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宝探しinトラップハウス

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リアクション


■ 探索開始から三時間十五分〜



「見える!」
 仮面騎士は飛んできた矢を叩き落した。そのまま、次の矢を装填しようとしているアイアンゴーレムに肉薄し、
「そのような腕で、この俺に挑むなどと、恥を知れっ!」
 一撃で頭を叩き落す。
「素晴らしい。本音を言えば最初は少し不安だったが、なかなかやるものだ。君の友人にこんな逸材がいとは思わなかったぞ、フィアナ」
 ジークフリート・ベルンハルト(じーくふりーと・べるんはると)は、パチパチと手を打って彼の戦いぶりを褒め称えた。
「………そうですね」
 フィアナ・コルト(ふぃあな・こると)の視線は冷やかだ。
 というのも、この仮面騎士は相田 なぶら(あいだ・なぶら)なのである。宝探し、という楽しそうな言葉に心惹かれたものの、勇者を目指す俺が、魔王を目指すジークフリートを手伝ったんじゃ、格好がつかないという理由から仮面を着用し、仮面騎士と名乗って参加しているのである。
「よくやってくれた」
「いえ、当然の事っすから」
 と、そそくさと隊列の後ろに回る。身分を隠している以上、あまりジークフリートの前に立っていたくはない。
 後ろに下がって、大きくため息。
「だんだんキャラクターが崩れてますよ?」
 と、フィアナが一言。
「あいつと一緒に回るなんて予定外なんだよ………」
 適当に軽く挨拶をして、すぐに別行動を取るつもりでいたからあんまり台詞のバリエーションを用意していなかったのだ。しかし、地下に隠し通路がという報告を受けて、【魔王軍】一向は地下を徹底的に攻略することになってしまい、彼も引きずりこまれたのである。
「さっきは、ルイーゼに仮面取られそうになるし」
 ルイーゼ達と先ほど偶然すれ違うことができた。なんでもルイが戦闘不能になったのでワインセラーまで戻り、もう一つの班と編隊を組みなおすそうだ。見たところ、ルイには大きな怪我はなさそうだったが、随分と意気消沈していた。何があったのだろうか。
「みなそれぞれ、きちんと成果を出しているようだな。今夜の宴会は、随分と豪華なものになりそうだ。魚介鍋にすべきか、それとも肉鍋にするべきか、あとでみんなの意見をきちんと聞いておかなければ」
 ジークフリートはとても楽しそうだ。今回の報酬を使って、みんなで鍋パーティをする予定があるのだそうだ。楽しそうにしつつも、しっかりマップを確認して、探索地点を絞り込んでいく。
「ふむ、よし行くぞフィアナ、そして仮面騎士よ。俺らもあの剣や魔道書に劣らないものを見つけて、みんなの鼻を明かしてやろうではないか」



 危険なトラップのある屋敷は壊してしまい、瓦礫の中から価値のあるものを発掘した方が効率がよくて、さらに安全ではないか。
 探索が始まる前にネリィへそう提案した人物が居た。
 トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)である。しかし、貯蔵されているであろう収集物が建物を取り壊す衝撃に耐えられるものとは限らない。むしろ、壊れやすいものの方が価値があったりするものである。そのため、最初に取り壊すという提案は受け入れられなかった。
 しかし、屋敷を手に入れたネリィにとってお宝が無くなればこの屋敷はただの危険物でしかない。そこで万が一事故でもあって責任問題になったら厄介だ。トマスは重機を持ってこれるとの事だったので、他の探索者とは別枠で雇いいれ、のちに取り壊すために屋敷の調査を行う事になった。
 魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)の二人はまさにその調査のために、屋敷を探索していた。屋敷の見取り図を作りつつ、柱などを調べてより効率的に壊せる方策を考える。一見地味だが、大事な役割である。
 一通り調査を進めた彼らに、ある報告が届いた。地下室の隠し通路だ。
 地下室が一部屋あるぐらいならば、さしたる問題ではない。しかし、屋敷の地下空間がより広いとなると、重機の重さによって地面が陥没する可能性がある。そんなわけで、彼らは地下も調査しておく事にした。
「ここが終点のようですな」
 途中で出会った人たちと情報を交換をしながら進み、子敬とミカエラは石の扉の前に立っていた。
「随分歩いたね。ちょっと疲れたよ」
「はは、確かに少し堪えましたな。ここを見たら、戻って何か暖かい飲み物でも頂きましょう」
「私はココアが飲みたいかな、先生は?」
「そうですね、お茶が恋しいですね」
「ちょっと待ったぁっ!」
 扉の前に立つ二人のところに、人が駆け込んでくる。椿 椎名(つばき・しいな)ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)の二人だ。
「オレ達もいれて! お宝は山分けでいいからさ」
「マスターまだ何もお宝見つけてないんだよ」
 椎名とソーマの二人は、結構早く地下の探索を始めていた。
 アイアンゴーレムを打ち倒しながら突き進み、見つけた扉から外に出てしまった。ラムズ達が見つけた出入り口である。そこから、回れ右で戻ってきたもののあとからやってきた人たちに宝らしきものは持っていかれ、ゴーレムの倒し損となっていたのである。
「構いませんよ。私達は探索ではなく調査をしているので、何か見つけたら持っていってください」
「お宝渡しちゃっていいの、先生?」
 ミカエラは少し納得がいかないようだ。しかし、お宝に目を奪われて罠にかかっては元も子もない。そのせいで調査に支障をきたすなんて事にもなれば、目も当てられないだろう。
「ほんと!? 嘘じゃないよな?」
「ええ」
「よっしゃ。それじゃ、さっさと入ってみよう!」
 わかりやすくテンションがあがる椎名。ここまでの苦労をなんとか浮かばせたい、という想いもあるのだろう。彼女が率先して扉を開く。
 扉を開くと、ぼっという音と共に壁にかけられた篭に火が灯っていく。奥まで見渡せるほど明るい部屋の中央には、真っ赤なカーペットが一直線に敷かれており、その左右には大量の鎧がカーペットを向いて整列している。
「すごいな」
 カーペットが示す道の先には、大きな緑色の宝石のようなものが飾ってある。距離があるので正確な大きさはわからないが、かなりの大きさだろう。ゴーレムの動力源となっている宝石によく似ている。
「鎧がいっぱいだね。アレも動いてくるのかな?」
 ソーマは少し警戒しているようだ。これだけの数である、動き出したらさすがに対応するのは大変だろう。
 部屋の外でじっくり様子を伺ってから、椎名は「よし、入ってみよう」と言って足を踏み出した。部屋に入っても、鎧に動く様子はない。椎名とソーマを先頭に、子敬とミカエラも続く。
「すごい威圧感ですね」
「今までこいつらと戦ってたから、余計ね」
 どの鎧も完全武装済みだ。槍持ちや、ボウガン持ちのほかに今までいなかった剣持ちと、巨大な盾を構えているのもある。
「うわっ」
「なにこれっ!」
「これは………っ!」
「うわぁっ!」
 丁度部屋の中央辺り、そこで四人が進むと突然正面の宝石が光だした。
 光そのものは、すぐに収まった。しかし、本番はこれからだと言うかのように、今までピクリとも動いていなかった鎧が動きだした。
「どーせこんなんだと思ってたわよ!」
 鎧の数は数えたくない。結構な数だ。今までの通路と違って広い場所だが、それを埋め尽くす勢いで寄ってきている。特に、盾を持った奴が厄介で、進んで前に出て壁を作っている。その隙間から、槍持ちの槍がのぞいている。
