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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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11.客寄せパンダの怒り


 上杉 菊(うえすぎ・きく)は、パンダ像を探しに行ったまま行方不明になっていたローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)を探しにこの村まで来ていた。
「しかし、あの方まで魅了されてしまいますとは……」
 明倫館で芹沢に、今回のパンダ奪還のための作戦を伝え協力を仰いでいたが、まさか魅了されているとは思わなかったのだ。
「御方様!」
 祠周囲の隅の方で、ローザマリアの姿を発見した。
「うふふ、パンダ様、パンダ様、どうして皆争っているの? うう、誰にも渡さない、渡すものか!」
 正気ではないのは、見れば分かるがこれはこれで重症だ。パンダ像に向かって拝んでいるが、他の契約者のように戦う事なくへたり込んでいる。
「御方様――然らば、御無礼仕りまする!」
 編み笠を被せ、ぱんぱんと往復ビンタを浴びせる。
「菊……私は一体?」
「パンダ像に魅了されていたのです」
 そこでローザマリアは無人島での争奪戦の事を思い出す。
「御方様、わたくしに策がございます」
 菊がローザマリアに対して耳打ちをする。
「分かったわ。じゃあ、よろしくね」
 作戦を確認し、菊が村まで乗ってきたレッサーワイバーンで葦原島へ急行する。念のためにワイバーンにも笠を被せていたのは正解だった。上空には野生のワイバーンがまだ何体か飛び交っている。
 一つはハイナに像の危険性を知らせるため、もう一つはパンダ像を手に入れてハイナに渡すためだ。
 村の様子を見れば、パンダ像が危険なものだと判断するのに十分だ。だが、ハイナが壊せとは言っていない以上、勝手に壊すわけにはいかない。
 ここは総奉行に直接話して、分かってもらうしかないのである。
 ローザマリアが行った後、菊は一旦建物の陰まで下がる。様子を見るためだ。まだパンダ像に触れるのは難しい。
 その直後、雷の光がほとばしった。


「な、何の音だ?」
 パンダ村の中、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)はその轟音を聞いた。いや、正確には見た、の方が正しいだろうか。
(弥十郎、どうした!?)
 精神感応を送っていた佐々木 八雲(ささき・やくも)が反応する。
「ああ、パンダ様の祠が……」
(おい、しっかりしろ!)
 次の瞬間、電流が村中にほとばしった。それでもほったて小屋が壊れなかったのは、ただでさえ様々な魔力が渦巻いていたため、それらに巻き込まれて本来の力が拡散したからだろう。
「おい、弥十郎!」
 精神感応の相手だった八雲が彼のもとに駆けつける。彼を魅了から解くために、村まで急行したのだ。
 しっかりと編み笠を被り、手には弥十郎の分の笠が握られている。
「パンダ様、今行きます!」
 完全に正気を失っている弥十郎を強引に引っ張る八雲。
「歯ぁ食いしばれ!」
 思いっきり彼の顔を殴りつける。
「お前は何様のつもりだ、さっさと起きんか、ボケが!」
 一喝する。
 さらには言葉に出来ないほどの怒りを精神感応でぶつける。
「痛い、痛いよ。助けてパンダ様」
 これだけやっても魅了からは解かれない。一度かかったらどんなに強靭な精神力をもってしても抗えないのがこの力なのだ。
 俺がパンダなんかに、と言っている人間がどれだけ犠牲になってきた事か。
「こうなりゃダメ元だ。コイツを被れ!」
 編み笠を弥十郎に被せる。
「あれ、兄さん……ここは?」
「このボケ!」
 もう一回殴る。が、どうやら今度こそ正気に戻ったようだ。
「そうだ、確かパンダ像の奪取に失敗して、それから何だかパンダ像が段々愛しく思えてきて……」
 そこで、はっとなる。
「ワタシは魅了されていたのかぁ」
 ようやく自分が魅了されていた事を自覚する。
「おかしいな、セルフモニタリングもしてたのに……」
 だが、魅了されている以上、それが異常だとは気付かない。パンダ像を崇めている事を当然として受け入れてしまっているのだから、自分の精神状態を分析したところでどうしようもないのだ。
 信仰に篤い人間に「お前は異常だ」と言ったら、その人は怒るだろう。それと同じだ。自分ではおかしいとは思っていない。
「ほら、長居は無用だ、さっさと行くぞ」

