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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

リアクション

 
 18、勝利の為の覚悟
 
 
『どうしました? 西チームのキミとキミと……キミ。まだいるかな? 必殺技を出してませんね。まさか、この後に及んで出し惜しみですか? それとも、必殺技など出さなくてもボク達に勝てるという余裕ですか?』
 キリカは言うと、あろうことか持っていたボールを西チームに放った。透乃が驚いた表情のままそれを受け取る。
「うーん、後半に使おうと思ってたのは確かだけど、それも作戦だよ? そういう言い方されるのは心外だなあ」
「透乃さん、彼女の言葉は本心じゃありません! 何か、思惑による発言です。俺達の持ってる必殺技を引き出して対策を取ろうとしているのかも……というか……あっ!」
 そろそろボールを持って5秒経つ。陽太がそう言おうとした時、透乃はシュートを放っていた。ヒロイックアサルト【殺戮の狂気】を発動し、ボールに爆炎波を乗せて、投げる。
「それならそれで、受けて立つのが戦士ってものだよね! 覚悟の上での言葉なら、無視したら失礼だよ!」
 一直線に迫り来る攻撃をキリカは受けた。足元を狙った攻撃を、腰を落として見据え、キャッチする。オートガードとディフェンスシフトは使っている。受けるダメージも少ない――筈なのだが。
 思っていた以上の衝撃が、彼女を襲う。
 陽太の言う通り――西の攻撃パターンを全て出し切らせるのが彼女の目的だった。どこまで敵の攻撃を引き出してヴァルの記憶につなげられるか。
 それが勝負の分かれ目になるはず。
 人数が少なくなったって、最後まで勝利は諦めない。
 相手の攻撃を集中させる為なら、心にもない挑発だってする。
 キリカはボールの純粋な攻撃力と爆炎波の熱を耐え切ってキャッチした。熱のダメージは、ファイアプロテクトのおかげで多少軽減されている。それでも一瞬、キリカはよろめいた。身体から溢れる力を全て使った、本気の一撃。ボールが焼けるゴムの匂いが鼻につく。それを、一気に西チームに投げ返す。シュートというよりは投げ返すという方が適切だろう。ボールを持った陽子に対して、彼女は軽く手招きした。
「躊躇っちゃだめだよ!」
 陽子は少し戸惑っていたが、透乃の真剣な表情を見て頷いた。両手でボールを持ったまま助走をつけてハンドスプリングを行った。着地の際に、その遠心力を利用して両手でボールを投げた。ボールには封印解凍で得た力と、アルティマ・トゥーレが掛かっている。
「封印解凍……!?」
 ヴァルが驚いた声を出す。封印解凍は、身を守るために普段抑えている力を解放する技だ。使えば、身体に負荷が掛かる。次に素早く動けるかどうか――
(なるほど……文字通り、渾身の一撃ということか……)
 ボールは縦回転しながらキリカに迫る。キリカは先程と同じように正面から受けた。氷属性攻撃への対抗スキルは無い。魔法への対策としてのエンデュアだけ。
「…………っ!」
 リカバリは掛けていた。それでも直前のダメージの影響は大きかった。キリカはボールを受け切れずに吹っ飛ばされる。
「キリカさん!」
 フォーティテュードを使って防御力を、パワーブレスで身体能力を上げた美央が彼女を支えた。
「大丈夫ですか!?」
 ライン前で留まり、グレーターヒールを使う。外野に移っていた悠希も外野エリアのぎりぎりまで前進してヒールを飛ばした。
「まだ逝っちゃダメぇーっ!」
「ボールを捕れ!」
「はいっ!」
 ヴァルが叫び、こぼれたボールをクライスがキャッチする。ファランクスで防御体勢を整えた彼は、両手を使ってがっしりとボールを掴んだ。直後、凍ったボールが手に張り付く。同時に、全身が冷凍庫に入った時のように冷えていった。
(これは……!)
 急激に襲いくる寒さ。スキルのフォーティテュードでダメージは多少軽減できたが――ボールが手から離れない。ボールを持っていていいのは、5秒だけ。クライスは膝を使って無理やりボールを引き剥がした。ひりひりするものの、幸い手は無事だった。そのまま、ランスバレストの突進力を利用して一気に突く。狙うは、封印解凍の影響を受けている、陽子。
「……!」
 陽子は、慌てて奈落の鉄鎖を自身の周囲にかけた。これで、動きが鈍くなれば……
 ……止まらない……確かに遅くはなっている。でも、この程度じゃ……!
 思わず目を閉じる。
「陽子ちゃん!」
