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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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6.信仰する者


 村の中で一部の者達が抑えていたとしても、一般人でパンダ像を守ろうと戦う者は多い。しかし、このままではアンデッド他モンスター御一行様に容易くやられてしまうだろう。
「ここは危険です。皆さんは村の中心まで下がって下さい!」
 ジョシュア・グリーン(じょしゅあ・ぐりーん)は必死で村人を説得している。
「こういう時だからこそ、ボク達の神の御許へ行って下さい。きっとご加護があるはずです」
 ジョシュアは決してパンダ像に魅了されているわけではない。頭にはちゃんと編み笠を被っている。単純に、村人に怪しまれないようにするためだ。
「パンダ様万歳!!」
 姿の見えたアンデッドに対し、火術を唱える。しかし、亡者達は止まらない。いや、パンダ像に引き寄せられている以上、止められないと言った方が正しいか。
(明倫館のせいでこれ以上一般人を巻き込むわけにはいかないからね)
 どんな理由があるにせよ、この事態を招いたのは葦原明倫館だ。ならばその学校に通う者としては何が出来る?
 彼が選んだのは、村人を守るという事だった。
 魅了されているとはいえ、元は無関係な人達だ。巻き込んだ責任は取らなくては。
(像の方は多分、他の人が何とかしてくれるはず……!)
 村とはいえ、その規模は小さい。例えるなら、学校の校庭に適当にテントを並べたようなその程度の集落だ。入ろうとすれば必然的に敵が密集してくる。
(……ごめん)
 集まったところでサンダーブラストを放つ。降り注ぐ雷撃がアンデッド達を焦がしていく。
 黒コゲになりながらも、動ける者は這ってでも村の中へ入ろうとする。恐ろしい執念だ。
「埒が明かないわね」
 桜小路 幸太郎(さくらこうじ・こうたろう)がジョシュアに加勢する。彼の攻撃に合わせて爆炎派を放ち、亡者達を倒していく。
 技を放ちながらも、時折村の中を振り返る幸太郎。村人が無事に安全圏まで逃れたのかを心配しているようだ。
 と、思いきや……
(なんだか興奮してるみたいだけど、どうしたんだろう?)
 ジョシュアから見た幸太郎は、モンスター退治以上に、別の事に燃えているように映った。

 元々パンダ像の近くにいた一般人の村人は、各々ほったて小屋の中に避難した。パンダ像が襲撃者達の目的なら、わざわざ小屋を吹き飛ばしたりはしないだろう。攻撃の巻き添えで消し飛ぶ可能性はゼロではないが。
「皆さん、こっちですぅ〜」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)は村の中心へと向かってくる一般人を自分のいる方へ誘導しようとする。契約者達が像の周りにいるのは別に問題ないが、一般人がそこに紛れたら大変だ。
 メイド服に編み笠というのは非常にミスマッチで新ジャンルにするのも難しそうだが、かえってそれが一般人からの視線を集めた。
 数人が集まったところで、明日香は真摯な瞳で、じいっと村人達を見つめる。オープンユアハート▽
 パンダ像の魅了も言ってしまえば精神攻撃のようなものだ。ならば、多少は有効だろう。
「う……俺は、何を……パンダ様万歳!!」
 効かなかった。あまりにも魅了の力が強すぎて、村の中にいる間はパンダ像の絶対支配領域なのだ。
 しかし、付け入る隙はある。
 ――ヒプノシス。
 精神状態が戻らなくても、眠らせる事は出来る。
 村人達は意識が朦朧とし始めたのか、目が虚ろになってきた。
「皆さん、こっちの方が可愛いですよ〜エリザベートちゃんですよ〜」
 さっ、と取り出したのは明日香秘蔵コレクションの一つ、エリザベートのひみつ写真だ。
「これは……」
 虚ろな目で村人はそれを見つめている。
「……パンダ様の写真」
 全然違う。
「…………」
 一瞬だけ明日香はフリーズした。
 どうやら、魅了の強すぎる力の下で意識が朦朧としたせいで、かえって「パンダ様」しか彼らには見えなくなってしまったようだ。
 いっそこのまま村ごと消してしまいたいという衝動に駆られるが、そこは理性が何とか働いてくれた。
 とはいえ、この状況は利用出来そうなので、目の前の一般人達を写真をエサに誘導していく。そして安全圏に入ったところで、完全な眠りへと誘った。
(これであの像を壊せるですぅ)
 写真の一件でもパンダ像の魅了の力は(エリザベートの魅力さえも霞ませてしまうほど)危険だと判断。
 一般人も離れた事だし、ようやく彼女は危険物を排除する態勢を整えた。
「待て! パンダ様には触れさせないぜ!」
 そんな彼女の前に、五つの影が立ちはだかった。魅了されている者に変わりはないのだが、どこかで見たような相手だ。
「一人でわたくし達に勝てるわけがないのです」
「これもパンダ様のためなんだよ、悪く思わないでね」
「神の言葉は絶対」
「と、いうわけじゃ。覚悟せい!」
 五人の少女が明日香を囲もうとしたが、次の瞬間には彼女のシューティングスター☆彡
で容易く吹き飛ばされていた。
「数に頼るのは典型的な負けパターンですよ〜」
 五人の素性は分からないが、まあ雰囲気的に一般人ではなさそうだったので問題なし。特に気に留める事もなく、像を破壊しに歩み出した。