 四人に対しての包囲戦だ。
「よーし、これで!」
「お待ちください。そんなものを使ってしまえば、生き埋めになってしまうかもしれませんぞ!」
 ソーマがリュックから手榴弾を取り出す。それに気づいた子敬が慌てて止めた。ここが地上ならばかなり有効な手段だけに惜しい。
 さすがに、この状況では武が悪い。槍は間合いに入ればなんの問題もないし、ボウガンは最初の一発だけ注意すれば洞窟の中では苦戦はしない相手だった。しかし、こう広い場所で盾で陣形を作りつつ包囲されてしまうと、動こうにも動けない。
 そうして、じりじりと間合いを詰めてくる。ぼうっとしていたら、槍で串刺しだ。
「くっ」
「ふはははははは、お困りのようだな。この魔王軍が手を貸してやろう! 行け!」
 と、入り口から威勢のいい言葉がすると、包囲網の一部にざわめきが生まれる。
「俺はお前の部下になったつもりはないが………困ってる奴を見捨てることはできない。待っていろ、行くぞ」
「全く、暴れまわって仮面が外れても知りませんよ?」
 仮面騎士(なぶら)とフィアナが、包囲網の一部を一気に切り崩していく。後ろから攻撃される事を想定していない上に、単純なシステムで動いているアイアンゴーレムでは即座に対応など不可能だ。
 切り崩された部分から、椎名達は一旦退避し、向かい合う形で隊列を整える。
 包囲網を崩されたアイアンゴーレム達も隊列を組みなおし、正面で戦える形に切り替えてきた。前面に盾兵を配置し、槍兵がその後ろ、奥にはボウガンが構えている。
「あの盾どもが厄介だな。どれ」
 入り口で待機していたジークフリートが、【魔道銃】を抜く。
「動かない盾どもは、俺が頭をはずしてやろう。動きは単調だが、あれだけいると厄介なものがある。注意を怠るな」
「だから、指示すんなよ。でも、あてにしてるからな、ちゃんとやってくれよ」
「ん、どこかで聞いた事があるような声だな」
「………ゴホン。あてにしている。後ろは任せた」
「ああ、任せておくがいい」
 アイアンゴーレムの戦闘スタイルは、前面の盾でじりじりと前進して逃げ場を塞ぎながら槍で攻撃していくという正攻法だ。壁が迫ってくるような威圧感がある。
 しかし、その壁を担当している盾持ちをジークフリートの射撃で崩し、ミカエラのバーストダッシュでかき回して槍の動きを止める。相手が人間なら話は別だろうが、簡単なシステムで動いているこのゴーレムは一番近い相手に狙いを定めるらしく、容易に動きを乱すことができる。
「ボウガンの奴を落とすよ」
「おっけー、マスター」
 椎名とソーマが隊列を突き破ってボウガンを構えている部隊に突っ込んでいく。
 一列にならんだボウガン部隊が一斉に矢を放とうと構える。ボウガンの利点では、装置によって短い矢を高速に飛ばすことにあり、そうすることで高い貫通力を生み出す。その代わり、一発ごとに装填をする必要があるため、連発するのは難しい。
 本来なら、数があるのだから順番に撃つなど対応策はいくらでもあるだろう。しかし、彼らにあるのは近づいた敵を倒すという単純な思考しかない。予想通り、一人も漏れなく弓を放ってきた。
 いくら初速が人間の感覚で捕えるのが難しいといても、最初からどこに飛んでくるかわかっているボウガンを、しかも遮蔽物も何もないところで発射動作を行っている相手の攻撃を避けるのには、難しい技術や考えはいらない。タイミングの問題だ。わざわざ、成否を問うまでもないだろう。
「装填される前に、一つ残らず頭を飛ばすぞ」
「よーし、どっちが沢山倒せるか競争だね!」
 奥のボウガン部隊が物凄い勢いで壊滅していく。
 椎名達が最後の一体を倒した頃には、槍持ちも剣持ちも盾持ちも全て壊滅していた。
「うむ、よくやった」
 ジークフリートが、とても満足げにそう言ったのが何故か印象的だった。