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●第6章 好きすぎて、静香様♪

「…あれ? ボク…少し胸が膨らんでる…?」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)は違和感を感じ、今度はお股に手を当ててみる。
「男のコのアレも無いっ! 完璧に女の子に!?」
 洗面所の鏡に映る自分はいつもと変わらない。しかし、ほんのすこ〜しだけ細くなった印象がある。見た目には、ちょっと痩せたかなぐらいにしか変わらないので、誰か知り合いに出会ってもわからないだろう。

(女の子の体を自分で堪能…って、ダメっ! ボクの初めては静香さまのです…静香さまに初めてを…全てを捧げたいっ♪)

 純情、愛情、妄想を膨らませ、理性なんか押し倒して大好きな静香様のところへ跳ねるように走る、悠希。
 この角を曲がれば、静香様の部屋…もとい、校長室!!

(ああ、好きです…静香様…)

 悠希はその扉を開けた。
 二人の間には、ドアでさえ邪魔な存在。
 壊れてしまえ!とばかりに開け放った。
「静香様、おはようございます!」
 悠希は静香に向かって走りこんだ。
「あ、おはよう♪ あ、れ……どうしたの?」
 にっこり笑って挨拶をする静香だったが、ちょっと様子のおかしい悠希に気が付いて目を瞬いた。
 悠希は静香に飛びつく。

(ああ、イイ匂い……今日のシャンプーは天然素材100パーセント、フランス製。ユーカリと薄荷とオレンジですね……夏らしい、素敵です☆)

 香るシャンプーの香りから成分を解析するなど、静香に関する本を書くだけのことはある。このシャンプーは新しいものだろう。あとでちゃんとメモしておかねばならない。
 どこで売っているか聞いてみようか。同じものを買ったらお揃いができるかも。いや、そんな香りに包まれたら夜も眠れなくなってしまう。ああ、静香様。静香様の香りに包まれたら、息も出来なくなってボクは昇天してしまいます……云々。
 ざっと一瞬で、こんな言葉が脳内を駆け巡っていった。
「え? ちょ、ちょっと……飛びついてきたりして、何か嫌なことでもあったのかな?」
 静香はうるうるした目で見つめてくる悠希のことを、泣いているのだと勘違いして言った。
 何かあったのなら慰めなければと思っているため、悠希らしい、とても可愛らしい願いが静香にはわからなかった。
 この優しい気遣いが、可愛らしい姿が、その心が……ボクの癒し♪

「どうしたの、ねぇ?」
「あ、あの……」
「なあに?」
「ボクのたった一度の初めてを静香さまに…」
 そう言って、悠希は飛びついた静香の胸に違和感を感じた。
 
「ま…まさかこれは静香さまのお胸…」
「…ぁ……え? これは……」
 静香が言ったその瞬間、くるりと悠希の世界が暗転した。

…ぶ、ぶっふー!


 妄想&刺激が強過ぎ、悠希の鼻から、どぴゅぅ〜〜〜っ☆っと、鼻血が飛び出した。
「…ふわッ…きゃぁああ!」
 突然の大出血を見て、静香は悲鳴を上げた。

…ぴぴるぴー!

「だっ、大丈夫?? わぁ! 血が止まらないよー!」

(大好き…静香様ぁ…♪)

 突然のことに慌てる静香の膝の上で、悠希は甘やかな眠りの縁に落ちる。
 あったかくて、やさしくて、大好きな静香様。そのお膝で看病されていたという幸せな事実に気が付くのは、まだまだずっと後だった。