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夏といえば肝試し!

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夏といえば肝試し!

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3.洞窟入り口

 徐々に肝試し参加者が集まり始めていた。
 順番はくじで決めようと思っていたのだが……緊張感を持続させるために、有無を言わさず、来た順で行うことに決定した。
 受付のマリエルから蝋燭をもらい、中に進んでいく。
 洞窟の奥は暗く、時折、天井から落ちてくる水の音がいやに大きく響く。
「普通に肝試しも悪くはないのだけれど……肝試しかー、美央ちゃん大丈夫かしら? ……普通に驚かされるのも面白くないわよねぇ……まぁとりあえずは参加するとして普通に脅かされるのもシャクだから驚かせ返してやろうかしら。忍者の本分此処に見よ!」
 四方天 唯乃(しほうてん・ゆいの)が、洞窟前で赤羽 美央(あかばね・みお)ジョセフ・テイラー(じょせふ・ていらー)に話しかけていた。
「なんか騙されてここまで連れてこられました……唯乃さんがいないとどうなることだったんでしょう……」
 美央は唯乃を見つめて安堵の息を漏らす。
(なんかジョセフに連れてこられたと思ったら、肝試し? むー…後で覚えてるといいです。唯乃さんとペアでいきます)
 横目でジョセフを軽く睨む。
「本物のお化けじゃなければきっと怖くないはずです……怖くない! そう、どうせ肝試しなんて人が隠れてるだけ!」
「………」
 必死で恐怖を押さえ込んでいる美央を見て、笑いが止まらないジョセフだった。
(ハハ、美央に逆襲する時が来マシタ! ペア? ノンノン、ミーはMr.クロセルと美央と唯乃を驚かせるのデス! 今までも好き勝手されてきましタシ、丁度いい機会デース、ハハハ!)
「──やっぱり夏といえば肝試しだよね〜♪ 脅かす役も募集してるみたいだし、みんながどんな脅かし方してくれるのか楽しみだな〜! あたしはあんまり怖がりじゃないけど、演出として見るのは大好きなんだ〜、えへへっ」
 クラーク 波音(くらーく・はのん)は楽しそうに笑った。
(一番楽しみなのは肝試しには弱いパートナーのアンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)の反応かなっ♪)
 波音の微妙な空気を感じとって、アンナがため息をついた。
「海水浴に遊びに行くからと心配で一緒に来てみれば、ま、まさか肝試しがあるなんて 波音ちゃん一言も言ってなかったですよ…うう…」
 洞窟の中は不気味な明かりが灯っている。
「普段の戦いや冒険の中なら対応もできるのでいいのですが 肝試しのような催し物では敵意なく驚かされるので苦手です…暗闇で突然驚かされると思うと、うう…」
「何おかしな声出してるのぉ?」
 きょとんとした顔でララ・シュピリ(らら・しゅぴり)が尋ねて来る。
「皆で一緒にお化け屋敷ごっこするんだよぉ〜! あ、洞窟だからお化け洞窟ごっこかなぁ〜? 脅かし役のお化けさんって面白い姿してるんだよねぇ! ララ見てみたい見てみたい〜♪」
「………」
 その言葉に、再び溜息をつくアンナだった。
「ん〜…驚かす役がどんな手段で楽しませてくれるのかなぁ♪ 古典的なシーツを被って、お化けの振り? とか……考えるだけでも楽しいなぁ〜」
 秋月 葵(あきづき・あおい)の満面の笑みに比べ、エレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)は引きつった笑みを浮かべていた。
 この肝試しの話を聞いた時。
 参加を持ちかけたのはエレンディラだった。
 肝試しに行きたそうにしている葵を見て、勇気を出して誘ったのだ。
「葵ちゃん。私と肝試し行きませんか?」
 二つ返事だった。
(ちょっと怖いけど…でも本物じゃないし……)
「リアルすぎるのは驚いちゃうかもね〜。ねえねえ、肝試しだけど…エレン怖いの苦手じゃなかったっけ?」
「本物じゃないから…たぶん……かと思いま…す…」
 声が尻すぼみになっていく。
 そんなエレンディラを見て、葵はくすりと笑った。

