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リアクション
6
翌日。
藤乃のジュースの効果は本当にてきめんで、日が昇ると同時に全員起き出し、作業に入る。
「では行くぞ。マジカル・ミステリー・カリペロニア・ツアー。略してマミカツ二日目だ」
ダイソウは意気揚々とエメリヤンにまたがる。
「そういえば私、一泊しちゃった……」
敵の拠点を泊りがけで見て回っている美羽は、それはそれでちょっとショックらしい。
祥子はいつになく満足そうな顔をしている。
「こんなに詳細に情報を把握できるなんて、これはめっけもんだわ」
と、言いつつも、彼女が眺めているのは、昨夜撮ったメニエスとのツーショット写真。
結和はダイソウの後ろで不満そうに、
「あのー、まだエメリヤンを連れていくんですかー?」
「当り前だ。今日は島の北側を見て回り、最後に私の館を見るのだ。ゆくぞ、コクオウゴウ」
「バーニー……はぁ……」
と、エメリヤンは幹部名の改名を諦めそうになりながら、島の北西の農園へと向かう。
「ラヴェンダー……ローズマリー……ゼラニウム……ふふ、もういい香りがしてるね」
リアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)は、ハーレック興業に伐採された森の跡地を確保し、思い描いたハーブ園ができたことに満足そうな笑みを浮かべる。
「ふぁぁ〜、いいにお〜い」
ハーブ園の苗からかすかにもれる香りにつられて、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が鍬を片手に歩いてくる。
「ヴァーナーちゃん、昨日は手伝ってくれてありがとう」
リアトリスはヴァーナーに微笑む。
「えへへ〜。リアちゃーん」
共に農業に精を出し、すっかり打ち解けたヴァーナーは、リアトリスの胸元に飛び込む。
「ヴァーナーちゃんのジャガイモ畑はどう?」
「がんばって耕しおわったよぉ。あとは種イモを植えるの〜」
「ほう、これは見事な……」
「あ、ダイソウおじちゃん」
ヴァーナーとリアトリスがいちゃいちゃしているところに通りかかるダイソウ達。
「ハーブ園か。モモが喜びそうだな」
「そう? よかった! ハーブはいろんな効果があるから、ぜひ使ってもらいたいんだ」
と、リアトリスも笑顔になる。
「ところでダイソウおじちゃんっ。昨日はどーしてボクのじゃがいも畑を見に来てくれなかったですかっ」
ヴァーナーはぷくっと頬を膨らませる。
「私も忙しいのだ」
「ダークサイズもじきゅーじそくするって聞いたから、ボクもお手伝いしてるんです。はいっ」
カリペロニア要塞化をイマイチ勘違いしているヴァーナーは、ダイソウにジャージと鍬を渡す。
「これは何だ?」
「じきゅーじそくです。一緒に種イモを植えるですっ」
と、ヴァーナー独特の強引さで、彼女はダイソウ達を自分の畑へ連れて行く。
ヴァーナーが連れて行った先には、ジャガイモ畑以外にも、畑や水田の開墾をしている霧雨 透乃(きりさめ・とうの)や緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)。さらになぜか開墾を手伝っているグラン、アーガス、オウガ、大山。
「お嬢さんや、向こうの切り株もすっかり抜き取ってしまっていいんかのう」
グランが透乃に指示を仰ぎに来る。
「もちろん! どんどんフロンティアしちゃって! 畑は広ければ広い方がいいもんね」
「よし。おいおぬしら、もっと北に畑を広げるらしいぞい。行くぞ」
農作業で土にまみれながら、四人は歩く。
「グラン殿、なぜ我輩たちはダークサイズを手伝っているのであろうか……?」
アーガスがどうしても解けない謎をグランに投げる。
