リアクション
スタート
「さて、各山笠がスタートラインに並びました。いよいよ、曳き山笠の開始です」
シャレード・ムーンが、大きな声で実況を開始した。
高まる緊張の中、いつもは痛飛空艇の姐御をやっている神戸紗千が人の背丈の倍はある大太鼓をゆっくりと叩いている。参加している百合園生に感化されたのか、こちらもサラシに褌というスタイルだ。
いよいよだと、ジュレール・リーヴェンディがオートガードとオートバリアで妨害に備える。
「雪だるまの加護を……」
コルセスカ・ラックスタインが、自分たちにアイスプロテクトをかけた。
ドーン、ドーンと太鼓の音がだんだんと間隔を狭めていく。
各山笠の弾き手たちが、山鉾を握る手に力を込めた。
さらに太鼓の音の間隔が狭まる。
ドーンっと腹に響く音であったのが、すでに全身を震わす響きとなっていた。
次の瞬間、大太鼓が乱打される。
「スタートです!!」
一斉に、各山笠が走りだした。
「ずばり、先行逃げ切りッス!」
先の先を読んでみごとなスタートダッシュを切ったサレン・シルフィーユのデコ山笠が先頭に立つ。
「このままぶっちぎりッス……」
やったと喜んだサレン・シルフィーユのど真ん前に、突如として大きな影が現れた。
パラ実山笠の鬼巌鉄雷桜だ。
鬼神力でいきなり巨大化して壁となって、山笠たちの障害として立ちはだかる。
「きゃあ、どいてどいて!」
トップを走るサレン・シルフィーユがもろに鬼巌鉄雷桜にぶちあたった。そのまま、巨体にだきしめられる。
「はははははは、パワー全開なのです!」
ルイ・フリードの声と共に、山笠の大きさから一瞬ダッシュの遅れた雪だるま山笠がそのそばを通り抜けていく。
「よくやったぞ、鬼巌鉄雷桜」
続いてやってきたジャジラッド・ボゴルが、容赦なくパラ実山笠の突き出た角で、デコ山笠を引っかけて粉砕した。その勢いは凄まじく、ぶつかったパラ実山笠の方も、数本の角がぽっきりと根元から折れる。
「きゃあ!」
サレン・シルフィーユが、鬼巌鉄雷桜と共に吹っ飛ばされた。だが、幸いにしても鬼巌鉄雷桜にしっかりと押さえ込まれていたために、怪我をすることはなかった。
「ひゃあ、どこを触ってるんッスか。不意打ちとは……卑怯ッスよぉ。いいかげん放すッス、バカ!」
(V)
「オレの役目はこれで終わりだ。後はよろしく頼むぜ兄弟」
サレン・シルフィーユを押さえ込んだまま、鬼巌鉄雷桜は沿道に倒れたて言った。
「ふっ、そうやって潰し合うがいいのです。最後に笑うのはこの私なのですから」
空京稲荷狐樹廊は、それを見てほくそ笑んだ。
★ ★ ★
「作戦実行です。童話スノーマン!」
「分かったでござる。カチンコチンがお似合いでござる」
(V)
あらかじめ打ち合わせていたとおり、クロセル・ラインツァートの命令で童話スノーマンが前面に続く道路にブリザードを放った。そのまま雪だるま山笠も冷気の嵐に突っ込んでいくが、アイスプロテクトのおかげで影響がほとんどない。代わりに、道路面はみごとに凍ってつるつるのアイスバーンとなった。
「進みましょう!」
ザクザクとスパイクシューズで氷面をもろともせずにクロセル・ラインツァートたちが進んでいく。準備は万端だ。
「うおお、すべるすべるだよ……」
パラ実山笠のブルタ・バルチャが足をとられた叫んだ。
「踏ん張るのだよ」
ゲシュタール・ドワルスキーが叫んだ。
「ドルチェット!!」
ジャジラッド・ボゴルの声に、ワイバーンたちが羽ばたいてなんとか山笠を支えた。だが、勢いがつきすぎて、氷の上をパラ実山笠が勢いよくすべっていく。そのまま、前を走る雪だるま山笠に追突した。間一髪、後部にいたコルセスカ・ラックスタインが逃げる。後部に繋がれた雪だるま山笠のワイバーンと、パラ実山笠のワイバーンたちが小競り合いを起こし、パラ実山笠の勢いが少し弱まった。
「うおおお、なんのこれしき!」
クロセル・ラインツァートが、地面の氷を踏みくだく勢いでドラゴンアーツを使ったスパートをかけた。追突された勢いも利用して一気にトップへと躍り出る。
★ ★ ★
「やはり姑息な手段に出てきたか、雪だるまめ。だが、わらわたちには、そのような小細工は効かぬぞ。障害は取り除かねばな。ソア!」
(V)
白熊山笠の頭の上に立つ悠久ノカナタが、凍った地面を見て叫んだ。
「いっくよー、狂乱の炎よ、舞い踊れ! ファイアストーム!」
(V)
ソア・ウェンボリスが、凍った地面を一瞬にして溶かした。あっさりと罠を打ち破って、後続の山笠が次々に駆け抜けていく。
★ ★ ★
「頑張れー」
ユイリ・ウインドリィが、ふわふわと宙を漂いながらドラゴン山笠を応援した。
「ぶもー」
山笠を曳くペットたちがそれに答えて咆哮をあげる。
★ ★ ★
「大きい山笠から足止めしちゃうんだもん」
カレン・クレスティアが、天のいかづちを発動させた。標的にされたのは一番大きなゴージャス山笠だ。
「うきゃあ!」
快調に加速しようとしていたゴージャス山笠の曳き手たちが次々に狙われ、感電して立ち止まっていった。威力が押さえられていたとはいえ、主力の何人かがしばらく動けなくなって極端に速度が落ちる。
「大丈夫ですか、お嬢様」
トマス・ファーニナルが、てっぺんにいたお嬢様に声をかける。
「ううっ、構わないから、あの小憎たらしい山笠をなんとかしなさい」
呻きながらお嬢様が答える。
「じゃあ、行きますよお」
逸早く立ちなおった執事君が再び山笠を曳き始めた。
「みなさん、彼に合わせて」
魯粛子敬が、全体を指揮して叫んだ。
★ ★ ★
「なかなか激しいスタートになったもんだぜ」
冷静に様子をうかがいながら、雪の下山笠の雪ノ下悪食丸は中程の順位をキープした。
「こういうときは、トップでない方が安全だわ」
無理せずにお月見山笠の笹咲来紗昏がそれに続く。
「完走が目標ですから、確実に行きましょう」
百合園山笠の姫宮みことも、安全策をとりながら本能寺揚羽に言った。
★ ★ ★
「みんな、思ったより速いんだもん。負けないんだよ。これがあたしの全速全開」
(V)
併走を始めたミルディア・ディスティンは、嬉しそうに走るスピードを上げていった。