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リアクション
Part.4 飛空艇奪取作戦
子供は寝る時間。
と言われて、リネンは不満の表情を露にした。
「そんな顔しても駄目」
シキは顔は微笑みながらも、頑として譲らなかった。
時刻は、既に夕方を過ぎ、夜の帳が降りかけていた。
クイーン・ヴァンガードに動きはない。
刀真の携帯に、赤嶺 霜月(あかみね・そうげつ)から連絡が入り、空賊の飛空艇の特定もされている。
あとは夜陰に乗じて、それを奪うだけだ。
「……私は、そんな、弱くない」
「強い弱いの問題じゃない。俺より強くても駄目なものは駄目。大人しく待ってろ」
「大人と子供はどこで分けるのさ?」
天司御空に訊ねられ、シキは彼を見る。
「そうだな。中学生以下は子供。高校生以上は大人」
じゃあ俺はセーフだ、と御空は安堵する。
結局、リネンの主張は通らず、待機ということになった。
「全く、大人は頭が固くてやんなっちゃうよね」
同じように待機組にさせられた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が、大人しく寝て待ってると思ってんのかな、と文句を言う。
「どうするの」
苦笑しながら、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)が訊ねた。訊ねつつ、既に答えは解っている。
「勿論」
美羽は、コハクとリネンににっこりと笑いかけた。
「子供は、大人の言うことなんて聞かないものだよね!」
赤嶺霜月は、パートナーのクコ・赤嶺(くこ・あかみね)と共に、トオル達に先んじて空賊の飛空艇に潜入していた。
帆船型の、中型の飛空艇だった。
クイーン・ヴァンガードによる取り締まりは、夜明け前ということになっている。
完全な深夜では、不意打ちにもなるがこちらも周囲の見通しが悪くなる。
それで陽の出前の早朝に、と霜月が根回ししたのだ。
あとはトオル達が夜の内に襲撃をかけてしまえばいい。
とはいえ、襲撃した側が負けてしまうことが万一にも無いようにと、先んじて潜入したのだった。
深夜とはいえ、やましいことをしている集団なので、常に警戒がされている。
夜も荷の積み下ろしをしている飛空艇は珍しくもないが、大半は警備だけ置いて静まり返っている。
そんな中、外へは小人数で荷の積み下ろしをしている商船と見せかけて、空賊達は最低限の警戒を怠っていなかった。
「返り討ちじゃ笑えませんしね」
「そうね」
と、霜月の言葉にクコも言う。
「……それにしても、珍しいわね」
「何がです?」
「自分の趣味で行動する霜月を久しぶりに見たわ」
「……そうですか?」
そう言った霜月に、まあいいわ、とクコは言った。
とりあえず今は、目立たないように少しでも敵の数を減らそう。
陰で暗躍することが、昔に戻ったようで、少し懐かしい気もした。
霜月達が突入経路を確保したところで、トオル達が空賊の飛空艇に襲撃をかけた。
「ちっ、もう始まっとるんか」
飛空艇内に飛び込んだ光臣翔一朗が、顔をしかめる。
遅れをとった。
できれば説得して協力を仰ぎたかったのだが、もうそれが出来る段階は過ぎてしまったようだ。
「しゃあねえ!」
翔一朗は、操縦室を確保制圧する為に走り出した。
相手が空賊とはいえ、無理矢理強奪では強盗と変わらない。
天司御空も、やはりそう考えた。
だが、飛空艇は必要なのだ。説得も不可能。それなら。
「空賊のリーダーに告ぐ! 出て来て、俺と素手でタイマン勝負しろ!
まさか俺みたいな子供の挑戦から逃げたりしないよね!?」
(……本当に言いましたね……)
テンションの低い、というかだるそうな声が、御空の脳裏に届く。
パートナーの白滝 奏音(しらたき・かのん)による精神感応のテレパシーだ。
テンションがダルダルすぎて、会話すら億劫、常時精神感応でやりとりするという有様なのだ。
(言ったさ。正義は、正面から戦って勝つ!)
(……正義……)
呆れ返ったような呟きが届く。
何か文句があるのかよ、と言い返そうとしたところで、のそりと一人の男が現れた。
「てめえか」
「あんたか?」
いかつい顔つきをした、壮年の男である。
身長は、御空と同じくらいか、むしろ低い。
やれそうだ、と思った。
背後に非戦闘員を装って庇われている、パートナーの助けがあれば。
面倒くさいと奏音は文句を言ったが、学食を3回奢ることを約束して、協力をとりつけてある。
「はっ!」
肩を揺すらせて、男は笑った。
「馬鹿なガキが!」
はっとする御空の両脇、斜め後方の微妙な死角から、空賊達が剣を振り下ろす。
「卑怯上等!
