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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~

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魂の器・序章~剣の花嫁IN THE剣の花嫁~
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リアクション

 
 
 そしてその頃、リネンは、小型飛空挺ヘリファルテに乗って彼女達の最後尾を飛んでいた。かなり深刻な表情をしている。隣には、小型飛空挺に2人乗りしたユーベル・キャリバーン(ゆーべる・きゃりばーん)ベスティエ・メソニクス(べすてぃえ・めそにくす)がいた。
「ほら、ちゃんと運転するんだよ。それとも、何? わざと下手くそにして僕にお仕置きしてほしいのかなー」
「とんでもないですわ、ご主人様。ご主人様が快適でいらっしゃられるように精一杯運転させていただきますわ」
 後部座席で面白そうに、ユーベルをからかうように言うベスティエ。ユーベルはそれに、恍惚とした、恋する乙女のような顔をしていた。
「……で、剣の花嫁だけがおかしくなってるってのはマジなのか?」
 ラスの問いに、セシリアが答える。
「うん。空京ではデパートを中心にして、何故か剣の花嫁の様子だけが変みたいだね。でも幸い、僕は巻き込まれなかったから。そっちの原因究明も気になるけど、今はピノちゃんを追いかけるのみ、だよ」
「……あ、ああ……」
 真摯な彼女に少し驚き、感謝の念が芽生えたものの、それは口に出さずに何だか尻すぼみになる。(……いや、言おうよ。 By背後)
「原因は、他の人が調べてくれるだろうからね。僕らはピノちゃんが向かう所を調べることにしたんだ。祠には何があるんだろうね」
 そこで、リネンが不安と怒りの混じりあった様子で俯きがちにヘリファルテを進めてきた。
「……フーリの祠……そこへ行けば……ユーベルは元に戻る……のよね……」
 訊かれて、ラスもユーベル達を見た。あれが今あるべき状況、関係ではないのなら早急に元に戻す必要があるのかもしれない。ユーベル達は不便を感じていないようだが、リネンにとっては切実な問題だろう。
 しかし。
「……俺も、祠に何があるのかは知らない。だから、その保証は出来ない」
「……そんな……」
 それを聞いて、リネンは唇を噛んだ。いや、実際は心当たりが無いわけではなかった。『フーリの祠』という名称自体は知らなかったが、ここまで来れば分かる。恐らく、以前に行ったあの場所だろう。道筋などは覚えていないし、森というものは何処も同じに見えるから定かでは無いが……。方角から考えて、多分、間違いない。
 あそこであれば、祠に行ってもユーベルは元に戻らないだろう。この件を仕掛けた黒幕が、あの場を訪れて待ち構えてでもいない限り。
「ピノ……、あの女が俺を祠に誘ったのは、あの女にとっての個人的な何かがあるんだろう。さっき聞いた話が本当で、剣の花嫁に退行現象が起きているのなら、その可能性の方が高い」
「…………」
 リネンは黙って、悔しそうにしていたが、やがて言った。
「……でも……諦めない……!」
 その様子を見て、ラスは表情を緩めた。そして、前を向いてピノを見る。
「……そうだな」
 今言った事は、全て予測なのだから。
「個人的なものか……。ピノちゃんに一体どんな意図があるのか気になっていたけど……あっ! 追いついたみたいだよ!」
 セシリアが指差す。その先には、ぴかぴかの小型飛空挺オイレに乗った女性の姿があった。
「あれが、ピノ……? いや……というかなんだあれ、なんだあの飛空挺……!」
「……あの方が? 本当にピノちゃんなんでしょうか? 全く面影がないので、どうにも実感が湧かないですね……」
 メイベルは戸惑うように言う。ラスは携帯の表示と、5メートル程先を行くピノの肩を見比べた。ピノの右肩には、デパートで見た白い鳥が止まっている。
「GPSの表示とも一致してるし、肩に鳥がいるし間違いないだろ」
「あの鳥はパラミタキバタンですね。パラミタキバタンとはオウムの一種で、インコ好きの人が発見したパラミタの生物です」
 ノルニルが博識を使って解説をする。
「ちなみに、インコとイコンとは文字は似てますが全然別物です」
 そりゃそうだ。
「パラミタキバタンは普通の鳥類なので事件の原因ではないはずです」
 そこまでノルニルが言うと、美央もキバタンを見て同意した。
「そうです。あんな可愛い鳥が原因なわけありません。ラスさんも知らないんですよね?」
「……初めて見るな」
「では、あの鳥は迷子なのではないでしょうか。首輪とかついてますし。だとしたら、捕まえて保護して飼い主さんの所に届けてあげたいですね。そして、その前にもふもふします」
「いや待て美央。その鳥は妙だ……」
 サイレントスノーが言いかけるが、既に美央は動き出していた。小型飛空挺アルバトロスで、小型飛空挺オイレに迫る。
「お、おい! ピノに傷は……!」
「大丈夫です。鳥にもピノさんにもかすり傷1つつけません。可愛い……」
 機動力はほぼ同じの筈だが、ピノは森の木々が邪魔なのか操作に慣れていないのか、トップスピードを出していなかった。だが、美央は超感覚を使って木々をなめらかに避け、オイレに追いつく。
 ……がしっ!
「びゃっ!」
 びっくりしたようにキバタンが鳴いた。
「何?」
 ピノも驚いて振り向き、その拍子にオイレがぐらぐらと揺れる。
「きゃっ」
 体勢を立て直し、彼女はまた飛んでいった。
「……捕まえました!」
 両手で捕まえたために操縦者を失い、美央のアルバトロスは失速する。10メートルほど惰性で走ってからは、クリープ現象よろしくふよふよと進みだした。
「……美央、危ないから停めなさい。……美央!」
 サイレントスノーに言われ、美央はキバタンを持ったままブレーキを踏んだ。他の面々も一時停止した。
 美央はキバタンの背中にもふもふする。キバタンは、目をまんまるにして固まっていた。え、もともとまんまるだろうって? ちがうんですよびっくりした時のまんまるはちがうんですよ。
「もふもふ……あったかくて気持ちいいです。すべすべです。いいにおいです……」
「ちょっと待ちなさい、美央」
 サイレントスノーは、先程言いかけた事を美央に話す。
「その鳥の首輪に何か仕掛けがないか? ただの迷子の鳥にしては、特定の人物に留まっているのは些か妙だ。何か特別な訓練を受けている鳥のような気はしないか?」
「そんな……考えすぎですよ。この子はただの可愛い鳥です。……ほら、何もない」
 もふもふ。おなかももふもふ。
「もっとよく見てみなさい。私が読む小説では、よくこういう小物の中に小型カメラのようなものや発信機が仕掛けられたりしているのでな」
「……むー、サイレントスノーがそんなに言うなら……」
 美央はしぶしぶといった感じで首輪を調べた。
「……あれ? これなんでしょう」
 右のほっぺの下あたりに、極小さな、丸いガラスのようなものがはめ込まれている。首輪を持って、指先で取ろうとしたが、取れない。そのうち、キバタンが嫌がってばさつき始めたので、美央は一度手を離した。
「べべべっ!」
 と鳴いて逃げようとしたので慌てて抱き直して、正規の方法で首輪を取る。
「むー、壊します」
 小さなカメラは、ヴァーチャースピアでぱきん、と壊された。

