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リアクション
Part.3 飛空艇操縦士
きょとんとした顔で、その2人は向かい合っていた。
むしろ固まっていた。
片方は、目の前にいるのが、あまりにも予想と違う人物なので。
もう片方は、目の前にいるの見知らぬ人物が、自分を見て呆然と固まっているので。
「……あれ?」
ようやく動き出して、片方、トオルが呟く。
「何か、話が違くないか?」
もう片方、リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、それに怪訝そうに眉をひそめた。
「……意味が分からない」
空賊に心当たりならあるぜ、と、そうトオルの聞き込みに答えたのは、閃崎 静麻(せんざき・しずま)だった。
「少なくとも、空賊って名乗ってる奴になら、心当たりがある」
引っ掛かる言い方をする。
しかし細かいことは気にしないトオルは、空賊を知っている、というその情報にとびついた。
「それを教えてくれるってことは、もっと詳しいことも知ってて教えてくれるってことだよな!」
調子のいい理屈で詳細を訊ねるトオルに苦笑して、静麻は、「空賊」に会える場所を教えてやったのだ。
「本拠地はタシガンの方にあるらしいが、丁度今、お前運がいいぜ」
と言いつつ教えられたのは、余所者であるトオルにも色々な意味で分かり易い、蒼空学園に程近い場所だったのだが。
今いる場所からそう遠くなかったことで、トオルはその足でその場所へ向かった。
そうして、すわ鬼退治とでもいった意気込みでその人物に対峙してみれば。
――相手は、僅か14歳ほどにしか見えない、小柄な爆乳少女だったのだ。
「ガセネタかよ!」
思わず叫んだトオルに、後ろから
「嘘は言ってないぜ〜」
と声がする。
振り返ると、離れた所に静麻が立っていて、面白そうな顔で様子を窺っていた。
「……何なの」
リネンが問うと、
「あ、ああ、すまん」
と、トオルは向き直って謝る。
「実は俺、空賊を探しててさ。何か、ここに空賊がいるって言われて……」
「……私」
「え?」
「……確かに、私は、空賊よ」
義賊のつもりだけど。トオルは再びぽかんとした。
「……「空賊」を名乗る以上、狩られる覚悟は、あるけど」
身構えるリネンに、トオルは慌てる。
「いや、待て。
いくら何でもこんな子供をぶちのめすほど、俺は落ちぶれちゃいねえ」
子供扱いに、リネンはむっとする。
「あ、ワリ」
そのほんの微かな表情の変化を読んで、トオルは慌てて謝った。
「けなしてるわけじゃねえぞ。
どっちが強いとか弱いとかの話じゃなくて、あんただって自分より子供に手をあげたくねえだろ?」
「……」
リネンは黙った後、再びトオルを見る。
「……何故、空賊を探してるの」
「あー……実は、空賊ってか、飛空艇を手に入れたくてさ。
な、いきなりで悪いが、あんた、アテはないか? 空賊なんだろ?」
天空竜を探しに行きたいんだ。
そう言ったトオルに問い返されて、リネンの表情が曇った。
「……いえ、私達は、持っていないけど……」
空賊を名乗るリネン達も、飛空艇を有してはいない。
それほど稀少価値の高いものだということなのだが。
「……でも、……よかったら、協力するわ」
自分達も、空賊を名乗る以上、飛空艇は欲しい。
トオルの言った天空竜というのにも興味を引かれたが、もしかしたら、それが叶うかもしれないとリネンは思った。
「何だ、悶着しないで収まったな」
多少残念そうな口ぶりで、静麻が歩み寄る。
「……悪趣味」
「こじれるようなら、ちゃんと収めるつもりでいたさ。だから近くに控えてただろ」
悪びれなく静麻は言った。
「とりあえず、シキに何も言わずに来ちまったから、一旦合流しないと」
トオルは携帯を取り出しながら
「あいつコレ嫌いで中々出てくれないんだよな……」
とブツブツ呟きつつ、リネンに、
「一緒に来てくれるってことでいいか?」
と訊ねる。頷きかけた時、
「そんなとこで固まって、何やってんの?」
と声がかけられ、知った声にリネンは振り返った。
「は? 竜を探しに行く!?
