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学生たちの休日4

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学生たちの休日4
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    ★    ★    ★
 
「やあ、お帰りなさいませ。お待ちしておりました」
 佐野亮司が寮の自分の部屋に帰り着くと、なぜかそこで三つ指ついて出迎える月島 悠(つきしま・ゆう)と衝撃の邂逅をとげた。
「なんで悠が俺の部屋にいるんだ!?」
「今日はお料理教室を開いていたんですよ。さあ、早く中へ入って試食してください」
 月島悠とお揃いのフリフリエプロンを着けた向山 綾乃(むこうやま・あやの)が、キッチンから佐野亮司を手招きした。
「そういうことだから。早く早くー」
 がっちりと佐野亮司の腕をつかむと、月島悠が引っぱった。
「ジャーン。サラダは、私が作ったんだよー」
 食卓に並べられた料理を自慢げに指し示しながら、月島悠が言った。
 グリーンサラダに、お手製のドレッシングが添えられている。スープは麻上 翼(まがみ・つばさ)の作った冷製のビシソワーズ、メインディッシュは向山綾乃が作ったハンバーグだ。
「大丈夫です。ドレッシングに混ぜられた、砂糖、味噌、練乳は、事前にボクが分離しておきました。同様に、セロリの葉、生のジャガイモ、ニンジンの皮、トマトのへた、カボチャのタネなども排除済みです」
「ありがとう。作戦に対する貴君の的確な支援行動に感謝する」
 月島悠がごはんを盛りに行った隙にすすっと近寄ってきて耳許でささやいた麻上翼に、佐野亮司はかつて所属していた教導団流に、周囲に気取られぬように感謝の意を示した。おかげで、腹をこわすことも、無理な感想で心を痛めることもなさそうだ。
 だいたいにして、チラリとのぞいたキッチンは、まだ少し大変なことになっている。飛び散っているのは主に野菜関係や調味料関係の液体のようだから、誰が犯人かはだいたい推測できる。
「いつもは翼がキッチンに入れてくれないから、今日、パラミタに来てから初めてキッチンに入ったんだよ」
 ニコニコしながら、月島悠が恐ろしいことをさも平然と口にする。さすがに誇張があると考えたいが、はたして真相はどうであろうか。
「さあ、いただきましょう」
 向山綾乃にうながされて、佐野亮司たちはテーブルに着いた。
「うん、美味しい。美味しいよ」
 まずはちゃんとサラダから手をつけた佐野亮司が、お世辞ではなくそう言った。まあ、ただのグリーンサラダだから、素材さえしっかりしていれば、後はドレッシング次第ということになる。刻んだタマネギのたっぷり入ったオニオンドレッシングだが、みずみずしいレタスとタマネギの辛みと甘みがマッチしてなかなかだ。タマネギを入れましょうと月島悠に提案して、彼女が涙で視界が曇っている間にまともなドレッシングベースに素早く入れ替えた麻上翼の作戦勝ちである。
「上出来だ」
 思わず、佐野亮司はサムズアップをして見せた。もちろん、麻上翼への賞賛も込められている。
「じゃあ、みんなの作ったのも食べて食べて」
 素直に喜んだ月島悠が、スープとハンバーグも勧める。
 夕食はトラブルもなく無事済み、四人はそれぞれに少し異なる思いでほっと胸をなで下ろした。ところが、まだまだすべてが終わったわけではなかった。
「デザートも作ったんだよ」
 月島悠の言葉に、麻上翼が凍りついた。いつの間に作ったのだろうか、まったく気づいていなかった。麻上翼、一生の不覚である。
「今持ってくるね」
 そう言って、月島悠がるんるんとキッチンに姿を消した。
「詰めが甘いな……」
「申し開きもありません」
 思わず、麻上翼が頭を下げる。
「いや、悠が作った物だ。必ず俺が平らげてみせる」
 並々ならぬ決意を漲らせて佐野亮司が言った。
「ごめんね。アイスクリームのつもりだったんだけど、シャーベットになっちゃったみたい」
 何やら真っ赤な物体を持って、月島悠が戻ってきた。
「いったい何のアイスクリームを作ったの?」
 恐る恐る向山綾乃が訊ねる。
「ちょうどトマトが余ってたから、使おうと思って」
「トマトのアイスクリーム!」
 月島悠の言葉に、思わず佐野亮司は小さな悲鳴をあげた。向山綾乃と麻上翼は、おやっと言う顔で互いに視線を交わしている。
「大丈夫だよ。じゃあ、まず、俺がいただくとしよう」
 犠牲者は一人でいいと、月島悠がシャーベットをスプーンですくった。さあ、食べる。
「あれっ、美味しい……」
 意外という顔で、佐野亮司が思わずつぶやいた。
「ほんと? わあ、よかった」
 月島悠が手を合わせて喜んだ。
「なんという偶然……」
 思わず、麻上翼がつぶやく。一瞬トンデモレシピに聞こえるが、トマトのアイスというのは普通に存在する。多少風味がきついので好き嫌いもあるが、食べ物としては美味だ。
「じゃあ、みんなでいただきましょう」
 向山綾乃がみんなをうながした。
 