「うう、勢いで参加してみましたけど、この洞窟薄暗くて怖いのですぅ。なんだかそれっぽい雰囲気もありますし……一体何起きるんでしょう……? むむ、でも脅かし役も人がやっているのですし、アレン君もいますしあんまり怖くないのです!」
 自分に言い聞かせるように咲夜 由宇(さくや・ゆう)は言った。
「考えてみれば、脅かし役さんの方がこの薄暗い洞窟にずっと待っていなければならないはずですし、ずっと怖そうなのです。ここは、歌を歌って少しでもみなさんの恐怖を和らげないとです。そうしたほうがいいのです。きっといいのです。……でも、やっぱりそれでも怖いのですぅ……」
 由宇はアレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)に怯えた目を向ける。
「なんで怖いのに参加したがるのかなぁ。苦手なら参加しなきゃいいとおもうんだが……。まぁ、自分から参加したいって言ったんだし、脅かされても文句はいえないよね?」
「どうしてそんなこと言うんですかぁ?」
 由宇は泣き出しそうな声をあげた。

「驚かす側に人の肝を試すだけの度胸があるか、こちら側からも驚かせましょう。驚かす側が逆に驚かされる展開に乞うご期待ってことです。肝試す側の肝も、試してあげましょう。夏のイベントといえば、肝試しは定番。ならばそれを最大限楽しむのが、礼儀ですよね」
 テスラ・マグメル(てすら・まぐめる)はうんうんと頷いた。
「肝試しってあれだろ? こんにゃく食べたり、御供えしているお菓子食べたりできるやつだろ? う、考えただけで腹減った。楽しみ! 早く、早くいこう、テスラ!」
 何を勘違いしているのか、ウルス・アヴァローン(うるす・あばろーん)がはしゃいだ声をあげる。
「こんにゃくですか? お菓子? それはちょっと違うんじゃ……」
 そこまで言って、テスラは言うのをやめた。
 考えてみたら、シャンバラに来るまで芸能活動で忙しくて全然遊んでなかった。
 ウルスも楽しみにしていたようだが、自分自身、ウルス以上に楽しみにしていた。
 水をさすのもどうかと思う。
 今日は目いっぱい楽しもう。

「お昼はやっぱり女の子の水着が恥ずかしくてあまり泳げませんでした」
 ぽつりと七那 夏菜(ななな・なな)が呟いた。
(夜の海だったらボクが男の子なこともばれないからってねーちゃんに誘われてきたんだけど、気がついたら肝試しに参加することになっていました)
 怖いのは苦手だし、ホントは帰りたいくらいなんだけど、でもねーちゃんの気持ちもわかるから、がんばってお札を取って戻ってきます。でも怖いです……
 夏菜は、七那 禰子(ななな・ねね)の手をしっかり握り締めていた。
「キミもいつまでもびくびくしてるわけにもいかんし、ここはいっちょ度胸付づけで参加しようぜ」
「うん……」
「これで一歩、大人に近づけるぞ」
「分かった、頑張る」
 引きつった笑みを浮かべて勇気を奮い立たせる、けなげな夏菜だった。

「かっこ悪いとこは見せられないから、緊張するな……」
 七尾 蒼也(ななお・そうや)は小さく呟いた。
「何か言われましたか?」
 首をかしげてジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)が尋ねてくる。
「いや…」
 彼女を誘って夏の思い出作れよと友人達に煽られて来たが……
(普段見せない一面を知って、絆を深めたい)
 蒼也は強く思った。
「浴衣姿、素敵だな」
 そう言われて、途端に顔を赤くするジーナ。
「早めに来て良かった。デジカメで浴衣姿、撮らせてもらってもいいか?」
「あ、はい。今日は、先輩に見ていただきたくて、着てみました……」
「……ジーナ」
 デジカメだなんて……
 そんな風に嬉しいことを言ってもらえる──とっても幸せです。
 ジーナはぎゅっと胸に手を当てた。

 清泉 北都(いずみ・ほくと)は小学生の頃、お化け屋敷で道に迷ってお化け役の人に道を聞いた事があった。
 今回は迷子にならないよう、クナイと手を繋いで行く事にした。
「地図があるから迷う事はないとは思うけど……クナイ、緊張してる?」
 クナイ・アヤシ(くない・あやし)は首を振った。
 手に汗かいてるし表情も硬い気がする。
 もし苦手だったら誘ったの悪かったかなぁ。でも参加しちゃってるし……
「いざとなったら僕が護るから大丈夫だよ!」
 北都は安心させるように、笑顔をクナイに向けた。
 しかしその笑顔が、クナイの心を波立たせていたことは知らない。
 手に汗をかいてくる。
 繋いだ手が気になって仕方がなかった。
「──プレナは驚かす方が合ってるんだけどねぇ〜」
 プレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)は大きく伸びをしながら言った。
「実はプレナってお化けとかそういうの平気っていうか信じてないって言うか…ううん、信じてないわけじゃなくてむしろお友達にもなりたいけど…とにかく怖いとか無かったりするんだよね」
「そ、そうなんですか?」
 ソーニョ・ゾニャンド(そーにょ・ぞにゃんど)が驚いて聞いてくるのを苦笑して答える。
「なんとな〜くソーニョ君のお手伝いで、お札を取りに行くことになっちゃったけど」
「僕は竜騎士の家系で、恥じないドラゴンになるつもりです……それには、肝試しなんかでびびっちゃいられない…!」
「そうだよ、ソーニョ君」
「そんなわけで勇気を出して肝試しに参加してみました……。あぐっ、ごめんなさい、早くも後悔してますぅぅ〜〜! 強さを下さい〜〜」
 ソーニョはプレナの頭にしがみついた。