            * * *

「パンダ様、可愛いなぁ〜」
 鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)はパンダ像をニコニコとしながら見つめている。何やら周りが騒がしいが、今はパンダ様を崇めるためにそんなのを気にしている場合ではない。
 像を壊そうとしている人がまだ動き出さない以上、構えるまでもないといったところだろう。
「あ、パンダ様」
 やはりここは、愛しきパンダ様にあれを供えなければ。そう思い、氷雨は自分の鞄を漁りだす。
「コレ進呈するね!」
 出てきたのは純銀製の弁当箱だ。お供え物として食べ物を差し出すのは、これといって珍しいものではない。
 もっとも、それが本当に食べ物ならば、だが……
「これ、デローン丼って言うんだよー」
 弁当箱の蓋がガタガタと音を立てている。一体、その中には何が収まっているのか。
 祠の前に置かれた弁当箱の周りには黒いオーラが漂っている。それだけで、むしろ弁当箱が他の村人に危険物とみなされそうなほどだ。
「本当は丼だけど、これはお持ち帰り用だからお弁当箱なんだー。あ、食べられないだろうから、食べさせてあげるね!」
 食べさせる、といっても相手は石像だ。どうやって食べさせようというのだろうか。
 笑顔のまま蓋を開けようとしたその時、ダッ、と駆けて来る者達の姿が見えた。ここにきて、ようやくパンダ像を狙う者達が動き出したのである。
「パンダ様には指一本触れさせないからね!」
 氷雨は咄嗟に弁当箱を、迫り来る人の中に投げつけた。

            * * *

 「ん、なんか騒がしいなー」
 村の中に入りかけたエミカ・サウスウィンド(えみか・さうすうぃんど)がぼそりと呟いた。何やら村人があたふたし始めたようなのだが……
「エミカさーん!」
 彼女の後ろから声が聞こえる。朝野 未沙(あさの・みさ)だ。
「あれ、未沙ちゃんもぱんだ見に来たのー?」
 パンダ像の話を聞きつけてやってきたのだと、エミカは思っているようだ。しかし、それは違う。
「あたしの目当てはパンダじゃないよ」
 きょとんと首を傾げるエミカ。そんな彼女に、未沙はそっと編み笠を被せた。
「なーにー、これー?」
「これを被ってないと、魅了されて村から出れなくなるんだって」
 単に「ぱんだぱんだー♪」とマスコット的なものを見る感覚で飛び出したエミカに対し、事情を説明する。
 魅了されたエミカが像を守るために紫電槍・改を振り回したら洒落にならない。
「あ、未沙ちゃん、よかったら像を手に入れるの手伝ってくらないかな?」
 彼女の性格も考えれば、パンダ像を見た瞬間手に入れようとしても不思議ではない。いつも突拍子もない事をしている子なのだ。
「うん、いいよ。その代わり、今度麻雀しようね」
「あれ、あたしが麻雀やりたがってた事、覚えててくれたんだ」
 夏にエミカが麻雀に興味を持った事を、未沙は知っている。もっとも、彼女の言う麻雀は脱衣前提であり、初心者のエミカを剥ぐ事くらいは容易いのだが。
 後のその姿は十分見返りとして相応しいものだろう。
「よーし、じゃあ頼むね♪」
 とはいえ、出来る事といえば像の近くの人達を誘導する事くらいしかない。
「おっと、その前に……」
 被り心地が悪いのか、エミカが頭のリボンをほどき、笠に巻きつける。三度笠に水色リボンという組み合わせはどこか滑稽だ。とはいえ、笠の下でなびく下ろされた髪は、どこか新鮮だ。
 未沙もまた笠に花を挿したり、柄物の布を巻いたりと飾りつけをしている。二人とも他より目立つ事だろう。
「どっけーい!」
 早速紫電槍・改を起動して、先制攻撃を仕掛けるエミカ。直接攻撃を当てずとも、雷で村人を感電させて気絶させている。
「エミカさん、あまんりやり過ぎないでね」
 後ろで耐電フィールドを張りながら、紫電槍・改の雷撃を受け流す。軽快に飛び跳ねていくエミカのミニスカートがひらひらと動き、その度に中にあるものが見えるので、それはそれで良かったりはする。
 しかし、そんな二人を阻む者達が現れる。
「ちょっと、待った!」
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)だ。
「パンダ様は、ただ村の中心で僕達を見守ってくださっている。それだけでいい、それだけで癒されるというのに、どうして触れようとするんだ!?」
 トマスは笠を被っていない。完全に像の力に魅了されてしまっているようだ。
「あれー、あたしまだ何もしてないよー?」
 エミカが言う。しかし、トマスは問答無用といった感じだ。
「パンダ様に指一本触れるなー!!」
 エミカの前に立ち塞がる。しかし、
「ごめんね、大して痛くないようにするから」
 紫電槍・改の先端でトマスを叩く。刺さらないようにして、そのまま電流を流して彼を感電させる。
「うう、パンダ様、僕を……お守り下さい」
 だが、それでもトマスは立ち上がる。
「んもー、しつこい男は嫌われるよー」
 二撃目。
「パンダ様ァァアアアア!!」
 それでも執念で決して倒れない。お前がアンデッドか。