何でそんな面白そうなこと、あたしに黙ってしようとしてるのよっ!」
リネンのパートナー、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)は、話を聞いて声を上げた。
「保護者?」
トオルに訊ねられ、リネンとヘイリーは同時に「違う」と答える。
「ま、弟子みたいなもんだけど。コレの保護者は別にいるわ。
それはともかく、聞いたからには見過ごせないわね。
よろしい! あたしもついてくわ。みっちり空の掟ってやつを教えてあげる」
「トオル、ここにいたのか」
再び声が掛けられ、今度はトオルが知った声に振り返った。
「相変わらず、鼻が利く奴だな」
「いなくなったと思ったら、こんなところで何をやってるんだ?」
「それ、お前には言われたくなかったぜ」
歩み寄りながらのシキの言葉に、トオルが溜め息を吐く前で、彼は静麻達を見渡し、リネンに目を留める。
「トオル……」
「色々誤解すんなよ。この子は協力者だが、ちゃんと保護者同伴だからな」
「……違う」
リネンとヘイリーは、溜め息を伴いつつ、同時に言った。
結局、飛空艇発着所ではめぼしい情報は得られなかった。
というか、皆忙しそうに働いていたので、関係者に突っ込んで話を聞くことはできなかったのだ。
「飛空艇乗りの溜まり場のようなところを探したらいいんじゃないかな。酒場とか」
「あたしも、そう思うわ」
天司 御空(あまつかさ・みそら)の提案に、ヘイリーも頷く。
「そうね、この辺で、そういったのが集まってそうな酒場といったら……」
ヘイリーが酒場の名前を挙げ、よし、と向かおうとしたトオル達を、しかし、樹月刀真が止めた。
「ちょっと待ってください。
この面子で行くんですか。無茶です」
「確かにな」
その言葉には、シキも同意して苦笑した。
見渡せば、どう見ても学生、未成年の子供達ばかりだ。
「今は特に、新入生が増えたこともあり、クイーン・ヴァンガードでも取り締まり強化月間になっています。
酒場などをうろつくのはまずいですよ」
新入生が増えたこともあるが、それにより、クイーン・ヴァンガードに所属する学生も増えて、初心者マークのクイーン・ヴァンガードに色々経験させる為、PTAのようなことも行っているのだ。
「トオル、お前達どこかで待ってろ」
じゃあ俺が、とシキが言った。
「俺は成人してるから」
「ちょっと待て。
日和見呑気者な世間知らずのお前に、情報収集ができるとは、これっぽっちも思えねえ。
大丈夫、俺の国じゃ18歳から成人だから」
口からでまかせのトオルに
「あたしも成人してるわよ、これでも」
とヘイリーが言う。
「……仕方ありませんね」
飲みに行くわけではなし、クイーン・ヴァンガードとして監視付き、という名目で刀真も共に行くことにした。
無難なところ、とヘイリーが挙げた酒場は、昼間から程よく賑わっていた。
飛空艇発着所で働く者達は、時間が不定期だからだろう。
監視の為という名目とはいえ、来たからには刀真も情報を収集する。
パートナーの月夜もユビキタスによる情報収集をしていたが、
「ネットでの調査にも限界がある……刀真、あとはよろしく」
と、地震に関する調査の後に、言われてしまっているのだ。
その月夜も未成年なので、リネン達と共に待機組である。
刀真はてっとり早くバーテンの男に声をかけた。
「最近の地震について調べているんですが」
「何か?」
問われて、答えられることなどなさそうだという表情を浮かべながらも、バーテンは訊ねる。
「この地震は、天空竜が起こしているのではという話を小耳に挟んだんですよ。
興味を持ったので、何か知っている人はいないかと」
「天空竜、ねえ……」
バーテンには、心当たりはないようだった。
「空の話は、空を縄張りにする連中に聞くのがいいんじゃないですかね」
「飛空艇乗りとか、ですか?」
「飛空艇操縦士は、エリート職ですからね。
稼ぎもいいから、もっと高い店で飲むことが多いですよ」
バーテンは苦笑して肩を竦め、幾つかの店名を挙げる。
「別件で、飛空艇操縦士の手も借りたいと思っていたので、助かります」
刀真は例を言い、質問を続けた。
「……ですが、空賊なんかは、もっと場末のところを利用していそうな印象がありますね。
溜まり場になっているところなんかを知ってませんか」
「空賊?」
バーテンは訊き返す。