「だから、あたしは怖いのは苦手なんだって……」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は誰にも聞こえないような声で呟いた。
「え? 何か言いましたか?」
 和泉 真奈(いずみ・まな)が笑顔で尋ねてくる。
(真奈が誘うから洞窟まで来てみたけど、ホントのところ怖いのだけはダメなんよ……)
 元気爆発で負けず嫌いの性格のミルディアは、必死に恐怖を隠そうとした。
 だが。
 嫌いなもんは嫌いだし、どうやって無事に帰ろうかなぁ……
 もうそんなことしか考えられなかった。
「もしかして怖かったりすます?」
「こ、怖くなんて無いんだから! よしっ! 行くよっ!!」
「ふふふ♪」
 明らかに怯えている背中を見ながら真奈は笑った。
(ミルディが怖がりだってことなので、少しは素直になるかなとお灸を据えるつもりで参加させて頂きました。ですが、ここまでだったとは思ってもみませんでした。普段気丈な分からのギャップが面白いですわね〜♪)
 これからが本番。一体どんな風になるのか楽しみですわっ。

「……なんか、小さい頃に祭りとかでにーさんたちに手を引かれてたの思い出すよ」
 和原 樹(なぎはら・いつき)はぼんやり呟いた。
「お化け屋敷とかもあんまり入った経験ないから嬉しいな。夏らしいイベントを楽しみたい」
「肝試しか。変わった風習だな」
 洞窟の中を覗きこみながらフォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)は言った。
「とりあえず、ディテクトエビルで悪意や邪念を察知し、事前に脅かし役の動向をある程度予測しておく。ハプニングに対して警戒しておき、危険があった場合は樹を守ってやるから。まぁそう無茶をする者はいないと思うが、怪我をするようなことがあっても困るからな。火の玉と称して火術が飛んで来たりということが、全くないとは言い切れんだろう」
「うん、そうだね……あ、あのさ…」
 歯切れ悪く、樹は続けた。
「洞窟に入ったら手を繋いでいい…かな」
「………」
 照れくさそうに告げる樹に、怪しい笑みを返すフォルクスだった。

「本当は神和 瀬織(かんなぎ・せお)も誘ったんだけど、行かないって。何でかな?」
 神和 綺人(かんなぎ・あやと)がパートナーのクリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)に問いかける。
「多分気をきかせてくれたんだと……」
「え? なに? 聞こえないよ」
「いいえ、なんでもありません」
(……こういうものは、驚いてアヤに抱きついてみたりするべきなのでしょう。普通のカップルなら。しかし、わたしがお化けの類に驚かないのは周知の事実。ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)さんと瀬織が言うには、むしろ嬉々としてアンデットの類を倒しに行くみたいですから、まぁ…ちょっとのことでは驚いたりしません。洞窟でデート、楽しませていただきます!)
 クリスは大きく頷いた。
「明かりは蝋燭だけだからちょっと暗いね。はぐれないようにクリス、手をつないでいよう。……さぁ、何が出るかな? 本物の幽霊とか出るかなぁ? 仲良くできるかな?」
 これからのことを思って綺人は期待に胸膨らます。
「綺人、肝試しに参加するんだよな…? ならば、そのゴーストとレイスは何だ? 一緒に連れて行く気なのか? 大人しいとはいえ、『本物』を肝試しに連れて行くな」
 ユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)が渋い顔をしながら言った。
「えぇ、そうなの?」
「そうだ」
「ざ〜んねん」
「……」
 クリスの側へと駆け戻る綺人に、何ともいえない視線を送るユーリ。
「綺人に肝試しに一緒に行こうと誘われたのですが、辞退しました。こういうものは、恋人同士で行くほうが良いのではないでしょうか」
 瀬織が、ユーリにそっと囁く。
「もっとも、魑魅魍魎がうようよいるような屋敷で育っていたり、丑三つ時に幽霊達と散歩していたら怪奇現象と間違えられるような綺人が、洞窟の肝試しを楽しめるかは疑問ですが……」
 小さくため息をついた。
「クリスも『何か出ました!→倒さなくては!』という思考の持ち主です。…驚かす役の人たち無事でしょうか? …まぁ、あの二人なりに楽しむでしょう。多分。」
「多分……な。多分……? 待ってるつもりだったけど、こっそり後ついていくか?」
 苦笑しながら瀬織は頷いた。

