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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その3

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【リレー企画】客寄せパンダは誰が胸に その3

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「今だ、よじ登るぞ」
 客寄せパンダ様が止まっているのを見て、佐々木 八雲(ささき・やくも)がその尻尾に飛びついた。
「こっちだ」
「うん」
 差しのばされた手を、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)がガッチリとつかんで、ちょこんとした尻尾の上に引き上げてもらう。
「登るぞ」
「頑張ろうねぇ」
 二人は客寄せパンダ様の剛毛をつかむと、ゆっくりとその背中を登り始めた。
「頑張って、パンダの頭をなでて慰めてあげようねぇ」
「ああ。そのためには、なんとしても頭の上まで登らないとな」
 地道にロッククライミングよろしく客寄せパンダ様の背中をよじ登りながら、二人が言葉を交わした。
 この不毛な戦いをずっと見ていて、なんだかパンダの悲しむ声が聞こえた気がしたのだ。こういうときは、頭をなでて慰めてあげるに限る。そう思った二人は、果敢にも客寄せパンダ様登りを敢行したのだ。
「こらあ、私のジャイアントパンダに勝手に登ってくるなあ!」
 佐々木弥十郎たちに気づいた日堂真宵が、肩の上から二人を見下ろして叫んだ。
「君こそぉ、いいかげんにそこから降りなよぉ」
 佐々木弥十郎が言い返す。
 彼らが言い合っている間に、他にも客寄せパンダ様に近づく者たちがあった。
「へへっ、今のうちだぜ」
「やれやれ、しょうのないやつだな。ゆくがよい、ゲブー!」
 ホー・アー(ほー・あー)が、ドラゴンアーツを使ってゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)を客寄せパンダ様の身体に投げ上げた。
 日堂真宵たちがもめている反対側を伝って、ゲブー・オブインがするするとよじ登っていく。
 地道に体力勝負にかける彼らとは違って、師王 アスカ(しおう・あすか)ルーツ・アトマイス(るーつ・あとまいす)は、直接、小型飛空艇で客寄せパンダ様の頭上へとむかっていた。
 人が乗っかっても、振り落とされなければ大丈夫だということで、スケッチブック片手に客寄せパンダ様の頭の上に着陸したのだった。地上二十メートルなら、展望台代わりとして、そこから見える景色は格別のものだろう。写生しがいがあるというものだ。
「なんだ、アスカ、絵を描かないのであるか?」
 せっかく絶景の場所に来たというのに、いっこうに絵を描き始めない師王アスカに気づいて、ルーツ・アトマイスが訊ねた。
 客寄せパンダ様はまだデローン丼を落とそうとしていて、移動を再開してはいない。少し揺れはするが、絵を描くのであれば今がチャンスだ。
「そのつもりだったんだけどねぇ」
 下の方でぎゃあぎゃあとわめきながら戦っている日堂真宵と佐々木弥十郎たちをチラリと見下ろして、師王アスカが溜め息をついた。
「なんか描く気なくしちゃった〜。だってこのパンダちゃんが可哀想に思えてきたんだもの。勝手に崇められて、勝手に周りで争われて、勝手に攻撃されて……。それは、直接町を滅ぼしちゃったのはこの子なんだろうけれど、決してやりたくてやったんじゃないと思うんだよねぇ。像っていうのは、眺めて癒やしを分けてもらうのが本道だと思うよぉ。この子を作った人は、どんなこと考えて、この子を作ったんだろぉ」
「さあ。芸術家の考えは、他人に推し量れないことも多いからなあ。だが、もし、このパンダに意志というものがあるのであれば……」
 ルーツ・アトマイスが軽く目を閉じた。そして、うっすらと涙を浮かべる。
 そんなルーツ・アトマイスの耳に、師王アスカの祈るような歌声が聞こえてきた。
 見れば、両手を組み合わせた師王アスカが、静かに歌を歌っている。
 その歌声に、しきりに土を蹴っていた客寄せパンダ様の動きが止まった。心なしか、歌に耳をかたむけているようにも思える。