てめえら、空賊ってもんを解っちゃいねえぜ!!」
「おあいにくっ!!」
だが、御空に攻撃を仕掛けた空賊達は、それぞれ、後ろから飛び出した小鳥遊美羽の飛び蹴り、トオルの銃弾によって倒れた。
「殺したのか?」
横の藤堂裄人が目を見開く。
「まさか。これでも射撃は得意なんだぜ」
前を見据えたまま、トオルは笑った。
美羽もまた、峰打ち狙いですぐさま女王のサーベルを構える。
「後ろは任せて。思いっきり戦って!」
美羽の言葉に頷いて、御空は改めて空賊のリーダーに向かった。
空賊とは、男の中の男なのだというイメージがあった。
だが、この連中は、単なる悪党なのだ。
だからトオル達も最初から、奪取することを優先して考えていた。遠慮することはない。
向こうがどれ程の強さかは判断がつかないが、少なくとも、自分を見て、油断しているはずだと御空は思っていた。
そして、自分のパートナーが、その存在すら認知度が低い強化人間であることも、考えが及ばないに違いない。
果たして、その読みは当たった。
御空はケンカ慣れしていないし、正直弱いだろうと自分でも思う。
だが、そこにつけ込ませる作戦だった。
(右から。次、後ろに避けて)
ハラハラと見守っているように見せかけて、じっと空賊ボスの動きを観察している奏音が、その動きを精神感応で逐一御空に伝える。
その指示に従って、次々と攻撃を躱す御空に、ボスは
「何だ、てめえ!?」
と動揺を露にした。
(今だ!)
反撃のタイミングを、精神感応で合わせる。
首の急所。
渾身の力で殴り付ける御空と同時に、奏音のサイコキネシスの攻撃を、空賊のボスにぶつけた。
この男には、御空の一撃によると感じられただろう。
「がふっ……!」
仰け反って、そのまま倒れたボスに、御空はガッツポーズをした。
「正義は必ず勝つ!」
「……大分悪だと思います」
勝利宣言に、思わず零れた突っ込みの言葉は、精神感応ではなく口から出た。
(……三食、忘れないでくださいよ)
美羽が空賊達をなぎ倒しまくり、また一方では、裄人がサイコキネシスで動きを止めた瞬間にトオルが銃弾を撃ち込む、という連携で空賊達を倒して行き、倒れた者達を、サイファス・ロークライドやビビッド・ブブジッド達が片っ端から縛り上げて行く。
出血多量などで間違って息絶えないようにと、パートナーのビビッドが警戒する中、鬼怒川或人が、縛り上げた後の空賊に治療を施したり、美羽やトオルらが不意打ちで負傷したりすれば、彼等の回復に回ったりし、何故か飛空艇の規模に比べて、予想していたよりも空賊の数が少なかったこともあって、想定していたよりもずっと手際良く、飛空艇を制圧することができた。
「やったね!」
美羽と御空が、ぱちんと手を叩き合わせる。
トオルと裄人も、無言で笑いながら、軽く拳を突き合せた。
「よし、手っ取り早く中を調べよう。
皆にも連絡して、呼ばないと」
売りさばくのはこれからだったらしい倉庫の中は、強奪品で埋まっていた。
「イルミンスール方面から来たんだな」
戦闘には参加せず、後方で見守っていたシキが、積荷を見て言う。
「何で?」
トオルが問うと、とある積荷を指差す。
「魔糸がある。これ、イルミンスール名産品だろ?」
魔糸とは、イルミンスール制服の縫い合わせにも使われている、魔法を帯びた糸だ。
ふーんと呟いて、シキはそれを一束取り上げた。
「無断拝借ヤバいんじゃねーの?」
「落し物は、1割貰えるものだって、トオルが以前言ってたじゃないか」
「そういうモンかなあ」
「……探索が終わったら……、この飛空艇、私達に貰えないかしら」
入手した飛空艇を見て、空賊を名乗りながらも飛空艇を持たないリネンが申し出た。
トオルはその無心に、返答に困ったように苦笑する。
「俺のものになったわけじゃないと思うしなあ。
俺の勝手じゃ何とも言えねえよ」
確かに、言だしっぺはトオルだが、トオルは飛空艇が欲しかったのではなく、空海に出る方法を得たかっただけだ。
「ま、その話は、終わった時にまたな」
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