            * * *

「一体、今のは何?」
 あと一歩でパンダ像だった葵や美羽は、謎の雷撃によって祠から遠ざかるをえなかった。とはいえ、かなりの威力になると思われたが、様々な魔法に巻き込まれて拡散し、被害は最小限だったようだ。
「祠が!」
 だが、祠は木っ端微塵になっていた。像はどうなっているのか。
 煙が晴れようとしていた。
「よし、まだあった!」
 像の姿を確認、葵がサイコキネシスで引き寄せようとする。
「させるか!」
 だが、強引にもそれを阻止せんとしてくる契約者に阻まれる。
「それは明倫館に持っていくんだから!」
 美羽が全力で奪い返そうとする。
 だが、パンダ像を守ろうとする者達がパス回しをして他の者達に渡すまいとしている。
「明倫館に持ち込むというのなら、力を貸しますよ」
 オルレアーヌ・ジゼル・オンズロー(おるれあーぬじぜる・おんずろー)が子守歌でパンダ信者を眠らせる。全員ではないが、持っている人は眠ってくれたため、その隙にパンダ像を手にする。
 だが、そのままだと追っ手が来る。それだけではない。
 パンダ像を持っているだけで、まだわずかながら生き残っているモンスターも引き寄せてしまうのだ。
「玄瑞、ティル!」
 久坂 玄瑞(くさか・げんずい)ティルレア・ワグナス(てぃるれあ・わぐなす)の二人に呼びかけ、追っ手を撒こうとする。
「まさか壬生の狼までいるとは。争う気はない……といっても魅了されてしまっていますか」
 だが、まさか新撰組の局長、副局長に浪士組時代の筆頭局長もいるのは予想外だ。これも客寄せパンダが招いた縁だとも考えたくなるほどに。
 幕末の英霊でさえ、それほど一同に顔を合わせる機会などないだろう。奇妙なものである。
 とはいえ、パンダ像がまた敵の手に渡っては、それも厄介だ。
「是よりは長州人の腕前お目にかけ申すべく――」
 全員を相手にするわけにはいかないが、足止めを確実に行う。ヒロイックアサルトで力を高めた上で、チェインスマイトを放つ。
「ちょうど、編み笠も転がってますし……」
 ティルレアの方は、サイコキネシスで近くに落ちていた編み笠を魅了された契約者達へと投げつける。
 被せさえすれば、魅了は解けるとは知らないが、これによって追っ手が減ったのは確実だ。
「ティル、少しあずかって下さい!」
 オルレアーヌからティルレアにパンダ像が回ってくる。
「先回りされてました……!」
 とにかく子守歌で何とか止めるしかない。
 一番いいのは、魅了されていない葦原明倫館の生徒にパスする事だ。
 明倫館に協力している他校生でもいいが、どちらかと言えばれっきとした明倫館生に渡す方が、確実である。
 問題は、編み笠を被っているとはいえ、パンダ像を持っているとなにやら心が引き込まれるような感覚を覚える事だ。

「来たわね」
 明倫館の生徒、水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)はパンダ像を持って村人を振り切ろうとしているオルレアーヌ一行の姿を発見した。
「よかった、明倫館の生徒ですわ……これを」
 緋雨が像を受け取ろうとすると、突然軌道が逸れた。
「これ以上パンダ様を好きにはさせません!」
 どうやら、サイコキネシスか何かで引き寄せたようだ。そのまま抱きかかえ、村の中心へ戻ろうとする。
「追いかけないと!」
 緋雨が追跡し始める。
 その後ろで、像を取られたティルレアが呟いていた。
「あの引き込まれるような感覚。あれが魅了の力ですの? もし笠がなかったら、私も間違いなく村人と同じ運命を辿っていたはずですわ。あれは、一体……」
 パンダ像の力はそれほどのものらしい。
 村人が触れずにただ崇めていたのも、関係しているのだろうか。
「なかなか隙がないわね」
 追いかけながらも、緋雨はなかなかパンダ像を取り返せずにいる。背には追跡している最中に集めた編み笠がある。その数だけ新たに魅了された者がいるのだが、それをどうするかは難しい。
 とにかく今出来る事は、体力を消耗させる事だ。
 追跡はするが、こちらまで疲れてしまっては元も子もない。
「こちらも追われておるな」
 天津 麻羅(あまつ・まら)が周りの気配を察して言う。緋雨がパンダ像を狙ってつけている事は、村人の契約者も感じ取っているようだ。
「空にまだおったのか」
 まだワイバーンが上空にいる。
「モンスターも厄介じゃからな」
 崩落する空で、ワイバーンに攻撃を加える。像を手に入れても、モンスターと人を同時相手にするのは大変だ。
 像をひたすら追跡する緋雨の後ろから、麻羅がそれをしやすいようにアシストしていく。
「そろそろ相手も疲弊してきたみたいね」
 さすがに皆こぞってスキルフル活用のような真似をしているのだ。いくらSPリチャージやSPタブレットがあるとはいえ、限界は訪れる。
 今、像は元の祠の位置にまで戻ってきていた。
「よし、今ならいけるかも」
 だが、村人が壊れた祠の前に一歩踏み出した瞬間、
「待ってました!」
 隠形の術で姿を隠していた志方 綾乃(しかた・あやの)が、契約者からパンダ像を奪い取った。
「ようやく手に入れました。これでイルミンスールは安泰です」
 イルミンスール至上主義な彼女は、パンダ像を手に入れる事がイルミンスールのためになると考えていた。その客寄せの力で、さらない繁栄をもたらさんとして。
「さすがに皆さん、そろそろお疲れでしょう」
 綾乃は全員が消耗するのを待っていたのである。村人も、像を狙う者も。元々村に到着したのは激戦の最中だったが、それならばとずっと戦わずに疲弊していく様を見ていたのだ。
 しびれ粉をばら撒き、鬼眼と威圧で怯ませながら箒に跨ろうとする。
「思ったよりも呆気ないですね。志方ないですね」
 だが、そんな彼女から像を取り返そうと、緋雨が迫る。
「もう遅いですよ」
「そんなことはないわよ」
 彼女が接近する間に、麻羅が崩壊する空で足止めを図る。いくら箒とはいえ、飛びたてなければ意味がない。
 そして綾乃の笠を剥ぎ取ろうと、緋雨が手を伸ばすが、
「残念でした」
 空蝉の術でそれを回避する。
 そのまま一気に光の箒で上昇して、イルミンスールまで戻る算段だった。
「最後に笑うのはイルミンスールですよ」
 
