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宝探しinトラップハウス

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宝探しinトラップハウス
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リアクション


■ 探索開始から十分


 目の前に大量の首が転がっていた。

「先に入った誰かが罠を作動させたんじゃね?」
 落ちている首を拾い上げながら、バン・セテス(ばん・せてす)がそう分析する。
 転がっている首は、よくできた人形だ。おぞましい事に切断面まで詳細に作られており、その表情も一つ一つ異なっている。
「びっくりしましたの」
 エイム・ブラッドベリー(えいむ・ぶらっどべりー)もさすがに表情がこわばっている。ここに来るまで、いくつもトラップを作動させまくってきた彼女もさすがにこれは血の毛が引いたのだろう。
「恐らくは一つ一つ手作りのものですね。悪趣味ですが……ある意味芸術品かもしれませんよ?」
 セス・テヴァン(せす・てう゛ぁん)も持ち上げてみた首を観察してみて、そう言う。人形とは言え、かなりリアルに作られた首を工場で大量生産しているとは考えにくいので、確かにその通りなのだろう。
「ほら、固まってないで、カメラカメラ」
 ヤジロ アイリ(やじろ・あいり)に声をかけられたリンダ・ウッズ(りんだ・うっず)がはっとなってカメラの前に立つ。
「さっそくボク達の前に立ちはだかった、気持ち悪い生首の人形! これはもしかしたら、ボク達にこれいじょう先に進むなと警告しとるのかもしれません!」
 慌てて適当な事を口走るリンダ。ちなみに、「さっそく」という言葉はここに来るまでに計四回使われている。
 どうも、運がいいのか悪いのか、彼女達の一向は本筋っぽいルートを進んでいるらしく、トラップの危険度が高いものが少なくなかった。時折、冗談みたいなものもあるのだが、振り子刃とか、高圧電流が流れているワイヤーとか、ちょっとしゃれにならない。
 さらに不幸と言うべきか、同行しているエイムが大変好奇心が旺盛で、普通ならかからないような場所にあるようなスイッチを目ざとく見つけては作動させてくれるのである。
「どうするよ、コレ? コレも持って帰る?」
「生首はちょっと持ち歩きたくはないですねー」
 神代 明日香(かみしろ・あすか)が困ったような顔で言う。
 ちなみに、リンダが行っている中継用のカメラを持っているのは明日香だ。本来ならリンダが呼んだカメラさんが担当するはずだったのだが、入って最初のトラップに返り討ちにあって早々にリタイアしてしまったのだ。
 困っていたリンダに明日香が声をかけ、おもしろそうだからとカメラを持って今に至っている。しかし、カメラを持ちつつやんちゃなエイムをフォローするのは難しく、結果発生したトラップに巻き込まれたアイリ達も巻き込む形で、こうしてぞろぞろと探索を進めているのである。
「でもさー、これマニアには売れると思うんだよねー。だってこれ、さわり心地も人間の肌っぽいし。よくできてる、うん。コレを作った奴は、人間の生首がどーゆーもんかわかってんな」
 バンは他のみんなと違って、生首を大変気に入ったようである。
「とりあえずソレは置いておこーぜ。他にこれを欲しがる奴なんてそうそうないだろうし、この先もあの部屋で行き止まりみたいだから、そっちでめぼしいもんが無かったら考えればいいだろ」
「んー、まぁアイリちゃんがそう言うなら。でも、簡単に取られないようにそこの棚に隠しておこうっと」
 バンが出っ張った柱の裏に生首たちを隠してから、一向は奥の部屋に向かっていった。
 扉を開ける時は最新の注意を払ったが、幸いな事に扉に罠はなかった。扉を開けたバンが慎重に内部に入っていくが、とりあえず進入しただけで発生する罠はないようで、セスとアイリが後方を注意しながらみんな部屋に入っていく。
「ここは、応接間?」
「でも応接間がこげな場所にあっても不便じゃない?」
「あちこち増築されまくってるみたいだし、最初はここが応接間だったけどそのまま放置したんじゃないか」
「こーんな危険な場所に、お客さんなんてよべないしねー」
 なんて会話をしながら、早速探索を開始する。
 応接間は中央に小さなガラス板の乗った金属足のテーブルと、それを挟むように向かい合った皮製のソファが置かれている。窓は板で塞がれており、他に壁には飾り棚と本棚が一つ。壁掛けの大きな時計は今は動くことなく鎮座していた。どの家具にも雪のように埃が積もっていて、ここに誰も訪れなくなってから久しいことを雄弁に物語っている。
