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●第8章 わしが天才なんぢゃ!

「…ふっ……くふぁはははは! 実験は成功だなっ! 見事に琳が男の娘風になりおったぞ! さすが、わし! 天才すぎる!!」
 南部 ヒラニィ(なんぶ・ひらにぃ)の高笑いはどこまでも聞こえていきそうなほど大きかった。なのに、ヒラニィに覗かれている琳 鳳明(りん・ほうめい)は今突きつけられた現実を受け止めきれずにおたおたしていて、後ろの方にいるのに気が付いていない。
 鳳明は朝起きて、洗面所で顔洗って、鏡見たら…男の子になってた。
「な、なんでござる!? どうしてなのでござるぅ!?」
 鳳明は叫んだ。
 口から出てくるのはござる口調の声。しかも少しだけ低い。
 女物のパジャマを着込んだ可愛らしい少年の、私。
 胸は無くなり、太股に当たる悲しい感触だけが現実を物語る。
 そんなパートナーの様子をヒラニィは見ていた。
 昔作った『石化解除薬』を『性別転換薬』だと信じて疑っていないヒラニィは、混乱する鳳明を見てニヤニヤしているのだった。
 しかも、ヒラニィは薬学なんてそんなものは出来ないゆえ、作った薬が性転換薬であるわけもなく、今、巷ではやっている性転換事件の犠牲者の語尾が「ござる」になっているのにはもちろん気が付いていない。
 こっそりとヒラニィは鳳明から離れ、一人部屋に戻った。
 そして快哉の声を上げた。
「やった!! 実験は成功だな!」
 ヒラニィは楽しくなり、次の薬をと取り掛かる。そして、すぐに夢中になり、今度は鳳明がドアの隙間から見ていたという事実に気が付かないでいた。

「嘘…でござ、る…」
 鳳明は言った。
 部屋に戻ってヒラニィに相談しようとしたが、開いたドアの隙間から騒いでいたヒラニィの声を聞いてしまったのだった。「実験は成功だな!」と言っているところを発見し、鳳明は呆然とする。
 ひとしきり騒いだ後、部屋の外を覗けば性別の入れ替わってしまった人間たちが騒いでいるのを鳳明は見た。そして、起きた事態を知ったのだった。自分だけに起きたことではない、何とかしなければと思って相談に言ったところ、高笑いするヒラニィに出会ってしまったのだ。
 身体から力が抜けていく。
 その場にへたり込みそうになるのを我慢しながら、鳳明はヒラニィの後姿を見つめる。
 しばらく考えた末、意を決した。
 鳳明は薬作りに夢中になっているヒラニィに近付いていく。教導団で無駄なく鍛えた身体は容易く俊敏な動きをする。気配を隠して近付くなど造作も無いことだ。
 そっと近付いた鳳明は、ヒラニィの後ろの方に置かれたチェストの上にあった小瓶に手を伸ばした。

(…きっと、これだ…)

 鳳明は小瓶を手に取った。
 危険な薬は捨ててしまうに限る。そして、鳳明は薬を持ち出した。
 素早く身支度を整えると、空京に向かうために走り出した。

 自分が実験台になったんだ。

 鳳明は寂しくて泣いた。








 そして。


 「どゆーことでござるーーーーーーーーっ!!!?」
 
 先ほどのシリアスな鳳明など、どこかへ行ってしまっていた。
 空京に行って、さぁ、自分はどうしようかと思っていたら自分と同じ境遇の人がっ!

 はてなマークいっぱいの頭で考えてもわからない。
「な、なんでぇ…で、ござる…?」
 鳳明は呻くように呟いた。

 そして、誰かと話せないかと、教団の人間を探すのだった。