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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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ヒラニプラ南部戦記(最終回)

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4-06 東の谷 最後の戦い(2)
 
 教導団陣地。
 負傷兵たちがいる。幕舎の一つでは、李 梅琳(り・めいりん)がまだ癒えぬ傷をかかえて控えていた。
「鋼鉄の獅子……本当に大きくなったものね、一年前の戦闘訓練……懐かしいわ。
 ……なんて、私らしくないけれど。
 もう、彼らに指揮を任せて大丈夫ね」
「メイリン」
「……? カオル。どうしたの?」
 橘カオル(たちばな・かおる)が入ってきた。
「メイリン。……その、……オレもパズル好きでよくやるんだ」
「え……」
「他にもナンプレ(数独?)・スケルトン・おえかきロジックもあるぜ。はぁ、はぁ。
 メイリン。オ、オレ……メイリン!」
「きゃぁ、カ、カオル! ど、どうしたの、何す……!」
 梅琳の看病をしてきた彼だが、決戦前の昂ぶりに混乱していたカオルは梅琳への思いがここで抑えきれなくなってしまった。
「だ、だめ…………」
 外に爆音がする。兵らの悲鳴と、おぞましい女の高笑い。
 メニエスが箒に乗ってやって来たのだ。
 空中からファイアストームで陣営を無差別に焼き払う。
「李少尉! ……?!」
 獅子の隊長となったルースが駆け入ってくる。が、カオルと梅琳の様を見てはっとし、戸惑ってしまった。しかし無論、そんな状況ではない、のだが。
「……ええ、……。
 敵の襲撃です。メニエスが来ました」
 カオルは我に返っている。梅琳の方を見れない……
「はぁはぁ、そ、そうなのね。ルース持ち堪えられる? ……」
「もちろん守りきってみせますよ。
 しかし、実は更に別働隊が、正面でルカルカたちの戦っている隙を衝いてこちらへ向かっているようです。……カオル?」
「あ、ああ! そちらは、オレが!」
「私も……」
「……」
 少々気まずい空気のままであったが、こうしてもいられない。
「李少尉は無理をなさらず。しかし、ここは危険です。負傷兵らと安全なところに移動してもらいましょう」
「わかったわ。負傷兵は私が導きましょう」
 


 
「カオルどこにいたの?! こんなときに。顔、紅くない?」
 マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)が問いかける。「あれ。梅琳と一緒? こんなときに。怪しい……」
「な、何を言うんだ!」カオルは我を失いつつ自分のしようとしたことに後悔の念が……そんなつもりじゃ……。
「……」
 梅琳は無言で、負傷兵らの方に向かって行ってしまった。
「え? あれれ……?」
「……。梅琳……」
 外では、ソフィアが突然の来襲に必死の防戦を試みている。
「ソフィア。大丈夫ですか!」
 ルースが駆けつけ、各兵に指示を送る。
「メニエスめ……! 何と厄介な敵でしょうか。くっ」
 メニエスは魔力の限りを尽くし炎の嵐を送り込んだ。
「ハハハハ!! いいぞ、燃えろ燃えろ!
 ミストラル。あたしはあそこにいる輜重隊を焼く。ここの指揮官にとどめを刺しておいて?」
「メニエス様」
 ミストラルは不敵に笑み、火の海と化した敵陣に下り立った。
「指揮官ね。覚悟!」
 ミストラルのカタールがルースの腕を裂いた。「ちっ外したか。その首だ、もらった!!」
「うわ!」
 ルースは奇襲に防御が間に合わず、ライフルを取り落とした。
「ルース……」
 ソフィアがルースの前に出てエペで斬りかかり、身代わりになった。
「ルース。……」
「ソフィアァ!!」
「ちぃ、邪魔するな。もう一度行くぞ死ね!!」
「う……」
 ルースは貫かれつつ巨獣狩りのライフルを近距離からぶっ放した。
「ワァ、……メニエス様!!」
 

 
「邪魔ね。どきな!」
 輜重隊を襲ったメニエスにはメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が立ち塞がった。「な、なんとしても守ってみせますぅ……!」震えつつ武器を構えるメイベル。まさか本当にこんな後方に恐るべき相手が来るなんて……
 しかしメイベルの前には、セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)がいる。
 セシリアは光条兵器のモーニングスターを手に、フィリッパは槍を構えて間合いを取る。
「こいつら相手に近接戦闘をして仕方がない」
 メニエスはブリザードを放った。
 フィリッパが盾を向ける。
「ほらほら!! どうだ。手も足も出まいが! ……何」
 メニエスは背後からの射撃をすんでに交わした。
 血まみれのルースがライフルを掲げて立っている。ルースはもう一度無言でそれをメニエスに向けた。
「……あんたは。ミストラルはどうした、やられたのか? ち!」
 メニエスは最後にファイアストームを輜重に向け放つと笑いながら飛び去っていった。
「レオン。やりましたよ。ソフィア……」


 
 陣地目がけて進軍してきた綺羅 瑠璃(きら・るー)
「オレが相手だ」
「む……」
 現れたのは橘カオルだ。
 瑠璃はルミナスジャベリンを構えた。
「行くぞ!」
 カオル、にゃんこ兵がかかる。
「レオン、イリーナ出てこい!」
 瑠璃は兵を繰り出す。「ジャレイラ様……!」
 テング兵が飛び交い、援護をしている。「こしゃくな。これではこちらの陣形が……あっ」
 テング兵が瑠璃の頭上をとんだと思うと、テング兵にかかえられた何者かが瑠璃の前に飛び下りた。
 すかさず両手剣を振るう相手。
 敵はレオンやイリーナばかりではなかった。
 瑠璃は防ぎきれず、マリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)の一撃を受けた。
 目の前が暗くなる。斬られた……! そして、瑠璃の意識は途切れた。
  


 熾烈な戦いだった。
 シャトムラはルカルカ相手に押されつつも一歩も退かず。金住が捨て身で飛びかかり、もみ合うところへイライザが剣を突きつけた。これで終わった、と思われたがシャトムラはその剣を素手で掴みとって奪うと、イライザを突き倒し再びルカルカに挑みかかった。だがこれはもう最後の足掻きでしかなくルカルカはシャトムラを捕らえた。
 ダリルはその間必死に陣形を保ったが、死兵として向かってくる敵は討つしかなかった。このときすでにかなりの数の敵が地に伏すこととなっていたし、無論こちらも兵に死者は出た。
 ようやくシャトムラを捕らえたか、というとき、男は、
「黒羊の信者たちよ。わしにかまうな。黒羊に殉じよ!」と。そして信者らは最後の一兵まで戦いをやめようとはしなかった、のである。
「……」
 ルカルカは、敵の屍のなか、無言で立ち尽くす。
「シャトムラ」
 残ったのは敵将だけだ。
「ふははは。これが我ら信者の戦いだ。
 さあ、わしも決して貴様らに降伏するつもりはない。黒羊教に殉ずるぞ。殺せ!」
「えぇぇい貴様ァ!」
 レーゼマンが拳で男を打った。男は気を失う。
「く、……ひどい有様になったな。しかし、どうしようもなかった」
 ジャレイラであればこうではなかったかもしれない。もっとも相手がジャレイラであればこちらの被害も並大抵ではなかったろうが……そしてジャレイラを捕捉できたなら、ジャレイラを救えていたろうか。
「ルカルカ。私たちはよく戦ったぞ。うむ。……」
「うん……そうね」
 ルカルカは、微笑んでみせた。