「どうやらこの部屋にはあまり罠は無い様子ですね」
「けど、お宝っぽいものもあんまりねーな。やっぱり、放置された部屋だからか」
 アイリが眺めている飾り棚には、大したものは見当たらなかった。大きなお皿とか、あとは猫っぽい動物の剥製が入っている。猫のようだが、尻尾の先が二つに割れている。
「猫は長生きすると、尻尾がわかれて猫又になるんですよねー」
「でも、剥製だろ。あとからもう一本尻尾つけただけかもしれねーよなぁ」
「人魚のミイラはサルと魚のミイラを合体させてつくっちょるらしいよ」
「あー、仮面とかねぇかなぁ。こう、派手派手な奴」
 みんなが飾り棚を眺めている中、エイムは一人だけ本棚を眺めていた。
 並んでいる本は特別な力は無いようなものばかりだ。法律や歴史など、箔がつきそうな本ばかり並んでいる。深い緑や紺色の表紙が並ぶ中、一冊だけ背表紙にタイトルが無く赤いカバーの本がささっていた。
「明日香様、一冊だけ変わった本がありますの」
「あ、エイムちゃん、それは……」
 それは、どう考えても罠っぽいのでとりあえる手は触れないでくださいねー、と最後まで言うことができなかった。既に、その本らしきものをエイムは手にしていたからである。
「………お願いだからエイムちゃん、触る前に、ね。教えて欲しいなーって」
 本を抜き取られた本棚は、突然ガタガタ揺れたかと思うと、そのまま前に倒れていった。エイムは距離を取っていたので怪我は無かったが、
「入り口が塞がっちょるよ」
「あれはこちら側に引いてあけるものでしたね」
「って事は閉じ込められたってわけか、本棚の裏に隠し扉なんてないし……閉じ込めただけで満足なんかしねぇーよなぁ、普通……」
 今度は背後から突然金属音がして、振り向くと板で塞がれた窓の前にさらにシャッターが下りている。
「何をするつもりなんだ?」
 アイリがあたりを見回すと、部屋の奥の壁から白いもやのようなものが噴出している。
「毒か!」
「はよこんな部屋いぬらんと!」
 一番ドアに近かったエイムが本棚をどかそうと手を触れると、それに反応したのか天井から何かが降ってきて彼女の頭頂部に直撃した。
「エイムちゃんっ!」
「痛いの」
 エイムは自分を襲った金ダライを睨みつける。中には特に何も入っていない普通の金タライのようだ。
 周囲にいたみんなは、落ちてきたものが金タライだとわかると安心よりも体の力が抜けるような感覚に襲われた。が、すぐにはっとなって本棚に集まる。
「金タライのせいで、一瞬緊張感が途切れてしまいましたね。これを考えた人はここまで計算して……」
「ばっ、おま、そんな冷静に分析してる暇があるんだったらさっさと本棚どけるの手伝いやがれっ! これ、やべぇ重いんだぞっ!」
「ってかコレ、床にくっついてるだろ! ピクリともしないぞ!」
「もう白い煙がそこまできとるけん!」
「……これ、甘いの」
「扉、扉ですー、木でできているんですから、こっちが壊せますー!」
「これ、お砂糖なの」
「1,2、3、でいくぞ。せーの、いち、にぃ、さんっ!」
 バンとセスが扉にタックルを加えるがビクともしない。
「くそっ、向こう側もシャッター降りてるんじぇねぇのか。全然壊れねぇし」
「だからこれ、お砂糖なの。甘いの。危なくないの」
「だからこうやって必死に扉を壊そうと……は?」
 慌てふためいていた一同の動きが止まる。全員もうもくもくとした白いもやに包まれているのだが、そういえば誰も苦しんだり倒れたりはしてない。
「ほんとですねー。これ、すっごく細かくしたお砂糖ですー」
「本当に砂糖なのですか……おや」
 セスが何も置かれていない壁に視線を向けると、そこには赤い服ワンピースに茶色の髪を振り乱した女性の絵と共に、一文が添えられていた。
『スィート・ホームへようこそ』



「ストップです。そこの床にワイヤーが張ってあります」
 霧島 春美(きりしま・はるみ)が手をあげて、廊下を進む一同をストップさせる。
「またか、この屋敷の持ち主はなかなか小まめな性格をしていたのであろうな」
 眉をひそめながら讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が愚痴を零す。先ほどから、ちょっと進んでは止まって、ちょっと進んでは止まってを繰り返しているのだから、愚痴の一つも仕方ないというものだろう。
「でも、ワイヤーはさっきもあったよね」
