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リアクション
第11章 ウイルスを追え!
そのころ、KAORIは、仮想空間において、ゆっくりと飛行を続けながら、あちこちに出没するウイルスの駆除に専念していた。
「いまのところ、順調ね」
学院の視聴覚室からKAORIの操作を行いながら、葛葉杏(くずのは・あん)がいう。
「ビームライフルでウイルスを直接駆除しながら、データを分析して、ワクチンの開発を急いでいます。これだけですめば楽なのですが」
橘早苗(たちばな・さなえ)も、緊張した面持ちだ。
KAORIの操作は、パイロットとなる生徒が仮想空間に意識を送って行うのではなく、視聴覚室から指示を出して遠隔操縦を行うかたちとなっていた。
つまり、仮想空間内で、KAORIは無人で動いていることになる。
そのため、原型はイコンであるものの、パイロットは2人だけではなく、視聴覚室の生徒たち数人が共同で操作に関われるのである。
葛葉と橘のほか、オリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)もKAORIの進路制御等に関わっている。
「KAORIさんのデータ収集・分析能力は非常に優れていますが、まずウイルスを破壊して、その破片をとりこんでから、はじめて本来の力を発揮しますね。操作する側としては、ウイルスへの攻撃がうまくいくように注意する必要がありますわ」
オリガは、戦況を分析していった。
仮想空間内で、ウイルスは巨大なワームの姿をとり、地上や空中といった場所を選ばず、あちこちでさかんに活動している。
KAORIは、ビームライフルで一匹一匹に攻撃を行い、丁寧に破壊を行っていた。
ウイルスのデータ分析は進んでいるものの、ワクチンの開発にはしばらく時間がかかりそうである。
「KAORI、援護するぜ」
アルノー・ハイドリヒ(あるのー・はいどりひ)のコームラントが、KAORIに並ぶ。
「ウイルス駆除の間、みんなが闘ってるあの撃墜対象の攻撃をくらう可能性もあるからな。それに、ウイルスを攻撃するのは、俺の機体でも構わないわけだろ?」
「アルノー、ありがとう。助かるわ」
葛葉は礼をいった。
「それにしても、可愛い外見だね、KAORIさんは」
アルノーとともにイコンを操縦するギルベルト・ハイドリヒ(ぎるべると・はいどりひ)が感心したような声でいった。
「ギル、惚れたか?」
アルノーが笑っていう。
「アハハ。ファンの一人として応援するよ」
ギルベルトも笑っていう。
そこに。
「KAORI。アルノーたちだけじゃないですよー。みんなもきましたよー」
玉風やませ(たまかぜ・やませ)のコームラントも現れた。
みれば、玉風の機体に続いて、多数の傷ついた機体が従っている。
かなり前にシミュレーションに参加して現実世界に戻れなくなり、撃墜対象と闘っているうちに疲弊した生徒たちの機体だった。
それらの生徒たちは、精神力が既に限界に達していたが、玉風の呼びかけにより、標的をウイルスに切り換え、KAORIの援護のために集まってきたのである。
「みんな、今回は寺院のせいでひどい目にあってるからな。みんなで力を合わせて、寺院が送り込んだウイルスを殲滅させたいんだ」
玉風のパートナーである東風谷白虎(こちや・びゃっこ)がいった。
KAORIは、いっきょに10機程度の部隊を率いることになった。
「本当に心強いわ」
葛葉は、自分がアイドルとして輝くときは近いと感じて、目をキラキラさせる。
「KAORIさんは、みんなの想いを集める、マスコット的存在になるんですわ。この機体、プリンセスとともに!」
オリガも、感動していった。
「さあ、みんな! 行くわよ!」
葛葉の操作で、KAORIは援護の機体たちを振り返って、手を上げて可愛らしいポーズを決めると、ウインクをしてみせた。
振り返った瞬間、KAORIの大きな胸が、たぷたぷと揺れる。
「おおー! か、可愛い!」
疲弊していた生徒たちは、いっきょに力を与えられたように感じた。
なぜか股間をおさえている生徒もいる。
「あっ、でも、この中をのぞいちゃダメよ!」
葛葉は、KAORIにスカートを押さえる仕草をさせていった。
「よし! みんなでウイルスに総攻撃を仕掛けようぜ!」
アルノーが叫ぶ。
「おう!」
KAORIと後続の機体たちが、ビームライフルやビームキャノンを、あちこちに姿をみせているウイルスたちに向ける。
「行けー!」
どごーん!