それに答えるオウガ。
「アーガス殿、全ては落とし穴を掘っていたところに、あのお嬢さん方にスカウトされたのが始まりでござるよ」
「いや、しかし何故素直にスカウトに応じたのであろうか……」
「透乃殿たちもダークサイズの敵じゃと言っておった。むげにするわけにもいかんじゃろうて」
「そうでござる。この開墾作業も、きっとダークサイズへの罠でござろう」
「そ、そうなのであろうか……」
「まあ、正直落とし穴などすぐできてしまったからのう。暇じゃったからちょうどいいわい」
「暇ならダークサイズに戦いを挑めばよいのでは……」
「何か盛り上がっておるから、それも無粋じゃろう」
「そ、そんなものであろうか……」
グランの達観した大人の思考回路に、なんとか納得しようとするアーガス。
そんな三人の会話の隙を縫って、大山は農作業から抜けようと、忍び足で歩き出す。
「大山殿」
「お、お呼びですかな、グラン」
「おぬし、今サボろうとしおったな?」
「ま、まさか! 向こうにかすかに霊気を感じたので、巡ってこようかと」
「大山殿、土いじりも龍脈から気を得る大事な修行じゃぞ?」
「も、もちろん分かっておりますとも! さ、さあ参りましょうぞ!」
大山のサボり疑惑は、速攻でグランに見破られるのであった。
「しかし昨夜の食事は美味かったでござる。ダークサイズ羨ましいでござるよ……」
「確かにそうじゃがオウガ殿……食事につられてわしらを裏切るでないぞ」
と、グランは一抹の不安を抱えながら、オウガにくぎを刺して歩き出す。
「透乃ちゃーん。ダイソウおじちゃん連れてきたですぅ」
ヴァーナーが、作業中の透乃に手を振る。
「ふっふっふっふ。やっと来たねトウちゃん! さあ見なさい! 私と陽子の愛の結晶! 広大な霧雨農園……ってなにその格好!」
ダイソウのジャージ姿に、早速透乃はつっこむ。
「視察を兼ねて、農業を体験することになってな」
「あ、そう。まあいいわ」
「トウさん……ジャージの丈が合っていませんわ」
つんつるてんのダイソウの恰好を見て、陽子がくすくす笑う。
ジャージを用意したヴァーナーが頭を描く。
「サイズ間違えちゃったです」
「私も成長期だからな」
「トウちゃん、自分の年わかってる?」
よくわからないフォローを入れるダイソウに、律義につっこむ透乃。
「それにしても、作業が早いではないか」
ダイソウが褒めるのを、透乃は胸を張る。
「あったりまえじゃん。ダークサイズに早く大きくなってもらわないと、私たちだって潰しがいがないわ」
「?」
「そ、それよりほら、手伝いに来たんでしょ?」
と、ヴァーナーに渡された種イモを、ダイソウは手作業で植えていく。
一方で、
「昨日手伝ってくれたお礼に」
と、リアトリスはクレセントアックスで土を耕す。
透乃はダイソウの仕事っぷりを見ながら、
「これからの悪の組織は自給自足と、商売ができなくっちゃ。あ、当然私たちにも作物は分けてもらうからね」
「それはかまわん。これだけ広大なら、私も文句はない」
昨日からスキルを使用しての効率的な作業、藤乃のジュースの力も相まって、カリペロニア島の北西部分、島の10分の1ほどが農園と化すという、悪の拠点に似つかわしくない空間が出来上がる。
しばらく種うえをしていると、ヴァーナーは全然位置を移動していないダイソウに気づく。
「ダイソウおじちゃん、どうしたですか? おしごとのふりをして、さぼっちゃだめですっ」
と、ヴァーナーは叱ろうとするが、
「……腰が固まった……」
「あ……逆にごめんなさいです……」
慣れない屈み作業で、これ以上手伝いは無理と判断したヴァーナーと透乃は、ダイソウを解放してあげることにする。
ダイソウはリアトリスに上半身を起こしてもらい、軍服に着替えなおす。