「迷信なんて端から信用していのだが」
 つまらなそうに言うミハエル・ローゼンブルグ(みはえる・ろーぜんぶるぐ)に、朱宮 満夜(あけみや・まよ)はこれでもかと言わんばかりにプッシュした。
「逆に驚かせる側を驚かせるのはどうかしら。ね、ね! 参加しましょう」
──数日前。
 満夜の一生懸命な念押しに負けて、ミハエルは渋っていた参加を決めた。
「阿呆らし。人魂=炎術、エクトプラズム=雷術、だろ。そんなものだったら我輩だって普通に出せるし。まあ、驚かせる側を驚かせるのも1つの楽しみ方ではあるか。「本物」の力、見せ付けてやるか」
 ミハエルは唇をなめた。
「所詮作り物ですから、本物の恐怖にはかないませんよ」
……でも、肝試しは「日本の夏の風物詩」ですからね。それを教える意味でミハエルを連れてきました。
「肝試し参加側として、驚かせる側を驚かせるのなんて面白そうですね」
 ミハエルにたくさんのことを教えたい。
 満夜は小さく微笑んだ。

 橘 カナ(たちばな・かな)のいつも持っている人形の「福ちゃん」が答えた。
『みみガイナクテモ、アタシ達ダケデ平気ナンダケド……』
「でもせっかくだから一緒に行きましょう」
『ナァニ? 手ヲ繋ギタイノ? 怖イノ?』
「まぁまぁ、ミミだってちょっと怖いのよ」
『ソウネ。マァアタシハ、コンナ遊ビデ本気デ怖ガッタリシナイけどネ』
「むしろ皆がどうやって驚かしてくるのか楽しみよね」
 もちろん、実際は滅茶苦茶ビビっているカナだった。
 カナが肝試しに参加するというのでパートナーの兎野 ミミ(うさぎの・みみ)は付き添いでやって来た。
(本人は否定するでしょうが、カナはああ見えて怖がりだしそれでなくとも心配です)
「カナさん、肝試しはペア参加が原則らしいッス。自分も一緒に行くッス」
 力強い目をカナに向けるミミだった。

「霊的関連が大分落ち着いてきたので大丈夫だろう……」
 一族の血を色濃く引き継いだ為、神崎 優(かんざき・ゆう)は他人より霊感が強い。
 洞窟の中は涼しく過ごしやすいが、暗く、妖しげな風が吹いていて水無月 零(みなずき・れい)は怖くなっていた。
「怖いか?」
 優の問いに、零はぎこちない笑みを浮かべる。
「ううん、大丈夫」
 優は代々剣士の家系なので気配を探る事が出来るのと、今までに色々な体験をしてきたので驚いたりはしない。むしろ、自分が原因で霊的なモノを呼び寄せてしまうのではないかと心配している。
 零を巻き込まないようにしないと……
 一抹の不安をよぎらせる優だった。

「エースが誘うので洞窟に行く事にしたわ。子供だましに決まってるけど、熱心に誘うから付き合ってあげるわ」
 エルサーラ サイジャリー(えるさーら・さいじゃりー)がふんぞり返って言った。
「行って戻ってくるだけでしょ?」
 白ワンピと薄茶ベストに木製アクセ、ポケットに懐中電灯2本。口ではどうでも良いように言っているが、準備は万端だった。
 エルサーラに会う機会が近頃無かったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)は、夏の思い出作りに今回の肝試しに誘った。
 夏はやっぱ肝試しだよな。洞窟でドキドキを一緒に体験できるといいな。
 彼女だけが自分にとっては「特別な女性」。
 恋人は別にいるがもっと違う意味の、大切なヒト。
 そんな二人を、ペシェ・アルカウス(ぺしぇ・あるかうす)はこっそりと見守っていた。
(強がっててもエルは洞窟や暗がりは不慣れだし、内心怖いと思う。エースの前では強がってリードしようとする姿は可愛いけど心配……)
 光学迷彩を身に付け、後をつけ護衛を開始するペシェだった。

