め直してよ。でも、あまりの痛さでショック死しちゃうかもしれないから、その時はごめんねぇ♪」
 助けてやろうとそぶりをするものの、カガチを小動物のように、いたぶって楽しんでやろうという雰囲気が丸分かりだ。
「何のために侍の修行を武士の心を学んでると思ってるんだ」
 毒草の言葉にカガチが怒り、手から滑り落ちそうになっている刀の柄をぐっと握り締める。
「偉そうに・・・あんたはただ踊れればいいだけの野郎じゃないか」
「ただ暴れるだけじゃねえ“剣”を見せてやるよ」
「へっそんな技じゃ、この俺には当たらないねぇ」
 刃を爪でガードし足払いをしかける。
「なぁんてねぇ。もう一度同じところを刺してあげるよっ。―・・・んなっ・・・・・・!」
 刀の鍔を盾変わりにガードされ、脳天から真っ二つに切断される。
 断裂した身体がドスンッと地面へ落ち、断面から紫色の毒々しい液体が流れ出る。
「消えた・・・これで6階へ行くためのワープ装置が起動されるのかな」
 毒草が消滅した瞬間、鏡も消え去った。
 エリアを遮断していた壁が無くなり、カガチは仲間の元へ戻る。
「壁がなくなった・・・これで上の階に行けるようになったのかな」
 6階へ以降とレキがワープ装置の上に乗る。
「毒草クリーチャーの爪にやられてしまったんですね」
 風森 望(かぜもり・のぞみ)がカガチの傍へ行き、ナーシングで毒を取り除こうと治療する。
「この怪我では上の階に行けそうにないですね。椎名様と大人しくここで待っていてください」
「そうするしかないようだねぇ」
 深手を負っているカガチたちを残し、望たちはワープ装置に乗り6階へ転送される。
 妖精の魔力が全て奪われてしまうまで、後1時間20分となった。