「どうやらトマスは完全に正気を失ってしまったようですね。こんなことなら、パンダ像を見になんて行かなければよかったのに」
 そんな様子を、魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)は迫り来るアンデッドと戦いながら眺めていた。
「白黒熊なんかに俺は嫉妬してないぞーっ!!」
 テノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)は言葉にし難い怒りをアンデッドにぶつけていた。彼もまた熊の獣人なので、何か思うところがあるのだろう。
「俺は嫉妬なんかしていないーっ!!!」
 彼らはトマスと違ってまだ直接像を見ていない。とはいえ、テノーリオは魅了の力に抗おうとしているように見えるが。
「しかし、あの笠を被ってる人は魅了されないようですね。ちゃんと調べてくるべきでした」
 今更遅い。村外れだからまだいいが、どちらにせよこのままだと自分も「パンダ様万歳」になるだろう。
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)に至っては、避難所を設けようとしてるが、村内部なのでどのみち魅了されてしまう事だろう。
 何か対策はあるのか。
「そこのアンデッドさん、ストップ、ストップ」
 魯粛は襲ってくるアンデッドを槍で殴って制止する。
「坊ちゃんを正気に戻すにはどうしたらいいんでしょうね?」
 そんな事言っても、思考能力を持たない亡者には無駄である。
「……分かりませんか、仕方ないですね」
 結局のところ、そのままパートナーを置いていくわけにもいかず、魅了されないようその場から状況を見守るしかなかった。

 敵はアンデッドばかりではない。戦っているエミカ達のすぐ側に、ハイエナのような獣が接近していた。パラミタハイエナ、とでも言うべきか。
「エミカさん!」
 未沙が叫ぶも、エミカの死角からそれは迫っていた。
 しかし、獣はエミカに飛び掛る事はなかった。
 ゴツ、という音とともに、純銀で出来た箱が命中する。その中にあった物体が、「デロ〜ン」という名状し難い音を出して、獣の上を這い出した。
「デローン君、それ違うよ。パンダ像を壊そうとしている人を倒すんだよー」
 氷雨が少し怒って、緑色の物体を窘める。デローン丼とは、意思を持って動いている生命体なのだろうか。
「グルウアアアア!!」
 ハイエナが呻きだした。自分の上に乗っている得体の知れないものを振りほどきたいのだろう。だが、デローン丼(の中身)は張り付いたままだ。
 段々と獣の顔色が悪くなっていき、目も虚ろになり始める。
「ほら、もういいから。たくさん集まってきたから、早くそこから動いてよー」
 しかし、口に含まずとも、ただ獣の上に乗っているだけでダメージを与え続けるというのは恐ろしいものだ。物体が発する黒いオーラには毒気があるのだろうか。

 そうしている間にも、騒ぎは大きくなっていく。