「……やられたんだな」
 空京のデパートに戻る途中の太郎は、一面がノイズだらけになった映像機器を見て苦虫を噛み潰したような顔をした。
「……アクアに伝えるしかないな」
 そう言うチェリーを、太郎は伺うようにして見遣った。
「……誰がやるんだな」
「そのくらいは役に立て」
 しぶしぶというように、太郎は携帯電話を取り出す。電話帳からアクア・ベリルの番号を選び、発信ボタンを押した。
『……何です……? 山田太郎、今、寝てたんですけど……』
 人に面倒な仕事やらせといてお前寝てたんかい、と文句を言いたくなったがそれをこらえて太郎は言う。
「ピノというガキへの攻撃は成功したんだな。それから、デパートも着々と混乱してるんだな」
『ふぅん……』
「……その反応は無いんだな」
『だって、太郎達の計画、成功する気が全然しないし興味無いです』
「な、なんだな成功するんだな!」
 こっちだってアクアの私怨なんかどうでもいいんだな、と太郎は思う。
『それより、ピノは? ラスって男はどうなりました? ファーシーは?』
「ファーシーとラスは喧嘩したんだな。人でなし発言されて、ファーシーはかなり落ち込んだみたいだな」
『落ち込んだ……それだけ?』
 尾けていったら何やら仲間らしき女子達に囲まれていて、しかも蜂の巣にされかけたがそれはまあ黙っておく。
『つまんないですね。それでファーシーが自殺しちゃうってんなら面白いけど』
「それで、1つ報告があるんだな。キバタンにつけていた小型カメラが壊されたんだな」
『……何ですって?』
「だから、あの……もう、ピノ達の様子を観察は出来ないのだな。でも、別に問題無いのだな? 結局、ピノ達の関係崩壊をファーシーに見せて傷つけるという悪趣味な……」
『……何ですって?』
 しまった、と思うものの時既に遅し、アクアは声色を低くする。
『それで、ピノはどうなったんです? 前契約はあったのですか。あったのですよね。そして姿が変わったのですよね』
 それ以外は許さない、という言い方だ。
「そ、そこは間違いないんだな」
『……2人が不幸になるなら、まあいいです。しかし山田太郎、あなたは許しません』
 電話を切った後、太郎は溜め息を吐いた。
「悪霊みたいに恨みがましい機晶姫は厄介なんだな……」
「あそこにも剣の花嫁がいるな。しかも2人。……やっておくか」