KAORIの部隊は、複数のウイルスに同時に攻撃を仕掛けながら進んでいく。
その猛攻を前に、ウイルスたちは慌てふためいたように後退し、ある方向に向かって逃走を始める。
その方向には、強化人間Pの機体があった。
「鏖殺寺院め。こっちもいつまでもやられてばっかじゃないってことを証明してやらぁ」
学院内の、シミュレーター操作室でも、KAORIの管理を行う視聴覚室でもない場所で、月谷要(つきたに・かなめ)は今回のシミュレーターの異常を他とは違った角度から分析しようとしていた。
月谷は、シミュレーションに参加する生徒たちが頭部につける接続装置のひとつを利用して、イコンシミュレーター本体に自分の端末をつなぎ、独自に調査を行った。
「ウイルスの駆除はKAORIがやってくれているからねぇ。オレは、ウイルスがやってきた方向を逆探知して、ウイルスが発生した根源のポイントを突き止めてやるのさ」
鏖殺寺院のウイルスは、いったいどこからきたのか。
それを探りたいというのが、月谷の目的だった。
そして、月谷は、ついに、ウイルスはここから生じて、分裂・増殖していったと思われるポイントを突き止めた。
だが、そこには、鏖殺寺院本部の回線へとつながる亀裂などは、見当たらない。
「これは、どういうことなのかねぇ? ウイルスは、どうやってきたというのかな」
戸惑う月谷の目の前のディスプレイに、不審な文字が浮かびあがった。
(私は、ウイルスについていくかたちで、このシミュレーター内部に潜入を果たした)
「な、何かなこれは?」
月谷はメッセージの送信者を特定しようとするが、解析不能だった。
ディスプレイには、さらに文字が続く。
(侵入ポイントを特定し、本部へと逆探知を行おうとしても、無駄なことだ。ウイルスは、寺院のスパイがこのシミュレーションの参加者を装って、仮想空間のプログラムを分析することで、つくられた。シミュレーターをウイルスに感染させるときも、同様に、参加者を装ってばらまいたのだ。もちろん、そのスパイはもう、シミュレーションから離脱している)
「なるほど。外部の回線から侵入したわけではないってわけか。だが、教えてくれ。あんたは、いったい誰だい?」
月谷は、どうせ聞こえないだろうと思いながら、ディスプレイに語りかける。
だが、驚くべきことに、月谷の声は相手に聞こえていたようだった!
(私は、悠久の昔から、寺院の回線の中に巣食ってきたものの一部だ。今回、外の世界を知りたくて、寺院で開発されたウイルスに付着するかたちで、ここに運ばれてみた。ウイルスが駆除されれば、私も居場所がなくなるから、自ら消滅するかもしれない。だが、私にとって、そんなことはどうでもよいのだ)
月谷は首をかしげる。
「いったい、何だってんだい。オレの声が聞こえるってことは、プログラムではないんだね? 寺院の回線にいたって? 一部の精霊は、電子世界をすみかにすることもできるというけど、まさかね!?」
(ここにきてみれば、実に懐かしい人物の情報を得た。コリマ・ユカギール。奴は、五千年前、我々との契約も希望したのだ。だが、我々は、寺院の側から歴史をみつめていきたいと考え、契約は断った。気をつけることだな。奴は、お前たちを導ける力を持っているが、底の知れない人物だ。わからないか? このシミュレーションでの今回の闘いは、将来の現実へとつながる。お前たちのうちの何人がそのことに気づいている?)
「どういうことだい? 仮想空間での今回のミッションと同じことが起きる可能性があるって?」
(それだけではない。あの、KAORIという存在も、そして、あの戦艦も、全てだ。運命を切り開きたければ、お前たちが「超能力」と呼んでいる力を使うのだ。世界の法則を超えてはたらく超能力なら、仕組まれた状況に不確定要素を持ち込めるだろう。古代の人々が超能力に注目し研究を始めたのも、まさにそうしたことからなのだ。もちろん、コリマもその力を極めた存在だから、非常に困難な道程となるだろう。常に、コリマが期待した以上の成果を収めることだ。どこまでも攻めに徹底する姿勢を貫け。だが、お前たちが生み出した「強化人間」という不安定な存在は、攻めに徹底することも難しいから、連携するなら十分注意することだ)
「なぜ、コリマにこだわるんだい? 奴は校長だし、オレたちが奴と対立する理由はないと思うがね」
月谷は、ディスプレイに向かって問い続ける。
だが、それっきり、不気味なメッセージは送信されてこなくなり、しばらく浮かんでいた文字も、消えてしまった。
「ログは取れてるかな? ああ、ダメだ。いまのアクセスは完全に解析不能か。とにかく、ウイルスの感染経路については、そういうことなんだろうと思うよ。でも、そのほかのことを、信じろと? 無理だね。そもそも、何をいってるか、はっきりしない」
月谷は肩をすくめた。
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