 ディオネア・マスキプラ(でぃおねあ・ますきぷら)の言葉に、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)が頷く。
「そやなー、さっきのは確か、触れると蛇の玩具が降ってくるやつやったな」
 帰りの道を確保するためにも、見つけた罠は作動させて無害化していかないといけない。ある程度までは、以前に盗賊でも侵入していたのか罠が作動した跡があったりしたが、この辺りまではまだ誰も侵入していないのか罠がしっかりと残っている。
「ここにまたワイヤーが仕掛けられているということは、つまり先ほどのトラップはこちらの意識を向けさせるためのものだったのでしょう。こちらも、恐らく本命は別の罠です」
「なるほど、だとするとワイヤーを乗り越えた先は落とし穴だよね」
 慎重にワイヤーを超えた先にある落とし穴。定番だが、恐ろしい罠である。
「ふむ、ではどうやって超えていくものか……我の身をもって試してみるか?」
 同じ方向に向かうからなんて理由で即興で組んだチームだったが、これが結構うまく機能していた。
 持ち前の洞察力で罠の前兆を見つけて的確に判断できるマジカルホームズ春美に、トラップの扱いに長けているディオネア。さらに、【召還】によって無理やり危機回避をすることができるため、自ら囮になる事ができる。
 罠の長所である不意打ちを完全に潰せるため、ここまで全く被害らしい被害を受けていないで進んでこれている。
「いえ、まずはこのワイヤーがどこに繋がっているのか確かめてみましょう。さすがに、爆弾とかには繋がってないと思いますけどね。一応、ここで住んでいたわけですし」
「大事なお宝も一緒に木っ端微塵になてまうしな」
 ワイヤーの張ってある壁には、一枚の絵がかけられている。全員で顔を見合わせてみるが、誰も知らない絵のようだった。ひまわり畑が一面に描かれているだけで人物の描写はない。
「あの絵、外してみるね」
 ワイヤーに注意しつつ、ディオネアが絵を外してみると、その裏には矢が並んでいた。
「矢が飛び出る仕掛けか。この距離で飛び出してきたら、流石に対応は難しいかったであろう」
 ワイヤーを真ん中で触れたとしても、矢の発射地点から一メートルもない。矢が飛び出たのに気づくのは、矢が刺さったあとだろう。さすがに【召還】でも対応が難しかったに違いない。
「殺しにかかってますね。ディオ、その絵をワイヤーの向こうに投げちゃってください」
 まだ絵を持ったままのディオネアは頷いて絵を向こうに投げてみた。推測通りなら、落とし穴が作動するはずだが、廊下に落ちた。
「落とし穴じゃないみたいだね」
「となると、ワイヤーが本命ってことでええんかな?」
「どうですかね。同じ罠を二つ仕掛けるからには、何かしらの理由があると思うんですけど……」
「思うに、単にずさんな性格をしていたのではなかろうか。持ち主は自分で仕掛けた罠で帰ってこれなかったのであろう。ならば、そもそも計画性など皆無だったのではないか」
「うーん。そうかもしれないですけど。でも、ここまで作動してる罠はちゃんと計算してあるように思うんですよ。少なくとも、どう罠に仕掛けるかについてはフランクリンさんは考えていたはずです」
「ボクもそう思うよ。だって、そうじゃないとさっきの罠で玩具が出てくるのはオカシイもんね」
 玩具の蛇が出てくるトラップは、ビックリさせるという意味ではアリなのかもしれないがここに来るまでちゃんとダメージを与えようとするトラップがしっかり仕掛けてあった。それがいきなり玩具を投げつけるなんてトラップを仕掛けるのは、変な話ではある。
「そやな。だったらさっきの場所に矢でも落とし穴でも仕掛けとくんが普通や。このワイヤーを見付けてくださいって考えるんは別におかしな話やないな」
「先ほどのワイヤーで意識させておくことで、次のワイヤーで足を止めさせることそのものが罠である。とは考えられないだろうか?」
「現に、春美達はこうして足を止めてますからね。防犯として考えるなら、時間を稼ぐのは十分現実的な考えですが……こんな奥地にある建物だと、時間を稼いでも誰も助けには来てくれないんですよね。そう考えると、ただこうして時間を稼ぐ事に意味があるとは考えにくいんですよ」
 この邸宅は郊外の森の中にぽつんと建っている。多少の時間を稼いだとしても、警察なりなんなりが到着するまで間に合わないだろう。
「あのワイヤー切っちゃおうか?」
