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パラミタイルカがやってきた!

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パラミタイルカがやってきた!

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第一章 パラミタイルカふれあいツアー 1


 ここはパラミタ内海
 空よりも蒼く澄んだ海面が、陽の光をきらきらと反射している。そのきらめきに身を任せるように、イルカとふれあいツアーの大型クルーもゆらゆらと揺られていた。

「はーい、みなさん体調は大丈夫ですかー? 船酔いした方はすぐに申し出てくださいねー。これから、パラミタイルカの領域に入りますよー

 ツアーコンダクターの声が拡声器から流れると、たくさんの人たちが海へと視線を移した。

「いやぁ、楽しみねー」

 その中の一人、葛葉 明(くずのは・めい)は目を輝かせながら、海面を見つめていた。まだイルカの姿は見当たらないが、これから愛らしい姿が現れるかと思うとワクワクを抑えることが出来ない。

「あら、明さんはパラミタイルカを見るのははじめてかしら?」

 側にいたラズィーヤ・ヴァイシャリーが話しかけてくる。明は困ったように笑って。

「水族館で見たことはあるんだけどね。こういう会場で生で見るの初めて。しかもパラミタイルカとなれば、パンフレットの写真でしか見たことないよ」
「そうなんですの。きっと良い思い出になりますわ☆ 私が以前見たのは5年も前のことですけど、今でもはっきりとあのキュンキュンとしたかわいらしさを覚えていますもの
「ほぅ、ラズィーヤさんが以前イルカと触れ合ったのは、5年も前のことなんですか」

 ラズィーヤの横。朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)がパラミタがくしゅうちょうにペンを走らせていた。

「あら、こんなことまでメモを取るんですの?」
「はい。初めて聞くようなことは一通り」
「熱心で感心しますわね。もしよろしかったら、今度できた会報を読ませてほしいですわ☆」
「も、もちろんです!」

 千歳の変わりに答えたのは、パートナーのイルマ・レスト(いるま・れすと)
 彼女は頬を上気させて、ラズィーヤの前に立つ。

「それでは、楽しみにしていますわね♪」

 一言を告げて、ラズィーヤがその場から移動していく。
 イルマは最後に見せたラズィーヤの微笑みに、恍惚の表情を浮かべてその場に止まっていた。

「あぁ。私、これだけでツアーに参加してよかったと思いますわ」
「おやおや、イルイル。もう終わりでいいのですか?」

 イルマの背後からちょこんと現れたのは、もう一人のパートナー、朝倉 リッチェンス(あさくら・りっちぇんす)
 リッチェンスはにんまりと笑うと、イルマの背を押した。

「せっかくの機会なのですから、もっとガンガンいくのですよ。私は頑張るイルイルを応援するのです」
「ちょ、ちょっと、なんですの? リツが私を応援するだなんて、気持ち悪いですわ」
「そんなことないですよー」
「ふーん。……それじゃあ、ちょっと行ってこようかしら」
「フレーフレーです」

 イルマがゆっくりとラズィーヤへと近づいていく。と、そのとき、波が船に当たって船体が大きく揺れた。

「きゃー、ダーリンー!」

 揺れに任せて、リッチェンスがここぞとばかりに千歳の胸へと倒れ掛かる。
 が、リッチェンスの身体を受け止めたのは、2人の間に割って入ったイルマだった。

「やっぱり、くだらないことを企んでいたのですね。悪いですけれど、この私を陥れようなどと5000年ほど早いですわ」
「なにするですか。イルイルは、ラズィーヤさんとくっついていればいいのですよー!」
 バチバチッ!

 二人の間に、火花が散る。

「はーい、みなさーん。パラミタイルカは人懐っこいですが、臆病な面もありますので、くれぐれも電撃や火炎などで驚かしたりしないでくださーい。
 そこのお二方ー。イルカがおびえますので、目から電撃を飛ばしあうのはご遠慮くださーい」

       *

「きゃーん、イルカちゃんですわー☆」

 双眼鏡をのぞいていたラズィーヤが、嬉々として船べりに身を乗り出した。
 時を同じくして、拡声器からも「皆様ー、前方にパラミタイルカが見えてきましたー」とアナウンスが流れる。
 それを受けて、ツアー参加者がその方向を見た。
 そこでは、淡いエメラルドグリーン色をしたパラミタイルカが、群れをなしながら悠々自適に泳いでいた。
 イルカたちもこちらの存在に気づいているらしい。だが、好奇心と警戒の狭間で揺れているのか、距離を取ったまま近づいてこようとしない。

「ここは私に任せてくださいですぅ」

 一歩進み出てきたのは、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)
 メイベルは静かに息を吸うと、幸せの歌を歌った。
 すると引き寄せられるようにして、イルカたちが寄ってきはじめる。

「よし、それではイルカさんと仲良くなるために、とっておきのスキルですぅ」

 メイベルは歌をとめると、イルカたちに向かって「適者生存」を発動した。
 イルカたちは、瞬時に逃げ去っていった。

「あ、あれぇ? おかしいですぅ、イルカさんと仲良くなれるはずですぅ」
「……メイベル。捕食者と仲良くできるような生き物は、なかなかいないよ」

 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)による冷静になツッコミ。
 メイベル、しょんぼりとうなだれる。

「でもほら、もう一度歌を聞かせてあげれば、きっと仲良くなれるよ」
「そうですわ。せっかく水着を用意してきたんですもの。一緒に泳げるように、少しずつ仲良くなっていきましょう」
「そうですぅ、イルカさんと一緒に泳ぐためにもがんばりますぅ」

 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)の励ましもあって、メイベルは再び歌を歌い始めるのだった。

       *

「わぁ、たくさんいますねぇ」

 再び船の周りへと集まり、優雅に泳ぐイルカたちを、神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)は微笑みながら観察していた。

「本当ですね。きらきらしていて、まるで宝石が泳いでいるみたいです」

 陽光をいっぱいに浴びる群れの姿に、山南 桂(やまなみ・けい)も感嘆の息を漏らす。

「天気もすがすがしいほどに晴れ渡りましたし、楽しくなりそうです」
「本当よね。いやぁ、出かける前は大変だったけど、来てよかったわ」

 数日前に行われた、ツアーの参加権をかけての熱い勝負を思い出し、もう一人のパートナーフォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が拳を握り締めた。

「それでも勝者の役得だものね。今日はとことん楽しませてもらうわよ。ね、翡翠!」

 フォルトゥーナは翡翠に腕を絡ませて、楽しそうにイルカたちの姿を追う。
 翡翠は苦笑しながら、「……フォルトーナ? くっつき過ぎじゃないでしょうか?」と尋ねたが、フォルトゥーナは気にした様子もなく、むしろさらに身体を密着させて。

「気にしちゃ駄目よ。ほら、今跳ねたわよ! かわいー!」

 フォルトゥーナが指した先では、小型ボートに乗った指導員が、甲板からエサを投げ与えていた。
 指導員の手から離れた魚は弧を描き、しかし海面につくよりも先に、飛び跳ねたパラミタイルカの口に収まっていく。
 エサをもらったイルカたちは、嬉しそうに小型ボートの周りをくるくると泳いでいた。

「わぁ……」

 そんなイルカの動きに稲荷 白狐(いなり・しろきつね)は見とれて息を漏らしていた。
 自分もあんなふうにエサを与えてみたい。
 そう思っているとちょうどよく「はーい、みなさーん。それでは、ここからは数班に別れて、小型ボートに移りまーす。皆さんも直接エサやりをしてみましょー」とアナウンスが流れた。