「うーん、連中は、町の酒場に来る時は素性を隠すし、堂々としている時は騒ぎを起こす時だから……」
「さっきの話だけど」
カウンターに座っていた男が、話に割り込んできた。
見ると、程よく酔った中年の男が、刀真に笑いかける。
「安酒を好む飛空艇乗りもいるぜ。
俺とか、……あの男とかね」
示された先の壁際のテーブルで、2人の男が飲んでいる。
「特にあの男は、変わり種だからな。
飛空艇操縦士は皆、予定が詰まっているものだが、あいつなら、あんたらの力になるかもしれないぜ」
「おっさん、ここいいか?」
刀真に合図を受けたトオルが、そのテーブルに歩み寄って声をかける。
がっしりとした体躯の髭面の中年男は、首を傾げながらも
「構わないが」
と言った。
それなりに賑わっているとはいえ、午後、まだ明るいうちの酒場で、空いているテーブルは他にもある。
わざわざこのテーブルに来たのをいぶかしんでいるのだろう。
「おっさん、飛空艇乗りか? 教えて欲しいことがあるんだが」
ヘイリーや刀真もテーブルにつく。
「何だ?」
「俺達、天空竜を探してんだ。
で、飛空艇と、その操縦士と、情報を集めてる。何か知らないか?」
ぽかんとした顔で、男はトオル達を見た後で、ふっと笑った。
「……おまえ等、”アレ”を探そうってのか?」
くすくすと笑い出す。
「何かおかしい?」
ヘイリーが問う。
「いや、おかしかねえ。面白い。なるほどな。いいねえ、おまえ等」
くすくすと笑いながらそう言うと、彼は前の席に座っている男を見た。
「よし、こうしよう。
おまえ等、誰かこいつとケンカして勝ったら、協力してやるぜ」
「はあ!?」
声をあげたのは、髭面の男に指を指された、彼よりもやや若めの男だ。
髭面の男に比べたら、ずっと細身で、貧弱と評してもいいほどである。
「ちょ、親分」
「いいでしょう」
刀真が立ち上がる。
「しっかり頼むぜ、アウイン」
成り行き上、立ち上がらざるを得なくなったアウインは、既に腰が引けていたが、刀真は容赦しなかった。
決着は、あっという間についた。
刀真に一撃も出せないまま、壁に叩き付けられたアウインは、二重の痛手に声も出せずに蹲る。
物音に店内の者達が振り返ったが、大事にはならないようだと判断するや、すぐに興味を失ったようで、視線を手元に戻した。
バーテンの男だけは、迷惑そうな溜め息を吐いていたが。
「あーあ」
髭面の男は肩を竦めた。
「しゃあねえなあ。約束だ、手を貸すぜ」
「ってーか、おっさん……」
トオルが溜め息を吐く。
「最初から手を貸してくれる気だったんじゃねーの」
勿論、刀真もそれに気付いていた。その上で挑戦を受けたのだ。
「ひどいっスよ、親分〜」
情けない声を上げるアウインに、笑いながら軽く手を上げる。
「無粋だけど、仕事の方はいいの?」
ヘイリーが訊ねる。
「俺はフリーでやっててな。一仕事終わって暇になったところだ。
ま、よろしくな。俺はヨハンセン。で、飛空艇を探してるって? 難しいことを言うな」
「空賊のを搾取できないかしらと思ってるんだけど。何かアテはない?」
「あー、なるほど。あるな」
それもあっさりと言って、トオル達は驚く。
ヨハンセンはにやりと笑って声をひそめた。
「タレコミがあってな。
確かにタシガン空峡は空賊が多いが、それとは別に、あえて空賊が少ない地域を選んで、強盗活動をしてる連中がいる。
で、奴等は今、商船を装ってツァンダの空港に来てるのさ。
盗品……ていうか大半は強奪品だろうが、アシがつかない他の町で売りさばこうって腹なわけだな」
「例えば遠い町での産物品も、飛空艇の商船が運んだ物であれば怪しまれない、と」
しかもツァンダやタシガンは、元々大陸中から色々な品物が集められる町なので、特に怪しまれにくい。
「そういうわけだ。
で、その空賊が密かにタレコミにあって、クイーン・ヴァンガードが網を張ってる。
多分明日の朝までにはガサ入れがあって、捕り物が始まるだろう」
「え、じゃあ、急がないと」
ヘイリーが言った。
クイーン・ヴァンガードに捕縛されれば、飛空艇は当然彼等に接収される。
いくら刀真がクイーン・ヴァンガードのメンバーでも、自由に使わせては貰えないだろう。
その前に、こちらで手に入れなくては。
刀真は携帯を取り出し、翔一朗らに連絡を入れた。
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