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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その2

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3.芹沢 鴨と取り巻く人々


 時間は編み笠が配られて間もない頃に戻る。
「あれが魅了対策の編み笠かな?」
 七瀬 歩は明倫館のある葦原島へと足を運んでいた。
 彼女の目的は、像を手に入れる事ではない。客寄せの力を持つというパンダ像は、おそらく像の見た目もさぞ魅力的なものなのだろう。明倫館が手に入れようとしている以上、像を横取りするわけにはいかないが、せめて写真に収めるくらいなら問題ないだろうと、その確認をするために来ていたのだ。
 中に入ろうとする前に、一緒に来ている伊東 武明(いとう・たけあき)を見遣った。
 葦原には、確か……
「えっと、ここに芹沢 鴨さんって人いるけど、大丈夫? 顔合わせづらかったら待ってて良いけど」
「芹沢 鴨……私が入る前、まだ浪士組だった当時の新撰組の中心人物ですね。面識はありませんし、問題はないですよ」
 武明は、新撰組参謀だった伊東 甲子太郎の分霊だ。史実では、この二人が実際に顔を合わせた事はない、とされている。とはいえ、共に常陸国(茨城県)出身だったり、最終的に新撰組内部での対立によって暗殺されたりと、似通っている部分がある。
「そっか、地球にいた時は会った事なかったんだ……それに、武明くんはあの伊東さんとは違うんだよね」
 歩は以前、彼とは異なる伊東と対峙した。もっとも、その時は敵として現われ、散っていったのだが。
 その時の事は武明にも伝えてはいる。彼としては、別の自分がこちらでも信念を持って戦っていたと知って安堵したようだった。
「この姿だとおそらく名乗らない限りは気付かれないでしょうが、元々お互い恨み合う間柄ではありませんからね。一度、挨拶くらいはしておきたいものです」
 そんな折、豪傑風な男が歩達の方へやってきた。その顔には見覚えがある。
「お、いつぞやの嬢ちゃんじゃねぇか。どうしたんだ?」
 噂をすれば影、といったところだろうか。芹沢 鴨(せりざわ・かも)当人である。
「お久しぶりです、芹沢さん。実は、パンダ像の事でちょっと聞きたい事があるんです」
 明倫館で講師を請け負っているのだから、彼に聞けば大丈夫だろうと歩は考える。
「像の確保に協力しようと思っているんですけど、その村の場所は分かりますか?」
「ああ、蛮族の集落とも違って分かりやすい所にあらぁ」
 芹沢から村の場所を聞く歩。
「おっと、行くんならこいつを被ってけ。客寄せの力は、これがないと抗えねぇほどやべぇって話だ」
「ありがとうございます」
 歩と武明の頭に、編み笠を被せる。そこで、彼は武明と目が合った。
「芹沢さん、初めまして。いえ、お久しぶり、でしょうか?」
「どこかで会ったことあるか? ん……」
 芹沢は武明の顔に、かつての――数ヶ月前まで共に行動していた男の面影を見出したようだ。
「私は伊東甲子太郎武明と申します」
「随分と小っさくなっちまったもんだな。いや、アイツとは別人か。分霊ってなぁ聞いた事あったが、本当に同じ人間がいるたぁな」
 英霊は同一人物から派生し、複数存在する場合があるといわれている。ナラカから上がってくる段階で魂が分化するためとされているが、詳しいことは定かではない。
「なるほど、歩さんが言うように別の私と行動を共にしていたという事ですか」
「まあな。アイツは何を考えてるか分からねぇヤツだった。だが、ちゃんと一本、軸になるものは持ってたみてぇだぜ? じゃなきゃ平助のヤツもついていかなかっただろうよ」
 歩は武明に、藤堂 平助の事も伝えてはいる。数ヶ月前の一件で、自分以外の新撰組の一員がこのシャンバラにいる事も。
「そうだ、村に行くってんなら案内するぜ?」
 芹沢がいれば心強いが、彼の風貌は村人に警戒されるのはほぼ間違いないだろう。明倫館はパンダを手に入れたい、自分はパンダの写真を撮りたい、となれば途中からは別行動の方がいいだろう。
「村が見えるところまでで大丈夫なので、お願いします」
 芹沢という男も、群れで動くのは好きではないだろうと思い、そのように伝えた。


「やばいぜ、近藤さんが戻って来ない」
 客寄せパンダ村を見つめ、土方 歳三(ひじかた・としぞう)が呟いた。
 近藤が「村の様子を見てくる」と、村へと足を踏み入れていってから数日が経つ。
 これは何かヤバイ事が起こっているだろうと、明倫館の配っている編み笠を被って、ここまで来たというわけだ。
「芹沢さんも向かってるって話だが……」
 笠を渡してくれた明倫館生が言うには、既にパンダ村へ彼は向かっているという事だった。
「もう魅了されてたりして」
 日堂 真宵(にちどう・まよい)が言う。
「まさか、たかだかパンダに魅了されるタマかよ」
 芹沢の性格を考えれば、パンダの魔力なんかに支配されるようには思えない。だが、もし彼もまた魅了されているとしたら……
「もしかしたら、あの方をも魅了するほどの力がパンダ像にはあるんじゃないかしら。だったら、そのパンダ像の魅了力、わたくしが頂くわ」
 なにやら真宵が企んでいるようだが、それが果たして実現するかは分からない。
 と、そんな時に土方は芹沢の姿を発見した。ちょうど二人の男女を村へと送り出したところのようだ。
「おう、土方じゃねぇか」
 鉄扇を片手で扇ぎながら、彼の方に視線を移してくる。
「実は、近藤さんが魅了されちまったらしく、村から戻ってこねえんだ」
「近藤が? ったく、しゃあねぇヤツだ」
 どこか呆れ気味な芹沢。どうやら、まだ彼は魅了されてはいないらしい。笠も傷一つなく、無事だ。
「そいじゃ、ちょっくら『パンダ様』とやらを拝ませてもらうか。なに、俺はたかだかそんなまやかしにゃかかんねぇよ。例え笠がなくなってもな」
 にっ、と歯を見せて笑った。
 一行はそのまま客寄せパンダ村へと駆け込んでいく。