「このまま、彼女の歌でパンダの心が安らえば……」
「なあに、変な歌歌ってんだよ」
 事態が収束の方向に流れるかと思われたとき、やっと登頂をはたしたゲブー・オブインが乱入してきて、師王アスカをルーツ・アトマイスの方に突き飛ばした。
「ひゃっはぁー、こいつは俺様のもんだぜ!!」
 客寄せパンダ様の頭頂に立って、ゲブー・オブインが雄叫びをあげる。
「この暴れん坊を手なずけられるのは俺様のみだぜ、がはは!! よし、俺様イコン、すなわちPANDA(パラミタ・あっと驚く・なんかスゴイ・デス・アーミー)と名づけてやろう。ゆけ、俺様たちの力をみせつけてやれ!」
「そうはさせるもんですかあ!!」
 勝ち誇るゲブー・オブインに、佐々木弥十郎たちを蹴落としてきた日堂真宵が飛びかかった。
「これは、私のジャイアントロボ……じゃなかった、ジャイアントパンダなのよ。誰があんたなんかに渡すもんですか!」
「うるせえ、こいつは奪った者のもんだろうが。てめえは引っ込んでろ!」
「二人とも、なんて酷いことを……」
「許せんな!」
 師王アスカとルーツ・アトマイスが、欲望丸出しの二人に激怒してつかみかかっていく。
「こ、こらぁ、パンダの上で喧嘩するなぁ」
「お前たちがパンダだったらどういう気持ちになると思う? いいかげんに目を覚ませ!!」
 なんとか再び這い上がってきた佐々木弥十郎と佐々木八雲がそれに加わった。
 客寄せパンダ様の頭の上で、六人が取っ組み合いとなった。
「貴様ら、神聖なパンダ様の頭の上で何をしているんです。天誅!」
 客寄せパンダ様の頭上の争いに気づいたリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)が、彼らにむかってサンダーブラストを放った。すでに客寄せパンダ様の魅了の効果は切れているはずなのだが、リース・アルフィンはまだ客寄せパンダ様を崇めているらしい。
「ぐわっ、何をしやがる!」
 日堂真宵の髪をつかんだまま、間一髪落雷を避けたゲブー・オブインが、下にいるリース・アルフィンにむかって叫んだ。その腕には、日堂真宵が噛みついている。同様に、師王アスカをだきかかえたルーツ・アトマイスは、雷術で電流の流れを逸らしてなんとか凌いでいた。振り飛ばされた佐々木弥十郎は、佐々木八雲がなんとか空中で捕まえて、レビテートで墜落だけはまぬがれていた。
「やづぢゃべ、ぶあいばんぼばんだ」
 ゲブー・オブインに噛みついたまま日堂真宵が叫ぶ。
「パ゛」
 決してその命令に従ったわけではないのだろうが、さすがに頭の上にサンダーブラストを落とされた客寄せパンダ様が、再び憤怒の表情でズンとリース・アルフィンに迫っていった。
「パンダ様のお怒りが……。分かりました。でしたら、私脱ぎます。清いこの身体をパンダ様に捧げましょう」
 突然何を考えたのか、リース・アルフィンが着ている物を潔くばばっと脱いだ。
「あっ……」
 かなり離れていたにもかかわらず、ゲブー・オブインがリース・アルフィンのすっぽんぽんに誘惑されて、思わず足をすべらせた。日堂真宵と共に、そばにいた佐々木弥十郎たちをも巻き込んで客寄せパンダ様の頭の上から転げ落ちる。
「うわあああ……」
 だきあったまま落下する佐々木弥十郎と佐々木八雲を、空中で何かが体当たりするかのような勢いで横からつかまえた。
「そのまま動かないで」
 右手で二人を引き寄せたアルディミアク・ミトゥナが、左手で掲げ持ったウィングシールドを引き寄せて自分たちの身体の下へと回り込ませた。そのまま、シールドを下にしてスライディングしていくかのように不時着する。
 日堂真宵の方は、ウィングソードがチャイナドレスを引っかけるようにしてなんとかキャッチしていた。
「よう、お早いお帰りであるな」
 落ちてきたゲブー・オブインを受けとめたホー・アーが言った。
「ちっ、思わず見とれちまったい。まあ、いいか」
 ちょっと得した気分でゲブー・オブインが言った。
 そのリース・アルフィンは、小型飛空艇に乗ったレン・オズワルドが、すれ違い様に引っさらって客寄せパンダ様に踏みつぶされるのを防いでいた。
「ちょっと、裸の女の子に何するのよ! 痴漢よー」
 レン・オズワルドの腕の中で、すっぽんぽんのリース・アルフィンが暴れる。
「こ、こら、暴れるな。この状況は、俺の方が凄く恥ずかしいんだぞ!」
 思わず、レン・オズワルドは叫んだ。