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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

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【ろくりんピック】こんとらどっじは天使を呼ばない

リアクション

 
 19、真剣に、全力で。そこにどんな結果があっても
 
 
「――そぉい!」
 ボールを持った美央が、ランスバレストを応用してボールを突く。小細工の無い、一直線のシュートだ。
「これなら……止められる!」
 詩穂が正面から迎え撃ち、ボールを受け止める。
「この怪力の籠手で……パワーを相殺させて頂きますっ!」
 後ろに押されるものの、詩穂は気合と共に踏みとどまって両手でボールを押さえ込んだ。純粋な力と勢いのボールなら……止められる。
「まだ……そんな力が……!?」
 ヴァルが驚いたように言う。それから、救護所にいるであろうキリカを思い描き、にやりと笑った。
 美央も驚き、その根性に自然と敬意の念を抱いていた。詩穂も、キリカと同じく何度か必殺シュートを受けていた筈だ。合間にヒールを受けていたとしても、万全の状態とはいえない筈だが――
 ぱきぃぃん……!
 怪力の籠手が壊れる。試合開始時に必殺技を受けた時、籠手には既にひびが入っていたのだ。しかし、詩穂は素手でそのままボールを受け止め続けた。手に多大なダメージがくるものの、勢いが衰え、ボールは無害なものへと変わっていく。
 無事にキャッチすると、詩穂は美央に対してボールを疾風突きで返した。
「いい闘球でした!」
 リバウンドなしのダブルアウトを狙った一球が、美央の急所に向かって突き進む。その速度は、コンマ数秒。
「……!」
 避ける暇も無かった。オートガードとオートバリアのおかげでダメージは軽減されたが、先に、芽美のシュートを受けた時のダメージも相まって、美央はよろけた。跳ねたボールは、エリスへと向かう。
「私は……生き残る!」
 咄嗟に雷術を使い、エリスはボールを叩き落そうとした。だがボールは雷を蹴散らしながら、彼女を襲う。
「……痛っ!」
 だが、エリスも倒れなかった。女王の加護で防御力が上がっていたということもあるが、生き残りたいという気持ちが強かったのだ。ボールはまだ生きている。上空に跳ね上がったボールを、超感覚で白いネコミミと尻尾を出した明日香が飛びついてキャッチした。必殺サポートだ。そのまま、必殺技時の回転を利用して、外野にパスする。受け取ったのは、前半で西の動きを制した唯乃だった。彼女は、すかさずボールに光術を纏わせ、更に同じ大きさの光球をいくつか発生させた。それをダミーとして一緒に投げつける。西のコートに光が散った。
 まさか、攻撃技まで用意していたとは……!
 光球は当たってもアウトにはならないものの、どれが本物か分からず、西の選手達は右往左往する。
「え? え?」
 一瞬戸惑ったリーズ・ディライド(りーず・でぃらいど)は、しかしスウェーで光を避けた。
「どれか分からないなら、全部避ければいーんだよねっ!」
 御陰 繭螺(みかげ・まゆら)も、博識を使ってどれが本物か見破り、ボールから離れる。そして指差した。
「あれが本物だよ! でも……!」
 その時には、ボールは既に月夜の背後に迫っていた。
「アウト!」
 ボールがバウンドし、それをリーズが取る。前に出て、美央の足元を狙って投げつけた。足なら当たった時にフォローもしにくい。
「えーいっ!」
 しかし、美央は腰を落としてそれを見事キャッチした。
「あれ? だめかー」
「ふふふ……、私のシュートを受け止めるとはなかなかやりますね詩穂さん。それならば……これはどうですか?」
 美央はライトブリンガーをボールに纏わせた。実体のない敵をも討つ、強力なスキルである。光を帯びたボールを美央はふたたびランスバレストにてボールを突く。必殺技名を叫ぶ。
「らいとばれっそぉい!」
(……まずい!)
 瞬間的に詩穂は悟った。元々、1回目の攻撃を返した時点で限界を感じ、退場するつもりだったのだ。だが、次々と試合が流れる中で、そのタイミングを見失っていた。
(でも、来るなら……詩穂は受けます!)
 そう思った時、視界を遮るものがあった。アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)の背中だ。
「私が護ってみせる! 精霊の力をここに! たあああああああ!」
 フォースフィールドでバリアを発生させ、光輝属性への耐性を得られる護国の聖域を展開し、精霊の知識を使う。彼女は、いざという時に味方が庇えるように、周りから3、4歩離れた場所に立つよう心掛けていたのだ。
 ずばぁぁあーん! という圧力が爆発したような音がした。アリアは地面に足をめり込ませながらも、1歩も引かない。
「あなたの属性攻撃をそぎ落とすのが先か、私の属性防御が突き破られるの先か、真っ向勝負よ!」
 ボールはしかし、勢いを落とさずに押していく。実体のないものすら倒すスキルに対し、バリアがぐにゃんと曲がっていく。
 そして。
「きゃあああああ!」
 アリアは悲鳴を上げた。ボールが上半身のど真ん中に突撃したのだ。実体の在る――そう、実体の在るユニフォームが一気に破ける。
「きゃあああああ!」
 さてその悲鳴は、ダメージによるものだったのか、何か別のことに対する悲鳴だったのか。アリアはそれでも吹き飛ばされるのだけは堪え――
「う……ん……」
 ボールがただのボールになった瞬間に茫洋とした表情で目を閉じながら横に倒れ、動かなくなった。
《……………………》
『……………………』
 またもやあられもない姿を晒す結果になった女子に、束の間会場中の視線が集まる。
「アウト! 彼女の保護を!」
 リタ達が余ったシーツを持って駆けつけ、アリアを簀巻きのようにしてコートの外に出す。そこで、詩穂が改めてリタイアを申請した。
「美央ちゃん!」
 美央も力を使い果たし、ゆっくりと眠るように倒れる。

《さあ、東シャンバラチーム6人、西シャンバラチーム7人になりました。勝負がどうなるのか全く分かりません!》
『すごい闘いネ〜。いろいろあったけど、意外に拮抗していたのネ。さて、試合もクライマックスが近いワヨ〜』