 透乃の声が至近距離から聞こえた。ぼんっ、と鈍い音がする。
「透乃ちゃん……?」
 おそるおそる目を開けると、陽子をかばうようにして透乃が倒れている。肩を抑えていた。
「へーきへーき、ちょっと当たっただけだよ。でも……このままでも的になって皆に迷惑かけるだけだね。リタイアしようかな?」
「では私もそうします。封印解凍の影響で身体がとても重いのです」
 その頃、透乃に当たったボールは跳ね返り、速度を落として着地しようとしていた。それを、神速を使ってアシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)が取りに行く。地面まであと数センチ、という所でアシャンテはレシーブしてボールを宙に戻した。斜めに飛んでいくそれを、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が更にレシーブする。垂直に上がっていくボールを、立ち上がったアシャンテは再びジャンプし、追いかけた。そのまま宙でくるりと回り――
 ボールに、神速で勢いをつけたダイレクトオーバーヘッドシュートをかます。
 強力なその攻撃は、真っ直ぐにキリカの所へと飛んで行った。
「……!」
 覚悟を決めてボールに臨もうとするキリカ。しかし、そこでボールに奈落の鉄鎖がかかった。ザカコが咄嗟に使ったものだ。陽子の時と同じく、否、神速の力相手なので先程よりも効果は薄い。ザカコは更に、バーストダッシュでキリカの前に出た。キャッチしそびれた時を考え、彼女をなるべく隠すように。
「アウト!」
 倒れたザカコは、自分の身体の調子を確かめる。右半身にしびれたような、じわじわとくる痛みがあった。ユニフォームをめくると、早くもそこは内出血で赤紫色に変色していた。
「どうやらここまでですね……」
 ゆっくりと立ち上がると、ザカコは残ったメンバーに微笑んだ。
「後はお願いします」
「どうして……」
 キリカが少し戸惑ったように言う。
「あなたが全てを背負う必要はありません。それに……今の技を分析しても無駄というものです。彼女は、退場になりますよ」
「……?」
 西コートを見ると、綺人がアシャンテに近付いている所だった。
「反則です」
 そう告げる綺人に、アシャンテは僅かに眉を動かした。
「……ボールをぶつける、というのと……ぶつかっても落とさなければいいというルールではないのか……?」
「手で投げる、というのも暗黙の了解……というかルールです。足を使ったシュートは反則です。認められません。サッカーじゃないんですから」
「…………」
 アシャンテは暫く黙考してから、頷いた。
「そうか……」
 それを見届けてから、ザカコが言う。
「と、いうことです。また……これで、あなたが挑発した皆さんは全員必殺技を使ったはずですよ。あちらの技は、全て出切りました」
「え……?」
 キリカは改めて西のコートを見渡す。確かに――記憶が確かならば、これで全員だった。一気に力が抜ける。それを、ザカコはそっと支えた。
「審判……ボク、棄権します……。アウトになっていない選手が棄権――戦闘不能になった場合、外野から1人入れるのですよね?」
「……ああ、そうだな」
 ユーリが答えると、キリカは続ける。
ヴァル・ゴライオン(う゛ぁる・ごらいおん)を内野に入れてください」
 そうしてコートから出ると、ヴァルが外で待っていた。ぼろぼろになった彼女を抱き締め、彼は涙を流す。スポ根もののラストで良くあるシーンに何となく似ている。
「今までありがとう。そしてすまん」
「…………」
 抱き締められたキリカは、少しばかり大きくなった胸の鼓動を感じながら、静かに言った。
「ヴァルの花道を作る、それがボクの役目ですから、気にしなくていいんです。帝王たるもの、そんな簡単に涙を流すべきではありません」
「そうか……後は任せろ」
 ヴァルがコートに入ると、キリカはその場で崩れ落ちた。救護係のショウ達がすっとんでくる。
 いつの間にか、暴動は収まっていた。
 コートに入ったヴァルは、西チームの選手や観客、気のせいか作戦を知っている東チームの仲間からも白い目で見られているような錯覚に陥って……いや、錯覚じゃない。
 そんな人々に向け、彼は堂々と言った。
「美味しいとこどりに見えるかもしれないが、全ては勝利のため。勝ったとしてもこれは勿論俺の手柄ではない。今まで東を支えた皆がMVPだ!」
『…………』
 本人としてはチームの皆を鼓舞したつもりだったのだが――その効果があったかどうかは甚だ疑問である。むしろテンションが下がったような……。