「驚かされる仕掛けとかアイデアも色々あるし、全力でかかってこーい!」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は叫んだ。
 いざ洞窟へ! ボクは基本怖がりじゃないから平気なはず。どっちかって言うと、驚かす役がどんな手段で驚かしてくるか楽しみで仕方がない。全力で驚かしに来るといい。ボクは負けない!
 レキは拳にぐっと力を込めた。
「ふふふ、肝試しとはのぉ。魔女として闇の血が騒ぐわ……何? 驚かされる方じゃとっ!?」
「そうだよ」
「くっ、予定外じゃ」
 せっかく可愛い子達をヒィヒィ言わせられると思うたのに。
 ミア・マハ(みあ・まは)は思わず心の声をぶちまけそうになった。
「まぁ、妾が付いておるゆえ心配は要らぬぞ? じゃが、こっちも偶には良いかもしれぬ」
 ミアは冷静に分析しながら前を見つめた。
 その後ろで。
「マシンのくせに肝試し? 何が楽しいんだ?」
 パートナーのソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)にムリヤリ連れて来させられた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)が、不機嫌そうな声を出していた。
「たまにはいいじゃないですか」
 実は日頃から雑な扱いをする剛太郎を恐怖のドン底へ叩き落とす為、洞窟内でイタズラを敢行する予定でいたソフィア。
 ビビリまくる剛太郎が目に浮かび、ソフィアのテンションは上がる。
「ふふ……ふふふふ…」
「な、なんか、楽しそうでありますな……」
 不気味に笑うソフィアに、少し引き気味の剛太郎だった。

「学校に来る依頼で殺し合いなんかはよくやるけど、驚かされに行くっていうのはなかなかないよねー。勇敢さにはかなり自信があるけど、どうかなー」
 霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は横目でそっと緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)を見た。
 陽子ちゃんとは、腕を組んで指を絡めて洞窟を進んでいくつもりだ。
 腕と指だけは絶対に離さないようにしたい。
「肝試し、ですか。昔だったら嫌でしたが、透乃ちゃんに振り回されているうちに、怖さに対しても強くなっているのを実感しているので大丈夫だと思います」
「えぇー振り回してないよー」
 一応今回は驚かされるつもりで来てるから、探知系スキルも外したし、進みながら周囲に気をつけるつもりも無い。
 驚かす役の人はどんどんかかってこーい。
(本当は……驚いた振りをして陽子ちゃんに抱きついて、あんなところやそんなところを触ったりしちゃおうか、なんて考えてるんだけど……もちろん陽子ちゃんのほうから抱きついてきたときも抱きとめつつ触っちゃうよ。暗闇で大好きな陽子ちゃんが側にいるのにそういう気分にならないわけがないよね! うへへ…でも、あまりエスカレートしないようにある程度のところで自重しないとね♪)
 透乃の妄想…いや、野望は尽きなかった。
「そもそもネクロマンサーが肝試しで怖がっていてはいけないですよね?驚かすことだけを考えたようなことをされると少し驚いてしまうかもしれませんが…ダークビジョンや殺気看破のような暗闇でも何かを察知できるようなスキルをつけているのも決して怖いからでは……」
 そんな透乃の胸の内など知るはずもなく、陽子は不安そうなため息を一つついた。

「一本道だから大丈夫だと思うけど、ふぃーちゃんは方向音痴だから手を繋いでいくよ」
 天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は手を差し出した。
 その手を、フィアリス・ネスター(ふぃありす・ねすたー)は困ったように取った。
 怖いのはあまり得意ではありませんけど、結奈ちゃんとリィルを二人っきりにすると結奈ちゃんの貞操が危ないので、守るためについてきました。
(本当に大丈夫でしょうか……)
 そんなフィアリスを、リィル・アズワルド(りぃる・あずわるど)は黙って見つめていた。
(最初はゆいと二人きりで行くはずでしたのに、憎き小姑フィアリス……一緒に行くと言い出してしまいましたわ。ゆいと二人きりになるためにも、邪魔者をどうにかして排除しなければいけませんわね)
 とんでもないことを考えている。
(まぁそれは置いといて、洞窟の中を探索する時は別に怖くはありませんけど、怖がっている振りをしてゆいの腕に抱きついてやりますわ)
 リィルの邪念を察知してか、フィアリスは訝しげな視線をぶつけた。
 二人の攻防が、ここから始まる。