            * * *

「到着したのがさっきでよかった」
 唯斗達は、ようやく村に到着し、パンダ像の姿を発見した。
「マスター、いけます!」
 プラチナムが唯斗に装着される。魔鎧である彼女は、パートナーと一体化したのだ。
「兄さん、足場を作ります」
 睡蓮がサイコキネシスで、唯斗が村の中心まで一気に行くための手助けをする。
「唯斗、あの後ろから行け。陽動はこっちでやる」
 エクスがサンダーブラストを放ち、合図をする。
「行け、唯斗!」
 サンダーブラストの音が響いたと同時に、彼は駆け出した。
 タイミング的には緋雨が笠を剥ごうとしたのを空蝉の術でかわしたあたりだ。
 箒で上昇しようとした瞬間に、彼は綾乃に肉薄した。
「あっ!」
 綾乃の手からすっぽ抜けたのか、宙を舞うパンダ像。それ向かって唯斗が渾身の一撃を繰り出そうとするが、
「壊すなんて、ダメですよ」
 サイコキネシスで唯斗を抑制し、一度宙に投げ出されたパンダ像を再び手中に収めようとする。
 だが、彼女がそれを取ろうとしたとき、その手が空を切る。
「それは私達がもらうわ!」
 メルセデス・カレン・フォード(めるせですかれん・ふぉーど)がサイコキネシスで自分の方へ誘導する。
「させません!」
 負けじと綾乃も同じ技で対抗する。
 だが、二人が争っている間に、地上と上空からも攻撃が来る。
「行きます!」
 地上からは菊が、イコン用爆弾弓を放つ。対イコン武器が人に当たったらさすがに洒落にならない。
「――ッ!!!」
 さすがにこれは避けるしかない。そのため、サイコキネシスの発動が止まってしまった。
「しまっ……」
 今度は上空。フィーグムンド・フォルネウス(ふぃーぐむんど・ふぉるねうす)が飛空挺ヴォルケーノからミサイルを放ったところだった。
 何とか箒で旋回し回避するが、もう像を引き上げるのは難しい。
「一度ならず二度までも……もっと想定しておくべきでした」

 像を手にしたのはメルセデスだ。
 それを受け取るべく、上空のフィーグムンドが低空で彼女のところへ向かい、パンダを彼女から受け取ろうとする。
 異変を感じたのはその時だった。
「今、このパンダ像動い……」
 次の瞬間、メルセデスが持つパンダ像の手が動いた。
 そして、それまで間抜け面だった顔が怒りの表情へと変わる。

            * * *

「おい、なんだありゃ?」
 パンダ村の中、何かがだんだんと巨大化していくのが見て取れた。
「……いたた。そうだ、パンダ像を早く破壊しませんと!」
 気を失っていた遙遠が目を覚ますと、魅了が解けていた。
 それは村人全員に起きた現象だ。
「あれー、正悟君、どうしてボロボロなのかなー?」
「あ、エミカさん、正気に戻ったんだ……」
 どうやら、笠がなくてももう魅了はされないらしい。
 だが、パンダ像はどこへいったのだろうか。
「巨大パンダだー!!!」
 それは、ほんの1、2分前までただの小さな像だったものだ。それが、イコンよりも遥かに大きい体躯になってしまったのだ。
 

「―――――!!!!!」
 名状しがたき音の、パンダの咆哮が轟く。
 まるでそれは、争いを起こした人間を糾弾するかのような――叫びだった。

担当マスターより

▼担当マスター

識上 蒼

▼マスターコメント

 次回予告。
 ついに怒り、真の姿を見せた客寄せパンダ。
 神罰状態の客寄せパンダは、周囲を破壊して進んでいく。
 
 次回、「客寄せパンダは誰が胸に その3」
 担当 篠崎砂美マスター。
 
 客寄せパンダが怒る! 君は客寄せパンダの涙を知ることができるか……。