 そう提案するディオネア。他に罠らしきものも見当たらず、最初に反対していた晴海も渋々受け入れることにした。途中に転がっていた箒を手に取り、ギリギリまで離れた距離から、ディオネアがワイヤーに触れる。
 短い歯車がかみ合うような音がすると、さっそく矢が飛び出してきた。
「他に何もうごかないようですね……」
 春美が周囲を確認しつつそうこぼした。
「あの矢が本命やったんかな?」
 全員がまだ疑心暗鬼で辺りを見回していると、いきなりガコンといい音が鳴り響いた。
「え?」
 驚きの声をあげたのは誰だったか、おそらくディオネア本人だろう。
 丁度彼が居た場所の床の板が、突然開いたのだ。
「うわああああぁぁぁぁぁぁ」
「そ、そんな。まさか丁度いいところに箒が置いてあったのもこの罠の為だったんですね。箒を使ってワイヤーを外そうとすると、丁度その場所が落とし穴になっているという!」
「冷静な解説はいいから助けてぇぇぇぇぇ、うわっ!」
 咄嗟に前に出た顕仁が手を伸ばしてなんとか最悪の事態を免れる。
「下は見ぬ方がよかろう」
 そう言われてしまえば見たくなるのは人間の性というものだろう。恐る恐るディオネアが下を見てみると、そこには鋭くてぶっとい針がいくつも天井を見上げていた。
「ひぃぃぃっ」
 みんなでディオネアを引き上げ、全員でとりあえずほっと一息をついた。
「これからは、より一層気をつけないといけませんね!」
 キリッとした表情で春美が言う。まんまと罠にひっかかってしまったのが許せなかったのだろうか。決意を新たにし、先へ進んでいこうと振り返ると。足が何かを踏んでしまった。
「あれ?」
 春美が足をそっと持ち上げると、床に敷いてある木の板が、一枚だけ不自然に短くなっていた。
「…………あ、あははは」
 とりあえず笑ってみた。
 がっちゃん、とこれまたいい音を立てるのでそっちを見てみると、天井から隠し階段のように一枚の板が降りてきていた。丁度滑り台のようになっている。そこから何が出てくるのか、あんまり考えるまでもなかった。
「やっぱり岩が出てきたぁぁぁっ!」
 とりあえず全員が反射的に逃げる。廊下はまだまだ先がある。
「な、なんか魔法でもかかっとるんとちゃうか、全然勢い落ちひんでっ!」
 出っ張っている柱を巻き込んで破壊しながら、転がる岩は全く速度を落とさない。
 そのうえ、慎重に罠対策なんてできるような状況ではないため、矢が飛んで来たり、熱湯が噴出したりと次々と罠が作動する。
「最初から岩で押し潰すつもりだからか、罠が足止め程度のようですね」
「そんな考察している場合ではなかろう」
「もう道がないよー」
 正面にはドアが一つ。しかし、どうぞここに入ってください、とばかりに正面にドアが用意されているのは物凄く怪しい。しかし、怪しいなぁなんて考えている暇なんて微塵もない。
「扉が壊れたら召還を頼む」
「はいなっ!」
 顕仁が先陣を切ってその扉に肩からぶつかっていく。全速ダッシュの勢いの乗ったタックルだ、扉は耐え切れずに壊れて部屋の中に倒れこんでいった。
「入ったらすぐに落とし穴がある」
 先に中を確認した顕仁が報告すると同時に【召還】で後退。
「飛び越えるで!」

「はぁ、さすがに死ぬかと思ったよー」
 なんとか全員部屋に滑り込み、というより飛び込むことに成功した。
 岩は見事に入り口を塞いでいるが、とりあえず今度こそ当面の危機を去ったようだ。
「これは価値があるんとちゃうか?」
 岩に追われながらたどり着いた部屋には、壁一面に昆虫の標本が飾ってあった。
 一つ一つの箱は小さいく、入っている昆虫も細かく分類されている。保存状態もいいようで、足が取れたりしているようなものはほとんど無かった。
「昆虫の標本ですか」
「我は昆虫の標本については価値はわからんな」
 昆虫の標本は趣味としての歴史が古く、それだけ愛好家も多い。そのため、価値がわかる人が扱えばそれなりの値段をつけることができるだろう。
「なんとか収穫あり、ってところやな」
「そうですね。あとはここからどうやって出ようか、ってだけですね」
 標本を飾っている部屋だからか、窓は無い。入り口は大きな岩が塞いでいる。
「いざとなれば壁を壊してしまえばよかろう。予定では、この建物はのちのち解体してしまうのだろう?」
「中に入る前は壊すなんて勿体無いって思ったけど、こんなに危ないなら壊しちゃった方がいいよね」
 ディオネアが言うように、この建物はこの探索が終わったら取り壊すことになっている。理由は危険だから、という事になっていたが確かにここは非常に危険だ。
「ほな、とりあえず一旦休憩しよか」
 泰輔の言葉に、誰も異論は唱えなかった。