「鴨ちゃん、みっけ」
 パンダ村へ向かう最中、東條 カガチ(とうじょう・かがち)は芹沢達の姿を発見した。笠で顔は見えないが、腰に刀を差し、鉄扇と酒瓶を手に持っているのを見れば見紛うはずがない。単独でいてくれた方が良かったのだが、一応新撰組とも面識はある。
 と、いうわけで、
「鴨ちゃーん!!」
 芹沢に接近し、彼の笠を狙って斬りかかる。
「よう、お前も来てたのか」
 鉄扇であっさりとカガチの太刀を受け止め、容易く彼は弾き飛ばされる。とはいえ、カガチとしてはこれは挨拶代わりだ。この程度で一太刀浴びせられるなどとは毛ほども思っていない。
「で、お前もパンダが狙いか?」
 地面にひっくり返っていたカガチはそれに応じた。
「パンダ? いや、なんか面妖なのがいるって聞いてちみっこどもが見に行くって煩くてさー。だけど、俺ろくすっぽ分かんねえのよ」
「ちみっこ? ああ、あの嬢ちゃんも来てるのか」
 とはいえ、姿が見えない。と、思いきや、
「あひるさーーーーーーーん!!!!!」
 どん、と柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が全力ダッシュで芹沢にタックルをかました。
「ぐぶっ……!」
 油断していたのか、どうやら彼の鳩尾になぎこの頭が勢いよくめり込んだらしい。
「だから俺はあひるじゃねぇって」
 これには呆れて苦笑するしかないようだ。
 さらに追い討ちをかけるかのように、カガチのパートナー達が姿を見せる。柳尾 みわ(やなお・みわ)エヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)だ。
「あなたの事はカガチから聞いてるわ。ええと……すずめね」
「だから俺は鴨だ」
「お久しぶりです合鴨さん。お変わりありませんか?」
「微妙に違ぇ。つぅかわざとやってねぇか」
 どうにもカガチのパートナー達は鴨の名前を正しく言う気はないらしい。鳥類ならいいというものではない。
 なにやらごちゃごちゃになりそうなので、ここは一旦話しを整理する事にする。

「なるほど、新撰組の方がパンダを見に行かれたまま戻らないと」
 土方らと共に向かっている理由を芹沢が説明した。
「ここに来るまでに編み笠貰ったんだけど、これはー?」
「パンダ像の魅了の力を防げる笠だそうだ。被ってねぇと、村から出れなくなるみてぇだぜ」
 だが、肝心の芹沢の目的はなんだろうか。始めからパンダ村へ向かうつもりだったようだが。
「合鴨さんもパンダを見に行かれるとのことでしたが、それは学校のためですか?」
 エヴァが問う。
「いんや、違ぇよ。そんだけの力があるってんなら、力づくで持っていこうとするヤツや、必死で守ろうと戦うヤツがいんだろうよ。ってこたぁ、そん中に突っ込みゃ歯応えのあんのとやり合えんだろ」
 魅了された人がパンダを守るために通常以上の力を発揮してくれるのならなお面白い、とも付け加えた。
「パンダ像についてはどの程度聞いてます?」
「総奉行が言うには五、六寸ってほどだからかなり小せぇ。しかも輝いているそうだ。つっても実際は魅了する力に当てられてそう見えただけかもな」
 とにかく見に行きゃ分かんだろ、とぶっきらぼうに言う。
「ところでパンダってのはなんなの?」
 みわはそもそもパンダと呼ばれる生物を知らないようだ。
「俺も知らねぇよ。漢字だと熊猫って書くみてぇだから熊と猫の中間のような生物なんじゃねぇか」
 一歩間違えると可愛いとは言い難い姿が想起される。芹沢は元々江戸時代の人間だから知らなくても不思議ではないが。
 また、猫の字は白黒の一般的に知られるジャイアントパンダではなく、レッサーパンダの方に由来しているのだが、これも意外と知られていない。ちなみに、先に「パンダ」として学術的に発見されたのがレッサーパンダの方だったりする。今一般的にパンダとして知られる方は1869年に中国で発見されたものだ。
「なんだ、あなたも何も知 らないのね。だからあたしも一緒に連れていきなさい、すずめ」
「なぎさんもパンダ見るー! あひるさんいっしょにいこう!」
 なぎことみわのお子様二人が鴨にすがりつく。なぜだか知らないが、芹沢は子供から好かれやすいのだ。
「この子達がこんな様子なので、私達も一緒に行きます。新撰組の方を探すにも、人数は多い方がいいでしょう」
 魅了されなければ、だが。
「ったく……遊びじゃねぇんだけどな」
 と、芹沢本人は口にしているが、別にパンダを見に行く程度だから好きにすりゃいい、という感じだ。
「じゃ、行こうぜ鴨ちゃん」
 こうなったら自分のパートナー達は芹沢からは離れないだろうという事で、カガチ達一行が合流して村へ進む流れとなった。