    ★    ★    ★
 
「ここ、どこかしら……」
 シーナ・アマングは、キョロキョロと周りを見回した。
 泣きながら無茶苦茶に走ってしまったので、今どこにいるのか分からない。
 いや、それ以前に、自分はスパーク兄様になんと言ってしまったのだろう。ばか……。そう言ってしまった気がする。
「うあああああぁぁぁぁ。どうしたらいいのー。私のばかばかばかー」
 頭をかかえて叫んでも、時間は元に戻せない。
 スパーク兄様はどこにいるのだろう。もしかして一人で帰ってしまっただろうか。
 そんなの嫌だ。
「捜さなくっちゃ……」
 シーナ・アマングは走りだした。楽しそうに遊園地の中を歩く家族連れやカップルの間を縫うようにしてただ一人を捜して走る。きっと、まだいてくれると信じて……。
「いたーーー!!」
 期せずして、離れた場所から二つの叫び声があがった。
 お互いを探し回ったシーナ・アマングとスパーク・ヘルムズが、やっと相手を見つけて声をあげたのだった。
 すでに日は暮れかかって、周囲は暗くなり始めている。人の顔が見分けられなくなる誰そ彼時にも関わらず、二人は互いを見つめることができたのだった。
 まだ距離が離れているので、必然的に走りだすことになる。
「ごめん」
「ごめんなさい」
 やっと手をとりあったとたん、二人の口から同じ言葉が発せられた。そのとたん、すぐ横から目映い光の洪水がわきあがった。無数のイルミネーションが、音楽と共に乱舞して、二人の全身を色とりどりに照らす。まるで、小さな小さな妖精が二人の周りを乱舞しているかのようだ。
「戻ってきてたんだ」
 二人は、目の前で誘うように回るメリーゴーランドを見つめて言った。
 相手を捜して走り回ったあげく、結局ふりだしに戻ってきたということになる。
「乗るか?」
 ちょっとはにかみながら、スパーク・ヘルムズが訊ねた。
「うん」
 シーナ・アマングがうなずいた。
「行こう」
 スパーク・ヘルムズはシーナ・アマングの手をとると、一歩を踏み出した。
 
「カメラよ、カメラを回しなさい」
「歌菜ちゃん落ち着いて」
 ずっと見守っていた遠野歌菜を、リュース・ティアーレがなだめる。
「俺のかわいいシーナがあんな狼野郎と恋人同士に……」
「まあ、うまくいってよかったじゃないか」
 がっくりと肩を落とす龍大地の頭を撫でてなぐさめながら、月崎羽純はメリーゴーランドの馬車の上で重なる二人の影をほのぼのと見つめた。