そのさなか、開墾した畑を走ってくる人影が一つ。
「おお〜い、大総統〜」
黒脛巾 にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)は、自分が作り上げた自慢のあるものを見てもらおうと、ダイソウをようやく見つけて走ってくる。
しかし走っているのが畑の真ん中のため、
「邪魔者……!」
と勘違いした陽子が、『朧さん』と名付けたアンデッド:レイスで、問答無用でにゃん丸を攻撃する。
「ひいいいい〜! 痛くないけど怖え〜! あにすんだよぉ!」
「あら、すみません。てっきり敵対者かと」
「あのなぁ〜」
と、にゃん丸はどうにかレイスをどけてもらい、
「大総統大総統。俺のすばらしい一物を見てくれよぉ」
「お前の一物には興味はないが」
「いや、そういう意味の一物じゃなくてさあ、俺が作ったすげえ一物なんだよ〜」
「どういう意味の一物なのだ?」
(何ややこしい会話してんのよ……)
透乃は話題が話題なだけに、心の中だけでつっこんだ。
「やっぱさー、現状ダークサイズの最大の武器は、何と言っても空京放送局だよなあ。てことは、その電波をパラミタ中に届けなきゃなんないよねえ。ってことで、じゃじゃーん!!」
にゃん丸が案内したのは、カリペロニア島の北西の端。そこに大きくいきり立つ超巨大パラミタ松茸。
それを見たダイソウたちの頭には、当然はてなマークが。
「ただのでかい松茸ではないか」
「ふっふっふ。何を隠そう、こいつは空京放送局からの電波を中継する、電波塔なのさ!」
にゃん丸いわく、電波塔は鉄筋で作ろうと竹の櫓で作ろうと、それはあくまで支えであり、電波のやり取りをするアンテナさえ高所に設置できればいいというのだ。
「こんなナイスアイデア考え付くのは俺一人だったみたいだしねえ。一人で作るには、やっぱこれしかないと思ったんだよねえ。そして! こいつのてっぺんに中継アンテナを設置すれば!」
にゃん丸は警戒にパラミタ松茸の頂上まですいすいと登って行き、背中からアンテナを抜き放つ。
「カリペロニア電波塔の完成っ! チェストォー!」
グサアアッ!!
にゃん丸がアンテナを深々と突き刺す。
その瞬間、ダイソウの体が、一瞬ビクンと震える。
「ぅぐっ……」
「どうしたのダイソウトウ?」
「いや、何でもない」
美羽がダイソウに尋ねるが、さすがにダイソウは正直に答えられない。
「どうだい、大総統! すごいだろー!」
にゃん丸は電波塔のてっぺんから手を振って見せる。
にゃん丸の声が聞こえて、その電波塔のふもとに立っている小屋から、咲夜 由宇(さくや・ゆう)とルンルン・サクナル(るんるん・さくなる)が出てくる。
「あっ、ダイソウトウさんだ〜」
ルンルンは、初めて見るダイソウトウに駆け寄る。
「はじめまして。ルンルンだよっ」
と、ルンルンはダイソウに頭を下げる。
「うむ。私はダークサイズの大総統、ダイソ……」
「こらー、ルンルンくん! 勝手に先に行っちゃだめだよっ」
由宇が追いついて、ルンルンの頭をぺしっとはたく。
「えへへへ。ごめんなさい」
と、ルンルンは何故か笑いながらあやまる。
「ダイソウトウさん、見てください。私、立派なスタジオを作ったのです!」
由宇が、先ほど自分が出てきた小屋を指さす。
「私、森や雲海を望みながら演奏するのが夢だったんです。どうやって作ろうか考えてたら、にゃん丸くんが手伝ってくれたんですよぉ」
「音楽やりたいって言うからねえ。どうせなら電波に乗せて、ダークサイズミュージックをパラミタに流してやろうと思ってさ」
いつの間にか電波塔から降りてきたにゃん丸が、由宇の補足説明をする。
ダイソウは、由宇のスタジオの隣にもう一つ小屋があるのに気付き、にゃん丸に問う。
「もうひとつスタジオがあるようだが、あれは何なのだ?」
「ふーっふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!」
と、ちょうどそこから出てきたのは、ダークサイズ総帥ハッチャンと大幹部クマチャン。
「おや、どうもダイソウトウ閣下」
「二人ともこんな所で何をしておる?」
「いやー、たまたま通りかかったら電波塔作るっていうんで手伝わされまして、俺らも閃いたんですよ。どうせならカリペロニアにも放送局作ろうぜって」
「ほう」
「空京放送局とは別に、スタジオ作っちゃいましたよ。名付けて『カリペロニア放送局』! 気が向いたらここから番組放送できるかもですね」
ダイソウはそれを聞いて興味を持ち、スタジオの方に近づいていく。
彼はスタジオの質感を見て、
「変わった材質のようだが、これは何だ?」
「おっきいパラミタマッシュルームですよぉ」
と、ルンルンが答えるのを、由宇がまたバシッとルンルンをはたき、
「あーん、もうルンルンくん! 私が説明しようと思ったのにっ」
「うふふふ。えへへへへへ」
ルンルンはまたにんまりして笑うのを見て、みんなさすがに違和感を覚える。
(何かこの子……変)
由宇はそんなことより、といった風に、
「島の端っことはいえ、ちゃあんと防音に気を使いたかったです。音を吸ってくれる材質をにゃん丸くんに聞いたら」
それを聞いてにゃん丸が得意げな顔をする。
「金をかけずに少人数で作れると言ったら、これしかなくてねえ。超巨大パラミタマッシュルームをくりぬけば、防音性ばっちりのスタジオが二つ、あっという間にできあがりさあ」
「ハーレック興業さんにお願いしたら、森も少し残してくれたです!」
由宇は最終的に望み通りの環境が整い、満足そうな顔をしている。そして由宇はスタジオの中をダイソウに見てもらおうと、
「ダイソウトウさん、私ここで素敵な音楽をたくさん演奏しますっ。あの、よかったら……」
「おうちの中、見てみて〜」
と、ルンルンが若干あからさまに、由宇の言葉を遮る。
由宇はそれにまんまと腹を立て、
「もーっ! ルンルンくん、どうして私の邪魔ばっかりするのー!?」
バシンッ!!
と、由宇がルンルンをビンタする。
全員ルンルンが泣きださないかとヒヤリとするが、
「うふふぇへへへへへ……」
ルンルンは、赤くなった頬を押さえてニヤニヤしている。
(お、恐ろしい子……!)
ルンルンの行く末を案じる一同。
「ん? あ、あれっ!」
と、突然クマチャンが声を上げる。
「どうした大幹部」
「あ、いや、あのー。この電波塔、やばくないすかね……?」
「え〜? 何がやばいのさ〜?」
おそらくにゃん丸は確信犯なのであろう、ニヤニヤしてクマチャンを見る。
電波塔として隆々とそびえ立つ超巨大パラミタ松茸。その両脇を、スタジオとしてドーム状の超巨大パラミタマッシュルームが支える。さらには、その周りに生い茂った木々が残っている。
ダイソウがはっとして、驚愕の表情を浮かべる。
「こ、この形は……」
「え〜? この形は、何さあ?」
にゃん丸は明言せずにニヤニヤするばかり。
硬直するダイソウをよそに、
「じゃあ早速練習しますっ」
と、気合いの入った顔で、由宇は意気揚々とマッシュルームの中に入っていく。
「ああっ、女の子が片方の玉の中にっ」
一人恍惚とした表情を浮かべるにゃん丸。
「何という下ネタ……こんなものがカリペロニアに、いやしかし、放送局は捨てがたい……」
一人逡巡するダイソウだが、どうやら美羽をはじめ女子は気付かなかったようなので、とりあえずこの形のまま採用となり、カリペロニア電波塔、由宇のスタジオ、カリペロニア放送局がここに完成した。
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