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●第5章 あさぱに! 葦原の巻(ローザマリア 編)

 朝、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)が起きると、例に漏れず男になっていた。

「あのー? 何か中性的、というか女顔の美少年が鏡の向こうに――って、なんなのでゴザルか、これは……!」
 ローザマリアは自分の声に驚愕した。
「何ッ! 語尾がへんでゴザルっ!」
 ローザマリアは洗面所を飛び出し、パートナーたちを探した。
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダー(ぐろりあーならいざ・ぶーりんてゅーだー)典韋 オラ來ジョン・ポール・ジョーンズ(じょんぽーる・じょーんず)の三人がいない。
「しまったでゴザル!」
 そう、性転換願望があると思われるパートナーだったのだ。
 しかも、強烈な願望であった。
 典韋は魏の武将にして曹操孟徳の親衛隊長。
 実は何があったかと言うと、典韋は朝起きて自分が前の男の姿へと戻ったことを知ると狂喜乱舞。筋骨隆々で見事な髭を蓄えたゴッツイ武将の姿を鏡で一時間は堪能してから、曹操の元へと走って行ってしまった。
 部屋を飛び出す際の最後の言葉は「ヒャッハー! 元の姿に戻れたぜ! そー様(曹操)待っていてくれよ! 今、生前の姿に戻ったこの典韋が会いに行くぜ!」だった。
 まあ、コレは単純で、キマクまで行けばいいことだ。
 荒ぶる魂の叫びで、途中でパラ実生や蛮族を締上げ配下の集団を作りだし、「ヒャッハー!」と気勢を上げながら、軍勢を膨らませてキマクを目指すはずなのだ。目に見えるようだ。
 そして、グロリアーナは男になっていた。
「我が悲願、成就せり!再び王として再臨せん!」
 …と言って出て行ってしまったのはしかたがない。
 結婚すると王(キング)でいられなくなるため、未婚を貫いた人生だった。それを勘定に入れれば、狂喜してパートナーを置き去りにしていったことも可愛いものだろう。
 しかし、その後が問題だった。今までの人生におさらばして、エリュシオンに連れ去られたシャンバラ古王国女王を『無謀にも』取り戻し、求婚しようとしていたのである。
 世の中には頑張ってできることと、出来ないことがある。
 今までの苦労でわかってもよさそうなのに、奇跡が起こったと思って出て行くあたり、まだまだだ。
 ローザマリアは自分の絆を辿ろうとした。勘に引っかかるものは無いかと思いを巡らせる。
 さて、最後の一人はどこへ行ったのだろう。
 ジョンが日頃から水兵系ネットアイドル『セイラー・ジャネット』として女装した上で活動していることを思い出した。
「まさか…」
 ローザマリアは呟いた。
 本物の女性になって狂喜して外へくり出しているのなら、行く先は空京。イベント会場などに向かっていることだろう。これは自分たちの絆と言う繋がりを辿らなくても見つけられる。
 彼女は立ち上がった。
 こうなれば、まず探すのが最優先。
 次は犯人だ。
 ローザは三人を回収した後、犯人を捕まえて「生まれてきてごめんなさい」と言うまで折檻するつもりだった。

 かくして、四人の逃走劇ははじまったのである。

 そして、その後は…犯人の番でもあった。